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episode46 自分の思い、皆の思い

 


『キャプチャー!!』


「キャプチャーコンファーム!」



 捕獲確認のコールをアイリスがした瞬間、MCC内は沸き上がった。


 回転する目標と回転を同期させて、ロボットアームで掴むなんて芸当をあいつらはやってのけたのだ。


 興奮するに決まっている。



「すごい!! すごいわ!! 三人とも!!」


『やばいの一言ですよ!! 完っ璧でした!!』


『……疲れた』



 アイリスとマルクスのテンションに対してクラリスは本当に疲れているのだろう。


 声音からもその疲労が見てとれた。



 ……というよりアケルリースからここまで戻ってきてすぐと言ってもいいくらいの時間で宇宙に上がってこの大仕事だ。


 そりゃ疲れもするか。



「アイリス、コロンビアとドッキングさせてリークチェックと気圧調整が済んだらコロンビアクルーをアトランティスに移動させ、全員を休ませろ。特にクラリスとクリスは限界だろうからな」


「わかりました」



 俺への返答を終えると、アイリスはすぐさまアトランティスと交信を始める。


 それを見届けると、俺はアルノーと今後のことを話し始めた。



「ひとまずクルーの命の危機は回避できた。問題はコロンビアだが……」


「あの破損状況では再突入なんて無理ですよ」



 いくら魔力を流したら直る耐熱タイルだといっても、それは魔法が使用可能となる高度80kmからだ。


 それまでの間は剥き出しのフレームに高温ガスが入り込むし、仮に耐えたとしても高度80km圏内に入れば瞬時に直るというわけでもない。


 そもそも一番温度が高くなるのはその高度80kmからなんだ。


 絶対に耐えられないだろう。



「とにかく、まずは一安心だ。皆、今のうちに休んでおこう」


「「「「「はいっ」」」」」


「夜間シフトの者と引き継ぎを始めてくれ。皆ご苦労様」



 MCCも夜間シフトに入り、俺達は束の間の休息を取った。











 ◆










「怖かったよぉ!! クララぁ!!」


「おお、よしよし。災難だったね」



 気圧調整を終え、ハッチオープンをした直後、ティナがクララに抱きついた。


 他のコロンビアクルーも張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、殆どが涙ぐんでいた。



「すみません、クリス様……コロンビアをこんなふうにさせてしまって……」



 船長であるマルクスは今回の件の責任を感じているのだろうが、クリス達も地上スタッフも皆、そんなことは思っていない。


 それを伝えるためにクリスとクラリスは口を開いた。



「こんなの誰が予想できるんだよ。あのレオンですら焦ってたんだぞ? ……まぁ、そんな素振り一切なかったけど」


「そうよ、マルクスが責任を感じることはないわ。今は生きていることを喜びましょうよ。皆も」


「「「「「はいっ!」」」」」



 力強い返事を聞いてクリスもクラリスも安堵した。



「エレアちゃんは大丈夫だった?」


「あっ……えっと……」


「?」



 クララが何気なしに聞いたら、エレアは口籠もってしまった。


 何かあったのだろうか? とクララは心配になった。



「エレアちゃん。何か隠してる?どこか痛めてるとか……」


「いえ! それはないので大丈夫ですが……」


「じゃあ……どうしたの?」


「っ!? ……」



 エレアはみるみるうちに顔を真っ赤にしていき、意を結するとクララに耳打ちした。



「その……事故が起きた時にその……出ちゃいまして……」


「出? ……っ!?」



 クララはエレアの告白を一瞬理解できなかったが、すぐに理解した。


 ……粗相をしてしまったのだと。



「それで……恥ずかしくて……」


「……ごめんね」



 良かれと思って行動したが、エレアには恥ずかしい思いをさせてしまったと反省するクララであった。










 ◆










 明けて……というより、ドッキングが完了したのが明け方だったから、今はもう昼になっている。


 交代時に夜勤スタッフとの引き継ぎを……なんて言ったが、あの時点で既に夜勤シフトに入っていたのだ。


 従って、交代するのは早出シフトの人間だったのだが、そんな勘違いをするほど疲れていたのだろう。


 皆、空気を読んでくれたんだ……。



「さて、なんとか最悪の状況を回避できたが……これからどうするか意見を聞きたい」



 会議室に集まったのはフライトディレクターのアルノーと機体製造部門のルドルフさん、他にも医療部門やシステム部門の人間もここに集まっている。



「このままアトランティスに全員乗り込んで帰還するのが賢明では?」


「だがそうなるとコロンビアがデブリになってしまう……」


「となると、軌道上で修理ですか?」


「熱防護システムがやられているんだ。2m以上の穴を塞ぐのは軌道上では無理があるぞ」



 会議が始まって1時間半。


 会議に集まったメンバーは次々に意見交換を行うがどれもピンとこない。


 正直にいうと、このままアトランティスで帰還させる方に俺は賛成だ。



 これ以上、彼らに怖い思いをさせたくない。



「軌道上での修理は難しい……そう考えていいのか?」


「ええ、特にOMSは不可能なのでは? そのあたりはどうなのです?ルドルフさん」



 危機管理担当から話を振られたルドルフさんは腕を組んで唸る。



「う〜ん……できなくはねぇけどよ……EMUのグローブでケーブルとかの接続ができるのかどうかわかんねぇな」


「なるほど」



 軌道上での修理なんか見越してないからな。


 細いケーブルとかの扱いが難しいかもしれない。


 ……俺だってこんなことはしたくないが――



「……これ以上、時間をかけるわけにはいかない」



 俺は皆にコロンビアの処遇を伝える。



「コロンビアはアトランティスからRCS燃料を補給後、直滑降にて大気圏に突入、可能な限りの焼却を実施する」











 ◆










「「「「「コロンビアを墜とす!?」」」」」


「そうみたい……」



 先の会議で決定した事柄を、アイリスは宇宙飛行士の面々に伝えた。


 それを聞いた皆の表情は困惑と哀しみを表していた。



「そんな……なんとかならないんですか?」


「軌道上で修理することは検討されなかったんですか?」



 ソフィアとパトリシアがアイリスにそう質問したが、アイリスは首を横に振った。



「検討したけれど、実現困難だと判断されたわ」


「実現困難ってことはできなくはないってことでしょう? やってみる価値はあるんじゃないですか?」


「STS-100クルーにこれ以上の精神的負荷をかけたくないというのがレオンさんの意見よ。早く地上に降ろして安心させたいのよ」



 ラルフが意見するもアイリスから語られたレオンの思いを聞いて、皆黙ってしまった。


 レオンの優しさを理解しているからだ。



 しかし、それでも、コロンビアを失いたくないという思いが、第一期第二期の宇宙飛行士達にはあった。


 何故なら――



「あの船は、みんなで力を合わせて作った船なんです……皆の夢の船なんですよ」


「そうです! ソユーズと違って、マスターが一から十まで作ったものじゃない。皆で知恵を出し合って作った世界初の再利用型宇宙船の第一号なんです……こんな形で失いたくはありません」



 アイリーンとエルヴィンがそう言うと、それに同意する様に皆が頷いた。



「アイリス様、なんとか思いとどまって頂くことはできないのでしょうか?」


「私達第二期組が宇宙に上がれるようになったのはスペースシャトルの……コロンビアのお陰なんです……耐用年数を迎えての処分ならいざ知らず、大気圏再突入での焼却なんて嫌です」



 クラウディアとソフィアの意見を聞くアイリスも同意見だった。


 スペースシャトル計画が始動したおかげで、航空機パイロットや航空魔法士でないとなれなかった宇宙飛行士になることができたのは、コロンビアが完成したからだ。


 その思いは第二期宇宙飛行士の面々が一番強いだろう。



 しかし――



「もう……決定事項なの。覆ることは……ないに等しいわ」



 アイリスの言葉で、宇宙飛行士達の間に重苦しい空気が流れた。










 ◆










「コロンビアを……墜とす……」


『ええ、これは確定事項よ』



 CAPCOMのクラウディアからアトランティスにいる全クルーにコロンビアの処分を伝えた。


 やはり皆、その決定を聞いて表情を曇らせた。



「……なんとか、ならないんですか?」


『……マスターの決めたことよ』



 STS-100の船長であるマルクスは唇を噛む。


 他のSTS-100クルーも苦虫を噛み潰したような表情で決定を聞いていた。



『ミッションは4時間後に開始します。準備を進めて下さい』


「……了解」



 マルクスはかろうじて声を出して応えた。


 通信が切れると、空気はさらに重くなった。



「まさかコロンビアを焼却処分するなんてね……」


「レオンがそう決断したってことは、もう修復は不可能なんだろうな……」


「……本当にそうかな?」



 クララとクリスはレオンの考えをそう推察したが、クラリスはまた別の思惑を感じていた。



「レオンってすごく優しい人じゃない? いつも私達宇宙飛行士のことを気にかけてくれてるし、他の従業員の皆にだって分け隔てなく接しているし」


「確かに。この前はアニカの出産祝いを送ってたよね」


「えっ? 確か航空隊の子にも出産祝いを渡したって聞いたぞ?」



 ティナの発言を聞いてニルスも似たようなエピソードを語った。



「それだけ私達……ううん、レイディアントガーデンの皆のことを大切に思ってくれてるってことでしょ? だから……今回のこれも同じなんじゃないかな?」


「同じ?」


「私達の命とオービター……レオンはどっちを取ったかってことよ」



 クラリスの言葉に皆は黙り込んだ。


 その選択肢をレオンに差し出せば、どうなるか。


 答えは皆わかりきっていた。



「きっと、レオンは最初からコロンビアを墜とすつもりだったと思う。一応皆の意見を聞いた後でね」


「俺達を、これ以上危険な目に合わせない為に……か」



 本当に優しい人だ、とそこにいた全員の思いが一致した。


 そして同時に、自身の不甲斐なさを感じてもいた。



 皆、レオンからこう言って欲しかったのだ。



【君達なら、この状況を打破できる】と










 ◆










 アトランティスからコロンビアへのRCS燃料の補給を行う時間となり、俺はMCC各セクションに指示を出した。



「オンタイムだ。皆、RCSの補給を開始させてくれ」



 俺がそう言うも、各セクションから返答がなかった。


 ……あれ?



「皆? 各セクション聞こえなかったのか?」


「……失礼を承知で申し上げますが――」



 俺が聞き返すと、ひとりの女の子が声を上げた。



「私は……嫌です」



 彼女ははっきりと、今回の決定に反対した。



「あの船は、マスターだけじゃない……皆で力を合わせて建造した【夢の宇宙船】なんです。簡単に墜としたくなんてない!」



 彼女の嘆願に、MCCの皆も賛同し始めた。



「そうです! あれのエンジンは技術部が設計したんです!! マスターから教えていただいた理論を使って!」


「アビオニクスも魔法付与も、マスターに鍛えていただいたお陰で製作できたんです!!」


「皆で一緒になって作った船……チャレンジャーやディスカバリーなどの姉妹機も建造されましたが、我々にとってコロンビアは特別なんです!」


「……」



 各々、自分の思いを語ってくれた。


 俺はそれを静かに聞いていく。



「俺も同意見だな」



 するとそこに製造部門責任者のルドルフさんがMCCに入室してきた。



「ルドルフさん……」


「大将、あれは若い連中も一緒になって組み立てた船なんだ。物ってのは、いずれ壊れちまうもんだが……直せるもんを自ら壊すっていうのはしたくねぇ」


「ですが先程難しいと――」


「ああ、難しいさ。けどよ……できねぇなんて言ってねぇぜ」


『レオン』



 ルドルフさんの言葉を聞いていると、スピーカーから声が聞こえた。


 アトランティスにいるクラリスからだった。



『私達も、コロンビアを墜落させることには反対よ。理由は……皆と同じ』



 クラリス達も、皆と同じ理由で反対を表明してきた。



『俺達だってレオンに鍛えられたんだ。どんなに困難なことでもやり遂げてみせるさ』


『そうですよ! このドッキングだって成し遂げて見せたじゃないですか!!』



 STS-300クルーからの声が聞こえ、そのあとにはSTS-100の船長であるマルクスの声が聞こえた。



『俺も、こんな形で船を失いたくありません。マスター、僕らに挽回のチャンスを下さい』



 マルクスの声は決意に満ちていた。


 俺は皆の意見を聞いて意思が揺らいでいた。



 俺だって、コロンビアを前世と同じ道を辿らせたくはない。


 でも、これ以上皆に負担をかけたくはなかった。



 しかし、そこに畳み掛けるように、またMCCに入室してきた人達がいた。


 ――宇宙飛行士達である。



「マスター、私達も、宇宙に上げて下さい」



 アイリスとCAPCOMを交代したクラウディアが代表して嘆願を発した。



「OMSを上げるにはスペースシャトルしかありません。仮にそれ以外の方法で上げるにしても、EVA要員が足りないのではないですか?」


「……」



 確かにクラウディアの言う通りだ。


 OMSを交換する要員に、4人は必要だ。


 破損したOMSの取り外しと交換に2人、新しいOMSをコンテナから出し、破損したOMSを梱包する要員に2人で計4人だ。


 しかも、熱防護システムを修復するためにも、最低でもあと2人は必要になる。


 それを理解しているから、クラウディア達は嘆願にきたんだろう。



「マスター……私達を信じて頂けませんか?」



 もう、俺自身、意思がもたげ始めていた。


 そこに、アイリスが止めを差してきた。



「レオンさん……いえ、マスター。もう、好きになさってもいいのではないですか?」



 皆の意思を尊重し――いや、俺も皆の言葉を借りるとしよう。



 俺も、コロンビアには墜ちて欲しくない。



「……皆、いいんだな?」


「「「「「はいっ!」」」」」


「……長いミッションになる。少しの間帰れなくなるぞ?」


「「「「「望むところ!!」」」」」



 意思は、決まった。



「ミッションを変更する! コロンビア墜落ミッションは全て破棄!! これより軌道上OMS修理(サービス)ミッションを実施する!」


「「「「「了解!!」」」」」


「技術部! ルドルフさんから換装作業手順を聞いて、EVA用の手順書を作成してくれ!」


「わかりました!! ルドルフさん、お願いします」


「おうよ!」



 ルドルフさん達が退室しようと動き出した。


 その時、俺はトビアスにも行くように促した。



「トビアス、ソフィア。お前達も行ってくれ」


「えっ?」


「整備部出身のお前にOMSの交換を実施してもらう。感覚を取り戻してほしい」


「了解しました!!」


「私もですか? マスター」


「ソフィアはトビアスとバディを組んでもらう。手順とやり方を学んできてくれ」


「わかりました! 頑張ります!!」



 技術部の人間とルドルフさん、トビアス、フンスと気合を入れたソフィアが出ていったところで、次の指示を出す。



「続いて熱防護システムの修復だが、高出力の魔力をタイルやブランケットに流せば軌道上でも再生するかもしれん。素材研究部、検討を始めてくれ」


「はい!!」



 一通りの指示を終え、俺は改めてMCCの面々に向き直った。



「さぁ皆! コロンビアをエクセル(おか)に戻すぞ!!」



 今世、そして前世に置いても、史上初のミッションが始まった。

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