episode38 婚約披露パーティー
STS-19ミッションが開始されて9日が経過した。
修理は順調に進み、今日は6回目のEVA。
いよいよMMUの稼働実験だ。
「今頃宇宙では準備に入ってるかな」
「はい。多分、MMUのスラスターチェックをしてるんじゃないでしょうか?」
俺は今、社長室で礼服などをトランクに詰める作業をしていた。
今日はレン・グランウィード君とルナ・フォン・ボールドウィンさんの婚約披露パーティーだからだ。
アイリスも同じく呼ばれているから、こうして一緒に用意をしている。
というか、ほとんどしてもらっている状態だ。
何をもっていけばいいかなんて俺はわからんからな。
いや、社交会とかだったら大体わかるんだが、この世界での婚約披露パーティーでの服装とかよくわからん。
とにかく、今俺がわかっていることは、マリアに伝えた「あれ」を持っていくくらいだ。
「ルナさん、喜んでくれると思いますよ」
「だといいね」
持っていく機材を見て、俺とアイリスは自然と笑みが溢れた。
◆
「これからEVA準備に入るんで、ミッドデッキは少しの間男子諸君は出入り禁止です」
「はいよ」
「うぃーす」
ティナさんが準備に入ることを伝えると、男性陣は各々返答する。
それを聞き遂げると、私はティナさんとエルフリーデさんと一緒にミッドデッキに降りた。
「じゃあ、冷却下着を着ていてください。私はEMUの準備をします」
「はーい」
「お願いします」
二人が着替えを始めると、私はシャトルのエアロックに向かった。
EVA(船外活動)を行う際、あの分厚い服を着れば外に出られるというわけじゃない。
まず、冷却下着という読んで字の如く、体を冷やす為の服を着る。
この服には、体温を常に一定に保つ効果の魔法付与が施されている。
理由としては動いていると暑くなるから……という装着者の為の付与じゃなく、EMU内の環境を保つ為に施されている。
EMU内はもちろん、空気が漏れないように気密が確保されている。
宇宙空間は影では-120℃、日向は150℃程になるから、EVA中体を動かして、EMU内の温度が上がると内と外で温度差が激しくなってバイザーが曇ってしまう。
それを防ぐのが冷却下着だ。
ただ、この冷却下着は体の表面を冷やす特性上、体にピッタリ張り付くから、その……体のラインが出てしまう。
ただ、それに関しては先輩達は特に気にしていないけど、冷却下着を着る時は排泄物除去魔法付与付き下着を着た後に着る形になる。
要は一度全裸になるから、一旦ミッドデッキを立ち入り禁止にしたのだ。
「よーし、冷却下着装着完了!」
「マリアさん、お願いします」
「はい。あ、皆さんもう大丈夫ですよー!」
フライトデッキにいる男性陣に声をかけた後、二人のEMU装着の補助をしていく。
EMUは大きく分けて宇宙服アセンブリ(Space Suite Assembly: SSA)と生命維持システム(Life Support System: LSS)のふたつの部分から成っている。
まず、下半身部の宇宙服アセンブリを着て、そのあと、エアロック内の壁にある生命維持システムを装着した上半身部の宇宙服アセンブリを着る。
そのあと胴体部分をロックして、通信用のキャップを付けて、宇宙飛行士それぞれの手に合わせた特注のグローブをはめて上半身部と繋げる。
最後にヘルメットを付けたら装着完了だ。
とはいうものの、これが結構着づらくて、装着完了までかなり時間がかかる。
何せ一着120kgもあるから、地上での訓練ではしんどい思いをした。
無重力状態の今は少しマシだけど、着づらいことには変わりがない。
それに加えて、エルフリーデさんはもう一つ付けなければならないユニットがある。
有人機動ユニット「MMU」だ。
「はい、装着完了です」
「ありがとう、マリアさん」
結構大きくなったけど、これでエアロックを出ることが出来るのかな?
それくらいのこと、技術部の人達はわかって設計しているんだろうけど、心配になるくらいに大きい。
「じゃあ、プリブリーズ開始するね」
「わかりました、ティナさん」
エアロックから退出し、隔壁を閉じる。
これから作業準備が行われる。
エアロック内の空気を抜いて、EMU内を0.3気圧に落としていく。
その際に、体内の窒素濃度も下げて、酸素濃度を上げていく。
そうしないと、気圧差で窒素が血液内で膨張してしまうからだ。
窒素濃度調整は自然に下げていくと12時間以上かかってしまうそうなんだけど、それを魔道具で実施するから、大体10分前後で宇宙空間に出ることができる。
ちなみに酸素濃度を上げる理由は、実は血液内に酸素を運ぶタンパク質があるらしく、それは気圧を利用して酸素を運んでいるんだそうだ。
でも、EMU内は0.3気圧しかないから酸素を運ぶ能力が極端に落ちてしまう為、酸素濃度を上げて、酸欠を防いでいる。
私はフライトデッキに上がって、カメラを構える。
二人の勇姿を写真にバッチリ収めるのが、このミッションでの私の仕事だ。
『プリブリーズ完了。エアロック解放します』
「了解。解放を許可します」
エルフリーデさんが退出を宣言して、それに対してユルゲンさんが許可を出す。
フライトデッキ後方、ペイロードベイ側の窓からはまだ二人の姿が見えない。
「おっ! 出てきた出てきた」
エルヴィンさんが声を上げ、皆で一斉に窓を覗き込む。
まず最初にエルフリーデさんが出てきて、その後にティナさんが出てきた。
『まずはウエストテザーをしたまま動作チェックします』
『はーい』
船内に二人の会話が響く。
……ティナさん、世界初の命綱なしでの宇宙遊泳なのに、普段と全然変わらないなぁ。
だからこそ、今回の任務に任命されたんだろうとも思う。
『……うん、感覚は掴めた』
『じゃあ、いよいよ?』
テザー付きの状態で姿勢制御システムの動作と出力の確認を終えると、いよいよテザーを外してのテスト。
――その身一つで、宇宙空間を漂う世界初の試みが始まる。
『テザー、外します』
エルフリーデさんがウエストテザーを外した。
そして、手元にある二つの操縦桿を握り、左手の操縦桿を少し上に軽く持ち上げた。
背面下部から虹色の噴射煙が出るとゆっくりと、でも確実にエルフリーデさんはオービターから離れ始めた。
『わっ、わっ……わぁ!!』
恐る恐るだった手つきも、慣れてきたのかスムーズになってきた。
普段のエルフリーデさんからは想像できないほど、はしゃいでいる声が無線越しに聞こえる。
『あはは! ティナ! これ、すごいわ!!』
慣れてくると反転して、オービターの後方に進み始めた。
『ちょっと! あまり遠くに行かないでよ!』
『大丈夫よ!!』
スゥーっと飛んでいくエルフリーデさんはオービターの後方に消えた。
リーベルス望遠鏡が係留してあるから、視界が限定されているので、どこから戻ってくるのかもわからない。
『皆ー、前見て、前!』
無線からエルフリーデさんの声が聞こえた。
前、というとオービターのフロント部分のことかな?
私達はほぼ一斉にフロントガラスの方を見た。
『ヤッホー!』
そこには逆さまになって手を振っているエルフリーデさんがいた
私は答えるように小さく手を振る。
「……はしゃいでんな」
「いやぁ、でも仕方ないと思うよダスティン? この宇宙を自由に飛び回れるんだぜ? MDFSで空を飛んだ時、俺達もはしゃいだろ」
「まぁな」
はしゃいでるエルフリーデさんも珍しいけど、私もあの立場だったらいろんなところを飛び回ってるだろうな。
エルヴィンさんのいう通り、私もMDFSで初めて空を飛んだ時はエルフリーデさん並にはしゃいだもんね。
「あんなに楽しそうなエルフリーデは初めてだ」
「ですね」
ライナーさんとユルゲンさんが言葉を交わした時だった。
無線に聞き慣れた声が響いた。
『珍しくはしゃいでるな、エルフリーデ』
『楽しそうで何よりです』
声の主は、マスターと、アイリス様だった。
『マ、マスター!? えと……これは……』
『楽しんでいるところ悪いがそれは試作品だ。あまり遠くまで行くな』
『は、はい!』
『あれ? マスターって今頃飛行機の中じゃなかった?』
マスターがエルフリーデさんに少し注意した後、ティナさんが質問した。
『ああ、今航空機の中だ。ティナやエルフリーデの姿はダスティンが持ってるMTVカメラから見えている』
MTV――マギリング・テレビジョンは静止画ではなく動画を撮ることができるカメラだ。
しかも、今回はある企画の為に高性能なカメラを持ってきている。
『ハイビジョンだから、はしゃぐエルフリーデの最高の笑顔を見れたよ』
『えっ!? その……お恥ずかしいです……』
消え入りそうな声で答えるエルフリーデさんだけど、オービターから離れすぎないように自然と姿勢を制御しているからすごい。
『じゃあ、後数時間で、例のあれを始める感じですか?』
『そうだな。今日の為に、みんなには特別食を持っていってもらってるからそれを準備していてくれ』
『ETA(到着予定時刻)は2時間後ですから、間に合うように準備してね』
「「「「「はい!」」」」」
最後にアイリス様に返事をして通信は切れた。
『アルファード、こちらEV1。データは十分かしら?』
『こちらアルファード、技術部から最高との声を貰いました。船内に戻って、宴の準備をして下さい』
『EV1了解。ティナ、戻るわよ』
『……私今回何もして無くない?』
……誰も、ティナさんに答えず、それぞれ持ち場に戻っていった。
◆
陽が沈みかけ、夜の帳が下りようとしている頃。
グランウィード家の屋敷はバタバタしていた。
婚約披露パーティーの為の準備と来賓を迎える準備でただいまてんやわんやしている状態だ。
前世では考えられなかった状況だが、今世……特に王都に来てからはまさかの執事さんやメイドさんが家のことをしてくれている為、とても楽な生活を送れている。
何故使用人さん達がここで働いているのかというと、隠居生活をしていた英雄が王都に帰ってくると知ったヴォルフおじさんが、「英雄の手を煩わせるわけにはいかない」という理由で使用人さん達を派遣したんだそうだ。
父ちゃんってホントに英雄なんだなって思った出来事だった。
ちなみに屋敷は父ちゃんと母ちゃんが英雄となった20年前の魔法事故を収めた時に勲章と共に報酬として貰ったんだそう。
「ルナ? 入っていい?」
「はい。どうぞ」
慣れないタキシードに身を包み、ルナが着替えをしている部屋をノックし、入室の許可をもらう。
中に入ると、ライトグリーンのドレスに身を包んだルナがドレッサーの前に座っていた。
過度な装飾はされていないが、ルナの綺麗さや可憐さを引き立たせている。
化粧も軽めに施されていて、美しさに更に磨きをかけていた。
「ドレス、似合ってる。綺麗だよ、ルナ」
「えへへ、ありがとうございます。こんなに綺麗になれるのも、レイディアントガーデンの化粧品のお陰ですね」
そう。
レイディアントガーデンは医学知識を利用して、化粧品開発もしていて、その効果は抜群によく、貴族の夫人やお嬢様方の間では使っていない人を探す方が難しいほど重宝されている。
ルナもその例に漏れず、ファンデーションや化粧水など数多くの化粧品を愛用している。
既存の化粧品を扱っていた商会の経営を圧迫しない為か、かなり高額に設定されているが、それだけの価値があるという声を耳にしたことがある。
「……マリア、来れなくて残念だったな」
「仕方ないですよ……向こうは社会人ですから、都合をつけるのが難しいでしょうし……」
そう言いつつも寂しそうにしているルナの肩を、そっと抱くことしか、俺にはできなかった。
――
――
――
来賓達が続々とやってきた。
学園のSクラスの面々と担任、ルナの弟のクラインと、ブラウン亭のシンシアちゃんとその両親であるユイさんとマークさん、マリアの代わりにということでマリアの両親のヴィリーさんとエレンさん。
王太子のアランも出席していて、国王のヴォルフおじさんも参列しているから、周りの人達は結構緊張しているようだった。
そして、更に大物ゲストも到着した。
「お招き頂き光栄です。そして、おめでとうございます、レンさん、ルナさん」
レイディアントガーデン代表にしてアルファード領領主のレオン・アルファードさんだ。
そして、俺の命の恩人であるアイリス・フォン・ゼーゲブレヒトさんにも来てもらった。
アルファードさんは、なんか大荷物を持っているけれど……。
「おめでとうございます。すごくお綺麗ですよ、ルナさん」
「あ、ありがとうございます」
アイリスさんに褒められて照れてるルナ可愛い。
そりゃ、美人なアイリスさんから褒められたら嬉しくもなるか。
「お久しぶりです。ヴィリーさんも参加されていたのですね」
「ええ、マリアが出席できない為、代わりにと思いまして。それに私達としてもルナちゃんは幼少期から知っていましたから、お祝いしたいとも思っていましたから」
「そうですか。なら好都合です」
「好都合?」
少し離れたところで話していたヴィリーさんとアルファードさんの会話が聞こえた。
あの二人面識があったんだ。
「レン君、少し場所をもらっていいかい? この白い布をかけられる壁が欲しいんだけど」
アルファードさんは手に持っていた布を持ち上げてそう言った。
「わかりました。ええと……ここなら大丈夫だと思います」
俺が壁を指し示したところで、近づいてくる影が二つあった
父ちゃんと母ちゃんだ。
「壁にかけるのなら使用人にさせましょう。他に何かありますか?」
「ありがとうございます、導師様。あとは……これを置く台をご用意できますか?」
アルファードさんはもう一つ持っていたバックを持ち上げた。
なんだろう? あれ。
「ん? もしや、それは王国会談の際に使用していたものかい?」
「陛下、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。仰る通りでございます」
疑問に思っていたらヴォルフおじさんが声をかけてきた。
おじさんはあれの正体を知っているらしい。
「知ってるの? おじさん?」
「ああ、あれは映像を壁に映す魔道具だと思うよ」
壁に映す魔道具……プロジェクターか!?
流石レイディアントガーデンだな、そんなのも作ってるのか。
そんなことを思っていたら、運ばれてきた台にプロジェクターを置いて、アルファードさんはアイリスさんと一緒に準備を進めていた。
最後に、747の見学の時に見たスマートフォンを操作した後、それをプロジェクターに接続した。
「じゃあ、レン君、ルナさん。こちらに来て頂けますか?」
「あ、はい」
「わかりました」
俺とルナは、プロジェクターの近くまで移動した。
……一体何だろう?
「じゃあ、接続頼めるか?」
『わかりました』
アルファードさんがスマホに話しかけると、男性の声が聞こえた。
どうもどこかに通話をしているらしく、音声は小型スピーカーから聞こえた。
周りの人達も興味を惹かれたのか、壁にかけた映像に注目していた。
今はまだ接続中の文字だけが出ているけれど……。
そして、しばらくしたら――
『マスター、すみません。繋がってはいるのですが、声をかけても反応がありません』
「ん? 通信障害か?」
なんだろう?
何かトラブルかな?
『いえ、聞こえているはずなんですが……話が盛り上がっているからか、問い掛けに気付いてくれません』
「……いいや。このまま繋げて」
『わかりました』
その言葉の後に、映し出された映像は、信じられない光景だった。
『――だから、EMUバックとかがある方にカメラ向けるのはどうなの? ってことよ』
『つっても今回のミッションは荷物多いからこれが限界だって』
『……エアロックはもういっぱいですしね』
映し出されたのは、白く、少し手狭そうな部屋で、いくつもある茶色の大きな巾着バックを背にして、俺達と同い年くらいの男の人と女の人と談笑しているマリアが映った。
でも、マリアの後ろにいる女の人は上下逆さまで、バックも不自然に壁に付いていた。
……浮いている?
「えっ? ……えっ?」
「マリア? そこは……どこ?」
俺が困惑の声をあげていると、ルナがマリアに問いかけていた。
すると――
『――ん? 今、ルナの声が聞こえた気がしました』
『えっ? ……あっ、繋がってるわ』
『ちょ!? じゃあ、私映ってるじゃん!!』
慌てた様子で、逆さまに映っていた女の人はフレームアウトしていった。
『えっと……ルナ、レン、聞こえる?』
「うん……聞こえるし、見えてるよ」
『そっか。こっちもそっちの映像が届いてるよ』
こっちの映像も届いてるのか。
スマホについてるカメラからかな?
いや、そんなことよりだ。
もしかしてマリアって――
「マリア、もしかして宇宙にいる……とかじゃないよな? ははは」
戯けてそう言ってみたが、マリアはすんなりと答えた。
『うん、ここはスペースシャトルオービター「エンデバー」の中だよ。もっとスマートに始めたかったんだけど……』
「話を聞かんお前らが悪い」
『ごもっともです』
『ぐうの音もでない……』
レオンさんが注意すると、映像の外からさっきまでマリアと話をしていた男性と女性の声が聞こえる。
……宇宙にいる? マリアが?
ってことは――
「マリアが来れない理由って宇宙に行くからだったの!?」
『えへへ、うん!』
ルナの質問にはにかみながらマリアは答えた。
そうだったのか。
てっきり航空魔法師の訓練とかで忙しいからかと――
ん? ちょっと待って
もしかして――
「母ちゃんやクラインは知ってたんじゃ?」
「ああ」
「知っていましたよ」
「私もです」
母ちゃんとクライン、それにシンシアちゃんは知っていたと答えた。
「なんで教えてくれなかったんだよ!?」
「マリアから口止めされてたからねぇ」
「同じくです……」
口止め?
マリアが?
『宇宙に行ってきたよって驚かせようって思ってたの。でも、まさか任務期間と婚約披露パーティーが被るなんて思ってなかったわよ』
……マリアってこういうところがあったわ。
何というか、サプライズが大好きなんだ。
いい意味でも、悪い意味でも。
「そうだったんだ……でも、すごいねマリア。宇宙飛行士なんて」
『頑張ったよ〜。なった後も訓練とかで忙しくて……あっ! 忘れてた!』
マリアは何かを思い出した様子で、カメラに近づいてきた。
ふわっと浮いて進む様は、前世で見たことがある宇宙での動き方だ。
そのままマリアはカメラの上方を通っていく。
『ティナさん、お願いします』
『はいよ〜』
ティナさんと呼ばれた女の人がカメラに映る。
カチャカチャと何かを外そうとしている音が聞こえて、カメラが回転し、後ろに回ったマリアが再度映る。
『今、私がいる場所はミッドデッキって言って、食事をしたり、実験をしたり、寝たりする場所よ。そして上がフライトデッキ』
マリアが上を指すとそこには上に通じる穴があった。
ハシゴとかがないから気づかなかった。
マリアは慣れた身のこなしで、スゥーっと上に上がっていく。
それに続くようにカメラも上に移動していった。
そっか、無重力だからハシゴはいらないんだ。
『今、皆が見ているのは、オービターの前方。左の席に座っているのが船長のユルゲン・フォン・ヴァイスさん、右がパイロットのライナー・フォン・へーニングさん、真ん中にいるのがミッションスペシャリストのエルヴィン・エンダーさんと、エルフリーデ・フォン・ゲールティエスさん』
カメラを向けられているとわかったからか、マリアの紹介が終わると紹介された4人は手を振ってくれた。
『で、このフライトデッキには10枚のガラスが張られていて、前方に6枚、後方に2枚、上部に2枚あって――』
前を向いていたカメラが上を向き始める。
窓の外が映った瞬間、明るすぎるのか、一瞬白飛びしたが、徐々に露出が調整されて、映し出されたのは――
『今の船体の姿勢では、上の窓からはエクセルが見えるのよ』
俺達の住んでいる惑星、エクセルだった。
映し出された瞬間、会場にいた人達から驚きと感嘆の声が上がった。
「すげぇ……」
「綺麗……」
『実物はもっと綺麗だよ』
再びマリアがフレームインして、エクセルを背に、こう言った。
『レン、ルナ、婚約おめでとう』
俺とルナは、最高の婚約祝いをもらった。




