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episode52 ヘルガ

前回の投稿にて「いいね」を押していただき、ありがとうございます。

これからも隔週火曜9時に投稿していきますので、生暖かく見守ってください。

 


 いよいよアケルリースの宇宙実験棟「ヘルガ」の打ち上げが迫り、アケルリース選抜宇宙飛行士の訓練も佳境となってきた。


 アケルリース王国宇宙実験棟「ヘルガ」


 ISSに接続される他国開発モジュールとしては初の三つの構成要素で成り立っている宇宙実験棟。


 本体である船内実験室、そしてそこに搭載する実験設備や試料などを保管する船内保管室。


 最大の目玉は大きな船外実験プラットフォームを備えていることだ。


 本体の船内実験室の諸元は――


 寸法:4.4m(直径)×11.2m(長さ)

 搭載ラック数:23ラック(うち実験ラック 12ラック)


 となっている。



 4月中旬、STS-33が実施され、既に船内保管室は宇宙に上がっている。


 下旬に船内実験室を、5月上旬に船外実験プラットフォームを打ち上げる予定だ。



 色々あったが完成が見えてきたぞ。


 これが終わったら自社用ステーション「フリーダム」の建造だ。










 ◆










 アケルリース国際空港


 そこにはヘルガ実験棟打ち上げを見学する為、ノアセダル王国へ向かおうとする導師ヘルガ・ゴーランと、開発に協力したクライン・フォン・ボールドウィン、シンシア・ブラウン、キャサリン・エストラーダ、ジェイ・ロックハートと。


 特別招待のレン・グランウィード、ルナ・フォン・ボールドウィン、アラン・フォン・アケルリースの姿があった。



「いよいよかぁ……」


「ふふっ、レン君楽しそうですね」


「当たり前だよ! スペースシャトルの打ち上げを生で見られるなんて……」



 感無量といった感じで体を震わせるレンを見てルナは笑顔を浮かべた。



「私も初めてだ。柄にもなく少し昂揚しているよ」


「なんだ、アランもなんだかんだで男の子だな」


「当たり前だ」



 日頃、冷静沈着なアランだが、スペースシャトルの打ち上げには興奮しているようだった。


 そして、その横にはブラウンの長い髪と、切長だが柔らかな雰囲気を持つ目の美人な女の子がいた。



「わ、私も同行していいのでしょうか?」


「何を言うルティ、私の婚約者なのだから当然だろう?」



 彼女はルティシア・フォン・グレイブ。


 グレイブ公爵家の長女で、アランが言うように婚約者である。


 今回は先日王太子となったアランの次期王太子妃の立場で、アランに同行することとなっていた。



「なにぶん、空の旅は初めてで緊張しております。アラン様は何回か飛んでいらっしゃるのですよね?」


「ああ、飛空艇でな。他にもレンに浮かせてもらって、自身の風魔法で飛んだこともある」


「羨ましいですわ。私は魔法が使えませんから」



 ルティシアは血中魔力濃度が低く、魔力を収束させることができなかった。


 そのため、アケルリース高等学園(普通科)に通っており、アラン達とは別だったのだ。



「大丈夫だって! 俺が魔法付与した飛空艇よりは安心だから! はははっ! ……はぁ」


「自分で言って落ち込まないで!? レン君!!」


「ほら、あんた達! そろそろ搭乗口に行くよ!!」



 レンが自虐で傷ついていると、ヘルガが移動を促してきた。


 これから4時間ほどのフライト。


 それほどの長時間、空を飛んだことがないレン達は、少し浮かれながら搭乗口への移動を開始した。










 ◆










 さて。


 STS-34クルーの搭乗が始まろうとしているのだが、問題が発生していた。


 いや、別に打ち上げに関する深刻な問題じゃないんだ。


 ただ――



「どどど導師様が、けけけ見学にいらっしゃってるなんて!?」



 今回アケルリース王国選抜宇宙飛行士からはアメリア・バーグという女の子が搭乗するのだが、ものすごい緊張している。


 きっかけは彼女も言っている導師様が見学に来ていることを伝えてからだ。



「アメリア、そんなに緊張しなくても……」


「マリアさんは慣れているからいいかもしれませんが! 私は今まで一般人だったんですよ!? それが突然、伝説級の方とお会いする立場になったらこうなりますよ!!」


「いや、私も一般人なんだけど……」



 マリアは貴族だから一般人じゃないのでは?


 なんて思ったが、口には出さないでおこう。



「大丈夫だよ、アメリアちゃん! 私達でフォローするからね!」



 今回の船長(コマンダー)であるパトリシアが頼もしいことを言ってくれている。


 流石、皆をまとめる船長(コマンダー)だ。



「パトリシアさん……」


「それに……そのうち慣れるしね!! 私なんか突然、各国首脳の方々とお話ししろって言われたんだよ? この人に」


「えぇ!?」


「指を指すな」



 あん時は悪かったよ。



「そういえば、ミールってどうなってるんですか?」


「追尾は行っているし、ISSとの衝突(コリジョン)コースには乗っていないから大丈夫だ。まぁ、フリーダムが稼働状態になったら、ポイントネモに堕ちてもらうけど」


「悲しいなぁ、あそこで三ヶ月くらい過ごしたから愛着あるんだけど……」


「私も半年いたけど、太陽風のせいで本当にヤバかったんだから。次から次へと魔道具が壊れるしね」



 パトリシアの言葉に今回、もう一人のミッションスペシャリストであるクララも同調するが、クララはどちらかと言うと大変だった記憶の方が強いようだった。



「まぁ、とにかく……アメリア」


「は、はい!」


「君は何十億人もいる人の中から選ばれた宇宙飛行士なんだ。胸を張って行きなさい」


「……はい!!」



 決意を新たにした表情で、力強く返事を返してくれた。


 声を出したことで、多少緊張がほぐれたようだ。



「さぁ、搭乗時間だ。降りるぞ!!」


「「「「「了解!」」」」」











 ◆










 クルーウォークアウト――


 アストロノーツビルディング、通称「アスビル」から打ち上げ発射台に向かう宇宙飛行士達に賛辞と激励を送る儀式。


 その会場であるアスビルの玄関口には、広報やクルーの家族達が陣取っており、アケルリースからやってきた見学組もその中に混じっていた。



「すごい……ここだけ異世界みたい」


「アケルリースのミッションコントロールセンターもかなり異色だと思ってたんですけど、ここは別格ですね。この建物なんかどうやって作ったんでしょう?」



 アスビルやアルファード領の街並みを見たルティシアとルナはただただ驚愕していた。


 レンガ造りでできている街並みを見慣れている二人からすれば、鉄筋コンクリート造りの摩天楼はさぞ異色に見えるだろう。



「すげぇ……こんなのをレオンさんは一代で築いたのか」


「……本当にお前以上の天才だな」



 以前、マリアと話していたことを思い出すアランだが、この光景を見て新たに認識した。


 レオンは別次元の天才であると。



「もしこれで魔法戦闘もお手のものであれば、お前のアドバンテージは無くなるな」


「ひでぇ……それって俺が戦闘だけに特化してるみたいじゃん。父ちゃんじゃあるまいし、それはねぇよ」



 レンがそう言った瞬間、見学組の全員がレンの方を向いた。



「な、何?」


「地形を変えるほどの魔法を何回も使って……」


「ルナちゃんに何かあればキレて、暴走もしておいて……」


「それで戦闘特化ではないと?」



 魔物討伐などを共にしてきたジェイ、キャサリン、アランは「何言ってんだコイツ?」といった表情でレンを見ていた。



「私はスタンピードの時や、皆さんから聞いた話しか知りませんが、戦闘向きの方なのだろうなぁと思っておりましたわ」


「俺もです」


「私も」



 ルティシアやクライン、そしてシンシアも同意する様に頷く。



「諦めな、あんたは正真正銘、あいつの子だよ」



 終いにはヘルガですらも、レンの肩をぽんと叩いた。



「で、でもさ! ほら! 生活用魔道具とかも製作してるし!」


「それはお前が魔法を使えるからだ」


「それは魔道具士なら当たり前だろ!?」



 レンは魔道具製作で魔法を平和的に使っていることをアピールするが、アランはそれをわけのわからない理屈で跳ね返した。



 魔道具を作る際は付与する魔法を文字に込めなければならない。


 例えば雷魔法を付与したいならば、雷魔法をイメージしながら、「雷」という文字を魔力を込めて書き込んでいかなければならないのだ。


 この際、雷魔法が使えなければイメージすることができない為、魔道具士は付与する魔法を使えることが前提である。



 なのに、先程「魔法を使えるのだから魔道具を作ることは当たり前」というアランの突っぱね方は意味がわからないのだ。



「そうなんだが……レオン殿は違うぞ?」


「……へっ?」


「レオン殿は魔法が使えない魔道具士なのだ」


「……」


「「「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」」」



 クラインとシンシア、そしてヘルガ以外の皆がアランから伝えられた新事実に声を揃えて驚いた。



「えっ? クライン知ってたの?」


「うん」


「……レオンさんってホントに魔法が使えないの?」


「そうだよ、魔力は集まるみたいだけど魔法には変換できないみたい」


「実際に目の前で見せてもらいました」



 ルナがクラインに事実確認をするとそれを肯定する。


 シンシアに至っては実際に見たとも言ってきた。



「それ、演技とかじゃなくて?」



 ジェイが質問すると、クラインはうーんと悩んだ後、口を開いた。



「厳密には「水や火に一発変換できない」というのが正しいかもしれないですね。集めた魔力を別の元素に変換した後、それを混ぜて水にしたりしてました」


「……マジ? 効率悪くね?」


「だから魔法が使えないって表現してるんですよ」



 クラインの説明を聞き、レンが効率の悪さを説いた。


 それを聞いたルナはここで根本的な疑問を改めて投げかける。



「じゃあ、どうやって魔法付与をしてるんですか?」


「そうだよ。一発変換できないんなら、その水の生成過程を書き込まなきゃならないだろ? 付与文字数がたりねぇって」



 魔道具に使う素材には付与可能文字数というものがある。


 平均は5文字程度、高級素材になると20文字以上の付与ができる。


 しかし、先程のレオンの魔法の発動方式を文字にしようとすると高級素材でも足りない。


 なのにどうやって付与をしているのかと疑問だった。



「もしかして、誰かに書かせて自分の手柄にしてるとか?」


「そんなことしてたら魔道具士達から不評食らって、十年も持たずに潰れますよ」


「じゃあ、どうやったんだ?」


「……文字を圧縮したそうです」


「「「「「……は?」」」」」



 付与方法を聞いた皆は理解ができなかった。



「私も最初はそんな反応だったな」


「アランは知ってるのか?」


「ああ、まさに画期的な方法だ」


「どうやってんの?」


「魔道具を使ったんだ」


「「「「「 ? 」」」」」



 何を言ってるのかさっぱりだった。


 魔道具を作るのに魔道具を使う?



「まず、付与したい魔法の原理を「圧縮」の付与を施した魔道具に書き込んでいき、それを「転写」の付与をした魔道具に繋げて、素材にその魔道具を押し付けるんだ。スタンプのようにな」


「でもそれってまともに機能しないんじゃ……文字がぐちゃぐちゃになるだろ?」


「これの画期的なところは「人が理解できる文字でなくてもいい」というところだ。魔法を付与する際、連想しやすい言葉や文字を書いていくが、誰も「魔法付与は誰でも読める文字で書け」なんて言っていないだろう?」


「「「「「あっ!」」」」」


「レオン殿はそこに着目したのだ。まず自分の理解できる文字で魔法の理屈を書き込み、それを魔道具で「一文字」に圧縮してもらう。そしてそれを転写の魔道具で素材に書き込んでもらうのだ」


「その方法なら、平均的な付与文字数5文字の素材に、魔法を5つも付与できてしまうんです」


「……そっか! それでマギリング・コンピュータが生まれたんですね! 同一素材に別々の付与をして交互に処理をしていく機構を開発したんだ!!」


「そうみたいです」



 ルナが理屈を理解すると、マギリング・コンピュータの生まれた過程に合点がいき、それをシンシアが肯定した。


 それを聞いて皆、驚嘆と感嘆とが入り混じった。


 普通なら魔法が上手く使えないとなれば、諦めるところだが、レオンはそんな状況でも「どうやって魔法を発動させればいいか」を考え続けてこの方法にたどり着いたのだろう。


 そう思うと、努力の天才と評する方がいいかもしれないと皆は思い始めた。


 そこでレンが興味本意でクラインに質問する。



「ちなみにマギリング・コンピュータを開発したのって何歳くらいの頃か知ってる?」


「確か……8歳だと聞きましたよ?」


(((((……前言撤回、やっぱり天才だ)))))



 皆の心が一つになった。



「おっ! そろそろ出てくるぞ!!」



 近くにいた広報の男性が声を上げると、カメラマン達がざわめき始めた。


 確かに、先程まで閉まっていたアスビルの出口が開いている。



「おぉ、いよいよだな!」


「あの事故の時、マリアが乗ったシャトルがアケルリースに降りましたけど、トンボ帰りでしたからね。マリアの宇宙服姿、どんなのでしょう?」



 レンが前のめりにそういうと、ルナは親友の勇姿に思いを馳せた。


 そして、何人かが出口から出てきた。


 その中には、レオンの姿もあり、彼を先頭に宇宙飛行士達が姿を表す。


 瞬間、周りからシャッター音が鳴り響き出した。



「おぉ!!」


「ほぉ、あれが宇宙服か」


「かっけぇ……」


「マリアー!!」



 レン、アラン、ジェイ、ルナは思い思いに声を上げる。


 そんな中、キャサリンはクルーの中にいる一人に注目していた。



「アメリア……すごい緊張してる」


「大丈夫かねぇ……」



 キャサリンは実験棟の取り扱いの説明のために、アケルリース選抜宇宙飛行士達とは面識があった。


 ヘルガも面識はあるものの、キャサリンと違って接点はそれほど多くはない。



 宇宙飛行士達が手を振り、写真に収められている中。


 マリアがレン達の存在に気がつき、歩み寄ってきた。



「ルナ! いらっしゃい!」


「マリア! すっごくカッコいいよ!!」


「でしょー!」



 互いの両手を握り合わせて話し出す二人。


 そのマリアの後ろから、ぎこちない歩みで近づく影があった。


 アメリア・バーグである。



「こ、ここここんにちは!!」


「……アメリア」


「はひっ!?」


「あまり緊張しなさんな。あんたは立派な宇宙飛行士なんだから」


「はひ! ありがとうございましゅ!!」



 噛んだ。


 導師ヘルガから話しかけられて、緊張がピークに達したらしい。



「さっきからこの調子なんですよ」


「大丈夫なの? ミッション失敗なんてやったら目も当てられないよ?」



 キャサリンがそういうと、マリアは手を振った。



「それはないわ。アメリアって一度スイッチが入るととんでもない集中力を発揮するのよ」


「そ、そうなんだ」



 宇宙飛行士訓練は主にレイディアントガーデン内で行われており、その様子は伝え聞いているが、細部まではわかっていない。


 アメリアはどうも一度集中すれば問題ないとマリアはいうが――



「が、がんばりましゅ!! うぅ、また噛んだぁ……」



 不安しかないと見学メンバーは思ったのだった。

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