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ワンナイト680円

作者: えるえる

 間違えて途中で投稿してしまったものです。

 反省を込めてそのままにしてあります。


 空を見上げると、茶色の雲で覆われている。道々は小汚く、高度に発展したはずの社会は、醜くて仕方がない。道を歩けば、ホームレスと思われる人達がダランと横たわっている。彼らは機械に仕事を奪われた。世間の流れを見極められなかったのだろう。

 

 途中、ホームレスが私に対して何か言っていたが、蹴り飛ばした。まったく、その汚い手で触られてスーツが汚れてしまったらどうするのか。


 そして光り輝くネオンを頭上に称えながら、薄暗い路地裏に入った。

 ネオンの光が、雑多に置かれたゴミや小汚い箱を照らしていて、私を興奮させた。


 目的の店へとたどりつく。人目につかない、どうでも良い店。


 地下へと潜る階段を見つけ、一歩ずつ降りた。何かの腐臭だろうか、―—汚れた油のような――、不衛生な匂いを感じるが気にせず降りていく。

 階段を下りホールに出ると、壁に大きな電光掲示板がかけらていた。見目麗しい女性達の写真が映し出され、どれもこれもが可愛らしい。左右対称でシミ一つない肌、愛嬌のあるヒトミ、不自然な程端正な表情。それらは完璧だった。

 私は好みの子を選択した。

 

 数分程立って待つと、分厚く固い扉が開いた。


 「こんばんわ、お兄さん。私はミオン、今日はよろしくね」


 お兄さんという年ではないのだが、叔父さんと呼ばれるよりは好感が持てる。何より可愛らしい彼女に呼ばれるのはそう悪くない。

 しかし、服装はもう少し何とかならないのだろうか。安手の薄い生地で作られているのが一目でわかるドレスを着こんでいる。『可愛いのに勿体ない』と思うのだが、お店としては仕方ないのだろう。彼女たちは維持費がかかる。


 基本料金は680円。ここからドリンク代金を足していく。客寄せに安い金額を提示して、というのは商売の基本なのだろう。しかし私はそういったシステムが好きだ。


 彼女に手を引かれ、店の中へ案内されると、それなりに豪華な個室へ案内された。

 私はメニュー表を開き、何のドリンクにしようか考える。当然、このような店にくるのだから、金は用意してあるのだが……

 とある考えの下、私はノンアルコールな安物のドリンクを頼んだ。


 するとミオンの表情が急に硬くなる。安物のドリンクを頼んだのだから、彼女からしたら実入りが少ないのだろう。もしかしたらお店に怒られるのかもしれない。そう考え、私は下品な笑みを浮かべないように努力した。

 

 「ねぇ、お兄さん。やっぱり私みたいな子じゃ、ダメかな?」


 そう言って彼女は上目遣いにおねだりをしてくる。私はそうやって媚びを売られるその瞬間がたまらなく好きで、だからこう言ってやる。 下品で申し訳ないのだが、私はそういった感覚に興奮する性質なのだ。

 

 「仕方ないな、何を頼んでほしいんだい?」


 「この高い奴がいいな、サービスするよ」


 そう言って彼女は私の太ももをスリスリとさすり出した。私はそんな彼女の行動を見て、『なるほど、彼女は売れてないな』と得心する。駆け引きというものがなってはいないし、彼女の表情からは、必死さの様な何かが零れている。接客としては間違いだ。

 きっと売り上げが悪く、お店での立場が悪いのだろう。


 さて、どうしたものだろうかと思案していると彼女がグッと身を寄せてくる。


 「ねぇ、お願い。知ってると思うけど、厳しい世界なの。人助けすると思って……」

 

 私は鼻を鳴らして軽く笑ってしまう。『人助け』等と片腹痛いが、まぁ仕方ないだろう。彼女らは世間で言うほど賢くない。

 

 「そうだね、私は君みたいな子が好みだよ。でもそれだけじゃあダメだ」


 私がそう言ってヒントを出す。私は彼女の立場をよく知っている。媚びるだけでは、客は取れないのだ。どのような方法を取ろうとも、彼女に必要なのは売り上げと店の立場である。


 「私、あなたのことを一目見て惚れちゃったみたいなの……。体が熱くてたまらないわ」


 私はミオンの言葉を聞いて呆れてしまった。あんまりなその台詞は、まったく気分が盛り上がらない。

 だからこの高級な酒を頼んだとして、それを対価に、私は楽しめるのだろうか。


 だんまりとして話を聞いていると、ミオンは私の鼻先に顔を持ってきた。その不気味なほどに端正な顔に、じっと見つめられた。そう、救いを求めるように。


 ……、まぁ及第点だろう。私は彼女の評価を見直す。情熱的で、それなりに賢いらしい。下手なことを喋られるよりはこうして見つめられた方が盛り上がる。

 それに体の血が集まるのを感じる。体は正直で、どうやら彼女を気に入ったらしい。


 私はにんまりと笑って、彼女のご所望のドリンクを注文する。

 ミオンは個室に置いてある冷蔵庫からそのドリンクを持ち出し、私のグラスに並々と注ぎ始めた。カランとグラスを当てて、乾杯する。さて、お目当ての時間だ。

 

 「高級なドリンクもいいけど、私は甘いドリンクが飲みたいんだ。甘ったるくて、でも少し酸っぱい。ミオンのことさ」


 私は気障ったらしい台詞を吐く。彼女は感動したように表情を動かし、私に抱き着いた。

 彼女との『約束』通り、私と彼女は熱い夜を過ごした。

 

 生を実感した。


 ひとしきり楽しんだ私は、基本料金の680円に、ドリンク代金を足した金額を支払った。会計は10万程だっただろうか。しかし、私はこれがたまらなく愉悦なのだ。素敵な彼女の代金は680円。680円という安い金額で彼女を買うという事実が、私を高ぶらせるのだ。

 

 寂しく太陽が照らし出す地上へと出た。ミオンは私を見送るためだろう、最後までついてきてくれるようだ。


 すると、店の男性店員だろうか。袋に包まれた重そうな荷物をドサリと路地に捨てた。その袋の中からは汚れてはいるが、人の手が見える。なるほど、捨てられたのか。ミオンの顔が恐怖に染まり、私のことを熱く見初める。


 まぁ、彼女達はお金がかかる。体をスムーズに動かすためのオイル、傷んだ部品の交換、定期的なメンテナンスというのはバカにならない。きっと、あそこに捨てられた機械は客が取れなかったのだろう。


 ミオンは怯えたように、私の目を見つめた。そう、この感覚だ。

 彼女は私に媚びなければ生きていけない。それこそが、私を充足させた。


 機械に人間の仕事が奪われてから久しい。夜の仕事までも、彼女のような生体アンドロイドがやるようになった。不細工な人間より、端正なアンドロイドが良いに決まっている。


 人間は、私のような機械の管理者だけが生き残った。ただただ世間には、人間も機械も、必要以上にはいらないという事実が存在していた。


 「またくるよ」


 私はそう言って、店を離れた。彼女が私に対して何度も腰を折っていて、感心してしまう。機械ではあるが、自我がある。生きることに必死なのだ。


 『680円』 私は、その安く無価値なものに対し、とても興奮する。機械は使い捨てられるべきだ。安く楽しみ、そして捨てる。


 そして私は、この店に訪れることは二度となかった。


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