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episode31 新たな宇宙食への道

連日投稿5回目 次回は9/7 9時更新予定

 


『そうですか……マリアさんが……』



 STS-13に参加しているメンバーに第三期宇宙飛行士が決定したことを伝えると、アイリスが感慨深く言葉を漏らした。



「そういえば、アイリスは以前、マリアちゃんから宇宙飛行士になるにはどうすればいいか質問を受けてたんだよな」


『はい。だから、こうして夢を叶えたことを聞いて、感慨に耽ってしまいました。……駆け足で夢を叶えていってるので、少し怖さもありますが』



 アイリスの言う通り、マリアの習熟度は異常だ。


 本人の努力もさることながら、一度経験したことは絶対に忘れず、旅客機やMDFSの機体特性を一度掴むとレイディアントナイツのベテランと混色がなくなる。



 特輸隊隊長曰く、「タッチアンドゴー訓練を2日で完熟したとんでもない新人」



 これほどにまで化けるとは思っていなかった。



『では、これから資格取得の為に訓練する所ですか』


「そうだな。まぁ、ミッションスペシャリストの資格しか取れないんだけど」


『あぁ……マリアちゃんならともかく、他の子達はちょっと辛いかもしれないですね』



 ユルゲンの質問に答えると、ダスティンが他に選ばれた子達を心配した。


 ダスティンの心配は尤もだ。


 何故なら――



「確かに、他の子達はパイロットや航空魔法士出身じゃないからな」



 そう、マリア以外はそれぞれ整備部門にいたり、自然科学や薬学を学んでいたり研究したりといった「研究魔法士」だ。


 整備部出身のトビアスは、まだ空力などの理解が深いだろうが、他は研究畑の人間ばかりだ。


 別にシャトルの操縦をしなければならないと言うわけではないが、万が一の時は操縦桿を握らなければならない時もくる。


 そのため、宇宙飛行士は全員、小型飛行機の操縦技能を習得してもらっている。



 あのアイリスも小型機なら乗れるからな。



 といっても、飛ばして降ろすだけなんだが。



『まぁ、私でも乗れましたから大丈夫ですよ』


『アイリス様は元々、マスターから航空力学を教わっていたじゃないですか。別格ですよ、別格』


『そ、そうかしら……』



 ティナがアイリスの謙遜にツッコミを入れた。


 ぶっちゃけ俺もそう思う。


 けど、新人の子達もすぐに小型機程度は乗りこなしそうな気がする。


 ……すごいもん、この世界の人達。



『ところで、パトリシアさんはさっきから静かですね』


『こんな時、真っ先に大騒ぎしそうなのにな』



 ユルゲンとニルスの二人が船長(コマンダー)の方を見る。


 そこには腕を組んだパトリシアが深刻そうな顔をしていた。



『皆……私は新人の子達が心配だよ』


『どうしたんですか? 深刻そうに……』



 やっと口を開いたパトリシアだが、ティナの言う様に、何が心配なのだろうか?



新人(ルーキー)が宇宙に上がった時に、食事のクオリティの低さに絶望したりしないかなぁ!?』


『『『『『……』』』』』



 いつものパトリシアだった。



『ちょ!? 皆なんでそんな可哀想な目で見るの!?』


『いや……そんな深刻なことか?』


『深刻でしょう!? 宇宙に上がれたのにご飯が味気なかったら士気に関わるよ!!』



 ダスティンが呆れた声を洩らしているが、まぁ、パトリシアの言い分も尤もだ。


 だがそれは、俺が実施している宇宙開発の中で一番難航しているところだが――



『もっと美味しい宇宙食が出来るはずだよ!!』


「ああ、今度それを強化しようと思っているよ」


『ほら!! マスターもそう言って……えっ!?』


『出来るんですか!? 新しい宇宙食が!!』


『まぁ……でも、難航していませんでしたか? シュリンプカクテル以降、開発が進んでいませんでしたよね?』



 パトリシアの言葉に賛同するように声を上げるとティナとアイリスが驚きの声を上げる。


 アイリスは俺の惨状を知ってるから尚更だろうな。



「ちょっと、目処ができたんだよ」



 ――


 ――


 ――



 ――遡ること、数時間前。



「おめでとうございます! マリアさん!」



 宇宙飛行士紀章授与が終わった矢先に、一人の少女がマリアに近づいてきた。


 ……確かこの子は――



「シンシア・ブラウンさん……でしたか?」


「えっ!? あ、はい! そうです!!」



 俺が声をかけると、緊張したように声を上擦らせて答えてくれた。


 ……なんかここ最近こんな反応が多い。



「あぁ、あまり緊張しないで、楽にしていいよ。同年代なんだから」


「あ、はい……」



 言ってはみたが、そう簡単に緊張が解けるものでもない。


 こればかりは慣れてもらうしかないか。



「ところで、君はマリアと知り合いなんだね?」


「はい。マリアさんはうちの常連なんです」


「常連?」



 何の?


 実家がなんか店でも経営してるのかな。



「シンシアの実家は定食屋なんです」


「アケルリース王都では有名なんですよ!」



 えへんと胸を張るシンシア。


 そうか、定食屋か。



「そうなんだ。ちなみにどんなものを提供しているんだい?」


「いっぱいありますよ! パスタにソテー……人気なのはハンバーグやグラタンですね」


「へぇ……そうな――なんだと?」



 パスタと魚のソテーなんかは普通にノアセダルでもある。


 しかし、ハンバーグやグラタンは見たことがない。



「知らなくて当然ですよ。ハンバーグもグラタンもブラウン亭が発祥ですから」


「ほ、他には?」



 ぶっちゃけそれを作った人も転生者なんだろう!!


 まぁ、この際それはどうでもいい!



 もしかしたらこれで……俺のぶち当たっている壁を抜けるかも知れない。



「そうですねぇ……あとは――」



 シンシアが次に発した言葉は――



「カレーですね」


「ッシャァァァァァ!!」



 俺を歓喜させた。



「シンシアちゃん!」


「は、はい!?」



 俺の雄叫びに驚き、さらに追い討ちをかけるように肩を掴まれて萎縮してしまっているが、なりふり構っていられない。


 チャンスは掴める時に掴むべきだ!



「両親に合わせてくれ!! 料理のことで相談したいことがあるんだ!!」


「えっ……えぇぇぇぇぇ!?」



 ――


 ――


 ――



「ということで、来週会ってくるわ」


『『『『『わぁぁ!!』』』』』



 俺が一連のことを話すと皆も歓喜の声を上げた。



『やった!! やったよ!!』


『正直言って、メニューを一巡して飽きてました!!』



 パトリシアも歓喜の声を上げ、ティナの意見に他の皆が頷き賛同している。


 ……そんなに思うほど、飽きがきてたんだな。


 ほんとごめん。










 ◆










 ――一週間後 アケルリース王国 王都



「こ、ここここちらです!」


「……ありがとう」


「楽しみですわね!!」



 シンシアに案内され、一つの建屋に辿り着く。


 看板には、ブラウン亭の文字とナイフとフォークが交差した意匠が施されている。


 本来なら、宇宙飛行士を連れてきて、味を見てもらうのがいいのだが、それは作ってくれることが決まったらの話である。


 まぁ、少しは宇宙飛行士側の意見が必要な為、今回はユリアを連れてきた。


 それよりも、シンシアが緊張しすぎていることが気がかりだった。



「シンシアちゃん、楽にしていいんだよ?」


「だ、大丈夫です!!」


「……」



 難しいことかもしれんが、少しは緊張を解いてほしい。


 俺もなんか緊張するじゃないか。



「……並んでるね。流石、王都の人気店……と言ったところかな?」


「打診の後すぐにマジホをして、予約は取ってありますから、すぐに入れますよ」


「それはありがたい」


「皆、残念ですわね。今回ほど役得な任務はありませんわよ」



 前回の通信後、帰還したSTS-12とSTS-13だが、現在リハビリ中の為、同行していない。


 他のメンバーを連れてくることもできたが今回は交渉も含んでいる為、大勢を連れてくるのは忍びないのでユリアのみ、同行を許した。


 ユリアは美食家でもあるからな。


 いい意見が聞けるだろう。



「予約客です! 通してください!!」


「ん? おぉ!! シンシアちゃんじゃないか!!」


「ノアセダルに行ったんじゃなかったか?」


「帰ってくるの早いぞぉ〜!!」


「帰ってきたんじゃないですぅ〜。これも仕事なんですぅ〜」



 店内で酒を呑んでいた常連客と思われる方々から声をかけられている。


 顔見知りだからか、シンシアも気安くあしらっている。



「なんだぁ、後ろにいるカップルは?」


「カッ!?」


「結婚祝いか何かか?」


「ケッ!?」



 常連客の方々が色々勘違いしているようだ。


 ユリアも、心外なのか声を洩している。



「わ、私達ってそういうふうに見えるのでしょうか?」



 頬を赤らめ、上目遣いで質問してくるユリア。



「酒に酔ってる人の言うこと真に受けない方がいいぞ」


「……」


「ちょッ!?おまっ!?無言で殴るな!!」



 殴るといっても、軽く小突く程度だが、脇腹はやめて欲しい。


 くすぐったいから。



「よく見りゃ、レイディアントガーデンの紋章を付けてんじゃねぇか」


「なんだぁ、憧れてんのか。坊主達」



 お客さんが絡んできた。


 というより、レイディアントガーデンの社章を知ってるのか。


 意外だな、他国じゃマイナーなものだと思われてると思ってた。



「いいかぁ坊主と嬢ちゃん。レイディアントガーデンはなぁ、優秀な魔法士しか行けないだぞぉ」


「ちょっと!? おじさん!!」



 絡んできたお客さんを止めようとシンシアが飛び出した。



「ここにいるシンシアちゃんみてぇに優秀じゃねぇとノアセダルには行けねぇんだぜ!」


「紋章のレプリカ付けて満足してたらダメだぞ!」



 そうか、ここアケルリースでも、レイディアントガーデンにそんな印象を持っているのか。


 ……成長したなぁ、うちも。



「おじさん!! 本人!! 本人だから!!」


「本人〜? なんのだよ?」


「レイディアントガーデンの創設者、レオン・アルファード様ご本人なの!!」


「えぇ〜? シンシアちゃん、そりゃ冗談きついぜ。そんな雲の上の人がここにくるわけ――」


「……あっ」



 シンシアが注意するも、信じられなかったようだが、その横にいたお連れさんが、新聞だろうか?それと俺を見比べて声を洩した。



「……おい、ここ、ここ」


「ん〜? ……んッ!?」



 さっきから絡んできていたお客さんにも、お連れさんがその紙面を見せた。


 すると……なんかお客さんの顔が青ざめた。


 なんで!?



「……えっ? ほ……本物?」


「だからさっきから言ってるじゃないですか!?」



 お客さんの質問を肯定するシンシア。


 お客さんの方は、一気に酔いが覚めたらしい。



「じゃ、じゃあ隣にいるのは……?」


「現役宇宙飛行士のユリア・フォン・クラウス様!! 研究魔法士として宇宙実験棟を作った人だよ!」


「あ、は……初めまして」



 しんと静まり返った店内。


 ……なんで?


 来ちゃいけなかったか?



「ブラウン亭へようこそお越しくださいました。アルファード様、クラウス様」



 静まり返った店内に終止符を打ったのは、店の奥からやってきた女性だった。



「お母さん!」


「シンシア、お二人を予約席へお通しして」


「わかった! こちらです、レオン様、ユリア様」


「あ、ああ。ありがとう」



 なんで青ざめたのか知らんが……気にしないでおこう。










 ◆










「おい! 怒らせたらどうするつもりだったんだよ!」


「す、すまん……でもよ、あんな若いなんて思ってなかったし……」


「それはそうだけどさ、新英雄様も学生なんだから、天才が他国にいてもおかしくないだろ」


「いやその理屈はおかしい……」


「この前の大規模スタンピードを介入から僅か一刻程で終息させた組織のトップだぞ……もし怒らせたりしたら――」


「いやぁ、一気に酔いが覚めたわ」










 ◆










 ……なんかジロジロ見られてる。


 格好が良くなかったかな?


 普通に正装として俺はスーツで、ユリアは宇宙飛行士専用制服だ。


 ……何も問題ないと思うんだけどな。



「窮屈な店で申し訳ございません」


「いえ、いい雰囲気のお店ですね。落ち着きます」


「そう言って頂けて嬉しいです」



 シンシアの母親がおしぼりを持って来てくれた。


 それを受け取り、手を拭く。


 程よく蒸している為、温かい。



「……?」


「どうした?ユリア」


「えっと……これは何ですの?」


「おしぼりだけど?」


「おしぼり?」



 ユリアが巻かれたおしぼりを手に首を傾げている。


 何か引っかかるものがあるのか?



 ……あっ!?



「そうか。おしぼりを知らんのか」


「これは……手を拭くだけでいいんですの?」


「そうそう」



 おしぼりは日本独自の文化だ。


 この世界に来てから、店などに行って出されなくても、一切気にしていなかったけど、こうして出されると普通に使ってしまった。


 未だに俺は日本人らしい。



「なるほど、これならいちいち席を立って手を洗いに行く手間を省けますわね」


「このおしぼりはうちでしかしていないんですよ。でも、レオン様はよくご存知でしたね、うちでしかしていないのに」


「えっ!?」


「あまりに自然と使われていたので、違和感が全くなかったのですが……一見様は大体ユリア様のような反応になりますよ」


「え……えっと……」



 どうする!?


 ここでしかやっていないサービスなら知ってたなんて言えないし!!


 そんなふうに色々考えていたが――



「シンシアさん。レオンさんならなにか知っていてもおかしくないので、気にしなくていいのよ」


「そ、そうなんですね。……すごいなぁ」



 ユリアが一蹴した。


 ……なんだよ。知っててもおかしくないって。



「ふふっ……申し遅れました。私はシンシアの母のユイ・タカセ・ブラウンと申します」


「……あっ、これはご丁寧に。レオン・アルファードと申します」


「ユリア・フォン・クラウスですわ」



 ん? この人、今……なんて?


 ユイ? タカセ?



「珍しい名前ですね。出身はどちらですか?」


「それが……私は「迷い人」でして、出身は異世界なんです」


「ま、迷い人ですか!? 失礼いたしました。浅慮でしたわ」


「いえ、お気になさらず」



 ユリアの質問のおかげで謎が解けた。



「迷い人」



 それは高魔力停滞地域の「迷いの森」から時折現れる人のことを指す。


 過去に数人現れており、その人達は全員異世界からやってきたと言ったと言われている。


 この世界の高等学院レベルの知識を持っている人が大半だった為、迷い人の人達は職に困らず、生活に不自由がなかったそうだ。



 そしてその迷い人が、今、目の前にいる。



「この国にはいつから?」


「20年ほど前ですね。私が18の時にこの世界に来ましたから」



 20年前……って!? この人38歳!?


 見た目がすごく若く見えてたから20代だと思ってた。



「ところで、お腹空きませんか? 何をお持ちいたしましょうか?」


「私はもう決めてますわ」


「そうか奇遇だな。俺もだ」


「「カレー!」」


「かしこまりました。それでは失礼いたします」



 ――


 ――


 ――



「ん〜美味しい♪ 香辛料が効いていて、食欲がそそられますわ」


「ああ、これは行列もできる筈だ」



 ユリアは運ばれてきたカレーを一口すると、その美味しさに頬を押さえた。


 カレーの種類は不定期で変わるようで、今回はバターチキンカレーだった。


 スパイスの香りと程よい辛味で、食が進む。



「……にしても、流石、よく食べますわね」


「そうか?」



 カレー以外にも、ハンバーグやグラタンも頼み、それらも美味だった。


 ……味音痴だからどれだけ美味いとかは表現できないんだけど。



「食事はお楽しみ頂けましたでしょうか?」



 食事もひと段落し、食後のお茶を飲んでいたら、コック服を着た男性が声をかけてきてくれた。



「申し遅れました。私はマーク・ブラウンと申します。シンシアの父です」


「これはご丁寧に。私はレオン・アルファードと申します」


「レイディアントガーデン宇宙飛行士、ユリア・フォン・クラウスですわ」



 温厚そうな方だが、シェフというには少しが体がいい気がする。



「夫は元々魔物ハンターで、私がこの世界に落ちた時に助けてくれたんですよ」


「まぁ! では、そこから仲を深めていったんですね!」



 ユリアは、ユイさんの話を聞くと、恋バナに反応したのか、目を輝かせていた。



「ええ。元々妻は料理が得意でして……胃袋を掴まれてしまいました」


「えっ? この料理はマークさんが作ったのではないのですか?」


「私は調理専門ですね。料理の研究と開発は妻が行っています」


「そうなんですね」



 ユリアの質問の回答から察するに、マークさんは副料理長(スーシェフ)でユイさんが料理長(シェフ)ってことか。


 であれば、今回の依頼は、ユイさんに頼むことになるな。



「ユイさん、マークさん。お嬢様からお聞きしていると思いますが、お二人にご依頼したい案件があり、今回訪問させていただきました」


「……えっ?」


「……シンシア? 私達な〜んにも聞いていないんだけど?」



 マークさんとユイさんがキョトンとしたが、ユイさんの言葉で、その意味がわかった。


 シンシア言ってねぇのかよ!!


 頼みたいことがあることくらいは伝えていると思ってたわ。



「ご、ごめん。でも、ただでさえ有名人を招くわけだから、これ以上緊張しないようにっていう子供心で……てへッ♪」


「シンシアぁ〜!!」


「ごめん!! お母さんごめんって!?」



 シンシアの頭をグリグリと拳骨で挟んでいるユイさん。


 本気で怒っているわけではないのだろう。


 微笑ましい光景だった。



「失礼しました。それで……依頼というのは?」


「えぇ……お二人に、我が社の宇宙飛行士達の為の宇宙食を作って頂きたいのです」



 ここから、宇宙食イノベーションが始まる。

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