episode25 祝勝会
誤字報告、いつもありがとうございます。
「へぇ、超音波検査のこと、すぐに理解したんだ」
「それはすごいな」
「そりゃ、噂以上って感想になるわね」
ゼーゲブレヒトへ向かうヘリの中で、アイリスから英雄の息子であるレンという少年の話を聞いていた。
ヘリにはクリスとクラリスも乗っており――
「あのぉ……私も同席して良かったのでしょうか?」
彼らの友人であるマリアも同席していた。
「友達なんだろ? ならお見舞いくらいは行ってあげなよ」
「あ、ありがとうございます」
そんな会話をしていたら、もうヘリは着陸態勢に入っていた。
流石、早い。
ヘリが着艦し甲板に立つと、艦長であるマリーテレーズが近づいてきた。
「マスター、当艦にお越しいただき光栄です」
「すまないな、マリーテレーズ」
マリーテレーズ・フォン・リーフェンシュタール
実家は海沿いの領地を治めており、父親も海軍の船の艦長だそうで、憧れがあったそうだ。
航空機に特化しているうちで、船舶を作るとなった時に乗員を募集したら真っ先に申し出てきた人物でもある。
「いえ、ゼーゲブレヒト艦長として、此度の作戦に従事させて頂き光栄ですわ」
「いや、いい指揮官っぷりだった。さて、例の英雄殿はどちらに?」
「……あちらで呆けていますわ」
マリーテレーズが向いた方を向くと、海を眺めて呆けている男の子がいた。
「大丈夫なのか? 疲れてるんじゃ……」
「いや、ゼーゲブレヒトがデカすぎて驚いてるんだろ」
「こんな大きな物が海に浮かぶなんて私達ですらも、驚いたかんね」
呆けているものだから、心配したが、クリスとクラリスがそれを否定した。
「私もそうでしたからね。普通はああなりますよ」
そこにマリアも参加してきた。
……それもそうか。
ガレオン船と比べるまでもないもんな。
そう思いながら、英雄殿に近づいていく。
「あっ、レンくん」
「うん? ……あっ」
少年の影に隠れていて気がつかなかったが、傍らに美少女がいた。
銀髪ロングにエメラルドグリーンの瞳。
まだ少女のあどけなさが残る、可愛らしい女の子だ。
英雄殿は黒髪に金色の瞳……金色!?
幼さはまだ残っているが、将来、それはそれはおモテになるであろうイケメンっぷりだ。
……この世界、イケメン多すぎ。
「あなたが、レン・グランウィード様でしょうか?」
「は、はい。そうですが……」
「申し遅れました。私はレオン・アルファードと申します」
俺が自己紹介をすると、二人は目を見開いた。
「えっ!? あなたが!? 俺と同い年くらいじゃないですか!!」
「ちょっとレンくん! 恋人が失礼いたしました。ルナ・フォン・ボールドウィンと申します」
「はじめまして。大丈夫ですよ」
まぁ、うちの従業員だったらぶん殴ってるけど。
15歳くらいの子だったらこうなってもおかしくない……か?
――ていうか、その美少女恋人かよ。
「此度の活躍、お聞きしております。兵を守って名誉の負傷、感服致しました」
俺は彼に手を伸ばした。
「えっ、いや……ありがとうございます」
おずおずと伸ばした手を取って、握手を交わす。
「怪我の具合はどうですか?」
「はい、もう大丈夫です。いろいろお世話になりました」
丁寧にお辞儀をしてくれて、その所作から体に痛みなどがないことがわかった。
よかった、ホントに大丈夫なんだろう。
「それはよかった。翌日には、ご帰宅出来るとアイリスから聞いております。無骨な艦故に不自由があると思いますが、どうぞごゆっくりなさってください」
「あっ、はい! ありがとうございます!」
「それでは」
踵を返して、皆のいるところまで戻った。
「どうだった? 新英雄様と二言三言交わして」
「年相応って感じ。久しぶりだったよ、あの感じ」
レイディアントガーデン創立初期の皆と同じ感じだった。
あのお調子者のパトリシアですらも、公の場ではしっかりしているのだから、レイディアントガーデンの新人教育は高水準なのだろう。
「……あれが普通で、あたし達が異常なのよ。ねぇ、マリア?」
「えっ!? えぇ、そうですね。自分もあんな感じだったなぁって思ってました」
クラリスがマリアに話を振ったが――
「マリア、もう上がっていいぞ。友人の所に行っておいで」
「あ、ありがとうございます。行ってきます!」
マリアは二人の元へ駆けて行った。
……MDFS着たままだけどいいのか?
「一年と半年も離れてたんだから、再会も一入だよね」
「だな」
「この未曾有の災害で無事を確認できたのもよかったわね」
前世と違って、遠くに行くと気軽に連絡が取れなくなってしまうし、ノアセダルは陸の孤島だから尚のこと連絡が取れない。
どういった経緯であれ、こうして再会できたのだから嬉しいだろう。
感動の再会を見ていたが、俺は、正直それどころじゃなかった。
祝勝会……超絶不安。
◆
「16!? ってことはやっぱアルファードさんって俺達と同い年かよ!?」
「随分と落ち着いた方でしたね。まるで殿下とお話ししているようでした」
MDFSを一旦、ゼーゲブレヒトのハンガーに預けた後、食堂で、レンとルナの二人と一緒に食事をしていた。
といっても、レンもルナも食べた後だったから食べているのは私だけだけど。
ご飯を食べる前に王子殿下を案内することになったからもうお腹ペコペコ……
「ところでマリア、行ってどうだったんだ? ノアセダルは」
「……とんでもないところよ」
レンに質問されて答えた。
ホントに、それ以外の形容のしようがない。
「えっ? それって……犯罪とかが横行――」
「そういうことじゃない!! 魔法技術的によ!!」
「ふふっ、冗談よ。でも、第三席だったマリアがそういうってことは相当ね」
「なんか宇宙に人工衛星も打ち上げてるそうじゃん」
……あれ?
レイディアントガーデンが宇宙開発をしていることを知ってる?
私なんか、アルファード領に着いて初めて知ったのに。
「な、なんで知ってるの?」
「マリアが旅立った後くらいに発表されたよ。なぁ、ルナ?」
「うん。それからハンター協会や軍部に魔力溜まり情報が提供されるようになったわ」
「あぁ〜、やっぱあの道程がネックだったかぁ〜」
王都では情報が行き渡るのが早いだろうけど、私はそこを離れていたから最新情報から離れていた。
エシクン山脈を登ることも含めた旅路が一年も続いたのだからその間情報に疎くなる。
「でもどうしようもなかったしなぁ」
「そうね、今のマリアみたいに空を飛べたらよかっただろうけどね」
「えっ!? マリアも空を飛べるようになったのか!?」
そっか、レンは私が駆けつけた時には気絶してたから私が航空魔法士になったことは知らないのか。
ていうか……も?
「レンくんも飛べるようになったんだよ。はんじゅうりょく? って言うのを使って」
「へぇ……」
王子殿下とのことで私も反省し、口に出さなかったけど……驚いた。
まさかMDFSと同じ原理で飛んでるなんて……
「私、航空魔法士になったのよ。ほら」
胸元につけているウィングマークを見せた。
「へぇ、これが航空魔法士の証か……かっこいいな!」
「でもマリア? あの大きな飛行機に乗りたいって言ってなかった?」
「うん、そのライセンスも取ったよ。といってもCPL……補助ライセンスなんだけどね」
「誰でも操縦出来るわけじゃないのか?」
レンがありえない質問をしてきた。
けど、私も半年前まで気軽に乗れると思っていたから笑えない。
「航空機がどうやって飛んでいるのか、異常が起きた時どうすればいいか……それを学んで、基準点以上を取ったら航空機を動かしていいってライセンスをもらえるの。その後に、乗りたい航空機の動かし方を学んで、その航空機を動かしていいってライセンスを取るのよ」
「魔道具動かすのとなんか違うのか?」
「複数の魔道具を使って飛んでるから……それらを制御しながら飛ばないといけないのよ」
「えっ? それって魔力制御が追いつかないんじゃない?」
レンの質問に答えたら、ルナが今度は質問してきた。
そうだよね、複数魔道具があるなら、それの起動のために手が触れてなきゃいけないって思うし、何より複数起動なんて実際やったら集中力が持たない。
「魔道具の起動用に、魔石を改造したものを使ってるのよ。だから、表示されている計器を見るだけで大丈夫」
「魔石!? そんな高価なものを使ってるの!?」
……そうか、この反応が普通か。
もう私も立派にレイディアントガーデンに毒されていたようね。
「まぁ、なんで魔石が確保出来てるのかは企業秘密ね」
「そっか……それはそうよね」
ルナはそう言うと、淹れてきた紅茶を口にした。
……そういえば――
「せっかく帰国したんだから、ブラウン亭のビーフシチューが食べたかったなぁ」
「行けばいいじゃねぇか」
「……王都に出かけて、家族に会ったら嫌だもん」
レンが至極尤もなことを言うけど、それはできない。
何せ喧嘩別れしてレイディアントガーデンに入ったんだから……
「もう夢を叶えたも同然なんだから、いいんじゃない?」
「甘いわね、ルナ。散々、ノアセダルを馬鹿にしていた二人の前に、航空機パイロットの制服を着て行ってざまあみろっていうのが私の目標よ!」
「もう、頑固なんだから……」
「旅立つ時もそんなこと言ってたよな」
「それより、そっちはどう?なんか変わったことなかった?」
「そうねぇ――」
学園でのこと、魔法の授業のこと……私が居なくなった後の色んなことを聞いた。
私自身のことも話していたら、あっという間に時間は過ぎていった。
◆
終息から二週間後――
とうとうやって来た祝勝会。
この夜会はアケルリース王国だけでなく、今回の被害国であるエグザニティ共和国とロムルツィア神聖国の代表も出席するそうだ。
既にアルファードとゼーゲブレヒトの二隻はレイディアントガーデンに帰港している。
寝床のなくなった俺とアイリス、クリス、クラリスと、アークプリースト隊のリーダーであるライナーとサブリーダーのエルフリーデは、アケルリースが用意してくれた宿でお世話になっていた。
問題は夜会に出るためのドレスやタキシードだが、現地で調達するには時間がなかった。
というのも、この世界の服飾は前世のように完成された服が売られているわけではなく、布を買ってきて自分で拵えるか、作ってもらうかの二択だ。
ここにいるメンバーは俺以外、全員貴族故に裁縫なんかしたことがなく、俺もやったことがない。
じゃあ、作ってもらうのかと言われるとそれも出来ない。
何故なら、王都の仕立て屋は軒並み忙しいからだ。
王都にいる貴族達が、祝勝会の為の服を仕立てていて、スタートダッシュの遅れた俺達が頼もうとした時は時既に遅く、間に合わないと言われてしまった。
まぁ、ないものは仕方ないので、既存の物を持ってきて貰った。
……国王陛下に。
「やぁ、レオン君! 今回は何から何までありがとう!! 皆のドレスやタキシードを持って来たよ」
「ありがとうございます!! 恩に着ます!!」
マティアス陛下とマリーダ陛下も、今回の祝勝会に招かれていた。
今回のスタンピードはノアセダル王国無くしては、これほどの災害を被害軽微で抑えることはできなかったということからだったが、そのおかげでついでにドレスなどを持ってきてもらったのだ。
帰りも747で帰ることが出来るから、これは僥倖だった。
「これくらいどうという事はないよ。なんて言うが……私達は何もしていないんだけどね」
「ええ、精々、積載の許可を出したくらいだわ」
「それでもありがとうございます。いやぁ、現地調達しようなんて安易に考え過ぎましたね」
その後、王城に向けてセンチュリーとLS500shを走らせ、20分程で到着した。
日は傾き、地平線に隠れようとしている。
それぞれ控室に案内されて、ドレスやタキシードに着替えてきたが――
「緊張して気分悪くなってきた」
「ホントお前こういうの苦手だよな!!」
クリスにツッコまれたが、反論する気力もない。
「大丈夫ですよ、私が支えますから! ふふっ♪」
「ぐぬぬ……」
アイリスはこの祝勝会が決まってから非常にご機嫌だ。
時折り笑っているが、何がおかしいんだ。
俺は必死なんだぞ。
クラリスは……何に対してぐぬぬってんだ?
……ぐぬぬるってなんだ。
もう思考もぐるぐるしてきた。
「入場時は女性をエスコートするのが普通です。レオンさんは私と入場しましょう」
「ああ、頼んだ」
……いや、頼まれるのは俺か!
それ以前に、俺は入った後も怖いんだが……
――
――
――
で、入場したら――
「おぉ、君がレオン・アルファード君か」
「なるほど、いい面構えをしている」
男性陣に囲まれ――
「アルファード様、少しお話し致しませんか?」
「私も魔法を学んでおりますの。アルファード様の魔法論をぜひお聞かせ頂きたいなと思うのですが……」
女性陣にも囲まれていろいろと揉みくちゃにされた。
……なんだよ「いい面構え」って。
それはクリスやライナーに言ってやれ。
「今回、貴女の開発した魔法薬「ポーション」のお陰で多くの命が救われた。貴女の功績はあの導師様に届くかも知れんぞ」
「そうなれば光栄ですわ」
「あの薬はどういった経緯で――」
揉みくちゃにされた後、俺は今、壁の近くで一輪の花になっていた。
周りを見ると、アイリスも魔法医療の創設者として引っ張りだこだな。
「貴殿の活躍、見事であった。あれほどの魔法、何か特殊な魔法の鍛錬をしているのか?」
「いえ、あの魔法制御が出来るのは魔道具のお陰なので……」
「魔道具の? 差し支えなければいろいろとお聞かせ願いたいのだが――」
クリスも、その人は現地での戦闘の様子を見たのか、質問攻めされてるな。
……で、クラリスは――
「何故、俺の隣にいる」
「何? いちゃいけない?」
「お前も質問攻めされてこい。そして俺から意識を外らせるんだ」
「何気に酷い事言うわね」
こんな軽口を言っているが、クラリスだってさっきまで質問攻めを受けていて、たった今避難してきたところだ。
だから、本気で言っているわけではない……半分は。
もう、この場にも慣れてきて、周りを見渡せる程には余裕が出てきた。
クリスやアイリスと同じく質問攻めをされているライナーもエルフリーデも、流石は貴族。
対応もお手の物のようだ。
遠目から見て、嫌そうな顔を一切していない。
「……おっ」
「どうしたの?」
「グランウィード君とボールドウィンさんだ」
あれから二週間も経っているからグランウィード君も日常生活に支障がないほどに回復しているようだ。
ちょっと挨拶してこよう。
「挨拶してくる。来るか?」
「いいわ、ここで待ってる」
「そっか」
言葉短く、俺はクラリスと別れてグランウィード君に近づいていった。
◆
新英雄様の元へ行くレオンの姿を見送り、私は手に持っているグラスを傾けた。
疲れた体に冷たい飲み物が沁み渡り、喉が潤う。
結構、喉が渇いてたんだな……
「こんなところに居たのね、クラリス」
「お疲れ様、姉様。大人気ね」
上手く抜け出してきたのか、飲み物を手にして壁際にいる私に近づいてきた。
「ふぅ……疲れたわ。別に私の功績ってわけでもないのに……」
「何言ってるの。レオンも言ってたわよ? ポーションはほとんど姉様が作ったって」
「魔法薬とかすげぇ!」って興奮してたっけ。
「形にしただけよ。基礎理論はレオンさんが構築したし……」
「……姉様、謙遜も行き過ぎると嫌味よ」
「それはわかっているけれど……」
レオンも謙遜する所が大いにあるけれど、公の場ではそれを隠している。
自分がどう見られているか、ちゃんとわかっているから、反感を買わないように振る舞っている。
全員が絶賛しているわけではないが、弁えるところはちゃんと弁えて行動しているものだから、大声で批判がされていないだけの状態だ。
「レオンさんみたいに振る舞うのはちょっと……難しいかな」
「まぁ、確かにあいつは別格よ。それより……姉様、露骨に喜び過ぎ」
「えっ!? な、なんのこと?」
下手な惚け方して……
「レオンに頼られて嬉しいのはわかるけど……私だって、少しは社交会を手伝えるんだから!」
「ふふん、そこは秘書であり、一番弟子である特権よ。それに、さっきまで一緒だったんだからいいじゃない」
「ぶぅ……」
グラスの残りを呷る。
悔しさはあるけど、以前、今のままの私が好きって言ってくれたから……今のままでもいいかとも思ってしまう自分がいた。
◆
「やぁ、グランウィード君。久しぶり」
「えっ? ……ああ、アルファードさん!」
「お久しぶりです。アルファード様」
ボールドウィンさんはカーテシーで挨拶してくれたが、グランウィード君は、話しかけると少し驚いたのか、名前が咄嗟に出てこなかったようだ。
……後ろからすいませんでした。
「体の具合はどう? もう大丈夫かな?」
「はい! もういつも通りです。凄いですね、魔法医療って。治癒魔法だけだったら、今も体がダルかったと思います」
確かに治癒魔法だけだと、回復させるのに患者の体力だけでなく、体内魔力も使用するため、治療後も安静にする必要があったが、それを補うのが、魔力点滴だ。
あれのおかげで復帰が早くなったのは、いい事なのか悪いことなのか……24時間働けますか?状態にならないようにしないと。
「それはよかった」
「おや? 君がレオン・アルファード君かい?」
「あっ! 父ちゃん、母ちゃん」
男性の声が後ろから聞こえた。
振り返りながら聞こえる、グランウィード君の言葉を判読しつつ、後ろにいた人物を見る。
そこには程よく引き締まった体を持つ、これまた渋メン男性と髪を腰のところまで伸ばした、スタイル抜群の美女がそこにいた。
そして、さっきのグランウィード君の言葉から察すると――
「驚かせたかな? 俺はマーリン・グランウィード。レンの父親だ」
「その子の母親のヘルガ・ゴーランだ。よろしくね、アルファード君」
賢者様と導師様がそこにいた。
2/9の初投稿から約半年、累計PV数が8000件を超えました。
本当にいつもありがとうございます。拙い作品ですが、皆様の暇つぶしに貢献できているのなら幸いです。
最後まで頑張って書き切りますので、どうか見守っていてください。




