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episode54 新しい魔法薬

 


 STS-34にて、ヘルガ実験棟が接続され、先に上がっていた船内保管室に積載していた実験ラック達を設置し終えて、STS-34ミッションは終了した。


 マリアちゃんのロボットアーム操作のお陰でかなりスムーズに作業は行われて、接続作業は滞りなく終わった。


 途中、センサー異常というトラブルもあったが、それは定員オーバーによるものだった為、問題なし。


 逆にそのトラブルのお陰で、正常に生命維持魔道具が機能しているという証明にもなった。



 そして今、STS-34クルーを出迎えているんだけど……。



「た、ただいま帰りました……」


「……気分悪いのなら無理しなくていいんだよ?」



 俺がそう声をかけたのは今回初飛行のアメリアだ。


 他のメンバーの初飛行の時と同じように、帰還後の陸酔いに悩まされている。



「く、訓練で鍛えられたと思っていたんですが……甘かったです。これが……宇宙飛行士の洗礼なんですね」


「いや、そんなんじゃないと思うぞ?」



 ……なんで皆もれなく気分悪くなるんだろう?


 前世でもこうなる人はいたみたいだが、全員が全員ではなかった筈だ。


 やはり何か魔力とかが関係しているんだろうか?


 前世と比べての違いなんてそれくらいしか思い浮かばない。



 そういえば、宇宙旅行に行ったマリーテレーズは帰還後もピンピンしてたな。


『楽しかったです!!』と眩しい笑顔で答えてくれたことを覚えている。


 彼女は平行感覚が少し鈍っていただけで、他は問題なかったんだよな。



「まぁ、こうなるよね。こんなに加速度が激しい乗り物なんて、乗り物に乗り慣れてなかったら気分も悪くなるよ」


「……あぁ!」



 マリアがアメリアの背中を摩りながら言ったことに俺は合点がいった。



 そうか、前世では乗り物に溢れていたし、なんならジェットコースターなんかのアトラクションも充実していた。


 そんなものが溢れている世界の人間なのだから、多少の耐性を持っていてもおかしくない。



 それが今世では一般に乗られているのが馬車ぐらいで、それ以外の乗り物に乗る機会はそうそうない。


 マリーテレーズは船に乗り慣れていることもあり、加えてヘリにも乗る機会が多かった。


 三半規管と加速度の両方に耐性がついていたんだ。


 だから帰還後の陸酔いがなかったんだな。



「いい勉強になった。ありがとう」


「えっ!? 何がですか!?」



 マリアちゃんの肩にポンと手を置いて礼を言った。










 ◆










 5月上旬


 ヘルガ実験棟に設置する予定の実験ラックの残りや物資などを上げる為、STS-35が実施される。


 今回のメンバーは


 コマンダー:ラウラ・フォン・マルティン

 パイロット:アイリーン・ミューヴィセン

 MS1:トニー・ラザフォード(アケルリース所属)

 MS2:アイリス・フォン・ゼーゲブレヒト

 MS3:エミリア・ブルーム(ロムルツィア所属)


 となっている。


 加えて、遅れていた長期滞在クルーの交代も行われる。


 第四次長期滞在クルーはミッションスペシャリスト3名がそのままISSに残る形になる。


 実験装置が充実したから、アイリスには存分に腕を振るってもらおうと思っていたのだが――



「……」


「……アイリス、腕にしがみつくのやめてくんない? 仕事しづらい」



 STS-35が決定してからずっとこの調子だ。


 むすっとした表情で腕にしがみつく姿は、子供が拗ねて親に縋り付いている姿に似ている。



「……半年もレオンさんの側を離れるんです。充填くらいさせてください」


「充填ってなんだよ……」


「レオンさん成分」



 どんな成分だそれ?


 まぁ、ここまで慕われれば俺だって嬉しくないわけじゃない。


 嫌われていないだけマシだ。


 しかし、ここまでアイリスが甘えただったとは思わなかったな。


 いつもの「フンスっ!」と気合を入れてミッションに挑んでくれるものと思っていたんだが予想外だ。



「アイリス、あのISSの実験設備はお前のために用意したと言っても過言じゃないんだよ」


「私の為……ですか?」



 俺を見上げながら首を傾げるアイリス。


 だが、腕の力は緩んでいなかった。



「そうだ。今や魔法薬学の権威であるお前に新たな魔法薬を作って欲しいと思っているんだよ」


「それは……一体どんなものでしょうか?」


「ん〜……それは自分で考えて欲しいな」


「あ〜! その答えはずるいです!!」



 俺の肩をポカポカと軽く叩いてくるアイリスに自然と笑みが浮かんでくる。


 なんだか姪っ子と遊んでいるような感覚だ。



「じゃあ、ヒントは教えようかな」


「ヒント?」


「そう。『どんな時代でも薬に求めるものなんて一緒』これがヒント」


「どんな時代でも、薬に求めるものは一緒……」



 アイリスは俺から与えられたヒントを聞いて黙り込んでしまった。


 恐らく、どんなものを作るか熟考しているのだろう。



 ……俺の腕を抱え込んだままだが。



「……わかりました。やってみます」


「おう、頑張ってくれ。一番弟子」


「はいっ!」



 俺の求めていたフンスを出して、やる気に満ちた表情で答えてくれた。










 ◆










 ――高度346km 軌道上


 STS-35ミッションが実施され、アトランティスも無事ドッキングを完了。


 入船も滞りなく終わった、そんな時だった。



「さぁ! 頑張りますよ!! これからよろしくお願いしますね!」



 アイリスがそれはそれは張り切っているのだ。


 魔法実験の最高峰であるISSに来た故のテンションなのだろうと長期滞在クルーとSTS-35クルーは考えていたが、ただ一人だけ違っていた。



「何かレオンさんに吹き込まれましたわね?」



 幼馴染のユリアだった。


 彼女だけはアイリスのテンションの高さは、レオンから何か言われたからだろうと考えたのだ。



「吹き込むとは失礼な! レオンさんは私にここで新薬を作って欲しいって直々に頼んでくれたのよ」


「おぉ! 流石アイリス様!!」


「レオン様から直々にとは……それだけ信頼されているんですね!」



 ロムルツィア所属のエミリアとアケルリース所属のトニーがそれぞれアイリスを称賛した。


 天才レオン・アルファードから直々に新薬開発を頼まれることなど、信頼された者でないとされないだろうと他国所属の宇宙飛行士とレイディアントガーデン第三期宇宙飛行士のラインハルトは思っていたが、第一期、第二期の宇宙飛行士組はそうではなかった。



(((((きっと部屋に入り浸っていたんだなぁ)))))



 第一期、第二期組はアイリスが秘書を辞めてから、社長室やレオンと食事に行くことが多くなっていることを知っている。


 最初はとうとう結ばれたのか!? と思っていたが、クラリスも同じ状態になっていたから二股関係になっているのか、取り合いをしているのかのどちらかだろうということで落ち着いていた。


 英雄色を好む……レオンも領主なのだから結婚したとしても愛人の一人や二人、作ってもおかしくない。


 第一期、第二期宇宙飛行士達の間では、アイリスとクラリスのどちらが本妻になるのだろうか? という話で盛り上がっていた。


 どちらと付き合うのか……という次元ではなかった。



 しかし、新人達は自身の訓練で、周りを見る余裕がなかったのだろう。


 純粋にレオンから依頼されたと思っているのだ。


 レオンの性格をよく知っている者たちから言えば、「こういうのを作ってみるのもいいんじゃない?」といった軽いノリでアイリスに新薬開発のことを話したのだろうと考えたのだ。



「では、エミリアさんとトニーさんはまず、ISSでの移動の仕方を学びましょうか」



 気を取り直し、ユリアが新しく長期滞在を行う二人に向かってそう言った。



「ISSでの移動の仕方?」


「ものに捕まりながらや勢いで飛んで行くのはダメなのですか?」



 エミリアとトニーは首を傾げた。


 無重力訓練は地上で何回も行っており、無重力には慣れていた。


 スペースシャトルでも問題なく移動できていたから、二人はそんな初歩の初歩を教えられるとは思っていなかった。



「あら? じゃあやってみてくださいな」


「えっ? は、はい……」



 ユリアの試すような口調に少し戸惑いながらも、トニーはノード2からクニューベル実験棟に向かって足をかけていたバーを蹴って進んだ。


 しかし――



「わっ! わわわ!?」



 数m進んだところでバランスが崩れ始める。


 トニーは体勢が崩れ始めた瞬間、近くのものに掴まろうとしたが、手の届く範囲に掴めるものがなく、慌てて手を振る。


 それが慣性を生み、さらに体勢が崩れた。



 そうなったところで、近くにいたシルヴィアがトニーを支えた。



「あ、ありがとう……」


「どういたしまして」



 笑顔でそう答えるシルヴィアの顔を真っ直ぐ見ることがトニーにはできなかった。


 大見栄を切って動き出したのにこの体たらくだからである。



「ISSはシャトルと違って手を伸ばせばどこにでも掴めるものがあるというわけではありません」



 ユリアは姿勢を崩すことなく、難なくトニーの近くまで行き、バーに足をかけた。



「このISSは非常に広く設計されています。頭を前にして進もうとすれば、頭は次第に落ちていきますが、それを立て直そうとするとトニーさんのように姿勢を崩す形になってしまいます」


「じゃあ……どうすれば?」


「それをこれからお教えいたしますわ。早く慣れないといろんなところに足や手をぶつけてしまいますから頑張って下さいまし」


「「は、はいっ!」」



 エミリアとトニーが返事をしたところで、アイリスは移動のために前に出た。



「じゃあ、私は実験装置を見させてもらうね。ノアセダル側モジュールは奥よね?」


「ええ、そうですわ。実験モジュールはズヴェズダドッキングポート天底側です」


「わかったわ。ありがとう」



 アイリスは短く礼を言うと、先ほどのユリアと同じように慣れた様子で進んでいった。


 しかも、先ほどのトニーが失敗した、頭を先にした形で進んだ為、エミリアもトニーも言葉を失った。



「アイリスさんのように、頭を若干下に下げた状態が無重力環境では安定した姿勢になります。足を先にした場合も同じで、足を若干下にして進みます。いわば、体全体を斜めにしていれば安定するってことですわね。では、後はダスティンさんにお任せいたしますわ」


「わかりました」



 これが飛行経験の差なのかと思いながら、二人は移動方法の練習を始めた。


 それを見届けると、ユリアはアイリスの後を追う。



「ねぇ、一体何を頼まれましたの?」



 魔法・魔力の研究に興味津々なユリアらしく、アイリスがレオンから何を頼まれたのかユリアは気になっており、目を輝かせて質問してきたところを見たアイリスは少し吹き出してから話始めた。



「ふふっ、頼まれたって言ってもはっきりこれをしてきてって言われた訳じゃないの。言ってしまえば「宿題」ね」


「宿題?」


「ええ、新しい魔法薬を作って欲しいって言われた時に、どんな薬か聞いたのよ。そうしたら「いつの時代も薬に求めるものは一緒」という言葉が返ってきたわ」


「いつの時代も……一体なんなのでしょう?」



 ムムムと悩みながら、ユリアとアイリスはミニリサーチモジュールにたどり着いた。



「私は、なんとなく想像できてるよ」


「えっ? それはどんな魔法薬なのです!?」



 ユリアは先程以上に目を輝かせてアイリスに詰め寄る。


 その勢いにたじろぎながらも、アイリスは自分なりの答えを言った。



「どんな時代でも、薬に求めるのは「飲むだけで治るもの」……それが答えだと思うのよ」


「それは……そうですね。でも、そんなのは空想の話ではありませんか? 万能薬なんてものはこの世には存在しませんわよ」



 ユリアは荒唐無稽なその答えに否定的だった。


 しかし、アイリスは違った。



「そうかな? 空を飛ぶなんて無理だと言われていたけれど、私達は飛べるし、宇宙にだって来れている。遠距離通信だってできるし、魔物の発生も予想できる。ポーションだって、元々空想上の薬だったでしょう?」


「た、たしかに……それが普通になっていたから忘れていましたわ」



 そこでユリアはハッとなり、アイリスに問いかけた。



「まさかあなた! ()()を作るつもりですの!?」


「そう、空想の中、物語の中にだけ存在するどんな病気も、どんな大怪我もたちまち元に戻る万能薬……エリクサーの開発よ」










 ◆










「レオンさん……あなたとんでもない宿題をアイリスさんに出しましたわね」



 アトランティスが第二次長期滞在クルーを連れて帰ってきたから、出迎えをしていたらユリアに開口一番にそう言われた。



「えっ? そんなに難しいものだっけ?」


「あなたにとっては難しくないのでしょうが、私達にとっては難題ですわ。『エリクサー』の開発なんて」


「……えっ?」



 エリクサー?


 あれかい? 飲むと魔力も体力も回復するっていうファンタジーアイテムのこと?


 あれを……作るの?



「……俺はポーションの上位互換の物を作れたらOKだと思っていたんだが?」


「……はい?」



 俺が想像していたのは所謂ハイポーションだ。


 今のポーションは魔力の回復と浅い切り傷くらいなら治るくらいの性能だが、それのどちらかを強化してくれたならいいなと思っていたんだ。


 それが一足飛びに両方強化しようとするとか……。



「やるなぁ、アイリス」


「やるなぁ、じゃないですわ!! どうしますの!? アイリスさん、すっごくやる気でしたわよ!?」



 なんでそんなに焦るっているのだろう?


 エリクサーができたら、便利でいいじゃないか。



「やる気なら大いに結構。それで完成させてくれたら尚いいね」


「レオンさん……」



 なんかユリアが頭を押さえて俯いたぞ?


 大丈夫かな? 気分が悪い?











 ◆










(エリクサーの開発……そんな物ができたらとんでもない功績ですわ。アイリスさんのあのやる気……もしかすると……)



 ユリアは身体検査のために病院に運ばれる車の中で一人考えていた。


 エリクサーが完成すればアイリスの名前は歴史に刻まれるほどの偉業である。


 そして、ここ最近のアイリスの行動を見ていて、あるひとつの事柄が思い浮かぶ。



 常日頃、レオンの隣に立ちたい、一緒に道を歩いていきたい、レオンを支えたいと言っていたアイリス。


 そのためにはまず、レオンと同じフィールドに立たなければならないと考え、アイリスは日々研鑽を続けていた。



 側から見れば、もうすでに魔法薬学の権威となっているのだから、十分なように思うが、アイリス的にはレオンが組み立てた基礎理論を実際に実用化させただけという認識だったため、自分の功績とは思っていないのだ。


 ……実践できているだけでもすごいというのに。



(そんな彼女が一からエリクサー開発を行うとなれば、自分の功績だと胸を張って言い切れるでしょう。であれば、アイリスさんがそれを成した暁には……お付き合いを申し込む可能性が高いですわ!)



 アイリス的にはそうなることが理想だろう。


 故にやる気に満ちているのだ。


 しかし、ユリアはどちらかというともう少しアイリスとクラリスの二人が織りなす恋愛模様を見ていたい気持ちもあった。


 ……なんとも勝手な話である。



「……これはクラリスさんにお伝えしなければ!!」



 横になっているユリアは小さくガッツポーズを決めて、決意を決めた。



「……宇宙酔いしやすいのに陸酔いはしないってどんな神経してるんですか?」


「やかましいですわよ、ララさん」

次回更新日:5/2 9:00~5/6 9:00 5日間連続投稿を致します。

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