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ガラと目付きの悪いサンタさん

作者: 湖月もか

一応クリスマスを題材に書きました!

いつもの如く勢いで書いておりますし、少しシリアス気味。でもハッピーエンド。

そんな作品です。

 雪がチラつく中、真っ赤に(かじか)んだ手を擦り合わせひんやりと冷えた鍵をバッグからゆっくりと取り出す。寒さに震える手では上手く鍵穴に差し込めず、無機質な金属の擦れ合う音が辺りに響き世界に一人だけのような淋しさが溢れる。


「……はーっ」


 その思いを誤魔化すように何度か自身の息を吹きかけ、少しだけ温まった手で差した鍵を回す。ガチャりとロックが開く音に『やっぱり』とどこか達観したような思いが湧き上がるが、どうしても虚しいものだ。


「ただいま」


 いつも通り返って来ない声にぐっと堪えて、鞄とコートを部屋のベッドへと投げ置く。鞄の中にあるお気に入りの筆記用具がガタンと少し音を立てたのを横目に、誰も居ないであろうリビングへ向かう。


 リビングのテーブルの上には綺麗にラッピングされた小ぶりな二つの箱と、ラップのかかった料理が並んでいた。電気を付けてもやはり誰もいない空間に、並んだそれらは余計に孤独を感じさせるだけで、せっかくの日なのに重いため息が漏れそうになる。


『お誕生日おめでとう。ケーキは冷蔵庫に入ってるから夕飯の後に食べてください。二人とも帰りは遅くなるのでお母さんとお父さんの事は気にせずに食べてね』


 傍らには小さなクリスマスカードに書かれた無機質なメモが一枚。

 隣に並ぶ箱は誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントだろう。


「……申し訳ないなんて微塵も思ってないくせに」


 漏れ出た恨み言に奥歯を噛み締めぐしゃりとメモを握り潰し、そのままゴミ箱へと乱雑に入れる。


 テーブルに並んだ料理は家を出るギリギリに作ってくれたのだろうが、既に真冬の空気に晒されて温かみを感じることができない。

 そっと触れるともう冷たくなってしまっている。『食べる時に温めなければ』とリビングに飾られているシンプルな時計を見上げた。


 今は午後五時。まだご飯を食べるには些か早い時間だし、空腹感はまだそこまでない。

 今日はクリスマスで友人達も恋人との逢瀬に暇などないわけで、必然的に寄り道などできず帰宅はいつもより早まってしまった。


「……だからクリスマスなんて嫌いなのよ」


 続けて口からでた恨み言は静かな空間に沈んで消えていく。


 晩御飯までの時間をどう過ごそうか思案した時、考えを遮るかのようにピンポンと甲高くインターホンが来客を告げた。

 この日のこんな時間にどうせ何かの勧誘だろうとたかを括り、私はそのまま出ずに居留守を装う。物音を立てないよう静かに外の様子を伺いながら。


 ピンポーン


「あれ? 愛実(まなみ)居ないのかな。……おーい、竜樹(たつき)兄ちゃんだぞ。愛実居るんだろー? …………んー、まだ学校なのかな」

「お兄ちゃん!? ……ま、まって」


 聞こえてきたそこに居るはずのない兄の声と遠ざかる足音に慌てて玄関に駆け寄り、扉を恐る恐る開けた。


「あ、やっぱり居た。愛実お誕生日おめでとう! あと、メリークリスマス!」


 開けた先に居たのは紛れもなく私の兄で。久しぶり会う兄は少しだけ髪が伸びて大人っぽくなっていたが、笑顔は昔のまま太陽のような朗らかさを残している。


「おにいちゃん……」

「母さん達は? もしかしてまた仕事か? まったくあの人達は変わらないなあ……。寂しかったろ。ほら兄ちゃんが来たから一緒に祝おう、な? 愛実が産まれためでたい日なんだから」


 もう寂しくないぞと優しく頭を撫でる兄の手は数年前と変わらなかった。



「ほら。これプレゼント」


 椅子に座り兄の差し出した紙袋には、白いふわふわの手袋が可愛くラッピングされていた。


「わあ、ありがとう! ちょうど手袋ボロボロになっちゃって、買い換えようと思ってたの。柔らかい……」

「おー、よかったよかった」

「そういえば、お兄ちゃんいつ帰ってきたの? しばらく帰って来れないって言ってたけど」

「あー……。いまさっき、帰ってきたんだよ。それよりも学校どうだ? 楽しいか?」


 何となく、はぐらかされた様な気がする。



「楽しいよ」

「ほんとか? ……恋人とか、は」

「出来てない。出来てたら今家にいないよ」

「そっか。そうだよな! もし出来たら真っ先に俺に会わせろよ? 俺が愛実に相応しいか見てやる」

「えー……。お兄ちゃんまるでお父さんみたいな事言ってる」

「え。それはちょっとやだな」


 ぷっと二人で吹き出して笑う。

 地方に仕事に出た兄は大型の休みでもない限りは家に来ることは無い。ここ数年は特に忙しかったようで会えていなかったので、サプライズもいいところだ。


 今まで会えなかった間の話を沢山話し、お兄ちゃんの向こうでの生活も同じくらい聞いて関心したり、びっくりしたり。とにかくここ数年味わう事がなかった楽しい食卓を過ごした。


「恥ずかしいよー。蝋燭なんていらないって」

「ホールじゃないから十五本させないけど、一本くらいいいだろ。おめでたい日なんだから」


 そう言ってお兄ちゃんは四つあったカットケーキの内、ショートケーキとチーズケーキを取り出して一つずつ蝋燭を立てた。


「改めて。愛実、お誕生日おめでとう!ほらほら。愛実吹き消して」


 仕方が無いなあと息を吹きかけて火を消す。幼い頃のお誕生日会を思い出し、少し恥ずかしいが目の前の兄が嬉しそうに笑っているからまあいいか。


「……本当におめでとう。もう十五歳かあ。早いな」

「どうしたのお兄ちゃん。今日本当にお父さんみたいだよ?」

「兄ちゃんまだ二十五歳だから! ピッチピチの二十代だからそういうこと言わないで。すこしショック」


 さすがに『同じ年齢で父親の人も居るよね?』とは言えなかった。



 ◆-----


 はしゃぎ疲れたのか愛実は静かに寝息を立てている。

 お風呂上がりにソファで寝てしまった彼女をゆっくり抱き上げて、部屋へと運ぶ。

 ベッドの上に乱雑に置かれた鞄とコートを申し訳ないけど足でなるべく音を立てないように床へ落とす。両手が塞がっているし誰も見ていない。


『丁寧に』

「わかったわかった」


 すぐ傍のそいつが睨みながら小さく忠告してくるのを軽くいなし、そっと彼女をベッドへと寝かせる。風邪をひかないようちゃんと毛布もかけて。


 足で退けた鞄を机に、コートは壁のハンガーにかけて皺を伸ばしておく。


『おやすみ』

「……おやすみ」


 いい夢を見ているのか笑顔の彼女を起こさぬように、小さく声をかけ部屋を後にする。


「……おい、これでいいんだろ」


 後ろを振り返り声をかけた同じ容姿をした男は、透けて宙に浮きとても嬉しそうに満足そうに笑っている。


『うん。ありがとう』

「気にすんな。お前の……、竜樹の最期の(・・・)願いだからな」

『君悪魔なのに優しいんだね』

「おい、誰が悪魔だ。いつ俺が悪魔だっていったよ」

『え。じゃあ死神?』


 竜樹はさも不思議そうに首を傾げた。


「……はい、魂の回収といえば?」


 スリップ事故に巻き込まれて亡くなった竜樹の想いに引き寄せられて、強い叫びに引かれた。彼は可愛い可愛い妹の誕生日を祝ってあげたいと嘆いていた。

 だから竜樹の姿を真似て二人で祝ったわけだ。


『悪魔でも、死神でもなくて、魂を回収するもの。………………え? もしかして君、天使なの』

「はーい、竜樹さん大正解! そんな貴方には天国へご案内しましょう」

『なんかごめん。だって君ガラも目付きも悪いし。……悪魔なのに親切だなあとは思ってたけど、天使なら納得だね』

「失礼な奴だな」

『ごめんって。ほんと感謝してるんだよ、君には。ありがとう。満足したし、改めて天国までよろしくね』


 悪いと思ってなさそうな男を連れて家をあとにする。


『欲しいものをあげたわけだから、ある意味君はサンタさんだね』

「うるさい」


 死んだのに嬉しそうな男を見て、こんな夜もありかなと真っ黒な天使は聖夜に微笑んだ。


読んでくださりありがとうございます。

また、次の作品でお会いしましょう!

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