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episode36 26人目の宇宙飛行士

本日投稿日だったことを失念してました。

お待ちしていた方がいるかどうかわかりませんが、お待たせして申し訳ございませんでした。

 


 ――STS-19が設定されてから3ヶ月。


 打ち上げまで1ヶ月を切った。


 そして、現在STS-18が実施されており、今回打ち上げられたのはエグザニティ共和国が開発した実験室「クニューベル」だ。


 レイディアントガーデンで、大型艦に名字を入れていることを知ったチームエグザニティが「じゃあ、俺達も実験室に大統領の名字を付けよう!」となったらしい。


 諸元は前世でのISSモジュール「デスティニー」と同じだ。


 長さ:約8.5m

 直径:約4.3m

 重量:約14t

 収容ラック数:23個(内12個が実験用ラック)


 本当はもう一つラックスペースがあるが、そこには窓が取り付けられていて、エクセルを見ることができる。


 STS-17が始まる前に第一次長期滞在も始まっていて、デニス・フォン・ニューエン、ラウラ・フォン・マルティン、ラルフ・ライストナーの3名が宇宙に上がっている。



 ほぼ月一ペースでシャトル打ち上げを行っているが、一つも不具合がなく、順調に運用できている。



 やっぱり魔法さまさまである。



 さて、もう一つISSと同型のステーションを建設することになり、各国の同意も得て、モジュールを建造できるようになったが、問題はそれをどこに建設するかだ。


 同じ軌道傾斜角に投入するのは事故になりやすいだろうから傾斜角と高度を変えて投入するのが無難か。


 しかし、傾斜角を大きく取ると打ち上げ重量に制限がかかってしまうから考えものだ。



 そこは技術部や研究部の皆と話し合っていこう。



 これができたら、前世では成し遂げられなかった計画時のISSの姿を再現できるかもしれない。


 そう考えるとちょっとワクワクするな。



「レオンさん、準備ができたみたいですよ」


「わかった」



 アイリスが呼びにきてくれたので、俺は腰を上げた。


 ユイさんに頼んでいた、あることを確認する為だ。



 実は今、アケルリース王国にアイリスと一緒に来ており、宇宙食を何十品目も作って頂いた後、帰国したユイさんとマークさんに会うため、ブラウン亭にやってきている。



「どうもユイさん。今回も無理を言ってしまい申し訳ありません」


「いえいえ、レオンさん。お待ちしておりました」



 ユイさんに促されて、案内されたテーブルに置かれていたものを見て、俺とアイリスは感嘆の声を上げてしまう。



「おお……すげぇ」


「すごい……これ、宇宙食仕様なんですか?」


「はい。あとは最終点検をして頂ければ宇宙食認定されます」



 アイリスも眼を輝かせてそれを見ている。


 そりゃそうだ。


 これを宇宙で食べられるっていうんだから、今後のフライトが楽しみになるだろう。



 っていうよりユイさんはすごいな。


 すぐに宇宙食に対応してきた。


 日本では料理好きだったってことだが、料理が好きってだけでここまでのものを作れるだろうか?。



 ……まぁ、俺も似たようなものか。


 前世で宇宙開発をしていたわけじゃないけどここまでこれたしな。



「これならあの子も気に入ってくれますよ」


「そうですか。ありがとうございます、ユイさん」


「いえいえ。喜んでくれるといいですね」



 俺達は改めてお礼を言って、ブラウン亭を後にした。


 こうして、依頼した件は片付いた。


 だが、俺にはもう一件訪問しなければならない場所がある。



 車を走らせて数分後、衆人にちらちらと見られながら、とある「屋敷」の前にたどり着いた。


 豪邸と形容して差し支えないお屋敷だ。


 ……アポを取っているが入っていいのか?


 えぇい! ビビるな! 今までも何回かこういう場所に入ったことがあるだろう!! 俺!!



「いらっしゃいませ。何か御用でしょうか?」


「私はレオン・アルファードと申します。こちらはアイリス・フォン・ゼーゲブレヒト」


「アイリス・フォン・ゼーゲブレヒトです」


「本日、御当主と面会を約束して頂き、罷り越して参りました」


「聞き及んでおります。ご案内致しますので、どうぞ中へ」



 門の近くで立っていた執事さんに要件を伝えると、中に案内してくれた。


 俺の提案を快く受け取ってくれるだろうか……。


 事情が事情だから、難しいかもしれない。


 そんな俺の心配を察してか、アイリスが腕にそっと手を触れてきた。



「大丈夫です。きっと受け入れてくれますよ」


「……そうだといいな」



 なるようにしかならないな。


 俺は意を決して、案内された応接間に入った。










 ◆










 あっという間にやってきた、打ち上げ前日。


 2ヶ月前に、病気や細菌を持ち込まないように寮からアストロノーツビルの宿泊施設に移り、それからは訓練施設とアストロノーツビルの行き帰りのみの生活となった。


 今日はそんな生活の中、打ち上げ前に家族と面会できる日。


 発射場に向かう前のクルーウォークアウトでも話すことはできるけど、その時はほんの数分だけ。


 この時間が、色々言葉をかけることができる唯一の時間だ。


 柵で隔てられてはいるけれど、先輩方はご家族と談笑している。



 私はそれを少し離れたところから見ていた。


 だって家族がここに来ることなんてできないからね。


 単身この国にやってきて、且つ、家族と喧嘩別れしているし、手紙だって一通も送っていない。


 もしかしたら、旅の道中で死んでいると思っているかも……。



 そう考えたら私ってなんて親不孝者なんだろう。


 ふと、後ろを向き、魔法ライトで照らされたエンデバーを眺める。


 PAD-39Aに設置されているその船は、ライトに照らされていて、船体が白色なのも相まって、私には輝いて見えた。



「……皆に見て欲しかったな」



 なんだか、先輩方の面会を見て、ホームシックになったのかな。


 そんなことを考えている時だった。



「マリア!!」



 久しく、聴いていなかった。


 でも、聴き慣れた声が、私の耳に届いた。



 驚いて、私は振り返った。



 こんなところにいるはずない。


 いるはずのない声が聴こえた気がして私は振り返った。



 そして、そこにいたのは――



「お母様……お父様……お姉様……」



 私の家族が……そこにいた。



 なんで?



 いるはずがないのに、なんでここにいるの?



 驚きすぎて固まっている私に、お姉様が声をかけてきた。



「全く……突然、家を出て行く〜って言ってホントに出て行ってさ。……挙句、あんなすごいものに乗って宇宙に行くなんてね」



 呆れたような、でも安心したような口調で語るお姉様。



「な、なんで……?」



 やっと出せた声。


 自分でも驚くくらい、声は震えていた。



「実はね。貴女がこのレイディアントガーデンで働いていることは、貴女が入社した時から知っていたんですよ」


「えっ? ……えぇ!?」



 お母様からとんでもない言葉が出てきた。


 知ってた!?


 私がここに辿り着けたことを!?



「貴女が航空魔法士になったことも、航空機の操縦士になったことも……全部知っていました。去年あったスタンピードに参加したこともね」



 ホントに全部知ってた。



「な……えっ? ……ど、どうやって?」


「どうやって知ったかって? ふふっ、遠くの国とやり取りができる人なんて限られているでしょう?」



 遠くの国とやり取りができる人……。



 もしかして――



「レオン・アルファードさんよ。彼が手紙を送ってくれていたの」


「マスターが……」



 やっぱり。


 でも、なんでわざわざ?


 そう思っていたら、お父様が声をかけて来てくれた。



「お嬢様は無事、ノアセダル王国に辿り着いておりますっていう手紙が最初だったよ。それはそれはこまめに手紙を送ってくれたよ」


「そう……だったんだ……」



 なんとか出した声。



 あれだけ、家族に見返すんだ! なんて言っていたけれど、いざ目の前に家族がいると、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。



「大事な娘の門出だからと、レオンさん直々に会いにきてくれてね。ここまで連れてきてくれたんだ」



 国を発つ前に聞いた、荒げた声じゃない、優しいお父様の声。



「今までどんなことをしたの? どんなことをしに行くの?」



 興味津々に聞いてくるお姉様の声。



「手紙じゃなく、貴女の言葉で聞かせて? 貴女がこれまで経験したことを」



 穏やかで、私を包み込んでくれるお母様の声。



「帰ったら聞かせておくれ。君の……これまでの冒険譚を」



 もう……限界だった。



「はいぃ……」



 泣いている顔を見られたくなくて、顔を覆いながら、答えた。


 震えてて、笑ってしまうような声が出た。


 我慢しているけれど、時折嗚咽が出てしまう。



 見返してやる……なんて思いは、もう、なくなっていた。



 ――


 ――


 ――



 ……穴があったら入りたい。


 面会から一夜明けて朝食を取った後、スターマンスーツに着替える為に部屋に移動し、今は気密(リーク)チェック中なんだけど……。



「……ニヤニヤとあまり見ないでくれませんか?」


「ああ、ごめんね。あまりにも感動的な再会だったから」



 船長のユルゲンさんが申し訳なさそうにそういうと、テンション高めにティナさんが話しかけてきた。



「私ちょっともらい泣きしちゃったもん! よかったねぇ、マリアちゃん!!」



 椅子に固定されている今だからよかったけど、きっと気密(リーク)チェック前とかだったら抱きしめられてたと思う。



「それに……()()、見てもらえるからよかったじゃないか」


「そうですね。無理言って付けて貰いましたから」



 私は肩に付けてもらったそれにそっと触れた。



気密(リーク)チェック終了です。移動開始しましょう」



 サポートチームの男子からチェック終了を告げられた。



 いよいよ、STS-19が始まる。











 ◆










 ――クルーウォークアウト



 アストロノーツビルから発射場に移動するためにアストロバンに乗り込む宇宙飛行士達を見送る式典。


 その出口付近には、レイディアントガーデンの広報や、宇宙飛行士の家族達が陣取っていた。



「すごいカメラの数……」



 マリアの姉、シャルロッテはアケルリース王国では一部の伝聞社(この世界の新聞社)しか持っていないカメラの数に驚いていた。



「カメラはうちの製品ですから、たくさん用意できるんですよ」



 マリアの家族……フィーメル家の横にいるのは、レイディアントガーデン代表にして領主のレオン・アルファードがいた。



 アストロノーツビルの出口が開かれる。


 そろそろ宇宙飛行士達が降りてくる合図だ。



「あの出口から、宇宙に行った人間は……現在まで、25人しかいません」



 宇宙飛行士の姿を捉えようと広報達が殺気立つ中、穏やかにレオンはマリアの家族に語り出した。



「何千、何万と生きている人の中で、たったの25人しか宇宙に行っていません。だからこそ、彼らは『選ばれし者』として、今や世界トップとなったレイディアントガーデンにおいても、特別な存在です」



 一人、二人とサポートチームの人が出口から出てくる。


 その後方から、複数の人影が見えてきた。



「どうぞご覧ください。ご家族が、お嬢様が夢を叶えたその時を」



 船長のユルゲンを筆頭に出口から出てきたSTS-19クルー。


 そして、一番最後に登場したのは――



「26人目の宇宙飛行士となったその瞬間を」



 左にはアケルリース王国の国旗を、右にはフィーメル家の家紋を刺繍したスターマンスーツに身を包んだマリアだった。



「あれは……アケルリースの国旗……」


「フィーメルの家紋まで……」



 ヴィリーは感極まった様子で、エレンは家紋を認めた瞬間、口元を押さえて涙を流した。



「あれはマリアさんからのリクエストに答えて刺繍いたしました。「私はアケルリース王国代表として宇宙に行きたい」と」



 それを聞いたシャルロッテは、我慢できずに叫んだ。



「マリアぁー!! 最っ高にカッコいいよぉー!!」


「マリア!! いってらっしゃい!!」



 それに釣られるように、エレンも叫ぶ。


 そして――



「マリア!! お前は私の……自慢の娘だ!!」



 ヴィリー達の声を聞き、瞳を潤ませながらも、マリアはサムズアップで答えた。



「いってきます!!」



 今、夢を叶える船旅が始まる。









 ◆










 アストロバンに乗って数分。


 あっという間にPAD-39Aに辿り着いた。



「ふぁ……」



 発射台に据えられたエンデバーを下から見ることは初めてじゃないけれど……やっぱり大きい。


 VAB(ロケット組み立て棟)で見るのと全然印象が違う。


 青空の下にあるとこんなに印象が違うんだ……。



「お花摘みは大丈夫ですか? ここが最後のチャンスですよ」



 サポートチームの人にトイレを促された。


 確かにこれから3時間固定されるから、今のうちに行っておかないと浄化機能が魔法付与された下着にしなければならなくなる。


 それは少し……抵抗がある。



「行きましょうマリアさん」


「はい!」



 エルフリーデさんに誘われて、トイレに向かう。



 その後、用を済ませたら打ち上げ棟に登る前に記念写真を撮る。


 撮り終えて、打ち上げ棟に登り、搭乗口である通称「ホワイトルーム」に向かう。


 その際、ボーディングブリッジのような通路を通っていくと、ホワイトルーム手前で窓からSRBが見えた。



「おお……」



 これほど間近で見たことがなかったから、ついマジマジと見てしまう。



「つい見てしまうよな、こんなに近くで見る機会なんて早々ないからな」



 SRBを見ていたら、ダスティンさんが声をかけてきた。



「はい。これも再利用されていると思うとすごいですよね」


「だよな。これもマスターの設計だっていうんだから、あの人の底が知れねぇよ」



 他愛のない会話。


 本当にこれから旅行にでも行くような会話のお陰で、緊張が和らいだ。


 でも、旅に出ることには変わりないけど、これは仕事なんだ。


 緩ませ過ぎないようにしないと!



「次、ミッドデッキに搭乗する方、どうぞ」


「はい」



 エルヴィンさんが返事をして、搭乗を開始する。


 既にフライトデッキの搭乗は済んだようで、私達の番になっていた。



 今回は最大乗員の為、フライトデッキに4人、ミッドデッキに3人が搭乗する。


 ミッドデッキには奥からエルヴィンさん、ダスティンさん、私の順番に座る。



「はい、次。ダスティンさん」


「よろしく」



 慣れた動作で機内に入って行くダスティンさん。


 搭乗口は狭い上に、空気を送っているダクトを機内に通しているから、さらに狭くなっている。



「はい、次。マリアちゃん」


「は、はい! よろしくお願いします!!」



 機体は真上を向いているから、頭から入ると手をかけられる場所がないから、足先から入って行く。


 機内に入ると、全てが横になっている不思議な光景が広がっていた。



 まぁ、オービターが真上を向いているから当たり前なんだけど……。



「ここがマリアちゃんの席だよ。さぁ、座って座って!」


「よろしくお願いします」



 何回か顔を合わせたことがある女の子が、シート固定の担当だった。


 シートに腰掛け、足掛の金具にブーツの踵にある窪みをはめ込み、足先を固定する。


 そして、身体を固定する為のシートベルトをする。



「フンッ!!」


「グフッ!?」



 結構キツい!!


 これくらい締めないと揺れに耐えられないってことなのかな。



「ケーブル接続……チェック。固定完了だよ」


「ありがとうございました」



 これで、全クルーがシートに着座した。


 最後に「楽しんできてね」と声をかけて、サポートチームは外に出て行った。


 ドアがクローズされて、機内には7人しかいなくなる。



「これから3時間ですか……」


「上は少しは忙しいだろうけど、こっちは結構暇だよ」


「やるとしたら緊急脱出手順の確認くらいかな?」



 私の呟きにダスティンさんとエルヴィンさんが答えてくれた。


 目の前には、緊急時の脱出手順の書かれた紙が貼られていた。


 打ち上げ時に何かあった場合や打ち上げ後に異常があった場合も書かれている。


 いざ、その状況になった時に慌てないように手順を確認しておこう。



 T-2時間37分



 私の旅が、後少しで始まる。

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