2.猫さんとの電車は
「かわいいなぁ~。白黒なら連れて帰る」
入って間もない営業の間宮君が段ボールの箱に猫を入れながらニヤついているけど聞き捨てならない台詞なのですが。
「私、山田さんに頼んだんですけど」
柄なんてどうでもいいじゃいの。確かにお坊ちゃんの家なら高級ご飯が出てきそうだけど、私が猫だったら断固拒否。だって舌打ちばかり聞いていたくないもの。
「花ちゃん、とって付けてく?」
「おおっ! お願いします!」
流石山田さん。素面の時はとても親切。お酒に呑まれるととたんにダークなのが女子から残念がられているだよね。
「いやー、しかし初めてだなぁバンドかけたの」
「ですよね」
ネクタイを肩にひっかけシャツの袖をまくりあげた姿は、なんかカッコイイ。いえ、奥さんとお子さん二人いる人に何もしません。ただのスーツとかネクタイとか好きなだけですから。
「あ、穴あけなきゃ」
何から何までありがたや。
拝みそうになっちゃいましたよ。
「では、ありがとうございました!」
梱包資材の商社でよかったと初めて感謝しながら、私は今度こそ帰るために駅に向かった。
ガザゴソ
ガサガサ
「ニャー、ニャー」
帰宅時間より早いとはいえ、段ボールを持つ私は車内の隅でこれ以上小さくなれないくらい、気配をできるだけ消すが。
「ニャー」
頼む!
本当に今だけ静かにしてよぅ。
最近の中でダントツに辛い電車だった。
「ごめんね。怖いよね」
最寄り駅の終点のホームに降り、一度ベンチに置き猫に話しかけながら手をニギニギ。
「子猫なのにけっこう重いな。でも」
「ニャー」
「はぁ、しょうがない。行くか」
ミニバスは、小さいから座れないし、なにより猫を嫌がる人もいるかもしれない。私は、バスを諦め歩き出した。
「繋がるかな……」
そして小雨の中、傘を肩にのせ電話をかけた相手は。
『はい』
「あ、出た! まだこれから帰りだよね?! ちょっとお願いが!」
世帯主ではないが、我が花咲家を仕切る母にドキドキしながら、負けないぞと本日一番と言えるくらいの気合いを込め直談判と買い物を頼んだ。
* * *
「あーきっつ」
まだ門まで着いていないのに犬達の声がする。間違いなく家だ。相変わらず賑やかで、ドアを開ければ尻尾を振りまくり歓迎してくれるはずだ。
いつもと変わらないはずだが、今日はちょっと違う。私は段ボールの中が静かになっているのに気づき不安になる。
「犬と猫のパターンは初めてだ。どうしようかな」
焼きもちやきの我が家の二匹は、子猫を見てどうするか?
「想像がつかない。最悪タックを組んで攻撃とかありそうで怖い。あ、あとノミとかいるのかな?」
ノミってそもそも猫から犬に移動できるの?
「ヤバい。なんにも知らないよ」
とりあえず落ち着け。
「えっと、最初は犬とは会わせないほうがいいだろうから私の部屋に連れていって。あ、ケージあったよね。組み立ててお風呂もかぁ」
まずは。
「はい、ただいまー! ご飯用意するねー」
ワンワンと騒ぐ家族に声かけをした舞だった。