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episode21 レイディアントナイツ出撃

 


 航空魔法士母艦、DDH-1:アルファードの艦橋側上甲板


 アケルリース王国に向かって進む巨大な船の上でマリアは口を半開いて暗い海を眺めていた。


 その横で、リディアも同じような表情をしていた。



「……こんな大きな建造物が海を進むなんてね」


「いやぁ……遠くから見えてたけど、なんかの建物だと思ってた」



 マリアとリディアが驚いても不思議ではない。


 この世界での大型の船といえば、ガレオン船と呼ばれる構造の船が主流であり、基準排水量(船の重さ)も500t〜1000tくらいが普通である。


 しかし、マリア達航空魔法士が搭乗している空母は、現代の日本のヘリ空母「いずも型」を模している為、基準排水量は19500tと、この世界の船と比べるととてつもなく大きく、見る人によっては小さな島が動いていると思ってしまってもおかしくない。



 しかも、随伴している他の船もマイフェルト型(護衛艦あたご型)は7750t。


 ソレオン型(護衛艦あきづき型)は5050tとやはり大きく、空母以外でも度肝を抜かれる。



「普段はSRBを回収するのが主任務で、場合によっては海上の魔物の討伐もするんだって」


「へぇ……」



 これだけの大きさの船をロケットブースター回収のためだけに作ったのかと、マリアは改めて、レイディアントガーデンのスケールの大きさに驚いていた。


 しかし――



「でも、そのおかげで、こうして助けに行けるんだもん。感謝しないとね」


「……そうだよね。アケルリース王国はマリアの故郷だもんね」



 マリアは本来、特別輸送隊所属の航空魔法士だ。


 そこを部隊長が気を利かして、今回の作戦にマリアが従事できるよう、掛け合ってくれたことにマリアは感謝していた。



「助けに行く機会を与えてくれて、隊長には感謝してる。……絶対、国を蹂躙なんてさせるもんですか!!」


「その意気だよ! イーグルライダー!!」



 速力55kt


 艦隊は帆船とは比べ物にならない速度で進んでいた。










 ◆










 出撃から1時間が経過した。


 クリス率いるレイディアントナイツ第一航空中隊と第二航空中隊はC-2輸送機にて、先行してアケルリース空港へ向かっていた。



「後、2時間ほどで第一波到達か……」


「少し……間に合わないわね。でも、第二波到達には間に合うかも」



 クリスとクラリス、そして他のレイディアントナイツ第一航空中隊「ガルーダ隊」と第二航空中隊「アークプリースト隊」は全員F-35を装着していた。



「STS-11クルーが抜けてるからフルメンバーじゃないけど……」


「通常行っている魔物討伐と違って、今回は海上からの支援もありますから大群相手でも大丈夫でしょう」



 クラウディアの呟きにアイリーンが答えた。


 しかし、それに関してエルフリーデが疑問を抱く。



「あら? マイフェルト型もソレオン型も長距離支援ができるのはトマホークミサイルですよね?」


「そうですね」


「……それって、打ち込んで大丈夫なんでしょうか? 自国ならばすぐに許可を頂けるでしょうが、他国ですよね?」


「……」



 エルフリーデの疑問にみんな納得してしまった。


 自国であれば連絡網が敷設されている為、王国政府にすぐ連絡がつき、許可をもらうのもすぐさま連絡がつくだろう。


 しかし、外国にはノアセダル王国政府から、今回の場合はアケルリース王国へ連絡を入れてもらい、許可をもらう必要がある。



「……ホントっすね」


「じゃあ、支援なしで何千、何万単位の魔物や魔獣を相手にしなきゃならねぇってことか?」



 マルクスが納得すると、パウル・ツァハリアスが質問を投げかけた。


 すると皆、表情を暗くした。



「いや、俺達だけで対応するわけじゃねぇだろ?! 現地の兵士だっているし、後からアルファードとゼーゲブレヒトから増員が来るんだからさ!」



 パウルは慌てた様子で皆を励ます。


 ゼーゲブレヒトとは、航空母艦アルファード型二番艦のことである。


 確かに、自分達は先行して来ているだけであったことを皆、失念していた。



「……夜中に叩き起こされた弊害が出てるな」


「よし! 皆! 一旦寝ましょう!!」



 クラリスはそういうものの、皆はそうはいかなかった。



「いや、この状況で寝れませんよ」


「未曾有の災害で、他国の兵士達が決死の覚悟で前線に立ってるのに……」



 ラウラとライナーがそれぞれ声を上げた。


 確かに、今までノアセダル軍と協力することはあったが、他国との共同で戦場に立つことは、彼らにとって初であり、しかも未曾有の大災害……そんな状況では緊張で眠れないのも無理はなかった。



 ……ただ一人を除いて。



「zzz」


「……こいつ、神経図太いな」



 デニス・フォン・ニューエンが隣で寝ている人物を見ながら、呆れたように言葉を漏らした。


 その人物とは、パトリシア・グロートである。



「確か……水平飛行(レベルオフ)を迎えた直後には目を瞑っていたような……」


「……我が親友ながら、見習いたいですね。その神経」


 仲のいいクラウディアとアイリーンは、だらしない表情で眠るパトリシアを見て毒気を抜かれた。



 だが、それはガルーダ隊、アークプリースト隊双方の緊張を上手くほぐしてくれた。


 ……本人はただ、眠いから寝ただけだろうが。



「zzz……エヘヘ……」











 ◆










 アケルリース王国側迷いの森 3:15


 到着予想時刻10分前。


 王国魔法士団から報告が上がる。



「スタンピード群接近中!! 到達は10分後となる模様!!」


「はぇ〜、予想時間ピッタリだ。ヤベェな、ノアセダル王国は」


「ホントに来た……こんなに正確に予想するなんて」



 スタンピード群を最初に相手取り、大魔法によって大群を殲滅する役目を担う、英雄マーリン・グランウィードとその息子レンは、魔物達が大挙してやってくる森の前で並んで立っていた。


 彼らの数百m後方には、殲滅しきれなかった残党を処理するための王国軍と騎士団、そして学徒動員にて召集された高等魔法学園と騎士養成学校の生徒が陣取っていた。



「父ちゃん、今回は魔物素材の回収のことは考えなくていいんだよね?」


「おう、これは災害対応だからな。だから死骸を残す必要はねぇ……思いっきり行け!」


「へへッ……了解!!」


「到達5分前!!」



 探索魔法士の言葉を受けて、マーリンとレンは魔力を集め始めた。


 空気が震えるほどの魔力をかき集め、それを巨大な炎に変換する。



 その炎の色は、誰も見たことのない……真っ青な炎だった。



「スタンピード群……来ます!!」



 魔法士の言葉通り、森の中から狼や猪、鹿に至るまで、魔物化した動物達が、雪崩れ込んできた。



「いくぞ!! レン!!」


「おう!!」


「「ぶっ飛べぇぇぇぇぇ!!」」



 瞬間。


 青い炎が放たれると、眩い光と轟音と共にその音圧が辺りに伝播する。


 地面を震わせ、放たれた火球は、魔物を巻き込みながら突き進み、数百m進んだ先に着弾。



 そして――夜の暗闇を明るく照らすほどの大爆発を起こした。



「レン!!」


「わかってるよ!!」



 二人は爆発を見止めると、すぐさま魔力障壁を展開し、衝撃波に備えた。


 展開直後にその波が押し寄せ、土煙を上げる。


 後方にいる部隊も、事前に魔力障壁を張るよう通達していた。



 そして……その土煙が晴れ、残存した魔物はいないか確認すると――



「残存する魔物……なし!」


「目視でも……魔物は見当たりません!!」



 その報告を聞いた兵士達は歓声を上げた。



「さすが英雄!!賢者マーリン様だ!!」


「そして新たな英雄!レン・グランウィード様!!」



 強烈な魔法で大群を退けたことで、その場にいた人達は希望が芽生えた。


 この未曾有の危機を乗り越えることができると!



「浮かれんじゃねぇ!! まだ第二波がくるって予想が出てるだろ!!まだ戦いは終わってねぇぞ!!」


「「「は、はい!!」」」



 だが、マーリンは緊張を解いておらず、それはレンも同じであった。



「父ちゃん……さっきのが主力だと思う?」


「……思わねぇな」



 先程の大群の構成は、狼、猪、鹿が大半だった。


 だが、マーリンとレンは森に住んでいたからこそ、それに違和感を覚えていた。



 ……熊や虎などの凶暴な動物の魔物がいなかったからだ。


「さっきのが大体、500から800体ぐらいだったけど……全体では万を超えてるんだよね?」


「ああ、聞いた話じゃそうだな……」



 魔物化した動物は万を超えている。


 しかし、ここに来たのは800体ほど。


 これが示しているのは――



「さっきのは……ただ森の中心から溢れた魔物ってだけだろうな」


「ってことは……いつかは……」



 ――万単位の魔物が押し寄せてくる、ということだった。










 ◆










「……凄まじいな」



 DDH-1:アルファードのブリッジで、アケルリース側のスタンピード群の状況をを見ていたが、その大群がレーダーから消えた。


 ……恐らく、英雄マーリン殿とマリアの言っていた、その息子のレンという少年の魔法だろう。


 マリアの魔法を見ていなければ、こんなことは思わなかっただろうな。


 普通じゃありえない威力の魔法だ。



「ですが……殲滅戦ぐらいでしか投入出来そうにありませんね。仲間を巻き込まずに戦ってくれるか不安です」


「確かにあの威力の魔法をバンバン打たれちゃ、たまったもんじゃないな」



 フィリップの言う通りだった。


 大威力の魔法というのはいざというときには頼りになるだろうが……それが標準になってしまうとただの危険人物になってしまう。


 歩く核兵器になるからな。



「しかし、第一波は全体総数から見ると極少数……いずれは万単位で押し寄せてくるだろうな」


「現在、解析班が本社で観測データから推定中です。ただ、発生した魔物の数が多すぎて解析に時間がかかっている模様で……」


「後は……先行して空路でアケルリースに向かったクリス達に見てもらう……か……」



 後1時間程度でアケルリースに到着するクリス達ガルーダ隊とアークプリースト隊に実際見てもらうという手もある……だが――



「偵察用装備を付けていない以上、目視確認になる。信憑性は薄くなるな」



 魔物は開けた荒野ではなく森からやって来ている。


 森なのだから、当然、木が生い茂っているため、上から見ても、枝葉に邪魔されて目視では見切れない。


 加えて夜であるため、余計見づらいだろう。



「……フィリップ」


「はっ!」


「航空魔法士二名をRF-4Eを装着させて偵察任務へ送り出せ。正確な数を知りたい」


「了解しました!」










 ◆










『いいか? 無茶な機動はするなよ』


「はい! わかっています!!」


「しっかりと任務を遂行します!!」



 上甲板に偵察用F-4ファントム「RF-4E」を装着し、レオンから注意を聞いているマリアとリディアはテイクオフ許可を待っていた。



『そのRF-4Eは通常のファントムと違い、最大でM1.9まで加速することができる。ETA(到着予定時刻)は1時間15分だ』


「「はい!」」


『MDFS自体に装着者負荷軽減魔法を施しているが、1時間もぶっ通しで飛ぶんだ。自分で思うよりも疲労が蓄積されてるから、戦闘に参加しようとは考えないこと!』


「「わかりました!!」」


『よし! コールサインはマリアがスピカ1、リディアがスピカ2だ』


「「了解!!」」


『こちら管制室。スピカ1、スピカ2、クリアードフォーテイクオフ』


「ラジャー、クリアードフォーテイクオフ! スピカ1!」


「クリアードフォーテイクオフ! スピカ2!」



 管制室から離陸許可が降りた。


 その瞬間、上甲板のガイドビーコンに明かりが灯り出し、光の道が形成された。



「スピカ1! マリア・フォン・フィーメル!!」


「スピカ2! リディア・リンク!!」


「「ブラストオフ!!」」



 マテリアル・クリスタルから魔力を供給し、二人は離陸した。


 ポジティブ(離陸確認)直後、管制室から指示が飛んでくる。



『スピカ1、2。高度10000ftまで上昇後、アフターバーナーを点火。超音速飛行へと移行せよ』


「スピカ1、了解!」


「スピカ2、了解!……よかったね、マリア」



 管制室への返答を終え、上昇を始めるとリディアが声を掛けた。



「うん……これで、皆を助けに行ける」


「……マリア、戦闘には参加するなって言われたでしょ?」


「わ、わかってるよ!! この任務だって、皆の手助けになるでしょ!!」


「えぇ〜なんか、着いたらそのまま魔物の大群に突っ込みそう……」


「し、しないよ!! しないからね!! ちゃんとマスターの言いつけは守るよ!!」



 そんな会話をしていたら、高度は10000ftに達しようとしていた。



「よし……アフターバーナースタンバイ」


「スタンバイ……レディ……」


「「ナウ!!」」



 アフターバーナーを起動し、二人は最高速度まで加速して、アケルリース王国側の迷いの森へと急いだ。


 魔力障壁により、空気抵抗は極力減らされている為、体への負担は余りない。


 が、超音速飛行を行なっている以上、負担はなくとも疲労は出る。


 しかし、マリアはそんなことはお構いなしに空を突き進む。



「待ってて皆……絶対、助けるから!」











 ◆










 マリア達を偵察に向かわせた後、フィリップとこれからのことを話し合い始めた。



「マリア達の報告如何では、ミサイルによる曳火砲撃を行う場合もある……が――」


「問題は、我々の位置……ですね」



 そう。


 幾ら、この艦船が前世の護衛艦より二倍近く速くとも、やはり航空機とは比べるまでもなく、遅い。


 艦底に魔力障壁を張り、抵抗を下げているからこそ出せる速度だが、これが限界だ。



 元々、これはSRB回収用であって戦闘用ではない。


 飽くまで、装備は自衛の為のおまけなのだ。



「出発から3時間……現地に到着できるのは30時間以上掛かる……正直、トマホークの射程は3000kmだから後1時間もすれば迷いの森は射程圏内だが……」


「極遠距離からの攻撃手段を有している……と喧伝するのと同じですね」



 前世では、ロケットというのはまず最初に戦略兵器として運用された為、宇宙ロケット技術はミサイル技術にも転用可能であると直ぐに結びつけることができる。


 しかし、今世では、ロケットはまず宇宙ロケットとして運用した為、世間では「乗り物」という認識だ。


 なので……気づいている者もいるかもしれないが、ロケットに火薬を積んで、敵地に落とすという考え方はほぼ浮かんでこないのだ。


 そもそも、この世界では、剣戟での戦闘が主流であり、魔法はその支援目的である。


 遠距離攻撃という概念が、未だ根付いていないのだ。


 そんな状況でミサイルを使えば――



「ロケットは……危険な物だと思われるかもしれない」


「そうなれば……宇宙開発を止められる可能性も出てきますね」



 宇宙に行きたいという夢は既に叶っているが、つい数時間前にスペースラブで魔法の研究が一歩進みそうな結果が出たんだ。


 こんなところで終わらせたくない。



「……まぁ、第一波レベルの数が順番にやってくるなら、英雄殿に気張ってもらって俺達は支援に回れるんだけどな」


「そうですね……そうなればまだ対処のしようもありましょう」



 ただ……これは楽観的な希望であることを、俺もフィリップも理解していた。











 ◆










 航空母艦アルファード型二番艦:ゼーゲブレヒト


 第二航空隊を輸送している艦内でアイリスは医薬品のチェックを行なっていた。


 魔法医薬品の擦過傷などの軽度の怪我を治すポーションや魔法を行使しすぎて血中魔力濃度が極端に減ってしまった人の為に、舐めることでゆっくりと魔力を補充することができる魔力タブレットなどの在庫は十分にある。


 後は、重症者を治すための設備がこのゼーゲブレヒトには多数装備されている。


 ちなみにこれらの魔法医薬品を開発したのはアイリスである。



「アイリス様、こちらのチェックが終わりました」


「ありがとう、これで患者が雪崩れ込んでも大丈夫ね」



 一緒に確認作業をしてくれていた女子衛生士に礼をいう。



「でもすごいですよね、この船。医療に特化した設備がたくさんあって」


「SRB回収用だけど、それだけじゃ宝の持ち腐れだからって、マスターが有事の際に怪我人なんかを直ぐに治療できるようにってこの二番艦を建造したのよ」


「有事っていうと……」


「今回のような災害を想定してたみたい。後は……戦争で傷ついた兵士を治療することも視野に入れてるようね」


「さすがマスターですね。そんなことまで考えているなんて……でも、そのおかげで、こうして助けに行けるんですよね!」


「そうね……無事に終わればいいのだけれど……」



 助けに行きたいという想いを汲み取り、こうして実際に派遣される状況を作ってくれたレオンに感謝しつつ、スタンピードが無事に終わることを願うアイリスだったが、神様はそう簡単には終わらせてくれないようだった。



「――アイリス様! 大変です!!」


「何? どうしたの?」



 倉庫に慌てた様子で入ってきたブリッジ要員の女の子が入ってきた。



「スタンピード第二波がアケルリース王国へ進行中! 接敵まで後30分ほどなのですが……」


「どうかしたの? 第一波の対応を見る限りでは大丈夫そうだったけれど」


「その第一波を退けた大魔法のせいで抉れた地面を避けるように魔物の群れが二手に別れてしまったんです!!」


「えっ!? じゃあ、会敵予想地点がズレるってこと!?」


「はい! 加えて、第三波の存在を確認し、その中には――」



 会敵地点がズレれば、戦術を変えなければならなくなるだろう。


 そして、彼女の口から放たれたのは――



「サラマンダーが複数体いることがわかりました!!」



 恐れていた……魔獣との接敵だった。

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