episode41 新たな発見
あけましておめでとうございます。
11日過ぎてますが、今年もよろしくお願いします。
STS-23が迫るある日――
パトリシアとアイリーンはアストロノーツビルディングのカフェで寛ぎつつ、ある集団を見ていた。
「人増えたよねぇ。アスビル」
「あと2ヶ月ですからね。他国選抜された宇宙飛行士が宇宙に上がるのが」
アストロノーツビルディング。
略してアスビルの中は、レイディアントガーデン所属の宇宙飛行士だけの施設では無くなっていた。
ISS建造計画に参画する国々から選ばれた宇宙飛行士達がここに集まっているからだ。
「12月からは滞在人数が増えるんだっけ?」
「ええ、そのはずです。魔力光パネルが増設されたお陰ですね」
魔力光パネルが増設されたと言うことは魔力に余裕ができたということ。
接続できる宇宙船の数を増やすことも可能となった為、ソユーズ2機を接続できるので滞在人数は6人にできるようになる。
ソユーズが2機接続できない状態で滞在人数を増やすと緊急脱出手段がなくなってしまうからである。
「すごいなぁ6人滞在。確かうちでももう一機上げるんだよね、宇宙ステーション」
「来年からですけどね」
コーヒーを口に運び、アイリーンはその苦味と酸味、そして香りを堪能する。
「なんでも、マスターはそのステーションに居住モジュールを付けようと考えているみたいですよ」
「へぇ、そうなんだ」
「シャワーを付けるとも言っていたようですよ」
「最高じゃん!!」
アイリーンが最初に言った事柄には興味が無さそうだったが、装備品を聞いた途端に目の色が変わった。
宇宙では入浴ができない為、身体を拭くくらいしか出来ない。
洗髪はシャンプーを使用可能だが、洗い流すことができない為、拭いて終わらせる必要がある。
男性からすればそれだけでも十分な様に聞こえるが、年頃の女の子からすれば、不十分すぎるのだ。
「エクセル(おか)に降りたら真っ先にお風呂に入りたくなるんだよねぇ。特に長期滞在明けはさ」
「それは同意します」
世界初の長期滞在を経験している二人は、良い時代になってきたなと、年寄りくさい感想を抱いたのだった。
◆
「やっと帰ってこれた」
アケルリース国際空港に降り立ったマリアは開口一番にそう言った。
リハビリとデブリーフィングと広報課のインタビューなどの仕事を終えて、長期の休みを貰えたので、良い機会だからとマリアは帰省した。
レオンの計らいで、家族との蟠りも無くなり、なんの気兼ねも無く帰ることができる。
その証拠に――
「おかえりマリア! ミッションお疲れ様!」
「ただいま姉様」
姉のシャルロッテが空港まで迎えに来てくれたのだ。
しかも自動車で、である。
「姉様、運転免許取ったんだ」
「まぁね。マリアと比べたらハードルがぐんと低いけど、アケルリースじゃ持ってる人少ないし、これくらいは取っておきたいなって思ってさ。姉としてね」
照れ臭そうに頬を掻きながらそう語るシャルロッテ。
マリアは自分への対抗意識で取ったのかと驚いた。
「そうなんだ。逆に私持ってないんだ。自動車運転免許」
「……えっ? そうなの?」
「うん。別に無くてもレイディアントガーデン内は移動できるから」
「航空機を操縦できて、宇宙船にも乗れるのに、自動車は運転できないって特殊過ぎない?」
「……私、地上の乗り物に興味が無いんだろうね」
「まぁ、必要無ければそんなもんか。さぁ、乗って。母様も待ってるよ」
言われてみれば、空にしか意識を向けていなかったなとマリアは思いながらも、シャルロッテに促されて車に乗りこんだ。
「明日、パーティーを開くんだよね? 私の帰還祝いの」
「そうだよ。殆どレン君とルナちゃんの婚約披露パーティーのメンバー」
しばらく走った所でマリアはシャルロッテに確認を始めた。
今回の帰省を実家であるフィーメル家に連絡した際に、当主のヴィリーがパーティーを開こうと言い出して、今に至る。
「ドレスとか最近着てないわ」
「訓練ばっかりって言ってたもんねぇ」
帰還後から、マリアはこまめに実家に手紙を送っており、その際に色々自分が何をやっていたかを書いていた為、シャルロッテはある程度事情を知っていた。
「あ! そうだ!! 宇宙飛行士制服で出るってのもいいかも!!」
「ああ、良いじゃない! そうしなよ!」
一応子爵家のパーティーなのだから、それは却下されるだろうと思いながらも、マリアとシャルロッテは盛り上がった。
マリアは改めて、帰ってきたんだと実感していた。
◆
帰還パーティー当日。
まさかの制服出席OKをもらったマリアは実家のホールで出席者と挨拶をする為、準備していた。
「マリア!」
「ルナ! 久しぶり!!」
親友であるルナは、いの一番に会場入りした。
無論、婚約者のレンも同じである。
「おかえりマリア」
「ただいまレン」
「それ……宇宙飛行士の制服か?」
「そうよ。世界で55人しか着ることができないんだから」
「へぇ、レイディアントガーデンにはそんなに宇宙飛行士がいるんだな」
「ううん。このうち24人は他国選抜の宇宙飛行士よ」
アケルリース王国、エグザニティ共和国、ロムルツィア神聖国、小国連合改めフェリケシオン連合のそれぞれから6名ずつが選抜されて、現在宇宙ステーションでの長期滞在や宇宙実験の訓練を受けている。
「あぁ、選抜された人達も含めてるのか」
「そういえば、あんたは応募しなかったの? 宇宙飛行士募集」
レンなら真っ先にこういうものに飛びつくと思っていたマリアは意外に思っていた。
「実はねマリア。レン君応募したんだよ」
「えっ? ……じゃあ、落ちたの?」
「……残念ながらそうだよ」
本当に残念そうに声を出したレンを見てマリアは驚いていた。
「ど、どこで落ちたの?」
「最終まで行ったんだよ。でも、そこで落とされた」
「あぁ……」
宇宙飛行士試験は書類審査後、第一から第三まで試験がある。
最終試験と言うことは、いいとこまで行ったんだなとマリアは思った。
「ただ、何が悪かったのかは言ってくれなかったんだよなぁ」
「それを言ったら次回募集時に対策取られちゃうでしょ? だから言わないのよ」
「おぉ、なるほど」
宇宙飛行士に求められる能力はいくつもあるが、その中でも一番に求められる能力がある。
協調性である。
他のメンバーが今どんなタスクを実行しているか、それに対して何ができるか。
それを『自然体』でできることが、宇宙飛行士には求められる。
何故自然体でなければいけないのか、意識的に実行するのでは不十分なのか。
答えは不十分だ。
宇宙では宇宙船の中でしか行動ができない。
しかも、地上設備と比べれば非常に狭い船内で行動しなければならず、これが結構なストレスとなる。
このストレスが問題なのだ。
もし、意識的に協調している人が宇宙に出て、宇宙ステーションでのミッションを実施したとして――
もしかしたら、ストレスでその協調性が失われてしまう可能性がある。
狭い船内で不和が発生したら、居心地が悪くなること請け合いである。
マリアはレンが苛立つと、強大な魔法で魔物を蹴散らす姿を何回も見ていた為、そういうところが減点材料になったんだろうと思うと共に、もう一つ思い当たることがあった。
レンは全部自分でなんとかしなければいけないと思い込むことが多いのだ。
マリアは、魔法学園の実地授業でのレンの行動を思い返す。
魔物に囲まれたりした際など、同班メンバーと協力することをせず「ここは俺に任せてくれ!!」と一人で蹴散らすことが多かった。
当時のマリアは頼りになるなと思っていたが今思えば「あいつは一人でいいんじゃない?」と思ってしまう。
恐らく、そういうところが変わっていないのだろう。
もしかしたら、それで落とされたのかもしれない。
「残念だったわね。まぁ次回募集時には受かるかもしれないわよ?」
「そうなったらいいな」
その後、続々と参加者が到着してパーティーが始まった。
すると――
「宇宙ってどんな感じだ? 気分が悪くなったりしないのか?」
「私はならなかったわ。ただ、一番きつかったのは帰ってきた時ね」
「えっ? 帰ってきた時? なんでなの?」
「宇宙って常に浮いてるから、帰ってきた時は平衡感覚がかなり鈍くなってるのよ。俗に言う陸酔いってやつね」
「なるほどな。じゃあ、船乗りだったら酔わないかもしれないな」
「そうね。ただ、今はまだ船乗り出身の宇宙飛行士はいないからわからないわね」
元クラスメイト達から質問攻めを受けるマリア。
世界で55名しかいない宇宙飛行士で、実際に宇宙に行ったことがある人物と会話できる貴重な時間を参加者は楽しんでいた。
……受ける方はクタクタになるが。
◆
――アケルリース王国側 迷いの森
「そうか、マリアちゃん元気そうだったか」
「うん。オーロラの写真も見せてもらってさ、すんげぇ綺麗だったよ」
「……オーロラってなんだ?」
迷いの森を進む賢者こと、マーリン・グランウィードとその息子レンは昨日行われたマリアの帰還パーティーのことを話していた。
「エクセルの地磁気と太陽風でできる光学現象……だそうですよ」
「へぇ……さっぱり分からん」
共に着いてきているルナが代わりに説明したが、マーリンは磁気だけでそんなに言うほど綺麗な風景が広がるなど想像できなかった。
そもそも何故迷いの森を進んでいるのかというと、一年前にあった大規模スタンピードの発生源調査のためである。
一年経った今でも未だに発生原因がわからず、糸口すら見えずで調査は難航していた。
「申し訳ありません。御同行頂いて感謝します、賢者様」
「いやいや、君らじゃないとわかんねぇことばっかだからよ。逆に俺らが感謝したいぜ」
一人の少女がマーリンに礼を言う。
彼女は半年ほど前から調査に協力してくれているレイディアントガーデンの魔力研究課のメンバーであった。
当初はスタンピード被害国独自で調査をしていたが、難航した為、レイディアントガーデンに調査を依頼したのだ。
マーリン達はその調査員の護衛である。
「でもやっぱり凄いよな。魔術省や魔法学術院が総出で調査してもわからなかったことを2ヶ月くらいで「スタンピードは地脈から噴出した魔力によって引き起こされた」って突き止めたんだから」
「でも、それ以降は何も掴めていませんし……」
レンが褒めるも、調査員の少女は申し訳無さそうに頭を掻く。
「謙遜だよ。それに、皆さんが謙遜しちゃうと僕らの立つ背がないよ」
「そうですよ、自信を持ってください。所で、皆さんの持っている魔道具は見たこともない形をしていますが、何の魔道具なんですか?」
調査員が背負っている魔道具にルナやレンは視線を注いだ。
手には筒を持ち、それは蛇腹のホースで背中の魔道具に繋がっていて、不思議な形をした魔道具だった。
「これは魔力を吸収して、魔力波長別に分けることができる魔道具なんです」
「「「魔力波長?」」」
マーリンとレン、そしてルナは揃って首を傾げた。
「魔力波長っていうのは文字通り魔力の波、その高さと長さです。これは各個人で違っているんですよ」
「へぇ! そうだったのか!」
マーリンは魔力にそんな特徴があったのかと驚いていたが、レンは別の疑問が浮かんでいた。
「あれ? でもそれって大発見だよね? 世界各国に発表されてもおかしくないんじゃない?」
「あっ、それもそうですね。そういった論文が発表されたのを聞いたことがありません」
レンの疑問にルナも頷いた。
「マスター……レオン様にも論文発表すべきと意見した方がいたのですが、既に実用化されていることだからと言って発表しなかったんです」
「実用化だって? でも、その魔力波長を使った魔道具なんて見たことねぇぜ?」
マーリンの言葉にうんうんと頷く護衛達。
いつの間にか、レンやルナ以外も話を聞いていた。
「皆さん、お持ちの筈ですよ。個人が特定できる魔道具を」
「えっ? そんな身近なの?」
調査員の子の言葉を聞いた周りの人達はざわつき始めた。
すると――
「あっ! もしかして――」
ルナがゴソゴソと胸ポケットからあるものを出した。
「パーソナルカードですか!?」
「はい、その通りです」
――パーソナルカード。
何百年も前から存在する魔道具で、これには登録された人物しか起動ができず、それに記録されるのは銀行口座情報、通院履歴、魔物討伐数など多岐にわたる。
しかし、何百年も前からあり、それを作成する魔道具も未だ健在であるが、それがどうやって個人を特定し、機能しているのかは導師ヘルガ・ゴーランですらわかっていなかった。
「その個人を特定する為に魔力波長が使用されているんです」
「「「へぇ〜」」」
パーソナルカードを見ながら、魔力波長を使用している魔道具がかなり身近だったことに感嘆する。
「もしかして、魔物の討伐数を数えてくれるのも、魔物の魔力波長を記憶していて、その魔力波長が消えたら討伐としてカウントされる仕組みなんですか?」
レンが魔物討伐のカウントを行う機能の仕組みを推察し、質問する。
「その通りです。さすがですね。ちなみに魔力波長が個々で全く違う種族は人間だけなんですよ」
「「「へぇ〜」」」
本日二回目の感嘆である。
「で、もう使われてるからレオン殿は発表していないと?」
「はい。そうなんです」
「そんな仕組みだったなんて知りませんでした。このパーソナルカードはロストテクノロジーだから改竄するなと法で決められてますから」
「調べようにも調べられなかったんだよなぁ」
ルナはレンをジト〜と見つめた。
「レン君、まさか付与を見ようとしたんですか?」
「み、見るだけだよ!! 見るだけ!!」
「見るだけでもだめですよ! 使えなくなったらどうするんですか!?」
ルナとレンのやり取りを見て、レイディアントガーデン調査隊のメンバーがクスクスと笑った。
「す、すみません。お恥ずかしい所を……」
ルナは恥ずかしそうにそういうと、調査員の少女は手を振った。
「いえ、まるでレオン様とアイリス様のようだなって思って」
「そ、そうなんですか?」
「えぇ。ただ、レオン様が魔力波長を見つけたのは7歳の頃だったそうで、大発見だと思ってたらパーソナルカードで使われていて皆知ってることなんだとガッカリされたと聞きました」
「な、7歳……」
「やっぱレンみてぇな子だな、レオン殿は。まぁ、レンは俺に似て、攻撃魔法の開発に力を入れすぎてヘルガに呆れられているがな。コイツの魔法の威力はバカみてぇにデカいからよ」
「……それって褒めてる? 貶してる?」
「……」
「なんか言ってよ!?」
またひと笑い起こした所で、一同は目的地に到着した。
「では、魔力採取に入りますので、護衛をお願いします」
「了解した。よーし、皆、班に分かれて調査開始だ! 護衛は索敵魔法を展開しろ!!」
マーリンが号令をかけると、魔法士達は索敵魔法を展開し、それぞれの調査地点に移動を開始した。
調査員達は調査地点に到着すると、地面に吸引用のノズルを向けて、魔道具を起動させる。
地面からの魔力を採取して、その魔力を調べていくのだ。
「……ん?」
調査員の少年がある場所で異変に気がついた。
「なぁ、これ見てくれよ」
「何? ……えっ!?」
少年はすぐ隣にいた少女にも、ノズルに付いているモニターを確認してもらった。
するとその少女も驚きの声を上げる。
「な! おかしいよな!?」
「えぇ! もしかしたら魔力の噴き出し口が近いのかも!!」
その地点からは、大気中の魔力波長と異なる波長が検出された。
魔力は地中に入り込んでもその波長は変わらない。
だが、そこで検出された魔力は大気中の魔力と異なっている。
これで特定出来るかもしれないと二人は興奮した。
更に吸引すると、二人は信じられない数値を目にした。
「えっ?」
「これは……魔石の波長? でも、微妙に違う……」
「なになに? どうしたの?」
二人が悩んでいると、道中、マーリン達と話をしていた少女が歩み寄ってきた。
「あっ、隊長見てよ。これ」
「どれ? ……これは、魔石に近いけど違うみたいね……まるで――」
数字を確認していき、少女はあるものに酷似していることに気がついた。
「魔物から発せられる魔力に近い?」
◆
STS-23が実施された翌日
俺は社長室で自社の次期宇宙ステーション「フリーダム」の仕様を確認していた。
名前は前世にてアメリカが作ろうとしていたステーションの名前から取った。
殆どの仕様は国際宇宙ステーションと同じだが、いい機会なので前世では実現されなかったモジュールを作ろうと思っている。
ロシアの研究モジュールと保管モジュール、科学電力プラットフォームに汎用ドッキングモジュール。
日本が建造を請け負ったセントリフュージ環境モジュール。
そして、居住モジュールにX-38乗員帰還機。
これらを取り付けることができればより研究を進められるだろう。
……まぁ、それはいいんだ。
順調にことが進んでいて心配はない。
しかし、俺は別のことで困っていた。
「……君ら、ちょっと近くない?」
「最初は恥ずかしかったですけど、なんだか意地になってきました」
「私も」
アイリスとクラリスのことである。
最近、胸を当ててきたり、食事に誘ってくることが多くなったりとしていたが、今回はそういったレベルのものではなかった。
……もはや抱きついているんだ。この二人。
今も、左にアイリス、右にクラリスと二人が腕にしがみついている。
……年頃の女の子が、はしたなくってよ。
「まぁいいや。好きにしな」
「まぁいいやって……」
「……絶対に振り向かせて見せますからね」
クラリスからは呆れた声が漏れて、アイリスは頬を膨らませている。
何を振り向かせる気かは知らないが、俺はアイリスの頬を突いて空気を抜きながら、手元の資料を見ていた。
「これって、タクシークルーのメンバー?」
「ああ、目前まで迫ってきてるからな」
ソユーズ・タクシークルー。
ソユーズは軌道上での耐用日数が200日前後の為、約半年に一回はソユーズを打ち上げなければならない。
しかし、人員輸送は主にシャトルが使用される為、今世においてソユーズは本当に救命ボート代わりに過ぎない。
なので、入れ替え作業の為だけに、ソユーズで宇宙ステーションを訪問するミッションを立てることにした。
それがタクシークルーである。
ちなみにこれは前世でも行っていて、このソユーズの座席一席を旅行用に販売していた。
シャトルが引退してからは、その席はアメリカやヨーロッパ、日本の宇宙飛行士にまわされた為、旅行者は当分いなくなった記憶がある。
「今回、タクシークルーでマリーテレーズが上がるんだっけ」
「そうそう、楽しみにしていたよ。彼女」
第一回のタクシークルーは船長にアイリーン、フライトエンジニアにパトリシアが務めて、マリーテレーズが民間旅行者だ。
最初の宇宙旅行者は身内から出したが、おいおいノアセダルの実業家や他国の富豪達にも販売しようと考えている。
「にしてもすごいわよね。15億イースよ、旅行代」
「あとはステーションに一泊するのに380万イース……10泊は最低してもらうから3800万イースね」
「いろんな海を見てきなさいってリーフェンシュタール伯爵からの御下命だったそうだよ」
宇宙を「海」と表しているところが船乗りっぽいなぁと思う。
確か、マリーテレーズのお父上は海軍の艦長だったはずだ。
「へぇ、私達もここにいなかったらお父様に送り出されてたかな?」
「う〜ん、どうだろう? お母様が止めてきそう」
アイリスとクラリスは話に花を咲かせているが、この間もずっと俺の腕は抱かれたままである。
「君らそろそろ離れない?」
「「いや!」」
「さいですか……」
もう好きにしなさいな。
「失礼します!!大変です! マス……ター……」
俺が諦めて次の資料を手に取ろうとした時だった。
ノックもされずに社長室の扉が開かれた。
そこにいたのは慌てた様子のリリーだった。
しかし、俺とゼーゲブレヒト姉妹の状況を見て言葉を失っていた。
「これは……その……お取り込み中失礼しました……」
「いや! 違っ……わなくないんだけど違うんです! 姫様!!」
「そうです!! これにはわけが――」
「い、いいのよ、アイリス、クラリス。ご、ごゆっくりしていって? その……できれば声は抑えて頂きたいなとは思うけれど」
「「しませんよ!! こんな場所では!!」」
リリーは顔を真っ赤にしながら、あらぬ方向に勘違いをしたらしく、空気を読んで退室しようとしていた。
そしてリリーに負けず劣らず、顔を真っ赤にしたアイリスとクラリスが誤解を解こうと必死に声を上げた。
人に見られるのは未だに恥ずかしいらしい。
「ところでリリー、ノックもせずに入ってくるほど慌てていたが何かあったのか?」
「リ、リー?」
「呼び捨て……ですって!?」
何を驚いてる。
部下相手に敬語をやめろと言ったのは君らだろうが。
「す、すみません。ええと……先程アケルリース、エグザニティ、ロムルツィアに派遣した調査隊から連絡がありまして――」
その次に放たれた言葉は予想もつかないものだった。
「迷いの森から……変異した魔力が検出されたそうです」
「……お前、さっき退室しようとしてたよな?」
ダメだろ、その内容を後回しにしちゃ。




