表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/131

episode24 帰ろうとしたら道を塞がれた

 


 ――高度290km 軌道上



「へぇ、そんなことがあったんだ。大変だったね」


『いや、そんな気軽に言われても……』



 クララはそう答えるとパウチに入ったチキンサラダを口にした。


 朝のミーティング前、朝ご飯をクルー全員で食べていた時に通信が入った。


 その時にスタンピードが迷いの森で発生したことをクルーに伝えたアニカ・ソマー改め、アニカ・リヒターはその落ち着き振りに肩の力が抜けた。



「まぁ、私達にはどうすることもできないことですし……」


「マスターが陣頭指揮を取っているのならもう終息してるんじゃない?」



 ユリアが、御尤もな意見を言うと、クリスタがもう終わってるんじゃ?と冗談混じりに言った。



『……その通りです』


「えっ、マジ?」


「大規模スタンピード接敵から4時間弱で終息とかすごいな」



 エリックとラルフが終息までの時短っぷりに驚愕した。



「ミサイル使ったんじゃない?」


「あぁ、あの海洋魔物退治用魔法兵器? 確かにあれなら万単位の魔物相手でも大丈夫そう」


『あなた達はどうしてそうホイホイと当ててくるんですか……』



 クリスタとララが同じく冗談を言うように予想を言うとこれも当ててきたものだから、アニカはドン引きした。



「私達はマスターに直々に鍛えられた初期メンバーだからね。余裕だよ」


「多分、現地にいたガルーダ隊とアークプリースト隊の皆も同じ考えだったと思いますよ」



 クララの言葉に、エリックも賛同し、他のクルーもうんうんと首を縦に振っている。



「まぁ、そんなことよりもだよ」


『そんなこと……』



 クララが言った言葉にアニカは額を抑えた。


 未曾有の災害をそんな事とは、恐れ入る。



「CAPCOMが変わったのは、やっぱりそれのせい?」



 クララが言っているのは交信担当がアニカになっている事である。


 というのも、STSミッションのCAPCOM(交信担当)は宇宙飛行士が務めることになっている為、開発部門の所属であるアニカがいるのが不思議だったのだ。



『そうです。終息したとはいえ、事後処理もありますから、もしかすると帰還までにマスター達が帰ってこないことも考えられます』


「あらまぁ……でも、仕方ありませんわね」


『幸い、魔法研究のエキスパートでもあるユリア様がそちらにいらっしゃるので、マスターからは特に指示はなく、実験内容はユリア様に一任するとのことでした』


「あら。では、期待に応えなければなりませんわね」



 ユリアはレオンからも信頼されている魔法研究者の一人であることはクルー全員が知っていた。


 ちなみにトップを走るのは、アイリスである。



「アイリスが魔法科学を魔法医学へと昇華させたように、私も頑張りますわよ!! ――うっ!?」


「ユリア様!?」


「もぉー食べた直後にはしゃぐから!!」



 ……ユリアは宇宙酔いになりやすいようだ。











 ◆










「……うぅ」



 背中に痛みを感じて、目を覚ました。


 ……あれ? 俺は確か――



「レンくん? ――レンくん!!」



 聴き慣れた声が聞こえて、そちらを見ると、今にも泣き崩れそうな顔をしたルナがそこにいた。



「あぁ、ルナ。無事だったんだね」



 そうだ。


 俺はサラマンダーの火炎放射(ブレス)を防ぐために盾になって……


 それで大火傷を負って、気絶したのか?



「よかった……よかったよぉ……」



 ああ……やっぱり泣き崩れた。



「ごめん……心配かけたね」


「ううん……無事に目を覚ましてくれてよかった」



 ルナは泣きながらも、笑顔で答えた。


 ホントに心配かけちゃったな……



 ん? そういえば……



 俺、今医療用の酸素マスクしてる?


 よく医療ドラマで見る、患者が付けてるあれ。



 ……えっ?「この世界」にこんなのあったっけ?



「ルナ……これ……」


「ああ、酸素マスクっていうそうです。すごいですよね、レンくんが炎魔法を発動する時に使うものが、体にも必要なんだそうです」



 やっぱこれ酸素マスクか!?


 しかも、腕には――



「それは点滴っていうものだそうで……レンくん、私達を守るために魔力障壁を最大限に広げたでしょ? 体内魔力量が極限まで減っていたから、それで補填している……んだそうです」



 点滴ぃ!?


 しかも魔力を入れているってことは、このぶら下がっているパックの中に入っている液体って……



「じゃあ、これって……魔力なのか?」


「魔力の他に……なんか体にいいものを混ぜてるって言ってました……あっ!」



 ルナは何かを思い出したようで、俺の枕下にあるボタンを押した。


 これは……ナースコールだ。



「レンくんが目を覚ましたら押すように言われてたんでした」



 てへっと舌を出して言うルナ。


 ……かわいい。



「そういえば……ここはどこだ?」



 王都にこんな近代的な設備のある医療施設なんてなかった筈だ。


「この世界」の医療施設は教会が運営しているから、専ら、魔法での治療が殆どで、あとは効くかどうかわからない薬草を使った薬だ。


 酸素マスクや、ましてや体内の魔力を補填するための点滴なんてものは見たことも聞いたこともない。



「目を覚ましたんですね。よかった」


「アイリス様!」



 そんなことを考えていたら、一人、俺達と同じ年代の女の子が入ってきた。


 ……綺麗な人だな。


 看護師? さんかな。



「はじめまして。貴方の治療をルナ様より引き継ぎました、アイリス・フォン・ゼーゲブレヒトと申します」



 丁寧に頭を下げてくれたが、名前を聞いて固まってしまった。


 えっ?ゼーゲブレヒトって確か――



「ポーションの開発者の……」


「あっ、はい。開発者のアイリスです」



 すごい人来ちゃった!?


 ポーションは飲むだけで軽度の怪我や病気はたちまち治り、傷口にかければ深い傷もすぐに塞がるほどの効果がある。


 その医薬品は、魔法科学を使用して作成され、今では魔法医学というジャンルを生み出している。



 その創設者が、目の前にいる!?



「あ、あの! 会えて光栄です。こんな格好ですみません」


「いえ、こちらこそ、新たな英雄にお会いできて光栄です」



 笑顔でそう答えてくれた。



「あの……ここってどこですか?王都……ではないですよね?」


「ここは航空魔法士母艦、アルファード型二番艦のゼーゲブレヒトです。医療艦でもありますので、こういった設備もあるんです」


「へぇ、船なんですか……船ぇ!?」



 驚きすぎて体を飛び起こしてしまって、痛みが走った。



「痛ッ――!?」


「レンくん!?無茶しないで!?」



 ルナが支えてくれたけど、俺はまだ混乱していた。


 ……船の中?


 ここが?



 ……えっ?「この世界」の船って帆船が普通で小さいよな?


 こんな広い部屋は作れないよな?



「混乱しますよね。レンくんは部屋しか見ていませんが、私は船全体も見てますし、ここに来る為にヘリコプター? っていうのにも乗ったので、もういっぱいいっぱいです」



 俺、ヘリで運ばれたの?


 って言うか、ヘリがあるの?



「さて、診察致しましょうか。楽にしてください」



 アイリスさんは寝ている俺の腕や足、胸元などを見ていく。


 手の平をかざして、何か魔法を使っているようだけど……



「超音波の魔法……ですか?」



 俺がそういうとアイリスさんは驚いたように目を見開いた。



「すごいですね。……わかるんですか?」


「原理はなんとなく……その魔法を使って、患部の治り具合を調べているんですね」


「……噂以上ですね」



 感心したように微笑むとかざしていた手を体から離していく。



「うん、火傷は治っていますね。直後にポーションをかけたのが功を奏したのでしょう」


「えっ? じゃあ、背中の痛みは――」


「あぁ、それは軽度の床ずれです」


「床ずれぇ!? えっ? 俺ってどれだけ寝てたの!?」



 隣にいるルナに話を振った。



「もう1日と半日経ってスタンピードも終息しました。だから心配したんです……もう、目を覚さないんじゃないかって……」


「そう……だったのか」



 もうスタンピードは終息したんだ……よかった。


 なんか安心して気が抜けたのか、お腹が鳴り始めた。



「ふふっ、あとで食事をお持ちしますね。食後に軽く散歩していただいてもいいですよ。では」



 お大事にと一言いうと、アイリスさんは退室していった。



「……にしてもすごいな。ここ、ホントに船の中なのか?」


「うん。すごい広い船ですよ。甲板もとっても広く出来ていて――」



 食事が来るまでに、ルナは船の印象を語ってくれた。


 そして食後に甲板に上がったら、想像以上にデカかった。











 ◆










 負傷者の治療が粗方終わり、あとは自宅療養をしても問題ないと判断して、俺達は撤退の準備をしていた。



「夕方までには片付いたな」


「ああ、アイリスの作ったポーションのおかげだ」



 クリスが早めに終わったことを口にする。


 それも単にポーションのおかげだった。



 この世界にはポーションというファンタジー作品には必ずと言っていいほど登場する回復薬が存在しておらず、薬といえば専ら薬草を煎じた飲み薬か丸薬だった。


 だがそれらはあまり使われず、魔法を使って治療していくのが主流だった。



 怪我だけでなく、風邪などでも魔法で治療していたのだ。



 魔法での治療は、正直時間がかかる。


「ヒール」という治癒魔法は、使用できる魔法士も少なく、怪我を治す際は傷が塞がるまで魔力を流し続けねばならず、結構重労働だ。


 加えて、ヒールで傷を塞ぐには重傷の場合は何時間も患者にかかりきりになる。


 その間、他の患者の治療は後回しにされ、魔法での治療が主流のこの世界では縫合技術なんかもない為、魔物に付けられた切り傷などは軽症の場合、止血だけ施されたら包帯を巻いて終わり。


 あとは治癒魔法士の手が空いてから傷を塞ぐという流れだった。


 だが、この治癒というのは傷を塞ぐだけなので、治療までの間に傷口から入った菌などもそのまま体内に残して傷を塞いでいた。


 当然、それが災いし、破傷風などの感染症にかかって死に至った兵士も多かった。



 それを解決したのが、このポーションである。



 これは、吸収されやすいようにカルシウムなどの栄養素を溶かした所謂栄養ドリンクに殺菌や回復の治癒魔法を付与した魔力を混ぜた代物だ。


 作成の切っ掛けになったのは、宇宙での長期滞在における血中魔力濃度不足による帰還時の魔力酔いの対応だった。


 最初は空気に魔力を混ぜようと考えていたが――



『何か……錠剤みたいな形にして、飲むと魔力を補填できる……ようなものは作れないでしょうか?』



 アイリスが提案したこのアイデアは非常に良いものだった。


 魔力そのものを閉じ込める方法を開発し、それは魔力タブレットとなり、それを今度は液体へと変化させ、ポーションとなった。



 こうして出来上がった魔法科学による医薬品は、「魔法医学」の先駆けとして名を上げ、アイリスはその創設者となった。


 一応俺も手伝ったが、殆どはアイリスが自力で開発したものである。


 実際、アイリス自身が被験体となって、STS-6にて魔力補填が可能かの実験も行ない、良好な結果を残している。


 なんだか、俺が福沢諭吉で、アイリスが北里柴三郎みたいだな。



「あ〜あ、アイリスに先越されたなぁ〜」


「何言ってんだ。お前はお前でMDFSや航空機なんかの操作と操縦を極めてんじゃん」



 クリスはF-35までの全てのMDFSライセンスと回転翼、固定翼機問わず、全ての航空機のライセンスを全て所持している。


 まぁ、器用貧乏な感は否めないが……



「それだけだよ……俺はそんなに頭がいい方じゃないからな。それに、まだ乗りこなせてないもんもあるしな」


「?」


「宇宙船だよ」


「……乗りこなせてんじゃん」



 ソユーズもスペースシャトルも両方とも船長(コマンダー)になれるやつなんて他には……クラリスに、クラウディアぐらいか。



「まだ乗ってないのがあるからな。今でも空に浮かんでるあれ」


「……ミールか」



 確かにクリスはミールステーションに乗っていない。


 ガルーダ隊の隊長でもあるから、長期滞在クルーに任命(アサイン)し辛いっていうのもある。



「いつ行けるかわかんねぇけどな」



 爽やかな笑顔で夢を語るクリスは――


 主人公してた。



 久々に見たわ。こいつの主人公スマイル。



「マスター」



 クリスの主人公っぷりに、ダークサイドに堕ちかけていた頃、クラリスが声をかけてきた。


 後ろにはマリアと……同い年くらいの男の子がいた。


 ――またイケメンか。



「ああ、お疲れ様、クラリス、マリア。そちらの方は?」


「はい、こちらはアケルリース王国第一王子のアラン・フォン・アケルリース様です」


「お初にお目にかかる」



 ……王子様ときたか。


 これまで各国の重鎮と顔を合わせてきたんだ。


 もも、もうおどろかんぞ。



「は、はじめまして……何か御用で?」



 王子様直々に、しかもご足労頂いているんだ。


 ……超怖い。



「そう畏まらなくても良い。……今は何をしておるのだ?」


「えっ? 撤退の準備中ですが?」


「そうか……済まないが、帰国の日程を変更して頂けないか?」


「帰国を……ですか?」



 なんだろう……


 とっても嫌な予感がする。



「此度のスタンピードの祝勝会を開くことになってな。貴殿にも出席して頂きたいのだ」


「……えっ? 私がですか?」



 なんで俺が?


 ――なんて、最初は思ったが、考えてみれば当たり前のことだった。



「ああ、貴殿が宇宙開発を実施していなければ……マジックフォンを開発していなければ……今頃この辺りは蹂躙され、すぐ近くの街も壊滅していただろう」



 その姿を想像したのだろう。


 王子は顔を曇らせた。



「迷いの森の観測隊も常駐していたが、彼らだけでは対処できなかっただろう」


「……そうでしょうね。想像に難くはありません」



 それこそ、その隊は全滅していただろう。


 だが、対応が早かったおかげで、その人たちは全員助かり、今でも観測を続けている。



「よって軍上層部も、王国政府も全会一致で貴殿を祝勝会に招待しようとなったのだ」


「……わかりました。下賤な身ではありますが、喜んで出席させていただきます」


「ありがとう。そういってくれて、私も嬉しいよ。他にも航空隊の隊長格の面々にも出席していただければと思っている」


「では、彼らには私から声をかけておきましょう」


「よろしく頼む。では、またお会いしよう」



 そう言って、王子様は爽やかな笑顔と共に去っていった。


 ……俺は懐からスマホを取り出して、ある人物へと連絡を取る。


 数コールののち、その相手と繋がった。



『はい、アイリスです』



 俺は、声の限り叫んだ。


 もう……限界でした。



「助けてアイリス!! お前の力が必要だ!!」


『な、なんですか!? いきなり!?』



 ――


 ――


 ――



「なるほど、祝勝会に同席して欲しかったのですね」


「そうなんだよ!! 俺、ノアセダルでは大目に見られてるところあるからなんとかやっていけてたけど、外国で社交会に出るとか何か粗相をしそうで吐きそう!!」



 粗相をしそうで吐きそう……韻が踏めてしまった。


 数十分後、ヘリに乗ってやってきたアイリスに俺は頭を下げていた。


 ……なんか某国民的アニメでネコ型ロボットに縋り付く主人公のようだ。



「もう……わかりました。レオンさんのフォローは私が勤めます……ふふっ♪」


「何がおかしい」



 俺はいっぱいいっぱいなんだぞ。



「いえ! なんでもありません!!」



 アイリスになんか誤魔化されたところで、後ろでクリス達が話しかけてきた。



「……お前、ホントに社交界嫌いだよな」


「もう自分を過小評価するのやめなさいよ」


「そうはいっても、俺は平民だぞ!」


「「宇宙開発とかできる平民が他にいるか!!」」



 前世ではゴロゴロいたぞ。


 ……まぁ、大体有名大学出身だったけど。



「ところでアイリス、例の新英雄殿は大丈夫なのか?」



 クリスが、今回のスタンピードで大活躍した英雄の息子さんの容体を聞いた。



「大丈夫よ。今頃、艦内を散歩している頃じゃないかしら」


「驚いてたんじゃない? 艦の大きさにさ」


「ええ、付き添いのルナさんは殆ど放心状態だったわ」



 クラリスの言う通り、レイディアントガーデン製の船舶は正直この世界では「異端」とも言えるほどの大きさを誇っている。


 アルファードとゼーゲブレヒトは特にデカいからな。



「まぁ、散歩出来るほど回復しているのならよかったよ」


「どうされます? お会いになられますか?」



 ……まぁ、もうやることも無くなったし、自分の天幕も片付けちゃったから寝るとこがない。


 艦に行かなきゃ寝床がないのだ。



「そうだな。一度会って見ようかな」



 物語の主人公のような働きをした彼は、どんな人物だろうか?


 ……というか、この世界主人公多いな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ