episode34 ミッション・アサイン
コロナワクチンの副作用ってすごいんですね
現在、フライトギアというフライトシミュレーターでスペースシャトル操作を勉強中です
年が明けて3月に入った。
モジュール開発は順調に進み、1月にサービスモジュール「ズヴェズダ」を打ち上げ、長期滞在が可能となった。
それと2月にミールに滞在していたクラリス、クララ、ソフィアの3人も帰還し、既にリハビリも終えていた。
もちろん、STS-14クルーも既に帰還している為、久々に、宇宙飛行士全員が地上にいる状態となっている。
良い機会なので、宇宙飛行士全員を呼び、ミーティングを実施した。
さて、ここで問題なのは、ミールの行く末についてだ。
もはや修理にタスクを割きすぎて、実験などのタスクが消化できない状況になったのはクラリス達とのデブリーフィングで皆の知る所となった。
「で、ここで皆に聞きたいのはミールを残すか、それとも破棄するか……どっちがいい?」
「……私としては残して頂きたいですわ。ミールはレイディアントガーデン所有のステーションで、実験機器を100%使用できますから」
「そうですね……ISSでは各国で開発した実験室の一部を間借りして実験することになりますから」
ユリアとエルフリーデの言う通り、ISSは各国の実験モジュールの打ち上げ費用の代わりに、実験区画の使用権をもらう形を取った為、ISSでも実験は可能なのだが、欲を言えば、ステーションの実験室を全て使って魔法や魔力の研究、新素材開発の研究などを行いたいのが本音だ。
そこにクラリスとソフィアが反論する。
「でも、本当に故障ばかりで嫌になるわよ? まずは修理の為に長期滞在しないといけないわ」
「それに、矢継ぎ早にいろんな箇所が壊れるので、修理が終わった頃には全く新しいステーションになりそうです」
テセウスの船みたいなもんだな。
だったら、新しいステーションを上げた方がいいと言ってるんだろう。
「う〜ん……ミールとISSで実験することを想定していたから、ミールが無くなると力不足になって……」
「ミールを直そうとすると、分解点検並のことをしなければならない……」
「かといって、新しいステーションを作ろうにも、今は技術部はISSのモジュール開発に付きっきりだ。新規開発なんてとても無理だぞ」
ユルゲンとマルクスの二人が述べた問題を解決しようと思えば、新しいステーションを建造すればいい。
だが、クリスの言う通り、今はISS開発でいっぱいいっぱいだ。
とても、新規開発をする余裕はない。
「新人達は何か意見はあるか? 思ったことを言ってくれていいぞ」
俺は第三期宇宙飛行士の6人に話を振った。
いろんな部署で働いていた彼らは別の視点を持っているかもしれない。
「ふと、思ったのですが……」
おずおずと手を上げて、声を出したのはトビアスだった。
「新しいステーションを作りたいと言うのならあるじゃないですか」
「? ISSのことか? だが、ISSは間借りしての研究になるから力不足で――」
「いえ、そうではなくてですね」
トビアスの言い分に答えていたが、ISSのことを言っているわけではないらしい。
じゃあ、新しいステーションがあるって……どこにだ?
「新規開発をするんじゃなくて、今開発しているモジュールをもう一台作って、組み立てたらいいんじゃないでしょうか?」
「「「「「!?」」」」」
そうか!
前世では莫大な予算のかかるステーション計画だった為に世界各国にモジュール開発をさせて建造していたが、今世においては俺が純粋に各国の技術力向上を目的にISS建造を持ちかけたんだ。
金に関しては特に困っていない。
問題は新規開発ができないことだった。
ならば、今各国と共同開発中のモジュールの設計図を貰えばいい。
打ち上げ費用免除の代わりに実験区画を貰う予定だったが、それを設計図を貰う形にしよう!
そうすれば新規開発もしなくて済む!!
「いい案だな。それなら存分に研究もできる」
「それにISSは国際協力で建造するから、拡張しようと思ったら各国にお伺いを立てないといけないが、自社保有のステーションなら拡張も思いのままだしな」
「いいと思いますよ。その方が私やユリアも都合が良さそうですし」
「ええ。あの実験室を全て使えるとか最高ですわ!」
俺はトビアスの意見に賛同すると、クリス、アイリス、ユリアも賛同の声を上げ、他の皆も特に反対はないようだった。
「よし、じゃあ新型ステーションが実用段階に移ったらミールステーションは破棄する方向で行こう。次の議題だが、リーベルス宇宙望遠鏡のことだが、先の太陽フレアの影響で故障した箇所が多々ある状態だ」
「えっ、大丈夫なんですか?」
「ああ、システム再起動でなんとか稼働しているよ」
ユルゲンが心配そうに質問してきたが、それに答えると胸を撫で下ろした。
「だが、かろうじて動いている状態なのはよろしくない。よって、リーベルス宇宙望遠鏡の修理ミッションを実施して貰う」
俺がそう言うと、第二期までのメンバーは全員予想していたのか、コクリと頷いて答えてくれた。
「ミッション内容は元々開発が進んでいた新型分光計への換装と魔力光パネルの交換が主になる。決行は4ヶ月後を予定している。では、STS-19クルーを発表する」
◆
とんとん拍子で話が進む会議を私、マリアはただ呆然と聞いていた。
いや、ステーションの放棄か維持をどうすべきかなんて何も思いつかなかったけど、トビアスは咄嗟に、軽い言い方で言えば「もう一機ISSを作ればいいじゃないですか。設計図もあるんだし」と言って、それが採用された。
整備部出身のトビアスだからか、設計図さえあればなんでも作れるってことなのかな?
すごいなぁなんて思いながら、今度はリーベルス宇宙望遠鏡の修理を行うメンバーの発表に移った。
STS-15からSTS-18まではISS建設ミッションの予定だったはず。
その間に、確か長期滞在が開始される予定だ。
「まずは船長だが、ユルゲンに頼もうと思う。頼めるか?」
「はい! 任せてください!!」
マスターがクルーメンバーを読み上げて行く。
今回の船長はユルゲンさんか。
「次にパイロットはライナーに頼みたい。第二期宇宙飛行士から初のパイロットだ。期待しているぞ」
「お任せ下さい」
恭しく礼をして答えたライナーさん。
確か船長に任命されるのはパイロット経験のあることが必須だったよね?
そっか、パイロットになったってことは船長になる資格を持つってことだから、もし次に船長として任命されたらアークプリースト隊から初めて船長が生まれることになるのか。
「続いてミッションスペシャリスト1、2。エルフリーデとティナの二人だ。今回は交換作業だからEVAが主になるから二人はバディとして作業に当たって欲しい」
「「わかりました!」」
おぉ、息ピッタリ。
確か、お二人も元アークプリースト隊だったんだよね。
お互いの癖もよく知ってるのかな?
「ミッションスペシャリスト3、4。エルヴィンとダスティンに頼みたい。二人もEVA要員だ」
「あれ? EVA組が二組っすか?」
「ああ、今回予定しているEVAの予定が6回あるからな」
「6回!? なるほど、だから二組なんですね」
「そう言うこと」
「あ、あのぉ……」
エルヴィンさんの質問にマスターが答えるとダスティンさんは納得したようだったけど、そこにおずおずとマリーナが手を上げた。
「なんだ? マリーナ?」
「何故6回の船外活動が予定されているとEVA要員が二組になる理由になるんでしょうか?」
確かに。
EVA要員を増やす理由がよくわからない。
第三期宇宙飛行士組は私含めて揃って疑問符を浮かべていた。
「ああ、理由は単純だよ。一組だけだと、疲れるからさ」
「えっ? 疲れるから……ですか?」
マスターの答えにエレアが反応した。
「そう、EVAって結構体力勝負でね。6回も連続でEVAをしようものなら、後半はバテバテになるよ。なぁ、パトリシアにアイリーン?」
「ええ……もうやりたくないです……」
「右に同じ」
……パトリシアさん、経験あるのかな?
すごい遠い目をしてる。
「というわけで、二組で交互にEVAをしてもらうのさ」
「なるほど……でも、それだと、誰がリヒターアームを操作するんですか? ライナーさんかユルゲンさんですか?」
エレアが続いて質問する。
「それだと緊急時にオービターの操縦をする人が一人だけになるから現実的ではないね。さて、では最後のクルーメンバーを発表しようか」
そっか、まだ最後までメンバーを言っていなかったのか。
この流れだと最後のメンバーがリヒターアームを操作するんだろう。
やっぱりここは最初にリヒターアームを動かしたクララさんかな?
「マリア。君を任命したい」
……?
「……えっ? 私ですか!?」
私は思わず立ち上がった。
「ここにマリアという名前の子は君しかいない」
「そうですよね……えっ?」
私が……ミッションスペシャリストに選ばれた?
私……宇宙に行けるの?
「ふふっ、姉様と同じリアクションだ」
「えっ!? そうだった!?」
「あんな感じだったよ。まぁ、初任命の時は皆も殆ど同じだったけどね」
クラリスさんとアイリスさん、マスターの会話でようやく現実に戻れた。
「それで、行けそうかい? マリア」
マスターが私をじっと見つめてくる。
そんなの……答えは決まってる。
「行けます! 行かせてください!!」
「よく言った。君のアーム操作テクニックはピカイチだと聞いている。頼んだよ」
「はい!!」
「よし。では、会議は以上。解散」
私への激励を終えて、会議は幕を閉じた。
まだ実感が湧かない……。
私……とうとう宇宙に行けるんだ。
「やったね、マリア!」
「任命おめでとう!」
「やはり最初に行くのはフィーメルさんだったな」
マリーナとエレアが祝福してくれた。
ラインハルトは、以前にも言っていた第三期の中から先に宇宙に行くのは私だという予想が当たったことになる。
「マリアさん、ミッション任命おめでとう」
「よろしくな!」
「初飛行でリーベルス宇宙望遠鏡のミッションとか大抜擢だよ。よろしくね」
「宇宙飛行士認定からほぼ半年でミッション任命とか、アイリス様やエルフリーデより早いぞ。自信持っていい」
STS-19に任命されたエルフリーデさん、エルヴィンさん、ティナさん、ダスティンさんから声をかけてもらった。
後ろには船長のユルゲンさんとパイロットのライナーさんもいる。
「はい! よろしくお願いします!!」
「ミッションの為にこれからチームとして訓練をして行くけれど、新人だからって遠慮せずに意見してね」
「特にリヒターアーム操作に長けているメンバーは今回はマリアさんだけだ。遠慮なく発言してくれ」
「わかりました!」
ユルゲンさんとライナーさんからも声をかけられた。
お陰で、多少だけど、任命されたという実感が湧いた。
4ヶ月後、私は宇宙に上がる。
◆
「へぇ、山岳地帯にロケット発射場を作ると……大胆だな」
宇宙飛行士との会議を終えて、資料の整理をしていた時だった。
アケルリースが山岳地帯にロケット発射場を作ることを決定していた。
なんでも、もうすでに工事が始まり、一月後には稼働できる状態になるらしい。
これも、レイディアントガーデンで生産している重機を各国でライセンス生産できるようにしたお陰だろう。
魔法の力で、山を切り開くこともならすことも容易なのだから、魔法さまさまである。
「ですが、山岳地帯に発射場を作って大丈夫なんですか?」
アイリスが心配そうに聞いてきたが、それに関しては問題ない。
「立地を見る限り、高度10kmの地点では海に面しているし、低高度でも東側は森だから人に被害は出ないだろうから大丈夫だよ」
それにしても、内之浦宇宙空間観測所みたいなところに建てるんだな。
しかも、固体燃料ロケットを開発してるんだから、まるで日本の宇宙開発を見ているようだわ。
「このロケット開発のお陰で、以前改修をお勧めした飛空艇の計器類も完成したそうですよ」
「へぇ、グランウィード君達頑張ったんだね」
第二回の査察で、GOが出たのは知っていたが、結構時間がかかったな。
彼なら、ジャイロ効果ぐらいなら知ってると思ってたのに。
「新しいロケットの開発も進んでいるようですし、アケルリースはどんどん進歩しますね」
「ロケット開発を主導しているのはボールドウィン君だったか。グランウィード君の恋人の弟君」
クライン・フォン・ボールドウィン。
もう驚きもしないが、クリス達のように、ここにきてからものすごい成長速度だ。
元々、空を目指していたっていうのも大きいかもしれないが、開発したロケットをどんどん大きくして行く姿はまるで糸川英夫博士みたいだな。
空への情熱が半端じゃない。
「彼らなら、ロケット開発は順調に進んでいくでしょう。ですが……宇宙実験室に関しては……」
「ああ……だいぶ行き詰まってるな」
外枠に関しては問題ないのだが、中身である生命維持システムの開発に四苦八苦しているようだ。
まぁ、この世界でソフトウェアの概念を持ち出すのも意地の悪い話だが、乗組員の生命に関わるんだ。
妥協はできない。
「自国開発をしたいと言ってるんだ。頑張ってもらわないとな」
話を切り上げて、俺は次の書類に手を伸ばした。
◆
――アケルリース用研究開発室
そこに二人、頭を抱えている人物がいた。
導師ヘルガ・ゴーランとその弟子のキャサリン・エストラーダである。
「……導師様。何もいい案が浮かびません」
「私もだよ」
頭を抱えるほどの問題、それは件の生命維持システムのことである。
改善命令が下されてから3ヶ月。
未だ光明は見えずにいた。
「生命維持システム自体は出来てるのにバックアップが作れないなんて……」
「ヒトが宇宙で活動するにはそれだけの技術が必要ってことだねぇ……」
バックアップは二重に取り、且つそれぞれの魔法付与を変えること。
これがネックだった。
別の魔法を付与すれば別の魔法が発動する。
当たり前のことだが、それをレオンは別々の魔法を付与し、それぞれ同じ効果を発動するようにさせよと言っているのだ。
どうすればいいかなど、わかるはずもない。
こうなったら奥の手を使おうと、ヘルガは立ち上がった。
「ちょっと……知恵を借りようかねぇ」
「えっ? 誰にです?」
「……うちのバカ息子にだよ」
――
――
――
『えっ!? 母ちゃん、開発に行き詰まってんの!? ……珍しいこともあるんだね』
「あんたもつい最近まで飛行艇の計器開発に行き詰まってたじゃないか」
ヘルガは自分の息子であるレンと連絡を取っていた。
ノアセダルでは一般家庭にもマジックフォンが浸透しているが、アケルリースも一部の家庭は設置している。
マジックフォンを設置している家は、殆どが貴族か、大商店の社長や会頭であるが、賢者マーリン・グランウィードの家にも設置されていた。
「で、なんかいい案はないかと思ってね。あんたに縋るほどに行き詰まってるよ」
『ひどい言い草だなぁ。まぁ、こっちはクラインが帰って来てくれたおかげで計器開発が出来たから余裕があるけど』
「そうかい。じゃあ、本題だがね――」
ヘルガは今直面している問題の一部始終を説明した。
『……そんなに高度なことが求められるんだね。有人宇宙施設って』
「ホントだよ。それでだ。なんか知恵はないかい?」
『ん〜……諦めてレイディアントガーデンから買ったら?』
「論外だよ」
何の為に自国開発に拘ってると思っているのかと、ヘルガは内心でぼやいた。
『えっ〜……別々の付与で同じ効果……あっ』
「ん? なんか思いついたかい?」
またなんか後ろ向きなことを言うんじゃないかとヘルガは構えたが、返ってきた言葉は決して後ろ向きではなかった。
『例えばさ。母ちゃんが作った給湯魔道具あるじゃん?』
「ああ、私が若い頃に作った奴ね」
『あれにどんな付与した?』
「そりゃあ、熱湯の付与をしたよ」
何を当たり前のことをと思ったヘルガだが、レンは話を続けた。
『要するに母ちゃんは熱湯を直接生み出す魔法をイメージして付与したわけじゃん?』
「ああ、温泉の源泉をイメージして付与したよ」
『じゃあ、火の魔法と水の魔法を掛け合わせて、給湯の魔道具って作れる?』
「それぞれの魔法制御イメージが難しいかもしれないけれど出来なくはないね。それがどう――」
ヘルガはそこまで言って、気がついた。
レンが言いたいこと、それは――
『一つの魔法付与じゃなくて、複数の魔法を掛け合わせて一つの効果を生み出せたら、それは別々の魔法付与だけど同じ効果になるんじゃない?』
そう。
先程の例がそれに当たる。
従来の給湯魔道具に付与されている魔法発動イメージは「温泉」だが、火と水の魔法を付与し、水を温めるような機構にすれば同じく給湯魔道具が完成する。
後者の方は部品数が多くなるかもしれないが問題はそこじゃない。
その方法なら、今回の件をクリア出来るかもしれない!!
「あんた……やっぱり天才だねぇ!!」
『いやぁほめられて嬉しいけど、この考え方は計器開発で培ったんだ』
「えっ?」
『クラインが教えてくれたんだよ。ロケットの制御方法ってどうやってるんだって聞いたらこの方法だったんだ』
「……」
じゃあ、制御部開発をしていたキャサリンは知っていたのでは?
という疑問が浮かび、後日、本人に聞くと――
「ホントだぁぁぁぁぁ!?」
という叫び声が研究室に木霊した。




