episode27 ISS
連日投稿1回目
「はっきり言うわ。私はこの飛空艇を、航空機とは認めない!!」
……マリアちゃんご乱心。
そこまでコテンパンに言わなくても……。
「マ、マリアちゃん?」
「なんですか!!」
興奮冷めやらぬのか、マリアちゃんは語気を強めて返答した。
「あの……いいの? そんなはっきり言って……」
「えっ!? 当たり前じゃないですか!! 空は甘くないって教えないと!!」
「いや、でもさ……船体の基礎設計は導師様だし……」
「……あっ」
途中からグランウィード君を相手していたから、歯に衣着せぬ言い方をしていたが、導師様が主任設計士なのだ。
航空力学なんて知らずに設計して飛べている分大したものだから、俺はオブラートに「低高度で運用する程度なら、必要十分」と伝えようと思っていたのだが……。
どうやらヒートアップしてしまったらしい。
なまじ知識を持っていると威張ったりしがちだものな。
だが、それを聞いた導師様は俯いている為、どんな表情をしているかは伺えない。
「あの……えっと……」
「……マリア」
「はひっ!?」
導師様に呼ばれて、声が裏返ってる……。
「……ありがとう。はっきりと言ってくれて」
「は……えっ?」
怒られると思っていたマリアちゃんは、気の抜けた声を漏らす。
それに引き換え、導師様の顔は、それはそれは清々しい顔をしていた。
「いやぁ、そこまで酷い物だとは思っていなかったよ。ホントにマリアの言う通りだ……空を飛ぶだけじゃあ……ダメなんだね」
「あ、あの……導師様?」
マリアちゃんが恐る恐る訊ねる。
「ん?」
「怒って……いないんですか?」
「何言ってんだい! 逆に当たり障りなく言われた方が怒っていたよ! 私達はマリアの言ったように「速く飛べればいい」ってだけを考えていたから、「安全」に対しては深く考えてなかったさ……情け無い話だけどね」
あ……
危ねぇぇぇぇぇ!?
当たり障りない評価下して帰るとこだったぁぁぁぁ!
ナイス! マリアちゃん!! ナイスぅ!!
「俺も……考えが足りなかった……そうだよな、堕ちる可能性もあるんだよな」
「私も……魔道具は壊れないって、考えることを放棄していたわ……」
「自分もです……」
グランウィード君、エストラーダさん、ロックハート君はそれぞれ落ち込んだ様子だ。
あとは――
「マリア……かっこいい……」
「ふむ……フィーメルがここまで成長しているとは……」
ボールドウィンさんと王子殿下はマリアちゃんに対して何か思うところがあるようだ。
さて――
「導師様、マリアの発言は、レイディアントガーデンとしての言葉と受け取って頂いて構いません……お前らもいいな」
「ええ、全くと言っていいほど同じ意見よ。まぁ、言い過ぎかなとは思うけど」
「同じく」
「あぅぅ……」
クラリスとクリスが、マリアちゃんの意見に賛同してくれた
マリアちゃんは反省しているのか、縮こまっている。
「ええ。皆さんの意見、しかと受け止めました」
「機体設計に大幅な変更は加えなくて結構です。しかし、マリアの挙げた与圧と姿勢制御システムと計器類は充実して頂かないといけません。特に与圧が確保できない場合は3000ft以下で運用するのがベストと考えます」
「心得ました……アルファード殿? 不躾で申し訳ないのですが……貴殿の開発した飛行機を見学することは可能か?」
「えっ?」
驚いたが、導師様の要望は至極真っ当だと思う。
自分達の船は見せたのだから、そっちも見せて欲しいと言うことだろう。
まぁ、ただの興味本位と参考にしようとしているだけかもしれないけど。
「あっ、俺も見てみたい!!」
「私も!! 自動で動く魔道具を見てみたいです!!」
「自分も!」
「こらっ! あんた達!! 静かにしなさい!!」
グランウィード君達が興奮した様子で声を上げたが、導師様がそれを止めた。
……母ちゃんっぽい。
「構いませんよ。いつご覧になりますか? いつでも構いませんので、ご要望をお聞かせください」
「ありがとうございます。では、重ねて申し訳ありませんが、これから見ることは出来ますか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
今からなら、整備棟に入っている二番機を見ることが出来るだろう。
俺は懐からスマホを取り出した。
「失礼」
「?」
数コールして、特輸隊の隊長に連絡が繋がった。
『はい。マスター、どうされました?』
「ちょっと急なんだけど、これから導師様御一行に747を見学させたい。できるか?」
『導師様に!? えぇ、大丈夫です! いつでもいらして下さい!』
「わかった。じゃあ、これから向かうからよろしく」
通話を切り、導師様の方に向き直った。
「では、空港に向かいましょうか」
……なんか、導師様達が固まってる。
……あっ。
「それって……無線通信機かい? しかも手持ちサイズの……」
「……はい」
空港への道中、かなり質問攻めに遭いました。
◆
あの査察から3日。
俺達は、久々にレイディアントガーデン本社に戻ってきた。
「いやぁ……やっぱ我が家は最高だわ」
「いえ、ここは会社なのでちゃんと帰って下さい」
アイリスに冷たい一言を言われた。
でも俺、家持ってないし。
「家がないし、ここは俺の会社だし、俺の家も同然だろ」
「そんな考えだからダメなんです!! 社長室の隣にベッドまで持ってきて!!」
社長室の隣の部屋は最早俺の個室になっている。
もう戻れないところまで来てるぜ。
「あの……あなた方……夫婦喧嘩は……別の場所で……やって下さいまし……」
ユリアが苦しそうにしながらツッコミを入れてきた。
何故苦しそうにしているのかと言うと、重力慣れのトレーニング中だからである。
3日ほど前にSTS-11クルーが帰還し、全メンバーのトレーニングが始まったところだ。
「ユリア、体幹がブレてるわよ。あと……私達って夫婦に見える?」
「頬を赤らめて変なところに反応しないで下さいまし! あと、厳しいですわね!? この医療担当!?」
「ユリア様……元気ですねぇ……」
「も……無理……」
ララとクリスタは、バテてるな。
……二人とも、アークプリースト隊だから体力はあるものと思ってたんだけど……
ユリアみたいに。
でも、ソフィアみたいな例もあったから、俺のこれは偏見なのだろう。
「エクセルの重力ってすごい……」
「ね……びっくりだよ」
「ですよね! すごいですよね!!」
クリスタとララの言葉にすぐさま反応したのはアイリスだった。
コイツも重力慣れするまで時間かかったもんな。
「ふぅ……ところで、スタンピードのことはある程度聞きましたが、アケルリースの航空機の査察に関しては聞いてませんでしたわ……どうでしたの?」
インターバルに入ったユリアが査察に関して聞いてきた。
すると――
「あっ、それ、私も気になります」
「僕も聞きたいですね」
「俺も!!」
クララとエリック、ラルフの三人も話に加わってきたので、俺は査察のことを話し始めた。
――
――
――
「へぇ……マリアちゃんがね。でも納得かもなぁ」
査察時のマリアちゃんの乱心ぶりを話したら、聞き終わったクリスタがそんなことを言った。
「確かに。あの子、すごいですよ! わからないことがあったらレイディアントナイツの事務所に突撃してきて質問攻めしてきますから」
「最初は基本的な航空機の機構、それからはアビオニクス系、そこからは運用時の注意点やリスクマネジメントなど……専門的な質問にシフトしていきました。成長を感じましたね」
ララとクララがマリアちゃんに関するエピソードを語ってくれた。
そうか、そんな努力をしていたのか……。
「そういえば、なんか二つ名を付けられてなかったっけ?」
「【努力の姫君】ですね。寮でも遅くまで勉強しているところを皆見ていたようですよ」
俺の質問にアイリスが答えてくれた。
しているってことは現在進行形か。
好きこそ物の上手なれとはよく言ったもんだ。
「それにこの前、宇宙飛行士になりたいとも言ってました。私とクラリス、クリスの三人で相談を受けましたよ。どうやったらなれるのかって」
「へぇ、マリアちゃん、宇宙にも行ってみたいんだね」
「というより、空を飛ぶのが好きなんだろうな」
アイリスの言葉にエリックとラルフが反応した。
……これは、タイミングいいかもな。
「でも、今は募集してないから、可哀想だね」
「いや……そうでもないよ」
「えっ?」
「何か考えていますの?」
クララが募集していないことを呟き、俺がそれを否定すると、ララとユリアが反応した。
「ちょっと、会議を開こうと思う……時期はまた話すよ」
――
――
――
「「「「「次世代型宇宙ステーション!?」」」」」
「そう、それを作ろうと思ってるんだ」
後日。
宇宙飛行士25名とルドルフさん率いる製造部門とロボットアームを開発したカール達技術部門のメンバーを集めて、今、考えていることを話した。
国際宇宙ステーションの再現である。
この世界では連合宇宙ステーションとかになるのかな?
「STS-11のスペースラブ実験で、魔法による水生成過程の観測を行った際に、イメージ発動と理論発動では成分が違うことがわかったんだ」
「えっ!? そうなのか!?」
「ええ……ちょっと怖かったですわ。踏み込んではいけないところに入ってしまったような……そんな感覚です」
俺の話を聞くと、クリスがユリアに目配せをして事実確認を取っていた。
「宇宙でイメージ発動をすると純水ができることがわかったが……不思議なことに、地上に持ち帰ると、飲料水と同じ成分になってたんだ」
「「「「「えぇ!?」」」」」
そう。
イメージ発動した水を保管してもらい、帰還後、地上設備で詳しく調べようとしたが、結果はまさかのミネラルウォーターと同じ成分になっていたのだ。
しかし、スペースラブのデータログにはしっかりと生成時のデータが残っており、魔道具の故障を疑って、スペースラブの観測機にミネラルウォーターと純水、それ以外にも色々通したが、全て正常に観測、分析されていた。
要するに、宇宙から地上に戻ってきた時に、水の成分が変わったということである。
以前、ソユーズでの簡易実験時も、もしかしたら同じ過程を踏んでいたかもしれない。
「えっ……ちょ、怖っ!?」
「そ、そんなこと……あるものなんですか?」
「だから怖いって言ったじゃないですか!!」
「この話聞いた夜、全然眠れなかったんですよ!!」
パトリシアとアイリーンが驚愕し、実験を行ったクリスタとララに話を振ると、二人は恐怖の方が勝っていた。
――一方、男子陣は……。
「いいじゃん! 未知への挑戦!! これこそ魔法実験の醍醐味だぜ」
「ですね……確かに恐怖はありますが……」
「このメカニズムが判れば、魔法に革命を起こせるかも知れないと考えるとワクワクしますね」
クリスを筆頭に、男子陣は好奇心が優っているようだ。
「そこで、無重力状態で長期に渡って観察実験が出来る施設が欲しいんだ」
「ねえ、それってミールじゃ出来ないの?」
「そうですよ。せっかく魔力補充タブレットが出来たのに……」
クラリスの問いに、アイリスも便乗する。
実は、パウル、エリック、デニスの第二期長期滞在クルーの次のクルー交代は実施しておらず、今、ミールは無人の状態だ。
理由は、魔力酔いの対応方法を確立させる為だ。
STSミッションでは二週間程度しか飛ばない為、魔力酔いは発生しないが、それは自覚症状がないだけで、実際には血中魔力濃度は下がっている。
それを魔力補充タブレットや与圧空気に魔力を混ぜることで、血中魔力濃度を一定に保てるかの実験をして、良好な結果が出た為、ミールへの長期滞在を再開する予定だった。
閑話休題。
そして、新たな宇宙ステーションを作る理由だが――
「実験器具がスペースラブと比べて小さくて規模が小さくなるし、データ処理を行うにも、それを実行するマギリングコンピュータへの魔力供給が追いつかなくなるし、しかも、あのステーションはどちらかと言えば「人が宇宙に滞在する場合のノウハウ」を獲得する場所なんだよ」
「……なるほど、もっと大きくて大規模実験が出来る場所が欲しいってわけね」
「そういうこと」
クラリスは呆れたような様子で納得した。
……何故呆れる?
「ホント、こういうのにはお金をバンバン投入するわね」
「当たり前だろうが」
何の為に働いてると思ってんだ。
「あと、ミールのように俺が設計を行う……っていうのは味気ない。カール」
「はい!」
「技術部は宇宙船の基本構造や生命維持システムの概要は理解できてるよな?」
「えっ? ええ……そりゃもちろん」
カール以外の技術スタッフも全員が頷いた。
わかっていたことだが……頼もしい限りだ。
「では、この次世代宇宙ステーションの各モジュールの開発製造を、チームに別れて実施して欲しい。」
「!? それって、コアモジュールや実験棟を私達が作る……ってことですか!?」
「そう……出来る?」
俺が出来るか否かを問うと、カールは技術スタッフ全員に目を配り、頷いた。
「「「「「出来ます!!」」」」」
「よし。基礎設計をしない……とはいっても、幾つか注文はさせてもらうよ」
俺は技術部の皆にいくつか条件を出した。
一つ目はコアモジュールは生命維持の要であるため、実績のあるミールコアモジュールの上位互換機であること。
二つ目は新型モジュール同士は自動ドッキングではなく、シャトルのリヒターアーム(開発者が結婚した為、改名)にてドッキングを行うことを想定している為、ドッキングポートはミールよりも大きく取り、一辺130cmの正方形の出入り口である共通結合機構を積極的に使うこと。
三つ目はスペースシャトルで運ぶから、モジュールの直径はペイロードベイに収められる大きさにすることと重量もそれに合わせることを伝えた。
「で、このステーションなんだけど……連合加盟国にも利用して貰おうと思ってるんだ」
「えっ、それって……他国が宇宙実験を出来るようにするってことですか?」
「そうだよマルクス。まぁ実際に実験器具を動かすのは君達だけどね」
レイディアントガーデンは、今や魔法科学の最先端を行っている。
だが、他の国の研究機関にも優秀な人は沢山いる。
そんな人達に宇宙実験施設を使ってもらったらどんな実験をして、どんな結果を出してくれるのか。
非常に興味深い。
「でもマスター、これってミールよりも大きくなるんじゃないですか?」
「ああ、長さは大体747と同じくらいにはなるかな」
クラウディアが手を挙げて、質問してきた為、答える。
「……じゃあ、人が足りなくないですか? 長期滞在の人数がミールと合わせると、今までの倍は確実ですよね?」
「その通り……だから――」
――新たな宇宙飛行士を募集する。
◆
――一方、アケルリース王国高等魔法学園Sクラスでは……。
「はぁ……計器開発ムズ過ぎ。一体どうやって傾きとかを表示させんだよ」
「……意外ですね。レンくんが苦戦するなんて」
「そうだな。なんでも直ぐに、ポンと作っていたから本当に意外だ」
レンが計器開発で行き詰まっていることを知ると、ルナもアラン王子も驚きを隠せないでいた。
それもそのはず、レンは思いついた新しい概念の魔法や魔道具を何の苦もなく作りだし、周囲を驚かせていたのだ。
それが今回はそうはいかず、苦戦を強いられる姿を見ることになるなど、露ほどにも考えていなかった。
「747を見学したじゃん? もうさ……自信失くしちゃって」
「あっ、それわかるぅ」
「……あれは別格だったね」
同じく、計器類の魔道具開発を手伝っていたキャサリンとジェイも会話に参加した。
「確かに……我々の建造した飛空艇とは操縦席の密度が全然違ったな」
「レバーやスイッチが沢山あって、目が回りそうでした……」
ヨークの前には高度や速度、傾きを教えてくれるPFDや地図を表示しているディスプレイ、残り魔力量などを示すディスプレイ等々の計器類とところ狭しと並んだボタンやスイッチが印象的だった。
「正直、そんなにいるのか? と思ったが……アルファード殿のことだ、あれが必要最低限なのだろうな」
「実際にシミュレーターでシミュレーションしてくれたじゃん? マリアと隊長さんがさ……しかも、景色を隠して」
「そう! あれ! あの時のマリアもかっこよかったなぁ……」
ルナは、その時のことを思い出して、うっとりとしている。
空港にはシミュレーターも備えられており、実際に計器のみで飛べるのか? というのを見せてくれた時だった
「アルファードさんが指示を出した後、『今、何処を飛んでるかわかるか?』って言った時に『マスター……フィーメル領に向かわせてますね』ってマリアが間髪入れずに言った時は鳥肌が立っちゃった!」
「わかる!! 「えっ!?わかるの!?」ってなったし、すぐに答えたってことは自分の位置を完全に把握してたってことだもんね!」
女性陣がまるで有名舞台俳優に会った時のようなテンションで話している。
確かにカッコいいとレンは思ったが、魔道具士として見るとそうは行かなかった。
「確かにかっこいいけどさ……それがわかるくらい正確な計器があるから出来る芸当なんだよな……」
「……そうだよねぇ」
「ホントなんなんだ……レイディアントガーデン。レン以上の化け物じゃないか」
「おい」
ジェイの言い分には言いたいことは山ほどあるが、今は置いておこうとレンは考え直した。
「どうやって計測してるんだろうな……」
「レンくんならわかるはずだ……って、アルファードさんは仰っていましたね」
レンは見学を終えた後、レオンにどうやって開発したか質問していた。
その際に返ってきた答えがそれだった。
(多分……いや、間違いないと言っていいと思う)
レオンは、レンの【正体】に気付いてる。
(それに……あの人も同じだろう)
これだけの技術、知識……そう簡単に手に入るものじゃない。
きっと……あの人【も】転生者だと、レンは考えていた。




