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episode61 こうのとり

2022/7/11 HTVの名称をZTVへ変更いたしました。

 


 11月――


 北の方はそろそろ雪が降り始める頃、これは好機ということで実施された訓練があった。


 それは――



「「「「サバイバル訓練?」」」」


「そうよ。宇宙船が着陸地点から大きく離れてしまった場合を想定してね」



 クラリスから伝えられた訓練内容を聞いて、四人は首を傾げる。


 それはサバイバルの意味がわからないからではない。



 ――やる意味がわからないのだ。



「その……それって必要あります?」


「私達、魔物狩りの際に野営を何回も経験していますけど……」


「うむ」



 レンとルナがそういうとアランも同じく頷いた。



「まぁ、そうなんだけどね。レンやルナ、アランは野営経験が授業の一環であったでしょうけど、ルティシアはどう?」


「大丈夫です。野宿をした経験は少しですがありますよ」



 ルティシアも、長旅をした際は野営をした経験があった為、特に気にはしていない。


 が、問題は――



「そう? じゃあテントの設営とかはしたことあるかしら?」


「あっ……」



 クラリスの質問にルティシアはハッとした。


 自分は野宿で寝たことはあったが、その他準備などはメイドや護衛が務めていたことに気がついたのだ。



「サバイバルに於いて、重要なのは水、そして暖、次点で食糧。だけど、水や火は魔法で出せるから重要部分は魔法でクリアできるのよ」



 そう、ここは魔法世界。


 故に現実世界でのサバイバルにおける一番の難関「水源の確保」は魔法で解決してしまう。


 そして暖……低体温症を避ける為のそれも、木などの燃料が確保できれば魔法で解決できてしまう。


 しかも不時着した場合、野営を実施する期間は最大3日である。


 あとはその3日間を乗り切る為の食糧を確保できれば正直、魔法士がいればサバイバルはどうとでもなるのだ。



「――で、その食糧もシャトルには積んであるから食糧も問題ないわけ」


「だからこのサバイバル訓練は、訓練というより「サバイバル実習」って感じだな」



 クリスが補足で説明する。


 方法を学ぶのではなく、方法を確認する面が強いのがこの世界におけるサバイバル訓練なのであった。



「というわけで明日から3日間、ロムルツィア神聖国北部の雪山で実習するわよ」


「「「「はい!」」」」











 ◆










「それでは、行ってまいります」


「ああ、ISS船長(コマンダー)としてしっかり頼む。まぁそのあたりに関しては気にしていないがな」



 ソユーズでISSに向かうエルフリーデ・フォン・ゲールティエスに声をかける。



「ふふっ、信頼に応えて見せますね」



 ISS船長(コマンダー)ということで緊張していないかと不安も少しあったが、杞憂だったようだ。


 柔らかい笑みを浮かべてエルフリーデはそう答えてくれた。



 しかし、逆に緊張しているのは――



「た、大国の王太子がISSに訪問するなんて……」


「ふ、不敬を働いて国際問題にならないかしら?」



 ゼラーヤ王国選抜のカルロ・スパークとアレント王国選抜のアリス・フォン・キングスリーは不安と緊張を抱いていた。


 宇宙飛行士達の中にも貴族はたくさんいるが、彼らは実力主義であり、そもそも貴族や平民といった身分で差別しないように教育してきた。


 それは他国選抜の宇宙飛行士達も同様である。


 しかし、今回上がるのは民間……というより王太子夫妻と新英雄夫妻というビッグネームが宇宙に上がる。


 緊張するなという方が難しい。



「大丈夫ですよ、皆さん」



 おっ?


 エルフリーデが二人を元気づけてくれるかな?



「慣れますから!!」


「「……」」


「私達もアイリス様やクラリス様、クリス様やユリア様達と違って、あまり高位の貴族の方々と話すことなんてありませんでした。けど、宇宙飛行士になってからはそういった機会が多くなって慣れざるを得ません! 慣れましょう!!」


「た、確かに……宇宙飛行士になったとたんに国王陛下と謁見したことがあったな」


「そうですね……私も公爵様や宰相様、国王陛下にご挨拶しました」



 ……どこも一緒なんだな。


 国王陛下に挨拶するの。


 あと、エルフリーデって案外気合入ってんのな。


 ……いれざるを得ないのか。俺のせいで。



 ――


 ――


 ――



 打ち上げを見届けた後、俺は航空機製造ラインのある工房に向かった。



 なんか久しぶりだわ。


 期限が短くてめっちゃ焦りながら仕事するの。


 ほんと、働いてくれている皆には申し訳ないと思うと共に感謝している。



「マスター! 各国招待用の旅客機、完成しました!!」


「よくやってくれた!! ありがとう!!」



 急ピッチで作業してくれたおかげで、招待機を用意することができた。


 アケルリース、エグザニティ、ロムルツィア、フェリケシオン連合6カ国。


 計9カ国の国王や要人達を運ぶ旅客機。


 特に王国連合トップであるロムルツィア神聖国用のものはより豪華なものになっている。


 ベッドルームを用意したのだ。


 これはおいおい、ノアセダル王国王族専用機のオーバーホール時にも導入予定である。



 俺は完成した旅客機の中を見ていく。


 構成はあまり変わりなく、機首側から貴賓室、秘書官室、会議室、事務室、随行員室、一般室となっている。



「いいね! これなら満足してくれると思うよ!」



 ベッドルームにはセミダブルのベッドが置かれ、部屋の大きさは前世でいうとビジネスホテルのシングルルームに近いかな。


 これならゆったりと過ごして頂けるだろう。


 部屋にトイレも付けたし。



「マスター、各国の国王陛下達に空の旅を満喫してもらうっていうのはどうでしょう?」


「空の旅?」



 一緒に来ていたリリーがそう提案してきた。



「はい、ノアセダル王国の特色はやはり空です。世界で最初に空を飛び、世界で最初に宇宙へ行った国ですから」


「なるほど」



 主に俺のせいじゃね?



「そこで、ノアセダル王国からのおもてなしということで、直接ここへ来て頂くのではなく、周遊をしてから来て頂くのはいかがでしょうか?」



 確かに空の旅を提供できる国はノアセダル王国か、今ではアケルリース王国しかない。


 でも向こうの飛空艇の大きさは大型バス程度しかないから、ここまで豪華にはできない。


 やはりここまでのものを提供できるのはうちだけなんだ。



「いいかもしれないな。早速陛下に提案してもらってもいいか?」


「わかりました!」



 リリーは早速陛下に提案する為に招待機を後にした。


 あと少しすれば重力環境再現型実験室「スペースラブII」も完成する。


 新型オービター「マーリン」も順調に建造が進んでいる。



「あともう少し!! 頑張るぞ!!」


「「「「「おー!!」」」」」



 その場にいた建造スタッフ全員で拳を突き上げる。


 もうここまできたら、絶対に成功させてやる。


 王国会談も、スペースシャトル宇宙旅行も。










 ◆










 雪中サバイバル訓練を終えて、座学テストをクリアしたレン達四人は、賢者マーリン・グランウィードと導師ヘルガ・ゴーランと共に魔術省航空宇宙部門の新拠点「フィーメル宇宙センター」に足を運んでいた。



「漁師達との話し合い、なんとか折り合いをつけることが出来たのですね」


「ああ、なんとかね。かなり難航したけどね」



 アランの言葉にヘルガは憔悴した様子で答えた。



 港に面したフィーメル領は、アケルリース王国の東側に位置しており、且つ、半島を有していることから宇宙センター建造の候補地として選ばれていた。


 しかし、アランの言ったように漁師達に同意を得なければいけないという問題が、宇宙センター建造にストップをかけていた。


 理由は単純、打ち上げ日に漁に出ていると危険だからだ。


 もし打ち上げ失敗となった際に、墜落地点の海に船があったら直撃する可能性がある。


 そのため打ち上げ日と延期された場合の予備日を含めて、漁を控えてもらわなければならない。


 その期間は大体一週間以上。


 その間、漁に出られないとなると、漁師達からすれば収入が減ってしまう為、無論、反発が起きる。


 これをなんとか治めたことで、フィーメル宇宙センターは完成したのだった。



「さて、あの子達が気合を入れて作ったZTVとやらを見に行こうか」


「そうですね」



 ヘルガに促され、アランがそう答えると皆で歩を進ませる。



 ちなみに、王太子であるアランがヘルガに対して敬語なのは、ヘルガが導師だからである。


「人々の生活をより良い方向へ導いた者」として導師の二つ名を与えられ、災害級を討伐した経験を持つヘルガは、賢者マーリンと共に、アケルリース王国のみならず、各国国民からの尊敬の的である


 それはアランも例に漏れていない。



「皆さん、ようこそお越しくださいました」



 衛星組立棟の前で、航空宇宙部門部長のクライン・フォン・ボールドウィンが出迎えてくれていた。



「ご苦労様。クライン」


「導師様、ご足労頂きありがとうございます。賢者マーリン様も、本日はお時間を頂きありがとうございます」


「いや、俺は基本暇だからよ」



 マーリンはそう言って謙遜しているが、高ランクの魔物討伐に引っ張りだこであることは皆知っていた。



「クライン、お疲れ様」


「姉上、皆さんも訓練お疲れ様です。座学に合格したというのも聞いていますよ。あとはレイディアントガーデンでの実践訓練でしょうか?」


「うん、そう聞いてるよ」



 姉弟同士で言葉を交わした後、一行は棟内に入って行く。


 鉄筋コンクリートでできているその建物は、煉瓦積みや木造建築の多いこの世界では、異質な建物であった。



「まさかアケルリースにもこんな建物ができるなんてねぇ」


「レイディアントガーデンの建築部門の方々には本当にお世話になりました」



 ヘルガはしみじみとそう言い、クラインがそれに答える。


 なんてことをしていると、目的の部屋の前に到着していた。


 クラインは懐からパーソナルカードを取り出すと、ドアの横のある認証機にそれをかざした。


 するとカードが認識されたのか、ドアの鍵が自動で開き、クラインがドアを開ける。



「さぁ、中へどうぞ」



 一行は認証システムに驚きながらも、認証機にレイディアントガーデンのエンブレムが刻印されており、「ああ、またレイディアントガーデンか」と納得して、入室して行く。


 中は広く、白い壁で覆われており、清潔感があった。


 その広い空間の中央に聳え立つ、金色の円柱型の物体に目が行く。


 その根本には白衣をきた少年少女達が揃っていた。


 中には開発責任者のシンシア・ブラウンと主任のキャサリン・エストラーダもいた。



「どうぞご覧下さい。こちらが、アケルリース王国初の宇宙船……Z(ゼータⅡ)T(トランスファー)V(ヴィークル)初号機、「ケネス・アームストロング号」です」



 その名前を聞いた瞬間。


 ヘルガとマーリンの表情が驚愕に変わった。



「ケネス……」


「アームストロング……だと?」



 ――何故その名前を?


 表情がそう物語っていることを察して、クラインが答え始める。



「アケルリース王国で初めて、本気で空を目指した人物であり、お二人の……ご学友だとお聞きしました。」



 ZTVを見上げて、クラインは言葉を重ねて行く。



「炎魔法の極限を用いて宇宙へと上がるスペースシャトルオービター「マーリン」……アケルリース王国初の宇宙施設にして最高峰の研究棟「ヘルガ」……そこに向かうアケルリース初の宇宙船に、これ以上ふさわしい名前はないと……レオン・アルファード様からのご提案でした」


「……そう。あの人が……」


「レオン殿……」


「……それと、お二人へレオン様から言伝を預かっております」



 ヘルガもマーリンも目頭に涙を浮かべる中、クラインはレオンから預かった言葉を伝えた。



「『マーリンさん、ヘルガさん』――」



 クラインがレオンから預かった言葉を伝えていく。


 それはマーリンとヘルガの予想もしていない言葉だった。



「『やっと空で会えますね』とのことです」



 マーリンはその言葉を聞き、ヘルガ実験棟完成披露宴の席で、レオンに語ったことを思い出す。



【完成したら俺とヘルガも一緒に飛ぼう! って無邪気に笑ってた。本で未来に託すみたいな書き方して締めてんのに、研究所なんて作ったのかって俺は笑っちまったよ】



 話の流れで語ったエピソード。


 ケネスが何をして、何で死んでしまったのかを語る際に話した些細な話。


 ともすれば聞き流されていてもおかしくないことを、レオンは覚えていてくれたことに、マーリンの目から涙が溢れた。



 そしてそれは、ヘルガも同様だった。



「ああ……ああ……そうだな。やっとだ」



 涙で視界が歪む中、マーリンはZTVを見上げる。



「ケネスよぉ……お前の夢、空を飛ぶっていうお前の夢が……若い世代に引き継がれて叶ったぞ!」



 天にいる親友に、目の前にある友の名を冠した船に、自身の想いを伝えていく。



「しかも行くのはお前の目指したあの青い空じゃねぇ! 白い雲の上でもねぇ! 青い天蓋のその先……宇宙っていう大海原だ!!」



 ヘルガも口元を隠して涙を流し、マーリンの想いを聞いていく。



「今の子達はすげぇだろ! お前の想像以上のことをやってのけてんだぜ!!」



 そこまで言って、マーリンはとめどなく溢れる涙を手で抑え、嗚咽をこらえて歪む口から、最後に一言振り絞る。



「――宇宙(そら)で会おう」



 20年越しに叶う親友の夢。


 親友を救えなかったマーリンとヘルガの後悔と無念が、雪がれた瞬間だった。



 ――


 ――


 ――



「……すげぇな、レオンさんは」



 ZTVでの一部始終を見たレンが言葉を漏らす。


 それにルナが気づいて、聞き返した。



「レン君?」


「俺や父ちゃんみたいに魔法で危機を救ったり、母ちゃんみたいに魔法で生活を良くしたりして、讃えられることはあっても、感動を与えられたことはないからさ。レオンさんはすげぇなって」


「……そうですね」



 涙を拭うマーリンとヘルガを見て、ルナも同じ感想を抱いた。


 そしてそれは、アランとルティシアも同様だった。



「……レン、もうこれはただの宇宙旅行ではないぞ」


「ああ、これは父ちゃんと母ちゃんの夢を叶える旅行……いや、ミッションなんだ」


「そうですね。座学はクリアしましたが、実践訓練で落ちたら旅行ができなくなりますから」


「絶対合格! ですね!!」



 アラン、レン、ルナ、ルティシアの四人は改めて気合を入れる。


 それは旅行を楽しみにしている旅行者の顔ではなく、人の想いを背負った、冒険者の顔であった。

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