巻き込まれ転移ねずみ
とあるコンクリートの夜も明るい世界の裏。
薄暗い場所で私は食べ物を探している。
「チチッ!」
相棒からの警告の合図を聞いて野菜の切れ端をくわえてゴミ箱の影へと逃げ込む。あの大きな生き物は鈍重だが道具を使う、見つかるとその近くで住むのが難しくなる。他の仲間がやらかして捕まったことがある。
あのときは泣き叫ぶアイツを見捨てざるを得なかった。
現在、小さな私と少し大きい相棒で交代で周囲を監視しながら食べ物を得る日々。
どうやら警告はヨロヨロと移動するデカイのが近づいているみたいだ。ヨロヨロなアイツらは脅威としては低い、普段より更に認識が鈍く見つかっても困ることは無い。
でもわざわざリスクを増やす必要はない、そのまま野菜を相棒と食べながら去っていくまで隠れていよう。
ドスンとデカイのがゴミ箱にぶつかったのか、揺れる。
とっさに逃げなかった我々を誉めて欲しい。逃げようとした相棒のしっぽを踏んで押さえていた足をどける。
相棒の視線が痛い、お前が逃げようとするからだろ! と、にらみ返していると足元が白く光っている。
まさか私達を捕まえる道具か! と逃げようとする二匹。しかし、デカイのが居た場所は表の喧騒が聞こえてくる、静かな空間にすぐ戻った。
現在、デカイのの踵に二匹は息を潜めて隠れている。下水の様な匂いがする、足の匂いだろう。
場所はさっきの所ではない。真っ白い世界にもう1体がいてデカイのと鳴いて意志疎通をしている。バレないかドキドキだ。
また足元が光り、今度は草原に移動した。
デカイのはノソノソ移動して見えなくなった。全く分からないけど、無事生き延びたのだろう。
相棒とハイタッチだ、いっえ~い!
トトトト走って虫を追う、ピョンピョン跳ぶ虫は待ち伏せしている相棒に着地を狙われ、ガブリと噛み千切られた。
シティーネズミな自分達だが生き物は豊富なので森の恵み等で飢えることは無い。連携も抜群で狩りも余裕だ。
問題は狩る奴らがいることだろう。
今まで以上に気を付けていないと餌になるのは自分になるだろう。
ポーン『レベルが上がりました』
何度か聞こえてくる音がまたした。
相棒も鼻をヒクヒクして周りの安全を虫を食べながらしている。
よく分からない音だが、危険ではないようなので無視している、虫だけに……。
ヒクヒクヒゲを揺らして食事を終える。
とある森の朝
「「チューーー」」
二匹のネズミの透き通る声と低く震える声がハモる。
もちろん私と相棒な訳だが。
水溜まりで顔を洗って、ヒゲを綺麗にする。その後は体を伸ばしてストレッチだ。
毎朝恒例でやっているハモりには意味は無い。何故か二匹で気に入ってどちらかが始めるとハモるようにやっているだけ。
今日は自分の体のサイズより倍の大きさはある虫を倒した。
何か狩りも楽になった感じがする。
ポーン『レベルが上がりました、進化が可能です』
ん? いつもの音がちょっと違ったような……
とりあえず食べようか。
地面に落ちていた木の実の殻をガリガリかじって割って相棒が食べているのを見つけた。
やれやれ、周囲の確認を忘れて夢中になって。ハッ!
「チチッ!」
警告音を発する。木の影からデカイのが見えた。
デカイのの中では細いみたいで素早く相棒に近寄っている。
私はこれ以上仲間を見捨てたくないと、捕まる覚悟で相棒の側に向かう。しかしデカイのは私達を捕まえずに、私達を見つめると何と! 私達の頭の中に意志が入ってきた。テレパシーと言うらしい。
どうやら子供を探しているみたいだ。
ぼんやりと子供の映像が頭で見える不思議現象。この子、耳が私達みたいにとがっているよね。
甘くて瑞々しい果実を貰って、見つけたら更に沢山報酬に貰えると聞いたら受けざるを得ない!
見つけたら分かるように変な光を私達に掛けるデカイの。
後は相棒を引き摺って探索に向かう。果実よ待っててね!
木々の合間をとてつもないスピードで大小二匹が縫って進む。
私は向かってくる蛇をかわして、相棒はぶつかって吹き飛ばす。
生まれて一番集中している気がする。何となく方向が分かる。
果物の匂いが微かにする! こっちだ!
最初の草原の先まで進むと子供とデカイのが3体。
子供は口と手を縛られて担がれているようだ。
相棒が担いでいる奴の足を噛んで転ばせる。
「ぐわっ!」
「どうした?」
私も他の奴の足を噛んで逃げ回る。手に持った武器も草むらで逃げる私達には無意味だ。
転んだ奴は相棒にやられてボロボロみたい、私は子供を縛っている紐を噛み切って時間稼ぎに戻る。
「糞が! 潰れろ!」
踏みつけようとしてるけど既に近くには私はいない。相棒と子供の近くだ。
起きている二体は体に矢を生やして倒れた。
転んでボロボロな奴は親に捕まえられ、親子と一体と二匹は森へと戻った。
私は報酬の果実のことでニヤニヤで、いつの間にか周りが霧の場所に入ってることに気付かなかった。
親の仲間だろうか、同じような彼はボロボロの奴を連れて何処かへ行った。
親子と私達は家に入って報酬の果実を貰う。
幸せ~。笑顔でモグモグ食べている私を、相棒は手を広げてやれやれ、といった感じで見ていたけど今は一緒に夢中で食べている。
親子で話をしていたみたいだ。
親の彼からイメージが来た。
娘を守る契約だ。報酬は食事。果実も沢山!
『テイマーからの契約を了承しますか?』
チラリと相棒を見ると腕を組んで大きく頷いた。
『契約完了、進化可能状態です。進化します』
自身が光ると、私は艶やかな毛並みに、相棒は一回り大きくなった。ふふふ、私が鳴くと相棒も続く。
「「チューーー」」
二匹のハモりが響く。親子も笑顔で楽しそうだ。
私達はこの世界で彼等と生きていきます。
『エルフの女王と不思議な二匹のねずみ―出会い』
頭脳派と肉体派のつもりが、結局どっちも食いしん坊キャラでした。チキショー
サラリーマンは宿屋の娘と結婚して宿の平和を守っていきます。
しょうもない話をお読み頂きありがとうございます。
チートとチーズって似ているよね?