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episode69 新婚宇宙旅行終了 そして・・・

 


 ISS滞在13日目


 3日前にレンのやらかしによる大発見があってから、アイリスはエリクサー開発に注力していた。


 そして――



「やった……やったわ! ついに出来た!! エリクサー!!」


「「「「「イエェェェェェイ!!」」」」」



 宇宙飛行士達が雄叫びを上げている中、一人げっそりとしている者がいた。


 今回の功労者であるレンである。



「……もう、魔力出せねぇ」


「……今回は同情しよう。お疲れ」



 この3日間、魔力を込めて込めて込めまくった結果、エリクサーの生成方法を確立できたのだが、魔力を大量に、且つ一気に送ることができるのは規格外の魔力制御量を持つレンだけだった。


 そのため、レンにとっては軽いものであったとしても、それをずっと続けていけば、疲労だって溜まる。


 ランニングをずっと続けるのとほぼ同じなのだ。



「はい、魔力補充用のポーションです」


「ありがとう、ルナ」



 ポーションを受け取り、喉を潤すレンの元に、アイリスが近づいた。



「ありがとうございました。レンさんがいてくれたからこそ、このエリクサーは完成できました」


「いえ、協力できて嬉しかったです」



 レンがそういうと、アイリスの後ろからクラリスが顔を出す。



「でも、これを地上で作れるようになるのはまだまだ先ね」


「えっ? なんでなんですか?」



 作り方がわかったのだから、すぐにでも生産するのだろうと思っていたルナが質問すると、少し困ったような表情で、アイリスとクラリスは語り始めた。



「実は……レンさんの流した魔力量は尋常じゃないんです。それこそ、マギリング・クリスタル2個分に相当する魔力量なんですが……」


「……マジっすか?」


「自覚ないんですね……」



 アイリスはレンの言葉に少し呆れた表情を見せる。


 常人はマギリング・クリスタル一個分どころか、全容量の3分の2も出力させることは不可能である。


 しかし、レンはそれができるどころか、下手をすればISSを1時間ほども動かせるのだから規格外にも程があった。



「で、マギリング・クリスタルでエリクサーを作ろうと思っても魔力量は確保できても、それを一気に送ることはできないのよ。マギリング・クリスタルの最高出力でもレンのそれには敵わない」


「そ、そうなんですか?」


「ええ。大型マギリング・クリスタルを何個も用意してどうか……ですね。しかも一気にというのが難しいんです」


「必要出力を確保しようと思ったら、複数のクリスタルを直列に繋ぐしかないんだけど、この方法だと出力が安定しないのよ。これが問題みたいでね」


「一瞬でも間があくと魔力の膜が生成されないみたいなんです。だから現在、地上でエリクサーを作るのなら――」


「つ、作るのなら?」



 レンは嫌な予感がした。



「レンさんにずっと魔力を流してもらわないといけないですね」


「嫌だぁぁぁぁぁ!!」



 一つだけならまだしも、大量生産となると話は別。


 レンは工場で缶詰になっている自分を想像してしまい、叫んだ。



「しませんよ。そんな非人道的なこと」


「まぁ、多分そこのところはあいつが何とかするわ」


「あいつ?」



 クラリスの指すあいつというのが、最初はピンと来なかったが、すぐに誰を指しているのかわかった。



「もしかして……レオンさんですか?」


「そ。あいつなら多分今頃、どうやってそんな魔力量を安定供給しようか考えてる頃合じゃない?」


「そうね。レオンさんなら何か思いつくかも」



 とんでもない信頼だなとレンは思ったが、確かになんとかしそうだなという思いもあった。










 ◆










 ISSでエリクサーが完成した。


 しかも、レン君がいなければできなかったというおまけ付きで。



「レン君の魔法出力って尋常じゃないんだよな……」



 例えるなら最大魔力制御量は常人がバケツ一杯だとすると、彼の場合は琵琶湖。


 出力は常人が車のバッテリーだとすれば、彼は火力発電機だ。


 しかもこれがまだまだ成長中というのだから笑えない。


 さて、問題は出力の方だな。


 魔力量はそれこそ超大型のマギリング・クリスタルを用意すれば可能だが、これを高出力で解放しなければならない。


 でもマギリング・クリスタルで出せる出力はレン君のそれに遠く及ばない。


 何せ魔道具を動かすのと、簡単な魔法を発動できる程度の出力が有ればよかったからこの辺りの改良を全然していない。


 魔力の結晶である魔石と、マギリング・クリスタルの出力の違いは、言い換えれば魔石はアルカリ電池、マギリング・クリスタルはリチウムイオン電池だ。


 それに、改良して出力を出せても、マギリング・クリスタルへの魔力補充が追いつかなくなる。



「ってなると、魔力補充や供給も大量にできて、出力もヒトを超える魔道具が必要と……」



 じゃあもうあれしかないな。


 魔力発電所みたいなのを作るか!!










 ◆










 ISS滞在15日目。


 楽しい旅行の時間を終えて、帰路につく日がやってきた。



「皆さん、ありがとうございました。楽しい新婚旅行になりました」


「感謝する。貴殿らの仕事を目の当たりにして、私もまだまだだと実感できた」



 レンとアランが代表して、最後の挨拶をする。



「またいらしてください。歓迎いたします」


「そう何回も来れるところではないがな」



 エルフリーデの言葉にアランは苦笑しながら、握手を交わす。


 その横では、ルナとマリアが手を取りながら最後のお別れを言っていた。



「じゃあね。マリア……」


「いや、今生の別れじゃないんだから……」


「だって……」



 目尻に涙を溜めながら、別れを惜しむルナを見て、アケルリースを飛び出したあの日を思い出したマリアは、ルナの涙を指で拭ってあげた。



「今度は地上で会おう? 来月、帰るから」


「……うん!」



 笑顔を浮かべるルナ。


 そのやりとりを側から見ていたレンはその心中を口にした。



「俺のライバルってマリアなんじゃないかなって思い始めてきた」


「結婚してるんだから大丈夫だろう」


「アラン様……愛はそんなもので止められないのでは?」


「励ましてくれよ!!」



 一連のやりとりを終え、スペースシャトルに乗り込んだSTS-400クルーはドッキングポートのハッチを閉じた。


 気密を確認し、いよいよ、シャトルが離れる時間が訪れる。



「アンドッキング開始。3、2、1、マーク」



 クラリスのカウントダウンでドッキングが解除された。


 ドッキングリングのシリンダーの力で離れていくオービターとISS。



 そして十分に離れたところで、シャトルは高度を上げる。


 フライアラウンドという機動を行い、軌道力学に基づき、ISSを先に行かせて上げるのだ。


 これによって、減速を開始するオービターの後ろからISSが迫って来るといった事態を招かずに済むのである。



「おぉ……」


「やはり、大きいな」


「ZTVも、太陽の光を受けてキラキラしてキレイです」


「私達、この人類の叡智の結晶の中で二週間過ごしたんですね」



 レン、アラン、ルナとルティシアがフライアラウンドによって、上部ウィンドウから望めるようになったISSを、最後に目に焼き付ける。


 ここから約二日かけて高度を下げていき、アルファード領レイディアントガーデン・シャトル着陸用滑走路へと向かうのだ。



「最後にスペースシャトルでの飛行を存分に味わってくださいね」


「「「「「はい!」」」」」



 アイリスが言う通り、最後の宇宙飛行。


 レン達は後悔のないようにしようと、思いを同じくしていた。











 ◆










 ISS離脱から二日後。


 スペースシャトルオービター「マーリン」は無事、シャトル滑走路へと帰還した。


 もうすでに機体冷却は済んでおり、今はクルーのメディカルチェック中である。


 そのチェックも、そろそろ終わりに近づいていた。


 今回の旅行費用を負担したロムルツィア神聖国代表のロズウィータ教皇猊下も、クルーが出て来るのを今か今かと待ち望んでいた。


 パッセンジャーボーディングリフトのドアが開け放たれ、中からSTS-400クルーが降りてくる。



「ただいま」


「おかえり、クラリス。ミッションお疲れ」


「今回はほとんど旅行だったから楽なもんよ。後でスペースラブIIのレポートを渡すわ」


「わかった」



 短く、会話を切り上げた俺は、レン君達に歩み寄る。



「おかえりなさい。どうだった? 宇宙は」


「最高でした!!」


「エクセルの美しさは言葉に表せないくらいで感動しました! ありがとうございました、レオン様」



 レン君は目をキラキラさせ、ルナちゃんからは礼を言われたが、俺は謝らないといけないなと思い、頭を下げる。



「いえ、礼なら私がしなければいけないほどです。殿下を伴って宇宙旅行を打診してきたあの日、冷たい態度をとってしまったことを謝罪させてください。申し訳ありませんでした」


「……えっ!? ちょっと!? 頭を上げてください!!」



 俺はルナちゃんの言葉に従って頭を上げる。



「……この飛行が無ければ、エリクサーは当分の間、完成しなかったでしょう。レン君が宇宙に上がったお陰で、完成に漕ぎ着けました。重ねて、お礼申し上げます」


「いやぁ……最初はやらかしたと思ってヒヤヒヤしましたけど……」



 そういって頭を掻くレン君の元に、ロズウィータ教皇猊下が近づいてきた。



「レン君、ルナさん、アラン殿下にルティシア様、おかえりなさい」


「猊下、ありがとうございます。ただいま帰りました」



 教皇猊下にアラン殿下が挨拶をし始めたところを見届けて、今度はアイリスの方へと近づく。



「あっ! レオンさん!! こちらですよ!!」



 アイリスがズズイと俺に差し出したのは、サンプルボックスだった。


 実験試料などを入れるボックスである。


 その中には青い液体が入っており、それがなんなのか、俺はすぐにピンときた。



「これがエリクサーか」


「はい! 宇宙で生成過程と作成方法は確立したので、あとは地上で再現するだけです!!」


「そうか。でも、魔力の高出力装置ができない限りは難しいな」



 まぁ、なんとかする様に今設計図起こしてるけど。



「あ、あの……レオンさん」


「ん〜?」



 サンプルボックスをマジマジと見つめながら、アイリスの呼びかけに応えた。


 すると――



「あの……私! ずっとあなたのことをお慕いしておりました!! 私と! 交際してくれませんか!?」



 ……アイリスからなんか言われた。



「……へっ?」



 俺は何を言われたのか理解が追いつかなかった。


 ……お慕いしていた?


 あぁ、信頼しているとかそんな意味かな?



 ……いやいや、逃げちゃダメだ。



 お慕いっていうのは要するに――


 男女のそれってことだよな?



「……」



 アイリスは耳まで顔を赤くして俺の返事を待っている様子だった。



 ……あぁ、これガチな奴だ。



 俺はそれを認めると、手の力が抜けてしまった。


 手元からサンプルボックスが重力に引かれて、地面に落ちていく。



「うぉぉぉぉぉ!?」


「あ、あぶ……危な!?」



 するとなんか飛び込んできたのはクリスとユリアだった。


 サンプルボックスが地面で割れないようにスライディングキャッチしたらしい。



「え、ええと……」



 だが、そんなことより今はアイリスのことだ。



 今までさんざん、娘とか妹にしか思えないとか言っていたが、それは今でも変わらない。


 しかしながら、恋愛面において、俺は致命的な欠陥があるのだ。



 そう、男女の付き合いをした経験が前世から通して皆無なのである!!



 いや、もしかしたら前世の記憶はうろ覚えの為、何人か付き合ったかもしれないが、思い出せないから皆無と同じ。


 そして今世でも浮いた話が一切上がっていない。


 お見合い話も一切だ。



 そんな恋愛ステータス0の俺が告白されてる?



 どうすんだよここから。


 どうすればいいんだ?



 そんなことを考えていたらだ。


 横からクラリスがやってきた。



 ま、まさか助け舟を出してくれるのか!?


 やったぜ! さすが船長(コマンダー)!! 困っている人を見つけて助ける術に長けてるな!!



「って訳で、私達姉妹のどっちと付き合うの?」



 どういうわけだよぉぉぉぉぉ!?



「えっ? なんでそんな話に?」


「……随分前、社長室で私、言ったじゃない。好きな人のこと」


「えっ? うん」



 クリスが好きって話じゃなかったか?



「その時に伝わったと思うけど、改めて言うわ。私もレオンのことが好きなの。だから……お付き合いしてください」



 伝わってねぇよ!? あれ俺のことだったのかよ!?


 努力家で不屈の精神を持っていてリーダーシップがある奴って聞いて「俺か?」ってなんねぇよ!!



「えっ、えぇっと……」



 恋愛ステータス0の俺にダブル告白はハードル高いって。


 モテモテのイケメンなら躱し方やいい言い回しができるかもしれないけども!!



「その……」



 アイリスとクラリスの二人が顔を真っ赤にして潤んだ瞳をこちらに向けている。


 ……改めて見るとホントに美人姉妹だよな。


 で、その二人から告白されるとか、どこのラノベ主人公だよ!



「……一先ず、保留で」



 なんとか絞り出した言葉は、それはそれは男らしくない言葉だった。


 ラノベ主人公ではない俺はこれを発言するので精一杯なのである。


 お陰で固唾を飲んで見守ってくれてたレン君達や教皇猊下も、クリスもユリアもなんともいえない表情を浮かべていた。


 静寂が下りる中、それを破ったのはクラリスだった。



「〜っ! あんたねぇ! こっちは心臓が張り裂けそうなほど緊張したっていうのに!!」


「そうです!! そんな返事は納得できません!!」


「痛い! 痛いって!!」



 ポカポカと叩いてきたゼーゲブレヒト姉妹を躱しながら滑走路を走る。



「ちょっと!! 待ちなさい!!」


「どっちと付き合うんですか!! レオンさん!!」


「なんでお前ら走れんの!?」



 帰還直後だというのに、走ることができる二人に驚きながら俺は逃げる。


 そんな俺達を、生暖かい笑顔を浮かべながら見守るスタッフ達とレン君、ルナちゃん、アラン殿下、ルティシア様と教皇猊下。


 そして、やれやれといった表情でこっちを見ているクリスとユリア。



 なんとも締まらない終わり方だが、こんな終わり方もたまにはいいか。


 なんて思いながら俺は二人から逃げていた。



「私と付き合ってもらうからね!!」


「いいえ! 私です!!」


「「……」」


「「ムゥぅぅぅぅぅ!!」」


「おわぁ!? 急に姉妹喧嘩にシフトすんな!!」



 こうして、最後はあれだったがSTS-400ミッションは成功を収めた。


 ちなみに、いつも滑走路でミッション成功の集合写真を撮るのだが、俺の隣をアイリスとクラリスが取り合って魔法バトルに発展しかけたことはここだけのお話。



 そして、一年半の時が流れた。

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