episode26 アケルリースの航空機
「驚かせたかな? 俺はマーリン・グランウィード。レンの父親だ」
「その子の母親のヘルガ・ゴーランだ。よろしくね、アルファード君」
超有名人に声をかけられた。
いや、今まで散々王族や貴族の方々と言葉を交わしてきたが、この人達はなんというか……。
そう、オーラが違う。
これが強者の貫禄って奴か……。
「お初にお目にかかります。アルファード領領主及びノアセダル王国勅許店レイディアントガーデン代表のレオン・アルファードです」
「噂はかねがね。一年前の王国会談では度肝を抜かれたよ……導師なんて二つ名を君の前では使いたくないね」
「ご謙遜を」
ヘルガさんは紫がかった黒髪を靡かせて、そんなことを言うが、実際この人の功績はものすごいものだ。
戦闘用が主流である魔道具を、生活用に転用し、今では生活に欠かせないものとなっている。
前世で有れば、トーマス・エジソンやニコラ・テスラの位置にいる人物だ。
「いやぁ、本当にありがとう。君のお陰でレンは救われた。俺はあの時、左翼の魔物を狩り切れていなくてな……駆けつけることが出来なかった……情けねぇ」
「いえ、彼を直接助けたのはマリアですから」
マーリンさんは目に涙を浮かべている。
この人の魔法の実力は今も昔もトップに君臨しており、それを追い抜く逸材は、息子であるレン君だと言われている。
この人がいなければ、今主流の魔法発動形式である「イメージ発動」は廃れて、呪文による魔法発動形式の「詠唱発動」が主流になっていただろうとも言われている。
「母ちゃん、アルファードさんがこうしているんだからさ、「あれ」見てもらおうよ」
「「あれ」をかい? う〜ん……」
……あれってなんだ?
二人だけでわかる言葉で話さないでくれ。
俺はこう見えて、有名人と会っていっぱいいっぱいなんだ!!
それを許せるだけの余裕は今は持っていない!!
「実は君達が一年前に乗ってきた飛行機を見て、我々も航空機開発に着手したんだよ」
「へぇ、そうなんですか」
別に偵察衛星なんて飛ばしてないから開発してるなんて知らなかったわ。
「一応飛べるものは作れたんだがね……速度は出ないし、高度を上げるとミシミシいうしで……どうすればいいか悩んでいるんだ」
「へぇ……」
機構がわからないから速度に関してはなんとも言えんが、高度を上げるとミシミシいうってなんだ?
「飛行機のエキスパートである君に見てもらって改善点を挙げて欲しいんだ。お願いできるかい?」
別に航空機技術は隠しているものじゃないから、知恵を貸すことには抵抗はない。
それよりも――
異世界の人たちが作った航空機を見てみたい気持ちの方が大きい!
「私で良ければぜひ。他にも何人か連れて行きます」
「おっ、いいねぇ。色々な人の意見は参考になる」
こうして、アケルリース製飛行機の査察が決まった。
◆
祝勝会から3日後。
アケルリース王国の秘密工場にて、俺達はレイディアントガーデンの査察を待っていた。
アルファードさん達に、俺や母ちゃん、そしてクラスメイトと共に建造した、通称「飛空艇」を見てもらう為だ。
「な、なんか緊張するわ……」
「そうだよね……見てもらうのは飛行機のプロフェッショナルだもんな……」
ガッチガチに緊張しているのは、学園のSクラスで一番魔道具製作が上手いキャサリン・エストラーダ。
母ちゃんに憧れて魔道具士になるのが夢で、実際、母ちゃんから直々に魔道具製作を教わっている。
弟子入りはしていないが、弟子のようなものだ。
今回、船体に施す付与の一部を手伝ってくれたり、意見を出してくれたりした。
で、その横で同じように震えているのがジェイ・ロックハート。
実家はロックハート工房という有名工房で、ジェイもかなりの鍛治スキルを持っていて、船体の力のかかる部分に補強をしてくれたのが彼だ。
「大丈夫だって。これで何回か飛んだだろ? 改善点を教えてもらうだけなんだからダメ出しなんてないよ。きっと」
「グランウィード君……それ、お約束みたいにならない?」
「そんなふうに構えていたらボロクソ言われて自信無くす……みたいな」
キャサリンもジェイもすごくナイーブになってる……
「大丈夫ですよ! みんなで作った船ですもの、きっとよくしてくれこそすれ、悪くは言わないと思います!!」
ルナがむんっ! といった感じで拳を作って応援してくれている
……かわいい
「こっちは平常運転ね」
「羨ましいよ。その性格」
なんかキャサリンとジェイに呆れられた!?
「お前達……そろそろ先方が来る頃だ。しゃんとしろ」
視察ということで、アランがビシッと締める。
こういうところは流石、王子だよな。
「こちらが航空機工場になります」
「失礼します」
アランが締めた直後に、母ちゃんがアルファードさん達を連れて入ってきた。
ナイスタイミング!
さっきまでの緩んだところを見せなくて済んだ。
「おや? 学生さん達もいるんですね」
「えぇ、彼らは優秀で、今回の飛空艇の建造を手伝って頂いています。ご紹介します、彼女がキャサリン・エストラーダ。私の一番弟子です」
「きゃ、キャサリン・エストラーダです!」
おっ?
母ちゃんに一番弟子って言われてニヨニヨしてる。
よっぽど嬉しかったんだな。
「そして、ジェイ・ロックハート。王都にある有名工房「ロックハート工房」の跡取りで、彼も非常に高い鍛治技術を有しております」
「ジェイです! よろしくお願いします!!」
こっちは多少、平常心を取り戻したかな?
無難な受け答えだ。
「あとは私と私のバカ息子とルナ、アラン殿下が立ち合います」
「ちょ!? バカ息子って!!」
「ホントのことだろう?」
ぐぬぬ……こんなところで笑いを取らなくても……
「ハハッ、元気で何よりです。ではこちらも自己紹介を。私はレオン・アルファード。レイディアントガーデンの代表を務めています。そして彼はレイディアントガーデン初の航空機パイロットで、初の有人宇宙飛行を成し遂げました、パイロット兼宇宙飛行士のクリス・フォン・ファルケンシュタイン」
「クリスです。よろしくお願いします」
……えっ?
宇宙飛行士!?
しかも初の!?
「やばい!! ユーリ・ガガーリンだ!!」
「!?」
「ユーリ? 誰でしょうか?」
「あ、いえ! なんでもありません!!」
ヤベッ!?
テンションが上がって、つい叫んじまった。
クリスさんに不思議そうな顔されちゃったよ。
なんか、アルファードさんの目が驚いたように見開いたんだけど……もしかして――
そう考えていた時だった。
脳天に何かが振り下ろされ、激痛が走った!!
「痛っってぇ!?」
「すみませんね。ホントうちのバカ息子が……」
母ちゃんの拳骨が飛んできたのか……
マジで痛い。
「い、いえ……では、続いて、こちらも初の航空機パイロットであり、レイディアントガーデン認定宇宙飛行士の、クラリス・フォン・ゼーゲブレヒト」
「よろしくね」
髪を一つ括りにした活発そうな人だなぁ。
ん? ゼーゲブレヒト?
「もしや、アイリス殿の?」
「そうです。双子の妹になります。ちなみに姉も宇宙飛行士なんですよ」
「ほぉ……姉妹で宇宙飛行士か」
アランが代わりに質問してくれたが、やっぱり血縁者だったのか。
でもってアイリスさんって宇宙飛行士だったのか!?
「そして……皆さんには自己紹介の必要もないでしょうが――」
続いて、アルファードさんの後ろから現れたその人は……俺達がよく知る人だった……
「今年入社致しました航空魔法士、マリア・フォン・フィーメルです」
◆
「……皆、久しぶり」
懐かしい……っていうほど離れていないけれど、ホントに久しぶりの顔触れがいる。
スタンピード終息後、私やリディアはマスター達を残して本社へ帰還した。
そのあと、ノアセダル国王陛下をアケルリースへ送る為に特輸隊の仕事で、また帰ってきたんだけど……
「マリア!? なんで、マリアがここに?」
「あぁ……えぇっと――」
ルナが驚いた様子で、私がここにいる理由を聞いてきた。
なんか自慢するみたいになっちゃうから、自分で言うのも憚られる……
「彼女は航空力学や航空機の機構など空に関しての知識が豊富でね。だから、今回の査察に参加してもらったんだ」
「そ、そうなんですか……すごいんだね。マリア……」
マスターが代わりに説明してくれた。
皆もホケーとした顔で驚いている。
そんなに意外なこと!?
「では、お互いの自己紹介も済みましたし、ご案内いたします」
「お願いします」
ヘルガ様の案内で、工場内に入っていく。
さて……どんなのを作ったのかな?
――
――
――
「お……おぉ……?」
「これ……は……?」
「……」
クリス様やクラリス様、マスターが絶句している。
目の前にあるのはヘルガ様が設計し、レン達が付与や補強を行った航空魔道具「飛空艇」が聳え立っているが――
「……船ですね」
「船に翼が付いてる……」
「如何でしょう? 既に何回かの飛行試験は済ませております」
マスターとクラリス様がやっと呟く程度に話し始めた。
マストを取り除いた船の船体の左右に短い翼を付けて、背部には尾翼が付いている設計。
……これが飛んだの?
……まさか
「飛行機構はレンが魔法付与をしたの?」
「ああ、そうだよ。この中で空を飛べるのは俺だけだからな」
やっぱり……以前話していた飛行方法か……
反重力と風魔法を使用した飛行法。
MDFSと同じ方法だ。
付与魔法はその魔法が使用できることが前提だから、そんな付与が出来るのはレンしかいない。
……レイディアントガーデンは理論値で付与できるから、数学や魔法理論が理解できていれば、誰でも付与ができるから忘れがちだけど。
「船体は船舶技師によって建造されております。最初は貴殿の開発した747を参考にしようとしたのですが……我々ではあの形を形成することができず、水を受け流す船を使用することで落ち着きました」
ヘルガ様が説明してくれているけれど……これ、船体に使われている素材って――
「こちらは……木材で出来ているのですか?」
「はい。鉄では浮かないと思ったので……」
マスターが質問をし始める。
えっ?木!?
ちょっと待って!?木で航空機を作ったの!?
「巡航高度は幾つを想定してますか?」
「高度? 高ければいいとは思っていますが……はっきりとは想定していないですね」
高度の想定なし……じゃあ、試験ではどこまで飛んだんだろう?
「飛行試験ではどれくらいの高さで飛びましたか?」
「さぁ? 結構な高さとしか……そもそもどれくらいの高さまで上がったなんて、どうやって計るんですか?」
「「「「計測なし!?」」」」
マスター達と一緒に叫んでしまった。
えっ!?
高度計がないってこと!?
「……コックピットを見せて頂くことは出来ますか?」
「コックピット……ああ、操縦席ですか。いいですよ」
機内に案内される際に、ドア周りを見たが、気密性を想定してなのか、かなりガッチリと閉まるようにしていた。
……変なところはしっかりしてるわね。
で、肝心のコックピットだけど――
「「「「……」」」」
揃って言葉が出てこなかった。
備え付けられているのは2本のレバーと、方位磁針だけ。
他の計器は……一切なかった。
「操作系は俺が設計したので、説明しますね」
そう言って、レンが説明のために前に出てきた。
「まず、この前方のレバーを持って魔力を流すと、浮遊魔法が起動します。その後、横にあるレバーに魔力を流すと後方から風魔法を出して前進します」
「ねぇ、左右へはどうやって動くの?」
私はレンに質問した。
このコックピットにはラダーペダルが見当たらないけど……
「ああ、前方のレバーを左右に倒せば、フラップが動くようになってるよ」
「……フラップ?」
高揚力装置が動くからってなんなんだろう?
って言うか、レンはフラップって名前をなんで知ってるのかな?
「あれ? 知らない? これを倒すと翼に付いている板が上下して機体を傾けてくれるんだよ」
「「「「それはエルロンだ!!」」」」
「えぇ!?」
皆で一斉にツッコミを入れてしまった。
フラップとエルロンをごっちゃにしてたのか!
「後、この機体、垂直尾翼が付いてたわよね? それの操作系統はどこにあるの?」
「えっ? あれって動かすの?」
「……」
頭が痛くなってきた。
――
――
――
「さて……まぁ、評価は目に見えているが、意見を聞かせてもらいたい」
ヘルガ様は、私達の反応から、大体察しは付いているようだった。
まぁ、初手からアレだったしね……
意見を求められて、マスターが話し始めた。
「そうですね……まず、船体に関して言えば、木材でも構いません」
「えっ?いいんですか?」
私はてっきり、金属に変えろって言うと思ってた。
「ああ、別にそこは問題ないんだよ。逆に滑らかに削ることができるから、空力特性は出しやすいしね」
「でも、木であることには変わりないから、寿命は総じて短いのよ」
私の質問にマスターとクラリス様が答えてくれた。
そっか、適しているけど寿命が短いから、うちでは特性と寿命を両立しているCFRP(炭素繊維強化プラスチック)が多く使われてるのか。
「速度に関して言えば、この設計では最大速度は精々60ktぐらいが限度でしょう。それ以上を長時間出せば、機体が崩壊する可能性が高まります」
「そう……ですか……」
ヘルガ様は設計を見直さないと、速度は出せないと言われてしまって、落ち込んだ様子だ。
あの導師様を言い負かすなんて……
「他にも指摘する点はありますが……マリアちゃんはどう? 何か言いたいことはない?」
「えっ? えぇっと……」
突然話を振られて戸惑った。
皆の目が私に向いている。
「マリア、忖度のない意見を言っておくれ。アケルリースの未来の為に」
ヘルガ様の瞳からは強い意志を感じた。
どんな批判も受け入れる覚悟を持った眼だ。
……そういうことなら――
「では、お言葉に甘えて……飛行時に軋む音がするということでしたが……それは船が水に浮いた時も鳴るので、気になさらなくてもいいと思います……しかし、これが高高度であれば、話は別です」
「というと?」
「……気圧です」
高度が上がれば当然、気圧は下がっていき、酸素濃度も薄くなっていく。
……もし、747と同じ、高度4万ftまで上昇したなら――
「高度を上げれば上げるほどに機体外の空気は薄くなり、機内の空気は膨張します。それを、レンは知っていたのね?」
「ああ、だからドア周りとかを頑丈にする様にしてもらったんだ」
「それに関しては及第点。あとは高度が……そうですね……大体3000ftぐらいで航行するのでしたら問題ないでしょう。でもそれ以上の高度を航行するのは危険と言わざるを得ません」
「何故?」
ヘルガ様が疑問を呈してきた。
「高度が上がれば機内の空気が膨張して、機体が多少なりとも膨らみます。そうすると、木材と木材の間から空気が漏れていくでしょう……もし、何の対処も無く、高度4万ftまで上昇したなら……機内の空気が薄くなりすぎて、確実に死にます」
「「「「「!?」」」」」
アケルリース組は、私の言葉を聞いて絶句していた。
別に酸素不足で窒息死する……というわけじゃない。
酸素不足で気絶して、浮遊魔法が切れて、墜落し死亡することが考えられるってこと。
そして私は続けて、747での気圧調整……与圧システムの説明をする。
「747では、高度4万ftを進む場合、両翼に付いている魔道具……ジェットエンジンに取り込まれた圧縮空気の一部を機内に取り込むことで、機内の気圧を地上と同じ……とは行きませんが、高度2000m前後と同じ位の気圧に調整しています」
「それは……人の手で行なっているのかい?」
「いえ、魔道具が自動で行なっています」
「えぇ!?」
「魔道具が……自動で!?」
ヘルガ様の質問に答えると、キャサリンとジェイが驚きの声を上げた。
キャサリンとジェイは魔道具開発もしているからこれがどれほどすごいものなのかわかっているんだろう。
ヘルガ様も同様だ。
レンは……感心したように頷いている。
「以上のように、機内に空気が補填されない状態なら、高度3000ft……915mぐらいを航行するのが妥当だと思います」
「なるほど……わか――」
「続いてですが……」
「まだあるのかい!?」
ヘルガ様はこれで終わりと思ったのかな?
話を切り上げようとしてたけどそうはいかない。
「操縦システムと計器に関してです」
「……何か、ダメなところがあるの?」
レンが恐る恐ると聞いてきた。
そっか、操縦系統はレンが担当したんだっけ。
「ええ、沢山」
「おぉう……」
「お、お手柔らかにね……」
レンは顔を覆って俯いた。
ルナにお願いされたけど、それは無理な注文だった。
「まず、この飛空艇の浮上方法は、浮遊魔法と風魔法で垂直上昇後、後方から風魔法を使用して前進する方法をとっているけど……なんで尾翼を付けてるの?」
「えっ!?……飛行機に付いてる……から?」
「……」
……尾翼がどんな役割をしているのか知らないのか!
「……垂直尾翼は、機体機首を左右に振るための方向舵が付いていて、左右の尾翼は上昇と下降を制御する昇降舵が付いてるの。でもこれは垂直離着陸を行う設計だから尾翼はいらないでしょ?」
「……尾翼って、そんな役割があったの?」
「……まさか形だけ真似したの?」
「あ、あはは……」
……これはひどい。
「……あと、姿勢制御方法を見ると、エルロン操作だけで方向を変えようとしているみたいだけど……それは急旋回が必要な場合のみに限定すべきよ」
「なんで?」
「機体が傾くでしょ? バンクが入れば、中のお客様も一緒に傾くんだから、曲がる度に飲み物とか溢しちゃうかもしれないじゃない」
「そ、それもそうか……」
「だから垂直尾翼には方向舵を付けなさい。左右への方向転換はそれで行うようにすること」
ラダーなら機体を傾かせることはほぼないから、安定して方向転換できるしね。
「で、次に……これが一番の欠点よ」
「な……何?」
「計器類がコンパスのみってどういう了見よ!!」
私は強く机を叩いた。
そう、これが私は許せなかった。
「うひぃ!?」
「あんた対気速度計も対地速度計も、ましてや姿勢指示器も高度計も魔力出力計もなしで目的地にちゃんと着けると思ってんの!?」
「いやぁ……空中で速度を測るなんてどうやってやればいいかわからなかったし……」
「なおタチが悪いわ!!」
私はもう……力の限りレンを睨んだ。
レンが怯えちゃってるけど、関係ない。
あまりにもレイディアントガーデンと……マスターとの「意識」の差があり過ぎる。
「あんた……飛空艇は将来的にどう運用されるかって考えたことある?」
「えっ? そりゃ……人を乗せて運ぶだろ?」
「でしょうね……じゃあ、私が仮に、飛空艇に乗る客として、あんたに聞くわ」
「な、何……?」
「これでノアセダル王国王都まで運んで欲しい……「どれくらい時間が掛かりますか?」」
「!? え、えぇっと……」
レンは多分、頭の中で色々考えてるんでしょうけど……無理ね。
答えは出ないわ。
「答えられないでしょ?速度がわからないんだから」
「……」
「時間は有限よ。例えば、翌日朝日が登る頃に目的地に行きたいって要望が出た時……どうするの?」
「……」
答えられないから黙り込んじゃった。
でも、緩めるつもりはない。
「無理よね。夜間飛行でコンパスだけじゃ危険すぎて飛べないし……そういった要望が出ても「できません」って言うしかないわ」
「で、でも、そんなに急くような用件なんてそうそう――」
「航空機の利点はその「速さ」よ。目的地に馬車の何十倍も早く到着できるのが売りなのに「できない」って言ったらどうなると思う? あんたはどう思う?」
「……役に立たないなって思う」
「そういうことよ」
レンは蚊の鳴くような声でそういった。
737や747には、対気速度計も対地速度計も、姿勢指示器も高度計も魔力出力計も搭載されていて、且つ、宇宙にある衛星から、自機の位置を教えてくれるマップも表示される。
さっき例に出したような夜間飛行もできるようになっていて、それができるようにパイロットは教育される。
他にも、窓からの景色を見て飛行する「有視界飛行」と、霧が濃いなどの視界が確保できない状態で、計器だけを見て飛行する「計器飛行」ができるよう訓練もされる。
私の所属する特別輸送隊はそれに加えて、機体を揺らさないように雲や気流を避けて飛ぶようにも訓練される。
「空を飛べるだけじゃダメ。乗客、乗員の安全と快適性を確保して初めてお客様をお乗せできるの……最後に――」
「「「「「まだぁ!?」」」」」
技術的なところはこれくらいにして……今度はリスクマネジメントの指摘に入る。
「これ……浮遊魔法や推進用や浮上用の風魔法が使えなくなった場合……どうするか考えてる?」
「……えっ? そんなことあり得ないだろ?」
レンのその言葉に、私はブチ切れた!!
呆れた……そんな認識で作ってたなんて。
「だからぁ!! あんたこれがどこを進んでいるかわかってんの!? 空よ! 空!!」
「そ、そうだけど……」
「そのあり得ない事態が起きたらどうするの!? 風魔法が使えなくなったら不時着しなきゃならないし、浮遊魔法が切れたら落ちるしかない。乗客や乗員に「死ね」って言うの!?」
「!? そ、そりゃ……動かなくなったらそうなるけど……」
「それに……この飛空艇、滑空試験をしてないでしょ?」
「えっ? ああ、そうだけど……怖いし」
「でしょうね。船体の大きさの割りに翼面積が少ないから、これ、滑空なんてできないわよ」
翼が小さすぎるから十分な揚力が発生せず、恐らく、浮遊魔法と風魔法が切れたら、かなりの速度で落下するはず。
高度によるけど……死は免れない。
「いい? 航空機は常に危険と隣合わせで運用されるの。それにどれだけ備えるか、技術でどれだけ防げるかに懸かってるの……マスターはそれをよく知っているから、誰でも動かせるようにはせず、教育して理解度の高い人にライセンスを発行する形をとっているの。加えて、魔道具が使えなくなった場合の対応方法や脱出方法なんかも考えていて教えてくれてるの」
空を飛ぶ。
それを成し遂げただけではダメなんだってことを、私はレイディアントガーデンで学んだ。
そして、より安全に、より快適にする為にはどうすればいいかを、レイディアントガーデンの魔道具士達は常に話し合っている。
だからこそ――
「はっきり言うわ。私はこの飛空艇を、航空機とは認めない!!」
アケルリース初の航空機を、私は真っ向から否定した。




