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episode44 願いと試練

 


 高度:388km 国際宇宙ステーション


 STS-30 3日目。



 ノード2「ハーモニー」を届ける為、ディスカバリーはISSとの最終アプローチを実行するところだった。



「……よし」


「頑張って下さい! エルフリーデさん!!」



 STS-30にて船長を務めるエルフリーデは小さく拳を握り気合を入れた。


 パイロットであるクリスタがそれを応援する。



「こちらディスカバリー。最終アプローチに入ります」


『こちらISS。いつでもどうぞ』



 ISSの船長であるユリアから許可をもらい、エルフリーデはフライトデッキ後方、パイロット席後ろにあるコントロールスティックを握る。


 ISSの接近はただ機体を近づけていけばいいというものではない。


 今、ディスカバリーはISSの前で静止している状態だ。


 即ち、ISSと相対速度0の状態である。


 では近づく為にはディスカバリーは速度を落とさなければならない。


 しかし、宇宙空間では軌道力学というものが付きまとう。


 速度を落とすということは同時に高度も落ちることになるのだ。


 速度を落とした瞬間に高度が下がるということはないが、速度を下げて徐々にISSとの距離が縮まってくると、ドッキングポートとアダプタがズレてくるのがわかってくる。


 またこれを修正する為に姿勢制御を行わなければならないのだ。



「接近率-0.34。θ99.45。オフセット+0.28」


「アプローチ率は?」


「+0.28です」



 GPCのSPEC 33 PRO画面に表示される数字を読み、それを報告していくクリスタ。


 ドッキング成功はθとオフセットの値が0にならなければならない。



 RCSを駆使していくが、それをし過ぎるとズレが大きくなることもある。


 ドッキング作業はオービターとISSをゆっくりゆっくりと接近させていく、非常に忍耐力の必要な作業だ。



「ドッキングアダプターのカメラで見ても順調ね」


「数値も0に近づきつつあります」



 この間、ミッションスペシャリストであり、新人のアントンがカメラを構えISSを撮影していく。


 ミッドデッキに繋がる出入口から顔を覗かせて、今回が初フライトのマリーナ・フォグトとフェリケシオン連合エリーノ王国選抜のジム・ウィリアムズ、フェリケシオン連合アレント王国選抜のアリス・フォン・キングスリーの三人はその作業を見守っていた。



「本当に根気良くやらないといけないんですね……」


「というより、俺はシミュレータと全く同じでびっくりしてるんだが……」


「違ったらシミュレーションの意味ないでしょう?」



 ノード2「ハーモニー」はフェリケシオン連合のチームが建造したモジュールだから、フェリケシオン連合から選抜された宇宙飛行士が今回搭乗していた。


 フェリケシオン連合は六つの国で成り立っており、各国選抜宇宙飛行士はそれぞれ6名ずつとレイディアントガーデンから告知され、アケルリース、エグザニティ、ロムルツィアは6名を選んだが、フェリケシオン連合ではそれぞれ1名ずつしか選抜できなかった為、フェリケシオン連合代表の座を勝ち取ったアリスとジムの二人はまさに選ばれし人間だった。



「キャプチャー!」


「〜ッ!! やった……!!」



 クリスタのソフトドッキング完了のコールを受け、静かに喜びを表現するエルフリーデを見て、共に訓練を受けてきたジムとアリスは驚いていた。



「あんなに喜んでるエルフリーデさん初めてみた」


「そうね。いつもおっとりとしていて、淡々とタスクをこなしていく人だと思っていたのだけれど」


「そりゃあ喜ぶわよ。だって、あのクリス様やクラリス様ですらドッキング作業は緊張するっていうんだから」


「「えぇ!?」」



 ノアセダルのみならず、宇宙飛行士を目指す者にとって、クリスとクラリスはもはや英雄、賢者マーリン・グランウィードと導師ヘルガ・ゴーランに匹敵するほどに神格化されていた。


 その二人が緊張するというドッキング……確かに喜んでも不思議ではないなとジムとアリスは思うのだった。



 ――


 ――


 ――



 ドッキング完了後、ISSへの入室を始めるSTS-30クルー。


 ISSにはつい最近到着していた第三次長期滞在クルーのダスティン、ルーク、シルヴィアもおり、総勢12名がISSに同時搭乗していることになる。



「お疲れ様でしたわ。そして、スペースシャトル船長任命おめでとう、エルフリーデ」


「ありがとうございます、ユリア様」


「STS-23でパイロットを務めてから二ヶ月で船長任命とは……流石は元747パイロットですわ」


「その経験がなければ、未だパイロットに任命すら出来ていなかったと思います……」



 船長同士で会話をしているその横では、他国選抜同士で再会を喜び合っていた。



「アリス様にジム! 久しぶり!!」


「お久しぶりです、ルークさん」


「いやぁ、宇宙で再会なんて考えてもいなかったな」



 同じフェリケシオン連合選抜故に、面識がある三人は会話に花を咲かせていた。



「お久しぶりです。アリス様」


「シルヴィアさん、お久しぶりです。アスビルでお会いして以来ですね。宇宙には慣れました?」


「ええ、もうすっかり」


「最初、結構グロッキーだったんですよ」


「ちょ!? ルーク! 言わないでって言ったでしょ!!」


「そうだっけ?」



 宇宙で会うという特殊な環境故か、他国選抜組はテンションが高めだった。


 一方、レイディアントガーデン組は――



「お疲れ〜」


「お疲れ、ララちゃん」


「お疲れ。初飛行はどうだ? アントン、マリーナ」


「やっと来ることができたって感じ」


「エクセルがすっごい綺麗だった。ラインハルトはもう慣れた?」


「二か月もいればな」


「なぁ、今日、特別食出すつもりなんだが、どれがいい?」


「カレーがいいです! ダスティンさん!!」


「それは通常食なんだよ、アントン」



 ――非常に淡白だった。










 ◆










 アケルリース王国 王城


 ディスカバリーが打ち上げられた一週間後、俺とクリス、アイリスとクラリスの四人はアケルリース王国の式典に呼ばれていた。



 アケルリース王国宇宙実験棟が完成したのである。



 一国だけ、独自開発の道を歩みながらも、しっかり期限までに仕上げてきた。


 しかも、何というか……独自設計のはずだが、姿形がどう見ても日本の宇宙実験棟「きぼう」なのだ。


 まぁ、スペースシャトルで運ぶから自ずと形は似通うのだろう。


 イプシロンロケットもすげぇ似ていたどころの話じゃないが気にしない。


 俺はあまり深く考えないようにした。



「よぉ、レオン殿」


「あっ、賢者様。お久しぶりです」


「その賢者様ってのやめてくれ。マーリンでいいよ」


「では、マーリン様とお呼びいたしますね」



 それから話が弾み、話題も無くなってきた頃にマーリン様がバルコニーを指した。



「なぁ、少し昔話に付き合ってくんねぇか?」


「……私でよければ」



 その神妙な……少し悲嘆の差した表情を見て、俺は二つ返事で答えた。



 飲み物を手にバルコニーに出ると、12月半ばの冷たい空気が、会場で火照った顔を冷ましてくれた。


 マーリン様は一口、ワインを飲むとゆっくりと語り出した。



「20年前、俺が英雄に祭り上げられた事故があった時も、これくらいの時期だった」



 確か、重大な魔法実験事故が発生して、その際に生まれた災害級の魔獣を討伐したのがマーリン様とヘルガ様だったはずだ。



「その事故を起こした研究所はな……あるものを作ろうとして設立された研究所だったんだよ」


「あるもの?」


「……空飛ぶ乗り物だ」



 20年前にそんな研究所がアケルリース王国にあったなんて知らなかった。


 今はないところを見ると、事故の責任を取って閉鎖したのだろう。



「その研究所の所長は俺の親友でな。子供の頃から(つる)んでいた」



 マーリン様は手元のワインに注いでいた視線を、不意に空に向けた。



「あいつはガキの頃から空を飛びてぇって言ってよ。飛ぶなら風魔法一択だって言って、風魔法を馬鹿みたいに練習してた」



 その練習風景を思い返しているのだろうか?懐かしむように空を見つめていた。



「それで中等部に上がる頃には風魔法を使わせたら右に出るものはいねぇってレベルまで行ってな。高等魔法学園に上がってもそれは変わらずで、俺も魔法には自信があったが、風魔法だけは敵わなかった……知ってっかな? そいつ【空に焦がれて】って本を出してんだけど」



 空に焦がれて……というと、巻末に『いつか未来の魔法使いが大空を翔る魔法を編み出してくれることを切に願う』って書いてあった書籍だったはずだ。


 確か著者は――



「ケネス・アームストロング氏……でしたか?」


「……やっぱすげぇな。結構マイナーな本だったはずだが知ってたか」


「ええ、昔調べ物をしていた時に読んだので」



 苗字がアームストロングだったから覚えてた。


 だってあの有名なアポロ11号の船長と同じ苗字なんだもの。


 そっか、マーリン様の親友だったのか。



 かなり高度な知見を持っていたから、もしかしたらマーリン様の魔法の根底はケネス氏の魔法理論があるのかもしれないな。



「まぁ、ケネスがその本を出した後にな、研究所を自費で立てたんだ。完成したら俺とヘルガも一緒に飛ぼう! って無邪気に笑ってた。本で未来に託すみたいな書き方して締めてんのに、研究所なんて作ったのかって俺は笑っちまったよ」



 穏やかに話していたマーリン様だが、また視線を落とし始めた。



「まさか……魔力暴走を起こすなんて思っていなかった……研究過程の中で見つけた魔力でもしかしたら自由に飛べるかも知れねぇって、飲みの席で話してくれた翌日だったよ」



 研究中に見つけた魔力……なんだろ?


 まさか黒魔力だったりしないよな。



「研究所には実験動物もいてな。それら全てが魔物化して、挙句には災害級魔獣まで生まれてしまった……それを止める為に俺もヘルガも……ケネスも必死で戦った」



 ……ん?


 ケネス氏も戦闘に加わっていたのか!?


 てっきり魔力暴走時に即死したのかと勝手に思い込んでいたな……。


 でも、なぜそれならマーリン様とヘルガ様だけが讃えられているんだ?



「ケネス氏も戦闘に参加されていたんですね」


「ああ……でも、あいつ災害級から一撃貰っちまってよ。それが致命傷になって亡くなった。……俺は……そばに居たのに何も出来なかった」


「……」



 何と……声をかけてあげればいいかわからなかった。


 この世界では、前世と比べると死は結構身近にある。


 特に魔物ハンターなどは顕著だ。



 だが、俺の周りでは魔物にやられて死亡するということがなく、前世でも身内に不幸などなかった為、この場合どう接するべきなのかわからない。



「まぁ、あいつがやられたところを見た瞬間にカッとなって、魔法を連発したら討伐できたんだ。討伐直後に限界がきて倒れたが……今思えば、あん時ヘルガが補助してくれたから戦えたんだろうな」



 苦笑し、ワインを一口飲むマーリン様。


 そして、続きをまた語ってくれた。



「その後だよ。俺とヘルガは未曾有の事故と災害級討伐の功績を讃えられて勲章を貰った。けど、あいつは……ケネスには一切何も与えられなかった。それどころか、重大事故を起こした責任を取らせるって言って、当時の魔術省はあいつの書いた論文全てを焼却しやがった」



 ワイングラスを握り潰さんばかりに、力を強めるその手から怒りと哀しみを感じた。



「あいつは責任を取っていた。俺と一緒に災害級に立ち向かってくれたからこそ、俺は最終的に討伐できたんだ。俺とヘルガだけだったら、この国は無くなっていたかも知れねぇ」



 災害級とはその名の示すとおり、台風や地震と同じ扱いであり、ただただ通り過ぎるのを待つことしか出来ない故にそう名づけられた。


 それを討伐できたマーリン様は世界から称賛されるに相応しい。


 そして、それはケネス氏も同じだ。



「なのに、俺とヘルガだけを讃えて! あいつは記録抹消!? ふざけんな! って思ってな……俺は王都を出た。色々と嫌気が差しちまってな……街を出ると決めた時に、ヘルガとも離婚した」



 ……薄々感じていたが、やはりヘルガ様とは夫婦だったのか。


 苗字が違うのは離婚をしていたからなのか。


 てっきり文化の違いでアケルリースでは苗字を選べるのかと思っていた。



「それからは自分の不甲斐なさと力不足を呪って、八つ当たりする様に魔物討伐を続けた。そんな生活をしてた時だな、討伐を終えて森を出ようとしたら赤ん坊の鳴き声が聞こえて、保護したんだ」


「……それがレン君ですね」


「ああ。俺とヘルガの間には子供がいなかったからな……というか、結婚したのが事故の数ヶ月前でよ。やることやってたが当たらなかったんだ」


「……」



 突然の下ネタやめろよ。


 シリアスな雰囲気で反応に困るだろ。



「まぁ、そんなこんなでな。子育てなんてしたことがなかったからヘルガやおふくろに助けを求めて、今に至るって感じだ」



 そう言って話を締めると、残りのワインをグイッと飲み干した。



「まぁ、だから思い出すんだよ。レオン殿が開発した航空機を見るたびに、ケネスのことをな……ああ、あいつがこの光景を見たらどう思うだろうってな……」



 そういうと、今度は俺に向かってマーリン様が頭を下げてきた。



「マーリン様!? どうしたんで――」


「ありがとう、レオン殿。あいつの夢を叶えてくれて」



 俺は一瞬慌てたものの、マーリン様の感謝の言葉を聞き、心中を察した。


 ああ、なるほど、だから俺にこの話をしてくれたのかと。



「レオン殿には知って欲しかった。昔空に憧れて手を伸ばした一人の男がいたことを」


「……貴重なお話、ありがとうございます」



 ケネス氏の夢、そしてその夢の先を、天にいる空の先駆者達に示せるよう努めることを胸に誓った。











 ◆










 STS-100


 シャトルメインミッションであるISS組立ミッションとは別に設定されたミッション。


 スペースラブを使用した今回のミッションは、最近発見された黒魔力を調べる為、1gの黒魔力とネズミの魔物を積載し、実験することがメインだった。



 今日は飛行15日目。



 コロンビアは高度306km 軌道傾斜角39°の軌道を周回していた。



「すごい、魔物でも魔力を集めてる。しかも黒魔力だけ」


「マスターの仮説……魔物なら黒魔力を制御化に置けるのではないかという仮説が証明されましたね」



 ティナとエレアは暴露パレット内に設置してある気密飼育ゲージに入っているネズミの魔物をモニタリングし、その観察記録をつけていた。



「まぁ、ちょっと罪悪感あるけどね。いくら魔物って言っても餌も与えずケージの中に放置するなんてさ」


「実験室内で観察していて、突然凶暴化したら危険だからということで、いつでも切り離せる暴露パレットに設置することになったと言われたじゃありませんか」


「そうなんだけどねぇ」



 魔物は通常の生物とは違い、食事を必要としていない。


 魔物は魔力が生命エネルギーだからだ。


 だが、捕食するという行為は実行する。


 食することで捕食対象の血中魔力を得ているのだ。


 なので、魔物化すると草食動物でも肉食に変化してしまう。



 故に、ネズミであっても油断してはいけない。



 そして今回はケージに入れたネズミを飢餓状態にさせることで、捕食ではなく魔力制御で魔力の補充を促そうという実験を行なっていた。


 宇宙では思っている以上にエネルギーを消費する為、こう言った調査を短期で行うには最適なのだ。



「あとは、宇宙には黒魔力が結構漂っているっていうのがわかったよね」


「そうですね。魔力磁気瓶に入っている黒魔力が反応していることからわかりましたね」



 持参した黒魔力1gは、実はネズミの魔物の食事用に持ってきただけであり、まさか宇宙に黒魔力が存在しているなどは想定外だった。


 かなり大きな成果である。



「突然波長が隆起するんだもん。びっくりだよね」


「もしかしたら、黒魔力は宇宙では普通で、私達の使っている白魔力の方が特殊なのかもしれないですね」



 魔法薬学を専攻していたエレアは、ティナとの会話の中でそういった感想を抱いた。



「……ねぇ、エレアちゃん。それ結構的を射てるかもよ?」


「……そうですね。レポートにまとめます」



 仮説を立て、それをレポートに書いていくエレアの表情は充実感に満ちていた。



 今回、エレアは初飛行で、他の第三期宇宙飛行士メンバーの中では最後に宇宙に上がった。


 少し……いや、かなり焦りを感じていたのだが、今回のスペースラブミッションに任命され、且つ、新たな発見の糸口が見えてきた。


 黒魔力の研究……その最前線に立てていることが、エレアは嬉しかった。



「そっちは大変そうだな」


「こっちなんてミツバチ見てるだけだぜ」


「後、ミントの成長」



 エーリッヒ、ニルス、パウルの担当は主にミツバチとミントの成長記録だった。


 重力が巣作りなどに影響しないか、ミントは魔力を纏っている為、それの影響はないかなど……何回かのミッションで行った実験をより詳細に調べることと、将来、ISSにて長期実験を行う際のリハーサルも含んでいた。



「いいじゃない、そっちは見てるだけなんだし。こっちなんか魔法・魔力学なんて専攻してないのに実験してるんだよ? 毎回ヒヤヒヤしてるよ」


「でもそっちはエレアちゃんがいるだろ」


「ポストアイリス様って噂になってるぜ」



 エレアは魔法薬学研究員であり、魔法薬学の権威となっているアイリスの助手を務めたこともある実力者であった。



「いやぁ……えへへ」



 そう言われて照れるエレアはこれ以上ないほど破顔していた。










 ◆










 ――暗い。


 ――狭い。


 ――腹が……減った。



 食べ物もなく、光すらない空間。


 そこに閉じ込められた存在はただただ、憎悪を募らせた。


 自由を奪われ、苛立ちだけが残る。



 その存在はたったひとつの欲望を黒い魔力に込めた。



 ――ここから、逃げたいと。










 ◆










 STS-100 飛行16日目



 楽しかった宇宙実験も終わり、帰還する日を迎えた。


 クルー達は片付けていた座席を再設置し、全員スターマンスーツに身を包んだ。



「はぁ、今日で終わりかぁ……」


「何? エレアちゃん。そんなに楽しかったの?」


「とっても!」



 擬音にして「ペカー」と笑うエレアを見て、ティナは愛くるしさを感じた。


 ソフィアとは違う可愛さである。



「なんだか、最初は冷静沈着な子だと思ってたけど……可愛らしいところがあるんだね!」


「じ、自分でもわかってますよ! ……キャラに合っていないことくらい……」


「あはは! 大丈夫だよ! 別に悪いことじゃないんだから」



 頭を撫でようとするも、スターマンスーツのヘルメットに阻まれ、ティナの手は行き場をなくした。



「で、今日は誰が上に行く?」


「やっぱエレアちゃんだろ? 今回初飛行なんだから」


「大気圏再突入の時の窓の外の景色、見てみるといいよ。まぁ、面白くはないけど」



 ニルス、エーリッヒ、パウルの提案で、ティナとエレアがフライトデッキの座席に座ることになった。



「ありがとうございます!!」



 エレアとティナはフライトデッキに上がり、船長席とパイロット席の後ろの座席に着く。



「楽しい旅ももう終わりだね」


「そうねぇ……私もシャトルを操縦できて楽しかったわ」



 船長のマルクスと、今回初めてパイロットに任命されたラウラが会話しながらも軌道離脱シーケンスに入る為のチェックリストを進めていた。



「じゃあ、帰りましょうか」



 OPS 302の入力を全て終えて、時間になれば後はOMSが起動し、減速を開始する。



「3、2、1――」



 カウントダウンを開始したラウラ。



 ――だが、ここから事態が急変する。



軌道離脱噴射(デオービットバーン)開――何ッ!?」


「きゃあ!?」


「ちょ!? なになに!?」



 噴射直後、突然機体が激しく揺れた。



「なんだッ!? くそ!!」



 マスターアラートが鳴り響く中、マルクスはOMSの燃料バルブを全て閉じ、燃焼を止めると、窓の外とMFD(マルチファンクションディスプレイ)に目を向ける。


 回転していることは感じる重力でなんとなくわかってはいた

 そしてそれは本当なのだとナビボールで右方向にヨーとロールをしていることを確認する。



 毎秒間に半回転程の速さで回り始めたコロンビアを立て直そうとマルクスは左手にあるRCSコントローラを握った。



「ラウラ!!」



 マルクスが叫ぶと、ラウラは自身の役目を思い出し、行動を開始した。



「メーデーメーデーメーデー! こちらコロンビア。アルファード、緊急事態発生! 繰り返す、緊急事態発生!!」



 レイディアントガーデン史上初の、宇宙事故が発生した。

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