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episode65 旅立ちの日

 


 STS-400打ち上げ前日


 王国会談を明後日に控えた今日、STS-400クルー達はあとは就寝したらシャトルに搭乗する状態になった。


 が、俺はある人と共に、アストロノーツビルの一室で二人きりになっている。



「何か飲み物を入れようか。コーヒーでいい?」


「あっ、はい。お構いなく」



 そのある人というのはアケルリース王国の新英雄、レン・グランウィードである。


 俺はコーヒーメーカーで淹れたコーヒーを二人分淹れて席に戻る。



「はい、どうぞ」


「ありがとうございます。いただきます」



 俺はレン君の対面に座り、コーヒーを一口飲む。


 レン君は何故こんな状況になっているのかわからないのだろう。


 緊張した面持ちでカップを持っていた。


 しばしの沈黙。


 その沈黙に耐えられなかったのか、レン君が先に声を発した。



「あ、あの、今日は……何故呼ばれたのでしょう?」


「ん? ああ、そうだね」



 傾けていたマグカップを戻して、テーブルに置く。



「多分、君は気付いていると思うけど『俺は転生者なんだよね』」


「!?」



 最後、これは賭けであったが、日本語で話してみた。


 するとレン君は驚愕の表情を浮かべた後、すぐに表情を戻し、返答してくれた。



『俺も……転生者です』



 しかも、日本語で、だ。


 だが、長年使っていない言語のため、すぐにエクセルの言語に戻す。



「……そっか、やっぱり君もか」


「俺も、薄々思っていました。レオンさんは転生者なんじゃないかって」


「ん〜……」



 俺も便宜上、転生者という言葉を選んだが、実際は違うような気がするのが本音だ。


 以前、魔法とは何かを考察した際にも思ったが、魔力は集まるのに魔法の使えない俺はこの世界では異質だ。


 エクセルとの魔法変換パスを持たない俺は転生者ではなく、どちらかといえば憑依者と言った方がいいかもしれない。



「えっ? 違うんですか?」


「転生者……って所は実は疑問でね。どちらかというと憑依者と表現する方がいいかもしれないんだ」


「……あっ! アルファード理論ですね!」



 ……それ、やめて欲しいんだけど。


 ってか、よく気づいたな。



「そう。それで言えば、俺はこの世界で生まれた肉体を持っているけど、魂は別世界のものだからエクセルとのパスは持っていないっていう状況になる」


「な、なるほど……それで、今回呼び出されたのは、こういう話をしたかったからですか?」


「うん、まぁね」



 俺は少し冷めたコーヒーを一口飲む。



「ちなみに、レン君の記憶の中では地球の何年までの記憶があるの?」


「えっと……実はそのあたりが朧げで。でも、スマホや航空機やロケットとかは知ってました」


「そうか、じゃあ、少なくとも2007年以降の記憶があるってことだな」



 スマートフォンが出たのがその年代だった筈だ。


 もし、もっと普及していたのなら、もっと先かもしれないけど。



「なんでそう思ったんです?」


「えっ? スマホって2007年に初めて出ただろ?」


「そうでしたっけ?」



 他愛もない話。


 しかし、久しぶりに地球の話ができて楽しかった。



 そんなこんなで話こんでしまい、既に時刻も深くなっていた。


 明日は打ち上げだというのに、時間を取らせてしまった。



「もうこんな時間か。すまないねレン君、時間を取らせて」


「いえ! 久しぶりに日本の話かできて楽しかったです」



 俺も自室(社長室)に戻ろうと、一緒に部屋を出る。



「明日から、楽しんできてくれ。宇宙に人を送る以外にも、いろんな人達に宇宙の素晴らしさを知ってもらうことが俺の夢だったからさ」


「夢……」



 最後にそう声をかけると、夢という言葉に何か思うところがあったのか、柔らかかった表情が真剣なものに変わった。



「わかりました。楽しみつつ、世界の皆さんに宇宙のことを知って貰えるよう頑張ります!」


「お、おう」



 旅行でこんなに気合を入れてるのは初めて見たな。


 ちょっと気圧された。










 ◆










 T-3時間20分


 アストロノーツビルの出口には見送る為に集まったレン達の家族と全世界に配信する為のテレビカメラを構えたレイディアントガーデン広報部の面々が軒を連ねていた。



「それが宇宙服ってやつか。カッケェな!」


「だろう!! しかも名前の刺繍付きだぜ!」


「いいかい? はしゃぎ過ぎて皆に迷惑をかけないようにするんだよ!」


「わかってるよ、母ちゃん」



 マーリンとレンがスターマンスーツのことで盛り上がり、ヘルガに注意されている一方、その横で厳かな雰囲気を醸し出している家族がいた。


 大国アケルリース王国の国王ヴォルガングと王太子アランの二人である。



「アラン、しっかり務めを果たしてこい」


「はい、父上」



 まるで戦場に息子を送り出す父のような言葉。


 それを聞いて隣にいたルトリシアとルティシアは少し呆れていた。



「……旅行で務めも何もないと思うのだけれど」


「ルトリシア様、野暮は言いっこなしですよ」



 一方、その近くでは――



「ルナ、写真をいっぱい撮ってきてね!」


「わかりました、母様」


「姉上、宇宙で過ごした際に改善して欲しいことなどがあったら教えて欲しい。今後の役に立てたいからさ」


「わかった。帰ってきたら伝えるね、クライン」



 各々、旅に出る娘と息子達と会話を楽しむ中、同伴する宇宙飛行士達はというと――



「今回は同行者ってことで、いつもとは違うんだろう?」


「そう。私達も殆ど旅行ね」


「私は上でまだ研究したかったことがあったから、続きができればいいなって思ってる」


「あら、仕事熱心ね」



 ゼーゲブレヒト家もクルーウォークアウトに参加しているが、アケルリース組と違ってのほほんとした空気を纏っていた。


 ちなみに、ファルケンシュタイン家とクライン家はというと――



「俺らは今回いねぇんだよな」


「私なんか、お父様とお母様から手紙でいってらっしゃいの一言だけでしたわよ」


「慣れ過ぎたんだな、きっと」



 打ち上げ機会が多く、第一期宇宙飛行士達は既に20回以上宇宙に上がっている為、宇宙に行くのは当たり前と思われているところがあった。


 なので、どちらかと言うとゼーゲブレヒト家の方が少数派なのである。



「でも、打ち上げは見るって言ってましたわね」


「ああ、ここから打ち上げ見学会場まで地味に遠いしな」



 実は両家共にその間の移動が面倒なので、打ち上げ会場で見守ることにしたことを二人はまだ知らない。










 ◆










 STS-400クルーのクルーウォークアウトを見届けたマーリン達は打ち上げ見学会場まで送迎され、特別観覧席に通された。


 そこには各国首脳の面々が軒を連ね、スペースシャトルの打ち上げを今か今かと待っていた。



「すげぇな、各国の首脳勢揃いだぜ」


「レンはスタンピードを防いで、ロムルツィアを救った英雄扱いだからね。あんたと一緒だよ」



 会場には大型のMTV(マジックテレビ)のモニターが設置され、そのモニターにはT-2:32:55と表示され、その数字が1秒ずつ減っていた。



「あれは?」



 モニターを指差して、疑問を口にするマーリンに答えたのは、ノアセダル王国の王女であるリリーであった。


 その横には主催国の国王であるマティアスと王妃マリーダの姿もあった。



「あれはカウントダウンクロックと言って、打ち上げまでの残り時間を示しています」


「じゃあ、あれがゼロになったら、あれが飛んでいくんだな」



 マーリンの視線の先にはPAD-39Aに設置されたスペースシャトルの姿があった。



「はい、その通りです」


「あと2時間半もかかるのか」



 待ち時間が長いことを口にすると、画面が切り替わった。



『さぁ! いよいよ宇宙旅行プログラムSTS-400の打ち上げが迫って参りました!!』



 モニターにはデスクに座る少年少女の姿があり、少女はテンション高めに声を張っている。


 その少女とは、マリアと同室のリディア・リンクである。



『今回はスペースシャトル初、宇宙旅行兼新型モジュールのプロトタイプの実証試験の為、民間人4人が搭乗しています! では、今回のミッションクルーをご紹介しましょう!!』



 また再度、画面が変わって映し出されたのはクラリスのスチール写真だった。



船長(コマンダー)、クラリス・フォン・ゼーゲブレヒト! 女性として初めて宇宙に上がったファーストレディ! スペースシャトルミッションでは、帰還時、通常、自動で降下して最後の数百メートルのみ操縦して着陸するところをなんと! エクセル大気圏再突入から着陸までの全てを手動操縦で成し遂げた強者!! スペースシャトルの操縦では右に出るものはいません!!』



 フライトデッキに座るクラリスが画面右下にワイプで表示され、放送を聞いていたのだろうか、リディアが言い終わると同時にフロントにあるカメラに向かってピースサインを出す。



『さぁ、続いてはパイロット、クリス・フォン・ファルケンシュタイン! 言わずと知れた世界で最初に宇宙に上がったファーストマン!! レイディアントガーデンが開発した航空機や航空戦闘用魔道服「MDFS」のテストパイロットの経験を持つ空に生きる男!! 今回はクラリス様のサポートに徹します!』



 続いて紹介されたクリスも、スチールとワイプが映り、ワイプでは小さくガッツポーズを決める。



『今回同席するのは操縦士二人だけではございません!! ミッションスペシャリストも二人搭乗しています!!』



 続いて映し出されたのは二人、アイリスとユリアだ。



『アイリス・フォン・ゼーゲブレヒト! 魔法薬学の権威にして船外活動「EVA」コマンダー! 前回のISS長期滞在ではポーションの上位互換「ハイポーション」の開発に成功!! 近日発売を予定しています!! そして、今回初の姉妹でのミッション参加になります!!』



 センターコンソールの後ろに座るアイリスがワイプに映し出され、小さく手を振る。


 そしてその手は隣に座るユリアに向けられ、そのタイミングで紹介が始まる。



『そして最後! ユリア・フォン・クラウス! 魔法研究者!! 宇宙実験室「スペースラブ」での実験で、現在魔法学界で話題沸騰中のアルファード理論の礎を築いた、ISS船長(コマンダー)経験を持つ宇宙飛行士!! このベテラン4名が宇宙旅行者に随行します!!』



 カメラが固定されている影響で、ユリアは画角には収まっておらず、ワイプの中の左側にチラリとサムズアップされた左手が見えるに留まった。



「……こうして紹介されるとすげぇメンバーだな」


「4人ともレオン殿の幼馴染だって話さ。きっとレオン殿に影響されてるんだね」



 マーリンとヘルガがそんな感想を抱いていると、今度は画面に4人が並んだ別の部屋が映る。


 ミッドデッキに座るレン達4人だ。



『さぁ! 今度は宇宙旅行者を紹介しましょう!! まずはアラン・フォン・アケルリース殿下!!アケルリース王国王太子にして最高峰の教育機関「アケルリース王国高等魔法学園」を次席卒業!! その魔法の実力は()()()()を除けば最強の呼び名の高い実力者です!!』



 アランは小さく右手でサムズアップして紹介に答えた。



『続いてはアラン殿下の妻、ルティシア・フォン・アケルリース王太子妃! 先月、隣に座るグランウィード夫妻と合同の結婚式を挙げたばかり! 魔法が使えない人物として初めて宇宙に行く為、その医学データに期待が寄せられています!!』



 ルティシアは少し照れ臭そうにハニカミながら、小さく手を振って答える。



『そして、ルナ・グランウィードさん!! 新英雄レン・グランウィードの妻であり、去年、ロムルツィア神聖国で発生した魔獣討伐時、負傷者の治療にあたり、その治癒魔法力の高さと負傷者の方々を励ますその姿から、「聖女」の二つ名を教皇猊下より直々に賜った方です!!』



 画面には顔を真っ赤にしたルナの姿が映り、その可憐さに会場の男性達の保護欲を駆り立てる。



『そして最後はやっぱりこの方! 新英雄レン・グランウィードさん!! かの有名な賢者マーリン・グランウィード氏と導師ヘルガ・ゴーラン氏の息子にして、世界最強と名高く、その実力は2年前の大規模スタンピードと去年、ロムルツィアでの魔獣討伐戦で証明されています!! その戦い振りから、教皇猊下より「神の御使い」の二つ名も賜っており、史上初、二つの二つ名を持つ人物として歴史に名を残すでしょう!!』



 レンもその紹介に照れているのか顔を真っ赤にして、夫婦揃って赤面するという図が会場に映し出される。


 その様子を隣に座るアランとルティシアはニヤニヤと見ていた。



『以上がミッションクルーとなります! では、続いてミッションコントロールセンターの各セクション担当をご紹介しましょう!! まずは――』



 リディアはそのまま続けてミッションコントロールのメインメンバーを紹介し始める。


 こういった打ち上げイベントでは珍しい光景で、打ち上げを何回も見てきた領民の皆は新鮮さから映像に釘つけとなっていた。



『――CAPCOMは宇宙飛行士のパトリシア・グロートさんが務めます。さぁ! 皆さん、お待たせいたしました!! 最後、全てのセクションを統括するフライトディレクターを紹介しましょう!!』



 各セクションを映していた映像が全体を映す映像に変わり、奥の扉から一人の男の子が現れる。


 その人物を、見学していたマーリンやヘルガ達は知っていた。



『我らが領主! 我らが社長!! 今や魔術省大臣でもあります!! レオン・アルファード!!』



 映像に映るレオンが手を上げた瞬間、会場が沸いた。


 割れんばかりの拍手と響き渡る指笛。


 会場の熱気は最高潮に達していた。










 ◆










 リディア、張り切ってるなぁ。


 手を上げて答えたはいいけど、会場の様子はわからないからどうなってるんだろ?


 まぁ、いいや。



「さぁ、最後まで気を抜かず、みんなに楽しんでもらって帰ってきてもらおう」


「「「「「はい!」」」」」



 ――残り9分。


 確認作業をしていたら、あっという間にファイナルホールドの時間になった。



「カウントダウンクロック、停止を確認」


「よし、じゃあ最終GO/NO GO判断始めるぞ。準備はいいか」



 俺は全体を見渡し、一拍間を開けて各セクションへ確認していく。



「ETC」


「GO」


「ガイダンス」


「GOです」


「FIDO」


「GO!」


「フラップ」


「GO」


「GNC」


「GO」


「MAX」


「GOです」


「EGO」


「GO」


「ECOM」


「GO! いけます!」


「FAO」


「GO」


「ACO」


「GO」


「TPS」


「TPS、GO」


「INCO」


「GO」


「TUS」


「GO」


「サージャン」


「GO、問題ありません」


「ブースター」


「GO!」


「CAPCOM」


「GOです!」


「PAO」


「GOです、フライト」



 最後まで確認を終えて、最終判断は「GO」という結論に達したが、俺はもう一つ確認するセクションがあったことに気がついた。



「……パッセンジャー、レン君達はどうだ?」


『『『『……えっ!?』』』』



 急に話しかけられて焦っているようだ。


 ……そうだよな。


 こんなの事前説明になかったし訓練にもなかったからな。


 だから俺は四人にわかりやすい言葉で聞き直した。



「皆、「旅行」を楽しむ準備は出来ているか?」


『『『『……』』』』



 俺がそういうと、映像に映る4人は互いの顔を見て、最後に笑顔を浮かべて、互いの手を取って天に突き出しながら、高らかにこう言った。



『『『『GO!!』』』』


「こちらミッションコントロール、打ち上げ準備完了!!」



 いよいよ、STS-400が始まる。

17時頃にもう一話UPします。

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