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episode64 最高のおもてなし その2

 


 ロズウィータが飛行機内で驚愕している頃。


 エグザニティ共和国の大統領であるアルフレート・クニューベルもまた、周遊する国賓機の豪華さに圧倒されていた。



「まさか……ローランサンのビンテージワインを乗り物の中で飲めるとはな……」



 ローランサンとはノケサ王国にあるワインのブランドの一つでかなりの高級ワインである。


 しかもそのビンテージとなれば、ワインコレクターでも手に入れるのが困難な代物だ。


 それを用意して、航空機に積んでいるのだから、機体の安全性と信頼性を示しているのだろうとアルフレートは考えていた。



「ホントに快適だわ。これなら王国会談の渡航も苦ではないわね」



 そう語るのは、アルフレートの対面に座る妻のアンナである。


 アンナは手に持っているティーカップの中を覗き込み、恍惚とした表情を浮かべる。



「それにラッフリーノとカッサンドラのお菓子でティータイムを過ごせるなんて……普通ならどちらかを用意できれば最高なのにそれを両方よ?夢でも見ているのかしら」


「……とんでもないよな」



「初めにお飲み物やお菓子はいかがですか?」と言われて、お品書きを見た時にもその種類の多さに度肝を抜かれたが、今度はそのブランドの高さに度肝を抜かれた。


 これで、夕食も用意しているというのだから、どんな料理が出てくるのだろうと今から楽しみで仕方がない。



「それに危険な場所を通らないのですもの。お陰で家族みんなで渡航できて嬉しいわ」



 そう言ってアンナは隣で外を見ている二人の子供を見る。


 一人は成人したばかりの息子ヴィンセント。


 もう一人は12歳の娘シャーロットである。



「魔物や獣が出現する危険な道のりになるから、同伴させるにはもう少し力をつけてからになるのが普通だからな。12のシャーロットは特に連れていけない」



 渡航の度にシャーロットやヴィンセントには寂しい思いをさせてしまっていることに心を痛めていた二人だった。


 大統領夫妻なのだから仕方がないと割り切ってはいたのだが、今回、レオンから「ご家族全員でどうぞ」とこの機体を用意してくれた。


 そのため、この機体にはロムルツィア国賓機と違って、二人の子供用にもう一部屋、ベッドルームが用意されているのだ。



「ベッド、普通にふかふかだったよ」


「うん、普通のベッドだった」


「……乗り物の中に普通のベッドがあるだけで異常なんだがな」



 シャーロットとヴィンセントが普通と評しているが、ここが飛行機という乗り物の中でなければ、国賓への対応の粗雑さでノアセダル王国を下に見ていただろう。


 しかし、移動中に睡眠を取る分には十分以上の装備だった。



「食事、楽しみね♪」


「……そうだな」



 色々な格差を見せつけられてゲンナリとするアルフレートとは裏腹に、キラキラと目を輝かせている妻と子であった。










 ◆










 一方、アケルリース王国国賓機では、食事の準備が整い、会議室にて卓を囲んでいた。



「……航空機って、中こんなに豪華なのな」


「これは特別だから別格扱いした方がいいよ」



 内装の豪華さに圧倒されているのは賢者マーリン・グランウィードである。


 その横に座る導師ヘルガ・ゴーランは、以前ノアセダルに行く際に、通常の旅客型に搭乗した経験から、別格であることをマーリンに告げた。



「申し訳ございません賢者殿。我々が貴賓室で賢者殿や導師殿は随行員席となってしまい……」


「何言ってんだヴォルフ、お前は国王なんだからこうなって当たり前だろうが」



 今回、アケルリース王国の搭乗者は他の国と比べて多い。


 普通なら、護衛の為に近衛軍の一部隊や身の回りを世話するメイド隊などを引き連れる為、数百人体制で移動する。


 しかし、今回は航空機による移動と、護衛はレイディアントガーデンの航空魔法士や魔法士隊が行う為、どの国も近衛騎士数名とメイド数名が機体最後方の一般座席に座っている。



 だが、アケルリースはスペースシャトルでの旅行を行うレン達の母国である為、その家族と関係者が多数乗り込んでいるのだ。


 よって、今国王と食卓を囲んでいるのは――



「こうして国王陛下のみならず、賢者様や導師様と食事ができるなど、思ってもおりませんでした。レオン殿には感謝ですね」


「ええ。それにこんなに豪華で快適な渡航は初めてです」


「全くです。今回の移動や護衛は全てレオン殿率いるレイディアントガーデンが担当しているそうではありませんか。まさにレオン殿さまさまですな」


「ラッフリーノにカッサンドラ、ワインにはローランサンまで用意されていて、これほどのおもてなしは初めてですわ」


 ルティシアの両親であるグレイブ家のウィリアムとカレン、そしてルナの両親であるボールドウィン家のダグラスとエクスタシアが同じ卓についていた。


 もちろん、ルナの弟であるクラインも同じである。



 そんな会話をしていると、部屋のドアがノックされた。



「入れ」


「失礼致します。お食事をお運び致しました」



 サービスワゴンに人数分の前菜を乗せてやってきたレイディアントガーデンの制服に身を包んだ男の子。


 その後ろにはアケルリース王国のメイド達が控えていた。


 メイド達の一糸乱れぬ働きで、瞬時に運ばれた前菜は美しく盛り付けられ、これから運ばれる料理の期待値を上げて行く。



「前菜は「オーシア海老とそのコンソメジュレのガトー仕立て バニラ風味 メビョアを添えて」になります」



 オーシア海老はオマール海老に似た海老で、メビョアはサメの卵……所謂キャビアである。



「これはまた……すごいわ」


「高級食材のオンパレードね」



 王妃であるルトリシアとカレンがメニューの名を聞き、驚きの声を上げる。


 だが、料理の中にメビョアの姿が見えなかった。



「メビョアを添えてということだが、そのメビョアはどこに?」



 ダグラスが質問すると、案内人の男の子が即座に皿の横にある小さな低底の瓶を四つ指で指した。



「こちらの中にございます」



 まさか……と一同の心の声が重なる。


 その瓶の中を見ると、予想通りのものだった。



 ……中にびっしりとメビョアが入っているのである。



「お好きなだけ付けてお召し上がり下さい」



 やることなすこと全てが規格外で、ヘルガとマーリンはレンとは別の意味で引いていた。


 それは国王であるヴォルガングも同様であった。



 ――


 ――


 ――



 その後、サラダ、メインディッシュ、ブレットセレクション、チーズプレート、デザート、プティフールとフレンチフルコースを堪能した後、各々、ラウンジスペースでアルコールやジュースなどを堪能していた。


 そうしていると、もう時間も深くなり、そろそろ就寝し始めようと座席に戻った時だった。



「あれ?」



 マーリンが自身にあてがわれた座席を見て声を上げる。


 何故なら、その座席がベッドに変わっていたからだ。



「ベッドメイキングは既に終えておりますので、すぐご就寝できますよ」


「……嘘だろ」



 ベッドへと変形された座席のクッション性は普通のベッドと混色がなく、深く眠れることが予想できた。


 マーリンはベッドへと入り、パーティションを閉じて、最後にもう一度言葉を漏らす。



「嘘だろ」


「うるさいよ、さっさと寝な」



 パーティションの向こう側、隣に座っているヘルガから、鋭いツッコミを受けながら、マーリンは眠りについた。










 ◆










「……お気に召してもらえてるかな?」



 王国会談が始まる2日前に各国首脳陣がここ、アルファード領へとやってくる。


 今頃は食事を終えて、就寝までの間のひと時を過ごされている筈だ。



「大丈夫だと思いますよ。私だって空の旅は感動したんですから」



 秘書であり、姫でもあるリリーに今回のおもてなしが通じているかを確認すると心強い返事が返ってきた。



「そっか。これでもかってくらい力入れたから喜んでくれるといいんだけど」


「これでもかって……一体何をしたんです? 周遊プランを実施することは聞いていましたが、詳細までは聞いていないので」



 そうか、今回は特別輸送隊のメンバーと共にプランを組んだからリリーは知らないんだった。



「一応、こんな感じ」


「拝見します……」



 俺は手に持っていたファイルからプラン詳細の紙を渡した。


 するとリリーの顔がみるみる暗くなっていく。



「ラッフリーノ、カッサンドラ、ローランサン、オーシア海老にメビョアにミテジキ肉……最高級品ばっかり……」


「……ダメだったかな?」



 陛下からはもてなしや接待は任せるって言われたから気合い入れたんだけど。



「いえ、十分です……というか、十分過ぎます。あの、レオンさん? もしかしてなんですが……」


「うん?」



 リリーが何か言いたそうにしている。


 なんだろう?



「もしかして、上級貴族や王族は普段から高級品に慣れている……とか、思ってます?」


「えっ? うん。だから皆さんには親しみやすいように高級食材を用意したんだよ」



 ヘリや飛行機使ってめっちゃいろんな所巡ったわ。


 ユイさんにディナーメニューを考えてもらう為に食材持っていったら、すげぇドン引かれたけど。



「……レオンさん。いくらなんでも王族だからって高級品ばかり口にしている訳ではないんですよ?」


「……おん?」



 そうなん?



「特別な日などは確かに高級品が並びますが、普段から口にしている訳ではありません。特に長距離移動中は王族だって干し肉や保存の効く黒パンを食べるのが普通です」


「へぇ〜」



 王様だからって贅沢三昧しているわけじゃないんだな。



「それを移動中でも眠ることができるし、食事は豪華。機内にはシャワーもある……我が国の力を示すには十分すぎると思います、というかやり過ぎです」


「マジか」



 ……どうしよう?


 正直、機内食はギャレーの装備を基準に作ったから、食材を100%活かしきれていないってユイさんは言ってたんだよな。


 だから晩餐会では、予算を気にせず100%活かせてレシピを作ってほしいって頼んだんだよね。



「……まさかレオンさん。晩餐会はもっと力を入れてるとか言いませんよね?」


「……」



 俺はリリーから目を逸らした。



「レイディアントガーデンの資産が莫大なのは知っていますが!! やり過ぎですよ!! お父様が困るじゃないですか!!」


「ごめん!! そうだよな!! やり過ぎると今後これが基準になっちゃうもんな!!」



 でも、もう後戻りできないんだよ!!










 ◆










 ――アルファード領 レイディアントガーデン空港



 そのエプロン部に一機の飛行機が到着し、L2ドアから一人の女性が降り立った。



 ロムルツィア神聖国代表、ロズウィータである。



「ここがアルファード領……見渡しただけでも、異質な所ね」



 タラップの上から周りを見渡す。


 現代地球であれば見慣れた空港の風景だが、レンガや木造でできた建物を見慣れているこの世界の人間から見れば、異質にも程があった。



 ロズウィータは十分に見渡した後、メイド長のタニヤと共にタラップを降り始める。


 その降りた先には、黒塗りの車が一台止まっていた。



「ロズウィータ教皇猊下、ようこそノアセダル王国へ」



 ドアの横に控えていた青年が深々とお辞儀をする。


 が、ロズウィータは青年の後ろにある車に目が奪われていた。



「こ、これは……もしかして!?」


「はい、各国首脳の方々はこのセンチュリーで送迎を致します」



 ノアセダルのみならず、各国でも自動車は乗られている。


 だが、一種類だけ、どうしても売ることはできないと言われた自動車があった。



 それが前回の王国会談でも使用されたノアセダル王族用自動車「センチュリー」である。


 販売することはできないが今回は国賓である為、必要台数を用意したのだ。



「まぁ! まぁまぁまぁ!!」



 高級感溢れる気品のある黒の車体は、一切のくすみなく、陽の光を反射してキラキラと輝いている。


 他国では手に入れることができない車にこれから乗れることにロズウィータは高揚した。



 が――



「――ロズウィータ!」



 どこからかロズウィータを呼ぶ声がした。


 教皇猊下を呼び捨てにできる人間は少ない。


 学生時代、師事をした留学先のアケルリース王国高等魔法学園の先輩であるヘルガとマーリン、そして、アケルリース王国王太子……現国王のヴォルガング、そして、同じく留学生だった――



「お先っ!!」



 エグザニティ共和国大統領、アルフレートである。


 そのアルフレートは既にセンチュリーに乗り、ロズウィータの眼前を通っていった。



「あっ、あー!? ズルい!! タニヤ! 早く乗りましょう!!」


「……かしこまりました」



 少し、気品を持って欲しいと思ったタニヤだが、ここは好きにさせておこうと思い、歩を進めた。



 ――


 ――


 ――



 アケルリース王国の面々も到着し、会談中に宿泊する宿に送迎されたヴォルガング国王陛下はその建屋を見上げていた。



「……これは、何階建てなのかね?」



 宿の入り口に立っているボーイに声をかける。



「はい、こちらは56階建てのレイディアントタワーホテルになります。30階から上全てが客室にございます」


「……56」



 もはや数字を口にするくらいしかできなかった。



 しかも、案内されたのは55階で、最上階フロアは全て教皇猊下用だと聞かされた。



「まぁ! 見てあなた! 街を一望できますよ!」


「これは美しいな」



 既に夕刻近くとなり、世界に夜の帳が下りようとしている中、街には煌々と光が灯り始めていた。



 アルファード領では魔力による街灯が整備されている為、他の街の街灯と比べると明るさが段違いだった。



「長旅による疲れもないし、お陰でディナーも存分に楽しめるわ」


「そうだな。到着日の晩餐程、辛いものはなかった」



 今までであれば、渡航は隣国に行くまでに最短でも2日、遠ければ1ヶ月程かかっていた。


 宿に泊まれる日はいいが、野営をする日も多く、その際は満足な睡眠を摂ることは難しい故に体力は削られていく。


 そんな道程を行くのだから着く頃には疲れが一気に押し寄せてくるのだ。


 だから到着した日は早々にぐっすりと眠りたいと思うのが普通だった。


 ……それを知っているから、ノアセダル王国国王と王妃の二人は各国国王・王妃からある意味尊敬されていたのだ。


 1ヶ月でも辛いのに最低でも半年、長くて1年もかけて旅をして、到着しても気丈に振る舞うその姿は王の鑑であった。



 それが前回の王国会談時に飛行機でやってきた際に、飛行機の存在に驚くと共に、全員こうも思っていた。



 ――やっぱり辛かったんだな、と。

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