執務十五:告白-2
「おや。思っていたより早い到着だね」
キーツ卿はニヤリと笑う。
「チェンバレンさん? どうして……!」
「ぼくが呼んだんだよ」
答えつつ、顎で合図する。
「……パーシヴァル」
呼び声に会わせて、パーシヴァル氏が歩み寄って来て、私の手首を掴んだ。何も解らないうちに無理矢理立たされ、腕を背中側で捻り上げられた。
「痛……ッ!」
「やめろ!!」
チェンバレン氏が叫ぶ。
「抵抗はしない方が良いよ。うちの執事は君の細い腕なんか、簡単に折れる」
キーツ卿が私に向けて言った。
「何が望みなのですか、キーツ伯爵?!」
「おやおや。セバスチャンともあろう男が取り乱してはいけないね。たかが使用人を人質に取られたくらいで」
「人質……?!」
私の口をパーシヴァルの巨大な手が覆った。
「……お静かに。ここは話を合わせて下さい。お願い致します」
耳元で囁く。何が何だか解らないが、言う通りにした方が良さそうだ。
「望みなんて高尚なものじゃないよ。ぼくは君の考えを聞きたいだけさ、セバスチャン。君の口からね」
「……何を仰っているのか解りません」
「君は賢い。ぼくの出した二年越しのメッセージを受け取っても、警戒してか動かなかった。だからこんな強攻策に出るしかなかったんだよ。悪いね」
キーツ卿は嘘を吐いて、チェンバレン氏を追い詰めようとしている。私は傍観するしかなかった。
「この娘を返して欲しいなら、君の口から全てを打ち明ける事だね。君の本当の名前も、目的も。ぼくの前で、いや、この子の前でね」
「……何もお話しする様な事は」
「パーシヴァル」
パーシヴァルの手に力が入る。手加減をしているのか、さして痛くはなかった。たぶんこれは合図なのだろう。口裏を合わせなくては、きっと本当にねじ上げる。演技を強要された。
「……あッ」
「やめろと言っている!」
チェンバレン氏が怒鳴った。
「おいおい。やめるかやめないか、それを決めるのはぼくでも執事でもなく、君だぜ? 勘違いをしてはいけないな」
キーツ卿の口調は冷酷だ。何故こうまでして彼を問い詰める必要があるのか、今のところは解らない。
「さあ、どうするんだい、セバスチャン? 君が口を開くのが先か、彼女の腕が音を立てるのが先か……」
氏の顔が悲痛に歪む。そして小さくうめいてから、
「……解りました」
とうとう、彼の口から真実が告げられる。私の知りたかった真実だ。
「……わたしの姓は、ワーナー」
「名は?」
「……セバスチャン……。ギルバート・チェンバレンは、かつて路上で看取った男の名前です」
まさか。
「宜しい。セバスチャン・ワーナー、それが君の名前だよ、セバスチャン」
キーツ卿は私の方へ顔を向けて続けた。
「ぼくが彼の事を『セバスチャン』と呼んでいたのは、君の所の坊ちゃんがそう呼んでいたからじゃないんだ。それが彼の本名だからだよ」
偶然の一致――いや、運命と言うべきかも知れない。ただ、私は未だに信じられないでいる。
「それでは、セバスチャン。次の質問だ。君は何故、ワイアット家に?」
チェンバレン氏――セバスチャンは、眉を顰めた。
「答えたまえよ。でないと、また彼女が痛い目を見る。それを止める為にわざわざ来たんだろう? 君は」
「く……!」
セバスチャンは拳を握った。そして喉から絞り出した声で、呟く様に答えた。
「……果たす為です……」
「聞こえないよ、セバスチャン。ぼくだけにではなく、しっかり彼女にも聞こえる様に言うんだ」
キーツ卿はこんなに悪人だっただろうか。解らない。一体何が正しい。
意を決した様に顔を上げ、私の目を見据えて、セバスチャンは言った。
「復讐を、果たす為です」
「復讐……?」
彼が孤児だった事とワイアット家と、何か関係があるというのか。
「誰への復讐だい?」
「先代のワイアット家当主、ブライアン・ワイアットと、そして……」
目線をキーツ卿に送る。
「……レイモンド・キーツ伯爵……貴男に……」
「だろうね」
キーツ卿は鼻で笑った。このひとまで、関係しているのか。さっぱり解らない。
ただ一つだけ納得がいった。当事者であるキーツ卿はセバスチャンの過去、アディントンが調べて暴露した事の以前を知っていても、当然である。
「何度も言う様だけど、ぼくは全て知っている。しかし敢えて聞きたいね。君の生まれや、何故復讐を考えたかを」




