episode29 各国派遣隊が到着しました
連日投稿3回目
空を駆ける鉄の船に乗り、人類最高峰の地へと向かう。
その中で、クラインはぼぉーっと外を見ていた。
「……ホントに飛んでんだな」
「何当たり前のことを言ってるの?」
そんなことをクラインが呟くと、隣に座っていたシンシアがツッコミを入れて来た。
「いや……実感が湧かなくて。まさか、派遣メンバーに入れるなんて思っていなくてさ」
彼らが乗っている航空機は747の旅客型で、王国政府専用機は150人程が定員だが、これは500名程が乗ることが出来る
アケルリース、エグザニティ、ロムルツィア……。
他にも小国群が今回の宇宙実験施設開発に名乗りを上げていたが予算が一国では確保できない為、小国同士で金を出し合い、開発に携わろうという運びになった。
それぞれ120名程が乗り合い、ノアセダル王国へと向かっていた。
「クラインは入れると私は思ってたよ? だって空を飛ぶためにいろんな魔法を学んで――」
『皆様、当機は着陸の為、降下を開始いたしました。座席に座り、シートベルトをしっかりとお締めになってお待ちください』
シンシアの言葉を遮る形で、機内放送が入る。
「着陸だって。シートベルトは締めてるか?」
「大丈夫だよ」
しばらくして、雲の上を飛んでいた機体は、高度を下げて、雲の下に入った。
そして、最終アプローチの為、旋回を始めた時、街並みがクラインの眼に映った。
「嘘……」
「ん? どうしたの? ……えっ?」
そこにあったのはアルファードの街並み。
しかし、よく見る赤煉瓦や木材でできた建物が並んでいる様子ではなく……。
そこにあったのは、全て全面石でできた摩天楼の街並みだった。
少し外れたところには、見慣れた街並みが並ぶものの、眼下に広がるその街並みは……異世界にでも迷い込んだのかと錯覚するほどの光景だった。
「ここがアルファード領……そしてこの摩天楼の並ぶ場所が――」
「ああ……レイディアントガーデンだ」
◆
「おぉぉぉぉ!」
「かっこいい……」
「いいですね! なんか特別感がありますよ!」
新たな制服に身を包み、パウル、ララの二人は感動で震え、エリックは喜びを口にする。
前世では普通、宇宙飛行士は青いつなぎ……ジャンプスーツという服を着るのが正装だったが、ここは異世界で貴族社会。
制服があった方がいいと思い、製作するに至った。
白を基調とし、黒のラインが施された制服は、スペースシャトルの色であり、船内与圧服であるスターマンスーツとも同じ色である。
宇宙飛行士の制服として、これほど似合う色はないと思う。
「これから会議やらで他国の人と接することが多くなるだろうから作った」
「そうですわね。ジャンプスーツでは、一作業員感が否めませんから」
「でも宇宙に上がったら、一作業員になるのですから、嘘ではありませんよね」
ユリアが必要性を述べ、クラウディアがユリアの言葉に反応した。
宇宙飛行士というのはぶっちゃけるとただの建築作業員だ。
但し、その仕事は多岐に渡っており、専門的知識をいくつも持っていないといけないという点が、宇宙飛行士になるハードルを上げている。
運搬機であるスペースシャトルのシステム、クレーンに該当するロボットアームの操作方法、組み立てた衛星の動作を確認する魔道具士としての知識、そしてそれに対応する技術力。
加えてこれからは、宇宙実験も本格化する為、研究魔法士としての知識も必要になってくる。
……マジで忙しいな宇宙飛行士って。
俺は前世でのそんな敷居を下げたかったのに、今世でも似たような感じになっちゃった。
「この間、ユリアもミッションスペシャリスト資格を取ったよな?」
「ええ、ララとクリスタもですわ。次期ステーション内で実験するには必要と言われましたから」
ジトーっとした目で、俺を見てくるユリア。
……そんな目で見んな。
苦手な分野の勉強をしなきゃならないからしんどかったのはわかるが。
「仕方ないだろ? 次期ステーションはシャトルよりもデカくなって、最終的には6人滞在するんだ……747を6人で整備、点検、運用するって考えたら、乗組員全員が機器やシステムに精通していないと、船内でのトラブル時にお荷物になる」
「それはそうですわね……」
「じゃあ、ペイロードスペシャリストは事実上の廃止ですか?」
エリックの質問は尤もだ。
ステーションで実験したいならミッションスペシャリストの資格が必要になるが――
「いや、スペースラブでの実験では引き続き、ペイロードスペシャリスト資格で利用できるようにするよ」
「えっ? でも、今選抜されている宇宙飛行士候補生って、ステーション建設の為に増員するんですよね? それってつまりミッションスペシャリストの資格を取ってもらうってことでしょう?」
「そうだな」
「じゃあ、ペイロードスペシャリストはいらないじゃないですか」
ミッションスペシャリストはペイロードスペシャリストの上位資格である為、クリスタの言う通り、ペイロードスペシャリストはいらないと思われてもおかしくはない。
しかし、それは「レイディアントガーデン内」での話だ。
「今後は、他国や他の研究施設に所属する魔法士にも宇宙飛行士資格を付与出来るようにしようと思ってるんだ」
「えっ!?」
「いいんですか!? 技術漏洩とか!?」
ララとクリスタは驚いている様子だが、そこでクラウディアが手を上げた。
「もしかして……宇宙実験室の利用権を販売するってことですか?」
「その通りだ」
長期的な実験をしたい場合は宇宙ステーションで、短期的な実験をしたい場合はスペースラブで行えるよう、実験場所を提供するサービスを始めようと考えている。
ホテルと同じで、宇宙ステーションでの長期実験の場合はその期間中、実験区画を独占する為、かなりの費用が必要になる。それこそ、億単位の予算が必要になるだろう。
スペースラブの場合は、そもそもスペースシャトルが20日ほどしか飛ばないし、飛行期間の前後2日は機器準備及び帰還準備の為、事実上15日ほどしか実験ができない。
その分、費用は抑えられるが、それでも何千万はかかってしまう。
「なるほど、それでペイロードスペシャリストの資格は残しておくのですね」
クリスタは納得したように手を叩いた。
「でも、そんなにすぐ飛行士を確保できるんですか? 飛行士の選抜方法なんて知らない国ばかりっすよ」
「宇宙飛行士に必要な素質、選抜方法は既に各国に通知しているから、既に選抜が始まってるんじゃないかな?」
エリックの疑問を聞き、俺はそれに答える。
前世と同じく、各国から宇宙飛行士を派遣してもらい、滞在権を付与するつもりではあったが、長期滞在にはやはりミッションスペシャリスト資格が必要になる。
ペイロードスペシャリストは実験機器の扱いに長けていればいいから比較的取得しやすくなっているから、ステーションでの長期実験を行うまでの繋ぎとして利用してもらえたらと思っている。
「世界から優秀な人材が集まってくる。先輩として、ノアセダル王国の代表として業務に打ち込んでほしい」
「「「「「了解!」」」」」
◆
皆に制服を披露した翌日。
派遣されてきた各国技術者と魔道具士達が到着し、挨拶の場が設けられた。
その後、それぞれのチームに別れて開発・建造を進めていくことになる。
まずは基幹となるミール2モジュールやインフラ関係を建造する「チームノアセダル」
元々開発を進めていたモジュールだから、これはすぐに打ち上げられるだろう。
そして、小国群の技術者達で構成された「チームミットヴィル」
彼らは技術習得を目指しているようで、ステーションの各モジュールを接続する「ノード」と呼ばれるモジュールの開発・建造を希望した。
続いては研究モジュール開発陣。
エグザニティ共和国の「チームエグザニティ」
ロムルツィア神聖国の「チームロムルツィア」
いずれの国もレイディアントガーデンの宇宙開発部門と協力して、実験棟やノードを開発する形をとっている。
だが、アケルリース王国の「チームアケルリース」は――
「100%自国の技術者で作りたい?」
「そうです」
アケルリースの代表であるヘルガ様の言葉に、俺と同席していたユリアも驚きを隠すことが出来なかった
「……失礼を承知で言いますが、貴国には有人宇宙施設を建造した経験がありません。他の国と同様に弊社と協力して建造していく方がいいのでは?」
経験者が近くにいるのだから、協力しながら開発する方がいいとヘルガ様へ伝えたが、彼女の意思は変わらないようだった。
「我が国は、貴殿が現れるまでの100年もの間、魔法技術の最高峰でした。それに胡座をかいて今ではこの始末です」
ヘルガ様は、机の上に組んだ両手に力を入れた。
「だが、私達にだって意地はある。100年もの間、頂きに君臨した誇りがある。だからこそ、ここで意地と誇りを示したい」
困難なことはわかっているだろう。
しかし、ヘルガ様の眼に迷いは一切なかった。
「……わかりました」
「レオンさ――マスター!?」
ユリアは予想外だったのか、マスター呼びを忘れるほどに驚いていた。
俺はスッと手を上げて制する。
「ですが導師様。設計図の提出は義務付けさせて頂きます。シャトルに入らなかったら大変ですし、そもそも有人宇宙施設として粗末だったら大問題ですから」
「それもそうですね。後、もう一つ、これはお願いになるのですが……」
「なんでしょうか?」
「……ロケットを、自国開発したいのです」
……
いろいろぶっ込んでくるなぁ。
「ロケットを?」
「未だ航空機すらまともにできていない我々が何を言っていると思われるでしょうが……挑戦したいのです」
「……」
この世界の人が作るロケットを見てみたいって言う思いはあるが、航空機の前科がある。
とんでもない形をして、空力を完全無視したものを建造する可能性もある。
前回の飛空艇は低高度であれば、実用可能なものだったが……ロケットはそうはいかない。
飛行艇は魔法で飛べるが、ロケットは宇宙を飛ぶ。
宇宙では魔法は使用できない為、反重力魔法で無理やり宇宙へ! とはいかない。
「ヘルガ様、もしかして弊社の747を再現できなかった理由は、機首部分のレドーム……半球に形成された部分ではないですか?」
「えっ? ええ、その通りです」
「であれば……ヘラ絞りの技術は必須ですね」
ペイロードフェアリングを作成するにはヘラ絞りの技術が必要だ。
ヘラ絞りは円盤をスピニング加工器に取り付けて、特殊な工具で円盤を押して形を作っていく技法だ。
前世ではこれを習得するには10年かかると言われていた。
……まぁ、機体担当のルドルフさんに教えたら一週間ぐらいで出来るようになってたから、この世界の人達は器用なのかもしれない。
……うちが異常なだけかもしれないが。
「ヘラ……絞り?」
「ヘルガ様、もし本気でロケットを作るのなら、別にチームを作って下さい。モジュール開発の片手間では出来ませんので」
「わ、わかりました」
話し合いは終わって、ヘルガ様は早速、派遣メンバーを招集するといって部屋を出て行った。
「モジュールの自力開発にロケット開発ですか……レオンさんならともかく、導師様といえど、空に関しては心配しかありませんわ」
「ロケットの打ち上げに失敗すれば近隣にも被害が出る可能性がある……幸い、うちは初期の頃の空中事故ばかりだったから被害は出ていないがな」
隠すつもりはないから、80km上空は魔法が使えないこととその他諸々伝えよう。
◆
「ロケット開発……ですか?」
「そうだ。アケルリース王国未だ健在を知らしめるにはそれを成し遂げなければならない」
アケルリース派遣メンバーを集めたヘルガは、全員にそういった。
「でも、飛空艇であれだけダメ出しされたのですから、ロケットなんて夢のまた夢じゃ……」
今回、建造部門の担当としてきたジェイが無謀と口にする。
「確かにそうだ。だが、レオン殿は私達に知恵を与えてくれることを約束してくれた!」
「えっ!?」
「我々が作れなかったあの半球型の船首。その作り方を教えてくれるそうだ」
「マジっすか!? やった!!」
導師様の前であることを忘れて声を上げたジェイは、我に返って縮こまった。
その様子に、その場にいた人全員が笑い声を上げる。
「後、ロケットは自動で空に上がる乗り物だ。その中では様々な魔道具が動いている……キャサリン」
「は、はい!」
魔道具士として派遣メンバーに入ったキャサリンは、急に声をかけられ、上擦った声で答えた。
「あんた、ロケットを制御する魔道具を作る気はないかい?」
生粋の魔道具士であり、導師ヘルガ・ゴーランに憧れる者として、答えは一つだった。
「あります!! やらせてください!!」
「ようし、その意気だ。で、その統括なんだが――」
ヘルガは周りを見渡し、一人の少年を見据えた。
「クライン、やってくれないかい?」
「……えっ?」
まさか呼ばれるとは思っていなかったクラインは、気の抜けた返事をしてしまう。
「あ、あの、なぜ僕なのでしょうか?」
「面接の時、あんたは空への憧れを語ったね。加えて、論文も提出してきた」
「はい、そうですが……」
クラインは空を飛ぶための理論をまとめたノートをヘルガに渡していた。
それを見たヘルガは彼こそ、リーダーに相応しいとも思っていた。
ヘルガはそのノートを手に持ち、理由を語り出す。
「この理論はね……ここの主であるレオン・アルファードとほぼ似た考え方なんだよ」
「「「「「えぇ!?」」」」」
「えぇ!?」
「いや、なんで本人が驚いてんのさ!?」
クラインの横にいたシンシアがツッコミを入れた。
「まぁ、机上の空論といえなくもないところもあるが、実際にレイディアントガーデンで使われているものもある。魔法にも明るいあんたなら、統括が出来ると思っている」
ヘルガはクラインを見据え、真摯な声で問いかける。
「クライン。アケルリースのレオン・アルファードになってくれないかい?」
――
――
――
「俺が……宇宙ロケットの統括……」
「私が……その補佐……」
クラインはその重大な役目にやりがいと夢の第一歩を踏むことができて悦びに打ち震えていた。
だが、その横で補佐に任命されたシンシアは重圧に押し潰されそうになっている。
「ロケットなんて私無理だよぉ!! モジュール開発のために必要そうな魔法とかは一通り勉強してきたけど、ロケットは無理!!」
「大丈夫だって。君なら1日論文を読んだらすぐに理解できるよ」
「何その過大な期待は!?」
そんな話をしていた二人が本社ビルのエントランスに差し掛かるとその一角に人集りができているのに気が付いた。
「あれ? なんだろ、あの人集り」
「無視しないでよ……あれ?あそこにいるのって……」
シンシアはその人集りの中に、見覚えのある人影を見つけた。
そして、人集りが解散され、二人はその人物を認めた。
「やっぱり! マリアさんだ!」
「あれ? シンシア? それにクラインも……」
その人物とはマリアだった。
マリアはシンシアの実家である料理屋「ブラウン亭」の常連であり、クラインとは、親友であるルナの弟であるため、面識があった。
「お久しぶりです!」
「久しぶりね、シンシア。でも、どうしてここに?」
「次期宇宙ステーションの開発の為に来たんです」
マリアの質問にクラインが答えると、マリアはポンっと手を叩いた。
「あぁ! じゃあ、あんた達が派遣メンバーってこと!? すごいじゃない!」
「えへへ、それほどでも!」
先程まで泣きそうになっていたシンシアは満更でもなさそうに頭を掻いていた。
「ところで、マリアさん。さっきの集まりはなんだったんですか?」
「あれ? あれは宇宙飛行士の選抜メンバー。たった今、最終試験が終わったの」
クラインの質問に答えたマリアの返答に、シンシアが反応した。
「えっ!? マリアさん、宇宙飛行士になったんですか!?」
「まだなってないわよ。最終試験っていったでしょ?」
「あ、そっか」
早とちりしたシンシアが顔を赤らめる。
マリアはそれを微笑ましく見ながら、とあることを思い出した。
「シンシアがここにいるってことは、ブラウン亭は? 看板娘不在ってどうなの?」
「なんともないですよ。むしろ、私がノアセダルに行くって決まった時に、それを宣伝に使ってましたから」
「ノアセダルに留学って、エリート街道ですからね」
マリアの質問に答える二人だが、マリアはその返答に困惑した。
「……えっ? エリート街道なの?」
「宇宙ステーション建設に携わるって、実力がトップにいる魔道具士や魔法士でないと務まりませんし」
「国にいる研究職の魔法士達の期待を一身に背負ってますからね」
「わ、私が来る時はまだ田舎認定だったのに……何があったの……?」
マリアはここノアセダル王国……というよりレイディアントガーデンに来る際に両親から猛反対されていた。
理由は、ノアセダル王国は田舎故に、学ぶものなどないということだったからだ。
それがどうしてエリート街道になっているのか、さっぱりわからなかった。
「数ヶ月前にあったスタンピードで一躍有名になったんですよ」
「レイディアントガーデンの介入で直ぐに終息しましたから、それで評価がかなり上がったようです」
「な、なるほど……」
確かに即終息したなと思い返したマリアは、ここがエリートの集う場所と認識されている理由を理解した。
「マリアさんが宇宙飛行士になったらアケルリース初の宇宙飛行士誕生ですよ!」
「そ、そうね……」
「ここの先見性に真っ先に目を付けて単身旅して来たんですから、すごいですよ」
「うん……」
シンシアとクラインの二人の言葉がマリアに重圧をかける。
しかし、もうすでに試験は終わっているため、気合いも入れられず、ただこれから発表までの間、悶々とするのかと遠い目をして思うマリアであった。




