表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

1話 合作のススメ

 新学期が始まると、担任の教師から文化祭のクラス企画を考えるようにというお達しがあった。

 音桐たちの通う朱谷高校では、文化祭は毎年11月の下旬に行われている。聞くところによると、高校の文化祭の規模というのは朱谷に限らず中学までとは比べ物にならないというので、音桐は少しだけ胸を高鳴らせていた。

 ちなみに朱谷高校文芸部にとってもまた文化祭が重要な発表の場であることは言うまでもない。

 朱谷高校文芸部では毎年ペリドットという部誌を出しているそうだ。ペリドットというのは確か何か宝石の一種のことだったと思うが、どのような宝石なのかはわからなかった。

「特集ってのは、なんか1つテーマ決めてそれについて評論したり、短編書いたりするんだよ。去年は異世界、その前はディストピア、もう一つ前は叙述トリックだったかな」

 3年生の越智紀幸がそう言った。越智はこの前の夏まで文芸部の部長をしていた。背が高く、その割にはほっそりとしているので、どこか柳の木のような印象を与える。ライトノベルテイストのSF作品を好んで書き、すでに何本かの短編がSF系の文芸誌に掲載されたこともあるという。

 この朱谷高校文芸部は桜子といい、この落合といい、そういう特殊な人間ばかりが集まっているかと言われればそういうわけでもなく、OB・OG含めて文芸誌に短編が載るなどというのは創部以来の快挙らしい。

 越智が言った特集というのは毎年朱谷高校文芸部の部誌『ペリドット』誌上で組まれているものだ。最近文芸の世界を騒がしていると思しきキーワードを1つ取り上げて、それについて評論したり小説を書いたりする。

『ペリドット』には特集以外にも自由なテーマ、自由なスタイルで作品を載せるページもあり、部員はそのどちらかには必ず作品を掲載することに一応なっている。

「まあ特集のテーマは早めに決めたほうがいいよ。遅くなればなるほど苦しむことになるからね」

 などというのは、元副部長の標葉(しねは)雪乃だ。身長150cm未満と女性にしても小柄だが、言うべきことは言う毅然とした女性である。前髪の揃ったヘアスタイルが印象的だ。

 ちなみに3年生である彼女たちも執筆はするが、基本的に部誌の編集は1年生と2年生が中心となって行われることになっている。雪乃のどこか他人事に聞える発言にはそういう背景があった。


 放課後、桜子の病室を訪れた音桐はこんな風に文化祭についての話を語った。いや語らされた。

 音桐自身は桜子に気を使ってあまり学校の楽しそうな話はしないほうがいいのかなと思っていたのだが。夏休みはじめに音桐が吐いたある嘘のことについて言及されると、彼はなんでも正直に話さざるを得なかった。

「まあ『ペリドット』のことは私も大体知ってるんだけどね。新しい部長の、2年の園浦先輩から連絡があったの。部誌に投稿するかどうか決めておいてくれって。生真面目な人だよね。私にまで連絡してくれるなんて」

 園浦というのは2年の男子生徒だ。成績優秀で、書くものも独創的だが、部内の人間関係には一歩引いた様子を見せる。だから3年生が彼を次の部長に選んだと聞かされたときは少し驚いた。3年生は彼のそういう人柄を評価したのかもしれないけれど。

「それで星合さんは、なんて返事をしたの?」

 作家星合桜子は今現在休業中のはずだ。彼女が文化祭の部誌に小説を掲載するというのは彼女の心理的なハードルはもちろん、出版社との契約なんかも立ちはだかるのかもしれない。

「うん。音桐君さえよければなんだけど、いや本当に嫌なら断ってくれていいから。私と合作で1本投稿しない?」

「え?」

 音桐の口から出た疑問符が酷く上擦っていたのは言うまでもないことだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ