episode3 王妃にあった。大変なことになった
さて、このノアセダル王国はリラウレア大陸の最東端に位置する国である。
大陸の端すべてを治めている為、かなりの国土を持っているが、大国と言われるほど発展はしていない。
その最大の障害は隣国との交流を阻むように聳え立つエシクン山脈がある為だ。
その高さはまさかのエベレスト級の8000mクラスの山々で形成されている。
一番低くても4500mもあるのだから超えるのだけでも一苦労……と一言で済ませるのも憚れる。
おかげで交易を行うにもかなりのコストが掛かる。
船を使うという手があるが、大国であるアケルリース王国の港は南側にあり。
そこの海は東から西に向かって潮流が速く、加えて風が穏やかすぎて帆船では進むことが難しい海域となっている。
他国へ行く分には問題ないが、帰ってこれない事態が発生したこともあるという。
だが、生活するには申し分なく、山あり海ありという土地であり、土は肥沃で作物もよく育つ。
だから、特に交易せずとも何とかなっている為、そこまで必死に他国と交流はしていない。
だがその影響で、魔法技術は西側の国に大きく遅れている為、国の最重要課題となっている。
……もう現実逃避はやめようか。
俺は今、ゼーゲブレヒト家の馬車で南下し、王都へ向かっていた。
……これ、アイリスさんとクラリスさんの家の馬車だそうだ。
――そう、この二人、侯爵家の娘だったのだ。
言えよ!! そういうことは!!
どおりで王妃陛下と交流があるはずだよ!!
しかもよく一緒に店に来ていたクリス君はファルケンシュタイン家――公爵家で宰相の息子ということだった。
うすうす思っていたけどやっぱお前主人公じゃねぇか!!
で、俺の暮らしていた森はゼーゲブレヒト家の領地だったそうで、クリス君、アイリスさんとクラリスさんはゼーゲブレヒト領内にある学校に通っているそうだ。
なぜ、クリス君が彼女たちの領地の学校に通っているのかと言われると……家同士が懇意にしているそうだ。
……要するに最終的にはどちらかと婚約させるつもりなんだろう。
ははっ、勝ち組だよ……クリス君は勝ち組だ。
クリス君……君がナンバーワンだ。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「気分悪い?」
「いえ、いろいろと情報が多すぎて混乱しているだけです」
アイリスさんとクラリスさんが体調を気遣ってくれたが、馬車の揺れで気分が悪くなることはなかった。
というより……馬車って初めて乗ったがこんなに揺れるんだ。
まぁ、サスペンションなしで板バネで走ってるのだから当たり前か。
「すみません。家名を出すと畏まれると思いまして……」
「同い年の人から畏まれるのは嫌だからね」
「なるほど。今までの無礼をお許しください」
「それが嫌だって言ってるの!!」
でも、ウィンドウショッピングをされた際は嫌な顔をしてしまったと思う。
そんなの無礼だろう。貴族に対して。
「っていうか、あんたにいろいろ聞きたかったの! 空を飛んでたことや、強力な風を生む魔道具……そして、遠距離通話のできる魔道具のことも!!」
「そうですね。私も聞きたかったです」
「あぁ、単純なことですよ。空を飛びたかったからです」
「いやいや!? それで飛べたら苦労しないでしょ!?」
「そうですよ! そう思って過去の魔法使いたちも飛行魔法の開発に着手したけど悉く失敗したんですよ!!」
そりゃそうだ。
「で、どうやってあれ飛んでるの? やっぱ風魔法?」
「風魔法では飛べないってわかってるでしょう? クラリス。なにか工夫をしているのですか?」
「あぁ、あれにはですね――」
俺は反重力魔法と風魔法を使って飛んでいることと、飛ぶ際に必要な計器類の話をした。
反重力に関しては重力の概念を説明した後に本題に入ったからかなり時間が掛かった。
「……ちょっとあんたの頭はどうなってんのよ」
「物にはそれぞれ質量という重さを持っていて、互いが互いを引っ張りあっている……斬新な考えですね」
「万有引力……その理論を使って反重力魔法を構築……言葉だけなら鼻で笑っているところだけど、しっかりと数式と、実際に見せられたら真実と捉えるしかないでしょ」
「あの時着ていた服全体に反重力膜を精製して、その膜の厚さで上昇と下降、前後左右の移動を可能にして、速度を出すために風魔法を使用する……なるほど、今までは浮いていられる術がなかったから失敗してたんですね」
やっぱこの子達すごいわ。
8歳でこんなのを理解できるとか訳が分からん。
それとも、この世界の成人って15歳だから結構学力を詰め込むのかな?
加えて彼女らは侯爵家だ。
家庭教師なんかも付いているのかもしれない。
まぁ、だから頭がいいってわけじゃないだろう。
これは彼女たちの才能だ。
「じゃあ、あの風魔法を起こす魔道具は?」
「あれも空を飛ぶためですよ」
「えっ? でも風魔法じゃ空を飛べないんじゃ……」
そうだよな。
さっきまで空を飛べないのは浮いていられる術がなかったからだって言ってたのに風で空を飛ぶよって言ってんだから矛盾してるよな。
しかし――
「それは、「人が空を飛ぼうとしたら」という言葉が前につきます。質問ですが、この世で空を飛ぶ生き物といえば?」
「鳥でしょ?当り前じゃない」
「じゃあ、鳥はどうやって飛んでいますか?」
「それは……えぇと……翼を使って、パタパタって!」
アイリスさんが手ぶりを使ってかわいらしく説明してきた。
あら、かわいい。
ちょっと微笑ましい。
「そうですね、パタパタっと飛びますね」
「あぅぅ……」
自分でも幼稚な説明をしてしまったと思ったのだろう。
赤面して下を向いてしまった。
「パタパタと翼を動かして……鳥は何をして空を飛ぼうとしているのでしょうか?」
「う~ん……風?」
「で、でももしかしたらそれ以外に何があるのかも! 羽に何か秘密があるとか!」
「あぁ、そっか。羽に反重力魔法があるとかかもしれな――」
「そうですね、鳥は風を使って飛んでますね」
「風かよ!!」
「だまし問題じゃなかったんですか!?」
だまし問題ってなんだ。
「えっ? でも風で空は飛べな――あっ!」
「クラリス? なにかわかったの?」
「翼! 翼に秘密があるんじゃない?」
おぉ!
気づいたか!!
この世界は魔法技術が発展しすぎていて、物質や物理の研究はあまりされておらず、魔法の研究に力を注いでいる。
したがって、空を飛ぼうとか火を出そうとかの化学的、物理的な力をすべて魔法で実行しようとしてしまう。
目に見えないものにばかり目を向けすぎてしまい、目に見えるものを軽視してしまう。
魔法文化の弊害だ。
そんな世界で生きる彼女が翼に目を向けたのは驚きだった。
「なぜそう思いました?」
「えっ? 人間にはなくて鳥にあるものを考えたらそれかな?って思っただけ。原理なんてわかんないよ」
「なるほど。ですが、正解です。」
「えっ、翼に秘密があるんですか? 鳥も魔法が使えるんですか?」
「魔法が使えるのって魔物だけじゃないの? しかも身体強化魔法しか使えないんじゃ……」
「……まず魔法から離れようか」
俺は翼の形状と揚力の概念を説明した。
「流れに対して垂直に働く力……でも、その理論だとかなりの速さを出さないといけないんじゃ――あぁ!!」
「あの魔道具で速度を稼ぐんですね!」
「そうです。最初は反重力魔法で何とかしようとしたのですが……」
「上がるのがゆっくり過ぎるんだよね?」
「でも、もうレオンさんは空を飛ぶ技術を持ってますよね? なんでその……じぇっとえんじん?っていうのが必要なんですか?」
そりゃそうだ。
自分だけが空を飛ぶ魔法を持っているのなら、翼に揚力を与えるジェットエンジンなどなくとも飛べる。
しかし、これは俺だけが飛ぶためのものではない。
「私が作ろうとしているのは、いわば空を飛ぶ船なんです」
「そ、空を飛ぶ……」
「船……」
二人とも目が点になっている。
まぁいきなり荒唐無稽だよな。
「それを作って何をするんです?」
「いろんな人や物を運ぶことができれば、あのエシクン山脈を越えて、西方の国と交易ができると思いますし、それに……」
「それに? ほかに何かあるんですか?」
「……これは俺の夢のための第一歩なんです」
「夢の第一歩……って、空を飛ぶことが終着点じゃないの!?」
「これが第一歩って……それ以上がわかりません」
そうだよな。
空を飛べたら上々だよな。
しかしそれだけじゃダメなんだ。
初めて、この話を他人にすることになるな。
「私はあの空のさらに先……宇宙に行きたいんです」
「……うちゅう?」
「うちゅうって……なんです?」
「……」
そもそもそこからかっ!!
◆
「あっ、王都が見えてきましたよ」
馬車で2日半。
アイリスさんの声で外を見る。
そこには大きな城壁とその中に聳え立つ城が見えた
あれがノアセダル王国王城か……
「すげぇ……」
「ふふん! そうでしょう!!この国で一番大きな建造物よ!!」
クラリスさんが自慢げにそう言っているが、俺が驚いたのはそこじゃない。
目の前にゲームや漫画でしか見たことがない街が広がっていることに感動したのだ。
いつも稼ぐために出向いていた街も感動したが、王都はさすが首都だけはある。
「あんなに大きな街は初めてです。……というよりも私はゼーゲブレヒト領から出たことがないだけなんですが」
「……そっか。謁見は明日だから今日は街を散策しよ? いろいろ案内するよ?」
「えぇ、私も同行します」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
今世初めての旅行だから、俺もテンション上がってるみたいだ。
無事、王都に入り、馬車を降りた俺たちはある人物のもとへ向かった。
そう、この世界の主人公(勝手に決定)のクリス・フォン・ファルケンシュタインも一緒に散策するためだ。
俺が美少女二人と歩けるわけねぇだろ!!
二人と歩いてたら只の下男に思われるわ!!
――クリス君が増えても一緒だわ。
「おーい!」
遠くで呼ぶ声がする。
そこには目的のクリス君がいた。
――となりに美少女を連れて。
「お久しぶりです。クリスさん……いえクリス様」
「やめてくれよ。今まで通りでいいって。それより、クラリスがレオンなら病気を治せるかも……なんていってたが、ほんとに治してしまうとはな」
「クリス。私にご紹介していただけますでしょうか?」
と、クリス君の隣にいる美少女が。
「あぁ、すまない。レオン、紹介するよ。彼女はユリア・フォン・クラウス。俺の幼馴染だ。」
「ユリア・フォン・クラウスです。お初にお目にかかりますわ、レオン・アルファード様」
優雅にカーテシーで挨拶してくれるユリアさん。
……クラウス家といえば。
公爵家じゃねぇか!!
とんでもねぇ身分の人を気軽にご紹介するんじゃないよ!!
「これはご丁寧に。レオン・アルファードと申します。公爵家のご令嬢に拝謁でき、恐悦至極にございます」
こちらもボウアンドスクレープで答えたが、あっているだろうか?
「……えっ? あっ、いえ、こちらこそ。王妃陛下をお救いした方とお話できて光栄ですわ」
最初、ちょっと戸惑ったな。
やっぱり駄目だったのだろうか?
慣れないことはするもんじゃないな。
「じゃあ、軽く街を周ってみようか」
クリス君の言葉で、散策がスタートした。
◆
「ねぇ、アイリス」
「どうしたの? ユリア」
私は前を進むレオンさんを視線で指し。
アイリスに質問した。
「彼、クリスから聞いたのだけれど、学校に行っていないのよね?」
「えぇそうよ。生計を立てるために自分で魔道具を作って販売しているの」
「……平民なのよね?」
「ええ、うちの領民よ」
そこまで聞いて、改めてアイリスに聞いた。
「あなたが貴族に対する挨拶を教えたんですの? かなり堂に入っていたけれど」
「……そういえば。かなり自然に挨拶してたわね」
この反応から察するに教えていない!?
「えっ? 教えていないんですの!?」
「えぇ、教えていないけれど、知っていてもおかしくはない……と思ってしまうわ。なにせ、彼は自分でいろんなことを学んでいく人だから……領にある図書館に休みの日は入り浸っているみたいだし」
「独学……そういえば彼のご両親はどこに? ここに来ているのでしょう?」
「それが……もうすでに亡くなっているそうよ」
「な!? それじゃほんとに独学ってこと!? 誰に聞くでもなく、本を読んで知識を得たってこと!?」
「それ……だけなのかな? 知識を得るだけではなく、ご自身で研究も行っているようよ。先日は空を飛んでいましたし」
「そ、空?――空ぁ!?」
今まで幾人も挑戦して、百年もの間成しえていない偉業を成し遂げたというの!?
アイリスを疑うつもりはないが、仮にそれが真実だとすると。
空を飛ぶ技術を習得できるほどの知識と、魔法技術。
加えて不治の病を治して見せた薬学知識。
もしかしたら医療技術や知識も持っているかもしれない。
それに学問だけでなく、貴族社会の挨拶すらも知っていた。
そもそも私の家、クラウス家の爵位を言っていないにも関わらず家名だけで公爵とわかっていた。
普通、学問を修めることは多いが、貴族社会などの知識にまで手を伸ばすことは少ない。
平民から見れば、貴族の知識などなくても問題ないからだ。
魔法学、薬学、付与魔法学……そして貴族社会の知識。
とんでもない知識量と知識欲である。
「……彼、面白いですわね」
「えっ? ま、まさかユリア……」
アイリスを見ると不安そうな顔をしていた。
……なるほど。
「大丈夫ですわ。彼を取ろうだなんて思っていません」
「取、取る!? な、なにを言って……わ、私は別に彼のことなんて……」
「あら? 私は彼を領地に引き抜こうなんて思っていないといっただけですわよ?」
「へっ?……ちょっとユリア!!」
「あはは!」
でも、面白いと思っていることは確か。
彼はなにか……もっと大きなことを成し遂げるかもしれない。
◆
――翌日。
昨日、一通りの礼儀作法をゼーゲブレヒト家の執事さんに教えていただき、謁見の時を迎えた。
……大丈夫だろうか? 昨日も、ほんの数十分レクチャーを受けただけで、ゼーゲブレヒト家の当主様は大丈夫と言ってくれたが……不安しかない
ちなみに服装もゼーゲブレヒト家が用意してくれた。
「お待たせいたしました。どうぞこちらへ」
「は、はい!」
時間が来てしまった。
昨日ユリアさんに挨拶した時もきょとんとされたしなぁ。
ほんとに大丈夫だろうか。
案内されてきたのは謁見の間。
わぁすごい、映画やアニメで見た王様とかがこの先に居そうな扉だぁ。
――マジでいるんだよなぁ。
「レオン・アルファードをお連れしました」
『入れ』
「はっ」
ドアを開けられて、部屋の全貌が見えた。
正面の玉座には国王陛下と王妃陛下が座っていた。
よかった。玉座に座れるほどには快復しているらしい。
「お初にお目にかかります、陛下。本日は召喚いただき光栄です」
前へ進み、片膝をついて挨拶する。
こ、これでいいよね? 合ってるよね?
「私も会えてうれしいよ、レオン・アルファード君。其方のおかげで、妻は命を繋ぎ止めた。君には感謝の念に絶えん」
「はっ! ありがたきお言葉、恐縮でございます!」
ほんとに恐縮するから!
これくらいで帰らせてくれないか!!
緊張で吐きそうなんだが!!
「レオン・アルファード。顔を上げてくれませんか?」
そう声をかけたのは王妃陛下だった。
……えっ? この場合どうすればいいの?
従うべき?
……えぇい! 上げろと言ってるんだから上げよう!
「はっ」
下を向けていた顔を上げた。
目の前には国王陛下と王妃陛下。
どちらも……もんのすごい美形。
こんなん絶対人気でるわって確信するぐらいのダンディと美女
「やっと会えましたね。私の命の恩人、レオン・アルファード。直接、お礼を言いたいと思い数か月、やっと叶えることができました」
……大げさすぎない?
まぁ、結核って現代でも軽視はできない病気だけれど……
薬で何とかなる病気だからな。
「いえ、当然のことをしたまでです。恐れながら、礼ならば、下賤の輩である私を見初めてくれたゼーゲブレヒト家にこそ相応しいと存じます」
「私は間違いなく、あなたがいなければ命を落としていました。ですから、私からの礼を受け取っていただければうれしいのだけれど」
「……そこまで仰られるとお断りできませんね」
王族からの礼とか、マジ吐きそう。
恐れ多すぎて。
「では、レオン・アルファード」
「はっ」
国王陛下から声を掛けられた。
その礼ってやつを述べてくれるのだろうか。
「其方には東沿岸部の土地と5億イースを与える。そこで、魔道具開発や製薬をするなど好きにすればいい」
「はっ! ありがたき幸……せ?」
今なんてった?
土地と……5億?
「えぇぇぇぇ!? ちょ!ちょっと待ってください!! おかしいですよ!!」
「不満かね? だが、我々が自由に与えられるものはそう多くなくてね。これで我慢してくれないか?」
「違う!! そうじゃない!! 逆!! 与えすぎぃ!! たかが薬を渡しただけですよ!? 土地と5億なんて大金……どう考えても――」
「おかしくありませんわ」
驚きすぎて、素に戻ってしまった。
そして、その抗議の声を上げている俺の声を咎めることなく遮ったのは王妃陛下だった。
「あなたにとっては薬を渡しただけでしょう。しかしその薬で私は命を繋ぎ止めることが出来ました。
死を待つだけの状態だった私が、こうして自らの足でここに座れることがどれほど幸せか……」
今の幸せを噛み締めるように、胸に手を当ててそういう陛下からは。
本当に感謝しているんだという思いが伝わってきた。
「これは私たちの感謝のしるし。受け取ってくださいますか?」
そう言われて断れるほど……俺は心臓が強くなかった。
◆
謁見が終わり、アイリスさんとクラリスさんのお父さんであるクラウス・フォン・ゼーゲブレヒトさんと下賜された土地を確認していた
「東沿岸部……ここ、あまり人が住んでいないんですね」
「あぁ、だから好きに開拓してくれてかまわない。反面、人が住まないということは住みにくい土地ということでもある」
農作物が育ちにくいってことだろうか?
まぁ、そんなのは別にいいや。
土壌を変えるなんて魔法で何とかなるし。(家の前の土で実施済み)
それに、今思えば東沿岸部の土地というのはこれ以上ない好立地だ。
将来、ロケットを飛ばすのなら東側から飛ばすことになる。
惑星の自転の速度を利用するためだ。
加えて、沿岸部というのも最高だ。
機体に不具合が発生し墜落させる際に市街地に落ちることは避けたい。
その点、海に落とすなら問題ないからだ。
漁師たちがいなければだが……
「頑張りたまえ。なにか領地経営でわからないことがあれば何でも聞くといい」
「はい!……はい?」
領地……経営?
「王から下賜された土地……すなわちそれは領地を与えるということだ。今日からここはアルファード領になるんだよ」
ほ……
ホンマやぁぁぁぁぁぁぁ!!(にじみ出る関西人の血)
そうだよ!! 王からもらった土地なんだから領地じゃん!!
治める人間がいなかったから、国が所有してただけで!!
「領地……そうか、領地を頂いたんですよね……俺……」
「そう気負わずともいい。君はまだ成人していないから後見人として私を陛下はご指名された。いろいろな手続きは私が行う」
「それは……正直助かります。ありがとうございます、当主様」
「クラウスでいいよ。とにかく、この土地は君の好きにすればいい。といっても、陛下は君に我が国の医学を発展させてほしいようだがね。」
「あはは……ですが、私は医者になりたいわけではないので」
「……え?」
え?
なにをきょとんとしているの?
「……医者を目指していないのに、薬を作ったのかい?」
「予防のためにと思って製薬しただけです」
「……では、君は将来何になりたいんだい?」
「……魔道具士?でしょうか」
飛行機、ヘリコプター、自動車、船……そしてロケット。
宇宙開発にはいろんな乗り物が必要だ。
ロケット部品を運ぶ飛行機に、海上着水したカプセルを回収するヘリ、それを収容する船。
広大なロケット発射場を移動するための自動車、そしてなにより組み立てなどを行う重機……
いろんなものを作らなければならない。
これらを作る人のことをこの世界風ではなんといえばいいんだろう?
やはり魔道具士だろうか?
「……魔道具士ならもうなっているじゃないか」
「えっ?」
「我が領都の生活水準は君の作った魔道具のおかげで上がったといって差し支えない。それほどの偉業を成し遂げたのは、アケルリースにいる導師様ぐらいだ」
「そう言われると……そうですね」
導師――ヘルガ・ゴーラン。
アケルリースにいる魔法使いにして魔道具製作の第一人者。
戦闘用が主流であった魔道具を生活用に転用した最初の女性魔法士。
「より良い生活へと導いた」として【導師】と呼ばれている。
……ずいぶん前にクラリスさんが言ってたな。
あれから図書館で本を読み漁ってようやく導師の意味がわかったが……
「ですが、私が販売していたものはあの方の後追いなので……誇れるものではないと思います」
「だが、我が国では君ほどの魔道具士はいない。知っての通り、我が国は魔法後進国だ。ゆえに優秀な魔法士・魔道具士は国が抱えており、彼らは日々、国の発展のために奮闘している」
そう、ノアセダルでは国家魔道具士という資格がある。
他の国……というより西側では教育や交易が盛んな為、特に魔道具を作るのに資格はいらないらしい。
しかし、ノアセダルでは魔法技術を持つ者が貴重なので、国家資格を持つと国の元で魔道具開発をしていく。
魔法技術省がその担当部署だ。
「生活用魔道具……アケルリース製の魔道具を解析・模倣するだけでも苦労している魔術省を軽く凌駕した君には期待していた。本来なら無資格のものが魔道具を売ってはいけないんだよ」
「……ふぁ!?」
だめだったの!?
そりゃそうか。国家資格があるんだもんな。
もし、資格なしの人が作った魔道具が暴走したら大惨事だからな。
「では、なぜ私は捕まらないんでしょうか?」
「それは私が許可をしたからだ。ゼーゲブレヒト領内では自由に魔道具を販売してもいいようにと。あとは、好奇心かな? 君がどんな魔道具を開発して販売してくれるのか」
「それは……ありがとうございます。恐縮です。」
「なに、もし危険な魔道具だったら即刻販売停止を言い渡していたさ。君の動向も見ていたが、特に不審なところはなかったようだしね」
そうか、この人が便宜を図ってくれていたのか。
……ん? 動向を探っていた?
もしかして……
「あのぉ……もしかして、うちの現状をご存じで?」
「なにか大型の魔道具を製作しているのだろう? 強い風を起こす魔道具を。何に使うのかまでは知らないが……よくあれだけ大規模な施設を自作できたね」
ば、バレてるぅ!?
てか見張りみたいな人がいたの!?
全然気づかなかった!?
「魔道具士として成功したから今度は医者となって人の役に立とうとしているのだと思っていたのだが……違うとは驚いた」
「あ、あはは……」
人の役に立とう……なんて今まで考えたことないんだが?
売れるんじゃないかと思って作って売っただけなんだが?
「とにかく、君には期待している。これからも、私を……私たちを驚かせてくれ」
そういって、クラウスさんは手を差し出した。
……その期待に答えられるかどうかわからないが――
「はい。誠心誠意、努力いたします」
こうして、俺は8歳にして領主となった。




