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機動戦士事変

3 機動戦士事変


「どうも世界を間違えたみたい。てへぺろ。」

「お前、そんなキャラだったか。」

 目の前にあるのはキズの言っていた第三時世界大戦を思わせるような廃墟だった。

「まあ、いいじゃない。他に誰もいないんだし。」

 俺はオールバックの手を繋いだはずだった。だが、気がついたときにはその手はどこかへといっていた。

「あれだけの人数のジャンプは初めてだし。ジャンプ自体も二回目だけど。」

「あいつらはどこへ。」

「この世界のどこかか、別の世界へ飛ばされたか。」

「別の世界に飛ばされると――」

「普通は自力では戻れないわね。」

「どうすれば――」

「あんなの、放っておけばいいじゃない。他人なんだし。」

「他人でも他人じゃない。」

「お人よしね。」

「お前こそ、ワニが心配じゃないのかよ。」

「心配だけど、さっき会ったばかりで、あんなワニが兄だなんて言われても、頭が混乱しちゃうじゃない。」

 それもそうだった。ワニを普通に受け入れていた奴らの方が驚きだ。

 コキコキコキという音がする。

「何の音だかわかるか?」

「いいえ。」

 俺はどこかで聞きおぼえがある気がしていた。そう、戦争ものの映画で――

「戦車だ。」

 戦車のキャタピラの音だった。その音の主は俺たちの前に姿を現す。それは戦車とは似ても似つかぬ、姿。足は六本あり、蜘蛛のようだ。その蜘蛛の口に当たるところに、長い砲身を携えている――

「多脚戦車って、まじかよ。」

 俺は妹の手を取って走り出す。

「なんなのよ、あれって。というか、手引っ張らないで。痛い。」

 文句を言うな、と言いたいが、その手は引っ張っただけで壊れそうで怖かった。俺は走りながら妹の胴体を持ち上げ、肩車をする。はた目から見たら、ピクニックの風景に見えただろうか。

「未来の超兵器のはずだ。攻殻機動隊でやってた。」

「なんで逃げるのよ。」

「逃げないと殺される。」

「男なら、戦いなさい。」

 妹は俺に向かってある物を指さす。俺の目には何度もそれが映ってはいたが、そんなこと、できない。

「嫌だよ。」

「でも、このままだと死ぬわ。」

 正論だった。

「でも、あんなの、操縦できない。」

「やらずに死ぬより、やって死になさい。」

 この妹には恐怖心がないのかと俺は思った。男らしすぎる。だが、肩車していて顔はみえないが、体は小刻みに震えていた。そこで小便漏らすなよ、と俺は思う。それが俺をあの機動戦士のコクピットに誘う、引き金になった。

「捕まってろ。」

 俺は引き返し、多脚戦車と同じくらいの大きさのロボットに乗り込む。

「どうすりゃいい。」

 多脚戦車の砲身は俺たちの方へと向いていた。

「動け、動け、動け。動いてくれよ。俺がやらなきゃ、みんなが死んじゃうんだ。」

「これ、電源じゃない?」

 妹はコクピットの端にあった、おなじみの電源マークに手を伸ばす。すると、電源が入り、自動的にコクピットが閉まる。

「普通、鍵とかついてるんじゃねえの?これじゃあ、誰でも操縦できるぜ。」

『声紋波動確認。プリズムボイス。』

 計器が光り出す。七色の光。その光に俺も当てられて、体に激痛が走る。

「なんだこりゃ。」

「きっと、機体が損壊してるから、そのダメージが来るのよ。」

「エヴァか。」

 何とか動けるようだった。そう。エヴァと同じく、体を動かそうとするだけで機体が動く。

「まさか指の先まで感覚があるとはな。」

「早く逃げなさい。」

 妹に頭を叩かれて、俺は身を起こし逃げる。その直後、俺のいたところに、砲弾が命中する。機動力は高いらしい。足に車輪がついている。コードギアスか。

「ほら。早く銃で攻撃しなさいよ。」

 俺は手に握られていた銃で多脚戦車を攻撃する。銃からは七色の光が出た。小さな光が連続して放たれる。アサルトライフルのようだった。しばらく放ち続けていると、戦車は爆発した。だが、そこで油断してしまった。背後に焼けるような痛みを感じる。ついでに衝撃。背後から撃たれたようだった。振り向くと、別の戦車が俺に砲身を向けている。

「ちっ。ライフルが。」

 ライフルはさっきの攻撃でどこかに飛んで行ってしまった。攻撃できる武器を探したが、ビームサーベルはどこにもない。

 絶体絶命だった。しかし、その時俺の中から聞こえてきたのはリズム、ビート、サウンド。俺は流れてきた音楽に合わせて歌を歌う。歌詞なんて考えていない。

「なんでこんなときに歌なんか。」

 妹はそう言ったが、すぐに黙る。俺の頭の中だけだった音楽を機体が奏で始めた。それはだんだん増幅され、俺の体中に、機体中に満ち満ちていく。

「これは。」

「舌をかまないように口を閉じとけ。」

 砲台はやけを起こしたように何度も俺に向かって玉を打ち出す。だが、走り出した、ビートに乗った俺のスピードには到底及ばない。攻撃をかわしながら、俺は砲台の懐に入る。砲台は自分が傷付くことも恐れず、俺に攻撃を食らわせる。俺は砲撃を手で受け止める。今、俺の手には無限の可能性が広がっていた。それは、人類の奇跡。俺の力を込めて放った拳は多脚戦車を貫く。そして、戦車は爆発した。

「ゴッドフィンガーなの?」

「まあ、名前においては色々と抵触するからさ。」

 俺に休んでいる暇はなかった。爆発を聞きつけた戦車が俺たちのところへと向かって来る。例え起動力があっても、一人一人倒していてはきりがない。一人倒すにつれて二台三台増えていく。

「ヤバいな。」

 押され始めていたときだった。青空から一閃。戦車を数台まとめて壊す。空には機影が二つ。そのうちの一つがやったようだった。

「貴様、何者だ。」

 聞き覚えのある声だった。

「あれ、もしかして、俺?」

 映像付きの回線でコンタクトしてきたのは、オールバックだった。

「仲間か。」

 もう一人のパイロットは女だった。その女を何処かで見覚えがあるのだが、思い出せない。

「よし、次は俺の番だ。」

 もう一つの機影は空から地上に向かって何かを射出する。それは爆撃となって戦車を襲う。ミサイルのようだった。

「ぐれぃとぅ。」

 オールバックははしゃいでいるようだった。

「俺も負けていられないな。」

 再び俺は歌を奏でる。拳を信じて、人の未来を――信じてッ。

 俺の拳はどこまでも伸びて戦車を貫いていく。それが無限の拳。

「アクエリオンじゃない。」

「まあ、そこは言わないで。」

 三人かかればあっというまだった。俺たちはその区域の戦車を全て一掃したようだった。


 俺はオールバックの機体に運ばれて、空中に浮かんでいる、白い戦艦にたどり着いた。やっぱり機動戦艦は白いのか。

 俺が戦艦に着いて通されたのはブリッジ、つまり、ブライト艦長とかがいるところ。

「山崎?」

 俺は艦長を見てそう言ったが、それは迂闊だった。並行世界の人間だなどと言うと、どうなるか分かったんじゃない。

「僕の名前を知ってると。流石は並行世界から来た人だね。」

 山崎は黒い軍服、黒い軍帽、メガネをして、手には白い手袋。右手には赤で星が書いてある。どこの光クラブだ。俺はオールバックを見た。

「ああ。彼が教えてくれたんだ。彼は他の二人と一緒にこの艦にたどり着いたみたいでね。僕を見た瞬間抱きつこうとするものだから、千石少尉に調教してもらったんだよ。」

 千石という名前を聞いて、初めて、一緒に戦っていたのが千石佳菜子だと気が付いた。

「でも、君たちには驚いているよ。まさか、旧式の魔装外骨格(マジックミラー)でかつ、間衣を纏わずに操って見せた。君たち全員が力を貸してくれたら、この戦争はあっという間に終わるだろうに。」

「まずは、この世界について伺いたいのですが。」

「ここは俺の世界だ。」

 自動扉が開いて、キズが姿を現す。

「そして、こいつらは戦争を引き起こした張本人だ。」


 俺はあてがわれた自室のベッドで寝ていた。でも、眠ってはいない。この艦のパイロットは俺たち以外は佳菜子しかいないようだった。山崎曰く、一番艦ローズマリーが奪われて、パイロットもそこに付随していたとか。この艦はローズマリー二番艦、サザンカというらしい。急ごしらえなので、ローズマリーほどの武装は積んでいないが、大きさはローズマリーの二倍だとか。多くの魔装外骨格を積めるけど、パイロットがいないんじゃね、と山崎はがっかりしていた。

「あんたら、同じアニメ流してるのね。」

「ここにはこれくらいしかないんだよ。」

 流れているのは百年前のアニメとされている、ゲキガンガー3。ナデシコかよ。

「お前はこういうの、好きか。」

 妹に俺は聞いた。

「こんなガキっぽいの見るわけないでしょ。」

「やっぱり魔法少女ものか。」

「見ても、幻影ヲ駆ケル太陽くらいかしら。」

「歪んでるなあ。もっとおジャ魔女とか見ろよ。」

「古いのよ。」

 俺は妹を少し悲しい目で見る。六歳のわりにはませていて、それにはそれなりの理由があるのを俺は知っている。きっと俺と同じような経験をしてきたのだろう。妹はもっと年相応にガキっぽく振舞ってもいいし、俺ももっと年相応にガキっぽく振舞っていいのだろう。きっと、オールバックやキズのようなテンションが相応なのだ。

「ワニが心配か?」

「別に。」

「ちょっとは心配してやれよ。可哀想だ。」

「だから、急に兄とか言われても困るのよ。」

「でも、俺とは普通に話してる。」

「あなたを兄とは認めてないから。」

「なんだよ、それ。」

「まあ、性格的に似てるから、話しやすいのかしら。あんなガキどもと話は通じないわ。」

「で、俺たちは帰れるのか。」

「どうも難しいみたいね。あなたも気付いているんでしょ。鏡が普通に映ってることに。」

「ああ。別の世界は映ってない。鏡を通れない。」

「何かしらの条件でもあるのかしら。まあ、全員揃ってないんだから、出られるにも出られないわ。」

「ワニをおいては行かないんだな。」

「行けるわけないでしょ。ワニでも兄なんだから。」

「そうか。」

 俺は嬉しくなって笑顔になる。妹は顔を赤くしてそっぽを向く。

「なんでアンタが笑顔になるのよ。」

「俺のことでもあるからな。まず、ワニを助けるために、キズを戦わせないとな。」

「私はあいつら好かないのよ。あんたら三人が戦うことが兄者解放の条件だなんて。」

 ワニはサザンカのクルーによって捕縛されていた。急にワニ人間が現れれば、捕まえるのも当然だろう。ワニを開放する条件として、山崎が出したのが、俺とオールバックとキズが魔装外骨格を使って敵を倒すこと、つまり、兵士になるということだった。

『一刻も早く戦争を終わらせること。これが罪を解き放った我々のせめてもの贖罪だと考えている。』

 山崎はこう言った。それが正しいとは俺は考えていない。俺は心の底でこの世界は俺の世界ではないから、どうなってもいいと思っている節がある。だから、本気で考えることができない。

「なあ、何とかキズを説得できないか。」

 俺は妹に言った。

「自分でやりなさいよ。あんたら、仲がいいでしょう。」

「だからだよ。」

 俺はため息交じりになっていた。

「俺たちは似すぎてるんだ。だから、互いの傷に触れないように接してきた。仲が良くても、真には心を通わせることができない。」

「真面目ねえ。そのくせ、歪んでる。別に心を通わせる必要なんてないじゃない。言葉は正確に気持ちを伝えられないわ。なら、伝えず、心にもない言葉で従わせればいいじゃない。でも、あんたがそうしたいってことは、それをアンタが望んでるってこと。話しながら、互いに触れられない領域があることにもどかしさを感じてるってこと。分かった?」

「的確だな。みんなにもそんな風に話してるのか。」

「いいえ。あなただけよ。」

 そう言った後、妹はすぐに否定する。

「別に特別な意味じゃないんだから。」

「幼女に好かれても困るんだよ。多分、世界で一番困るんじゃないかな。」

 ふん、と妹は鼻を鳴らす。

「キズは誰も寄せ付けず、自分の殻にこもってる。そりゃあ、自分の世界のことだから、多少責任も感じてるんだろうし、兄者と自分の正義との板挟みになってるから、大変よね。オールバックはいつもと同じような態度だけど、ビビってる。そりゃあ、急に兵士になれって言われたんだもの。執拗に早く帰ろうって言われたから、蹴り飛ばして気絶させたわ。平然としているのはあんただけ。」

「お前ほどじゃねえよ。」

「私もアンタほどじゃないわ。この身体じゃあ、力がないもの。アンタたちに頼らないと生きていけないの。不安で仕方ないのよ、本当は。」

 さらりという効果音がつきそうな足取りで、妹は去っていった。妹の傷に触れてしまった気がした。


「ブリッジに集まれ。」

「ノックぐらいしてくれる?」

「鍵をかけておけよ。どうせ見られたところでお前はさして立派なものを持ってはいまい。」

「別の世界のお前のファンに聞かせたいよ。」

 ゲキガンガー3を見ていた俺の部屋に千石佳菜子は急に現れて言った。

「真咲冥。」

「さっき、何と言った。」

「いや。なんでもない。」

 千石佳菜子は明らかに動揺していた。この世界でも関係のある名前なのだろう。


「プラトニック・ラーヴッ。」

 山崎は開口一番そう言った。

「夜遅く済まない、プラトニックラヴ。作戦について説明しておきたかったんだ、プラトニックラヴ。」

「山崎が壊れた。」

 オールバックは俺に密かに耳打ちした。俺も同意見だったので、密かにサムズアップする。

「作戦の開始は夜明けすぐの6時。目的はヘカトンケイルシステムを有する機体、ヘカトンケイレスの奪還だ、プラトニックラヴ。」

「詳細は?」

「このディスプレイに表示されている限りプラトニックラヴ。」

 ディスプレイには大きな海岸と目標地点である基地が映っている。それぞれ、色のついた矢印で機体が示されている。

「空戦型の千石君とオールバックくんは艦を護衛しつつ、地上の敵、ならびに、空中の敵を撃破プラトニックラヴ。陸戦型の君は、地上に降りて、ヘカトンケイレスを奪還プラトニックラヴ。」

「質問いいですか。」

「どうそ、プラトニックラヴ。」

「俺の機体は空中を飛べません。でも、この図を見てると、海を飛んで渡ってます。」

「プラトニック・ラーヴッ!いい質問だ。君の機体は改修して、ほとんど原型をとどめないほどの新型になっている。空戦もこなすことが可能だプラトニックラヴ。」

「あと、もう一つの矢印は――」

「当然、キズくんプラトニックラヴ。これが何を意味するのか分かるかいプラトニックラヴ。」

「キズを何が何でも参加させろと。」

「キズくんを参加させないと君たちが死ぬってことさプラトニックラヴ。」


 自分の命を代償にされたら、流石に任務を全うしなければならない。

「よう。キズ。」

 キズの部屋にはゲキガンガー3が映っていた。

「ノックぐらいしろよ。」

「鍵をかけておけよ。どうせ見られたところでお前はさして立派なものを持ってはいまい。」

「誰のセリフだ。」

 佳菜子はどうも俺と同じセリフをキズには言わなかったらしい。

「お前、乗るのか。」

 ベッドにうずくまっていたキズは、のっそりと身を起こす。

「ああ。」

「どうしてだ。戦争を始めたのはあいつらだ。そんな奴らが、戦争を終わらせるのは義務だと言ってるんだ。おかしいだろ。」

「でも、俺たちには選択肢はない。そもそも、俺にはこの世界なんて関係ない。」

「だよな。お前の世界は、俺が逃げて逃げて、逃げまくった世界だからな。」

「どういうことだ。」

「自分でも気づいてるだろうが。首を吊った俺が何を意味しているのか。」

 時折見える世界。その中で、俺が首をつっていない世界はごく一部だった。俺は毎日それに悩まされていた。

「現実と戦った俺は例外なく首を吊ったんだ。お前は一番平和な世界にいるんだ。誰にも傷付けられず、傷付くこともなく。」

 キズの世界は、世界に貶められた世界、そして、オールバックの世界は、頑張って誰かと関わろうとした世界――

「俺はお前に無理強いはしない。俺は平和な世界で、生きてきた、いや、逃げ続けてきた臆病者だからな。お前は俺の世界で何に出会った。何を信じようと思った。俺には何も言えない。ただ、お前にやってほしいことがある。俺の戦いを、いや、歌を聞いていてくれ。」

 柄にもないことをした。俺は誰とも関わろうとしなかった。関わって自分が傷付くことを畏れた。でも、いつの間にかあいつらに出会って変わり始めていたんだと思う。誰一人として欠けることなく、元の世界に戻りたいと願った。俺たちがいる、俺の世界に――


 機体が収納されている場所に俺は向かった。作戦はもうすぐだ。俺は自分の機体を探そうと、整備員に声をかける。整備員は無愛想で、声を出さず、指で機体を示すだけだった。その機体も、機体とは思えず、箱のようなもので覆われている。発光オレンジで包まれたそれは、四角いグミのようにも見える。

「そうか。封印を見るのは初めてか。」

 急に後ろで整備員が呟いたので驚いてしまった。

「あれを見ろ。」

 整備員の指さす先には、別の機体と、数人の黒い筒のようなマントと帽子を着た人物が期待を中心に輪を描いていた。

「魔術師だよ。」

 黒ずくめが何をしているのか分からなかったが、機体はみるみるうちに、オレンジ色の四角い何かに覆われた。

「魔術師どもが機体を使われないように、封印してるんだ。封印を解けるのはお前ら、プリズムボイスを持っている者だけだ。」

「プリズムボイスがないと動かせないんじゃ。」

「異世界から来たってのは本当のようだな。別にプリズムボイスがなくても動かせる。お前らのように自由には動かせないだけでな。阿頼耶識が内蔵されてる方が珍しいんだ。」

「阿頼耶識って?」

「俺もよくは分からねえ。あいつら魔術師が作ったシステムだ。そのお蔭でお前らは機体を自由に扱える。俺たち整備士が世話してるのは、強化外骨格の部分、つまり、阿頼耶識を除いた、平凡な機体だよ。」

 俺の世界とはずいぶんかけ離れているようだった。魔術なんて存在しない。でも、整備士の口調から、整備士も今一魔術を信じていないようだった。それは魔術でないのか、それとも、急速に頭角を現し始めた所以なのか。


 俺はオレンジの箱の丸い取っ手のようなものがついている部分に、手を置く。丁度、コクピットのあるあたりである。たちまち淡い光を発し、目の前に新たな機体が現れた。黄色と白の機体。

「名前は?」

 俺は後ろを振り向いて、無口な整備員に聞いた。

「お前がつけろよ。」

 それっきり、整備員は自分の作業にとりかかった。

「うん。じゃあ、バナナな。」

 俺は愛機バナナに乗り込む。俺が乗り込むと、すぐにバナナは起動する。

「こちら、リンゴ。調子はどうだ。」

 オールバックから通信が来た。

「お前こそ、無理するなよ。前でバンバン倒していくから、後ろで待っとけ。」

「サンキューな。」

 オールバックはそう言うと、通信を切る。

「ゼロロクマルマル。パールバティ、リンゴ。発進。」

「了解。」

 オールバックと佳菜子は同時に言った。

「二人は発信しました。バナナはハッチで待機となります。お二人とも、頑張っています。」

 オペレーターが俺に言った。言わなくても分かっている。俺にはバナナを通して、オールバックの歌が聞こえていた。アイツなら、ロックでも歌うのかと思っていたが、比較的ポップな歌だった。でも、それがアイツらしい。

「佳菜子は歌わないのか。」

「いちいち俺に話しかけるなよ。」

 俺は無口な整備員に通信する。面倒臭そうだったが、整備員は答えた。

「あいつは歌わないんだよ。正確には歌えない、か。歌を失ったんだとよ。」

 では、佳菜子は自力で操縦しているのだろうか。武装が剣だけであったのに納得がいった。

「バナナ、発進準備お願いします。」

 もうそんな時間かと、傍らの電子表示の時計を見る。十分しか経っていない。

「心配なんて無用だぜ。」

「ああ。お前の歌は俺にも聞こえていた。今度は俺の番だ。」

「期待してるぜ。」

 気軽に通信してきているところから見ると、大分余裕はあるようだった。

「バナナ、頼むぜ。」

 ハッチが開く。それとともに俺はバナナを宙に浮かす。そして、勢いよく発進する。

 空は夕焼けのように赤く染まっていた。基地からは煙が上がっている。戦場。バナナをパールバティとリンゴが援護する。俺も肩慣らしに一致撃破する。

「ガンガーパンチ。」

 威力は前の機体の比較にならない。空中での加速性能も悪くないことから、空中戦も十分に可能であると判断する。滑るように地上に降り、そのまま駆ける。人型の強化外骨格をみるみる破壊する。走るたびに俺の昭和のロボットアニメのような曲に合わせて虹色の光が帯のようについてくる。いつの間にか敵に囲まれる。だが、俺は震脚で敵のバランスを崩し、両手からエネルギーを放出する。そのエネルギーは竜となり、強化外骨格を破壊していく。

「百龍覇。」

 次々に強化外骨格を倒していった時だった。一体の強化外骨格の胴を貫いたとき、そこから赤黒いものが飛び出した。それをオイルだと思いたかった。途端、バナナの計器が赤く点滅し始める。歌が止まった。目の前が、体中が真っ黒な闇に飲み込まれるようだった。もう何も見えない。

 そんな時だった。歌が聞こえてきた。全てを凌駕するような、凄まじく荒々しいサウンドビート。まるで、百獣の王の咆哮――

「ったく。俺がいないとダメなようだにゃ。」

 開けた視界から、一機の魔装外骨格が姿を現す。太陽の光を帯びて神のように降り立つ。太陽にも負けない橙色の肌。

「待たせたにゃ。」

 その声はいつものキズだった。

「もういいのか。」

 俺の問いには答えなかった。

「お前の歌、響いたにゃ。俺はまだ、あいつらを信用したわけじゃないにゃ。俺はお前たちを信用しただけだからにゃ。」

 キズはかぎづめで近くの強化外骨格を破壊する。

「オレンジとにゃーの力、みせたるにゃ。」

 魔装外骨格オレンジはみるみると姿を変えて、四足歩行のたくましい鬣、ライオンへと姿を変える。オレンジはサバンナを蹂躙するオレンジの風となり、敵を倒していく。

「俺も負けていられない。」

 俺も俺の信じた拳で、誰かを傷付けることしかできない拳で、守りたいものを守る。そして、だんだんと敵を圧倒していった。基地から多脚戦車砲台が現れても、俺たちには怖いものなしだった。

「荷電粒子砲搭載型!みんな、逃げろプラトニックラヴ。」

 山崎のプラトニック・ラーヴッがなければ、俺たちは命を落としていたであろう。大型の多脚戦車砲台から放たれた一撃は仲間の強化外骨格もろとも、大地を割る光線を放った。難を逃れた俺たちだったが、目の前に迫る死に、体が動かなくなった。

「やばい。また来る。」

 この位置から、遠くの多脚戦車砲台に、攻撃を届かせるには時間が足りない。俺の中であるイメージが横切った。するりと掌をすり抜けていく砂。その砂は地面に落ちていく前に炎となって消えていく――

 刹那、光線が横切り、多脚戦車砲台に直撃する――

「主役は遅れてやってくるワニ。ワニ、ヒーローワニ。」

 ハッチから、緑色の機体が落ちていく。その機体が多脚戦車砲台を狙って光線を撃ったらしい。その機体は、空を飛ぶことなく、海へと落ちていく。

「水が入ってきてるワニ。ワニ、水中で一時間は大丈夫ワニ。でも、早く助けてワニ。」

 無事ヘカトンケイレスを奪還した後、ワニは回収された。


 ブリッジに集められた俺たちに、山崎は言った。

「次こそ、物語の最後だプラトニックラヴ。」

「その前に、聞きたいことがあるんですけど。」

「なにプラトニックラヴ?」

「俺たちが奪還したものって――」

「ヘカトンケイレスプラトニックラヴ?ヘカトンケイレスは、ヘカトンケイルシステムを搭載した機体プラトニックラヴ。そのヘカトンケイルシステムは、プリズムボイスの持ち主でないと操縦できないプラトニックラヴ。そして、次の作戦のかなめでもあるプラトニックラヴ。」

「して、操縦者は。」

「真咲冥くん二人プラトニックラヴ。」

 山崎は左手の人差し指を使って、妹を、中指を使って佳菜子を指さす。

「どういうことですか。」

「はなを乗せるなんて聞いてないワニ。」

 佳菜子とワニが言う。

「妹さんを検査させていただくと、とんでもない結果が出たプラトニックラヴ。千石佳菜子、本名真咲冥と同じ遺伝子、同じプリズムボイスプラトニックラヴ。つまり、君は別の世界の佳菜子くんでまちがいないプラトニックラヴ。」

「だから?」

「ヘカトンケイルシステムは二人のプリズムボイスが乗り込むことが前提プラトニックラヴ。だから、二人にお願いするプラトニックラヴ。」

「いいわ。」

 妹はしれっと言った。

「お前。」

「アンタらは黙ってなさい。」

 妹の気迫はすさまじかった。俺らに反論を許しはしなかった。

「物語の終わりってどういうこと?」

 山崎は溜息を吐き、話し始める。

「全ては我々が悪いプラトニックラヴ。人類が決して開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったプラトニックラヴ。その箱の中身によって、人々は争いを始めてしまったプラトニックラヴ。」

「どういうことだよ。」

「僕たちが次に向かおうとしているセナンクルアイランドプラトニックラヴ。そこにはかつて世界をバラバラにした神の怒りが眠っていたプラトニックラヴ。その神の怒りに魔術的価値を見出した我々は、その封印を解いてしまったプラトニックラヴ。そこから、二人の恐怖の魔王が復活したプラトニックラヴ。」

「そいつらが、人々に不信感を植え付けたとにゃ?」

「そうプラトニックラヴ。そして、時は満ちたプラトニックラヴ。我らの手には、ヘカトンケイレスと四機の魔装外骨格プラトニックラヴ。これで、恐怖の魔王と決着を着けるプラトニックラヴ。」

「それで平和になるとでも?」

「僕は信じてるプラトニック・ラーヴッ!」


 俺たちは妹の呼び出しで、整備区画まで足を運んだ。せわしなく、外骨格を整備している無口な整備員は、ぼそっと邪魔だからよそでしてくれないかなあ、と呟いただけで、咎める様子もなかった。

「どうした、妹。」

 オールバックが妹の頭をなでる。妹は鬱陶しそうにその手を振り払う。

「アンタたちにこれを渡しておくわ。」

 俺たちが渡されたのは手のひらサイズの手鏡だった。

「これで変身するのか。」

「バカじゃないの。」

 オールバックは一瞥される。

「これを見なさい。」

 妹は鏡に手を突っ込む。妹の手は、鏡にぶつかることなく、水面に手を入れるように、手は鏡に吸い込まれている。俺たちも同様にしてみる。鏡の中に入れるようだった。

「この通り、中に入れる。」

 妹はむすっとした声で言う。いつもそうではあるが。

「つまり、いつでも逃げ出せるってわけ。だから、私はヘカトンケイレスに乗ることを承諾したの。」

 これが妹の言いたいことではないと分かっていた。鏡の中から逃げ出せると知った瞬間、俺たちの心の中に浮かんだ想い――

「これからどうするわけ。」

 妹がすぐにでも逃げ出そうと言わなかったのは俺たちの想いに気がついていたからだろう。

「俺は戦う。最後まで。」

 キズの言葉にみんなが頷く。

「誰一人として欠けるなよ。俺たちは四人で一人なんだから。」

「私は仲間外れね。」

 と、オールバックが切り出す。

「みんなに頼みがあるんだ。」

 オールバックが真面目な顔をするのが面白いやら、もどかしいやらであった。

「佳菜子ちゃんがもう一度歌えるように、協力してほしい。」

 俺と妹以外は賛成だった。妹は好きにしたら、とそっぽを向く。つまり、賛成ということだろう。みんなが俺の方を一斉に見る。俺は首を縦に振る。佳菜子の歌の良さは俺には分からないが、決して不快ではなかった。佳菜子より佳菜子の歌の方が正直である気がしていた。

「作戦は?」

 俺はオールバックに聞く。オールバックは少し強張っていた顔を一転させ、笑顔で言った。

「行き当たりばったりだ。」

 そうでなくっちゃな、と俺たちは口々に言った。俺たちは誰一人として死ぬ気はない。だからこそ叩ける軽口だった。


 新たな夜明け。山崎は新しい世界の夜明けになることだろう、と言っていたが、俺たちにはどうでもいい。

 作戦は、ワニのパイナップルとオールバックのリンゴが船の護衛。ヘカトンケイレス、バナナ、オレンジが上陸であった。魔王のいるというセナンクルアイランド。その戦力は未知数だった。サザンカは島に近づけるだけ近づくが、今度は空中戦になるかもしれないということだった。重装型のヘカトンケイレスと空戦が不得手なオレンジを俺が守らなければならない。

 作戦の要は禁断の男女機合体とのことだった。その男女機合体に反発したのは、佳菜子と妹だった。

「あんな破廉恥なこと、できるわけないじゃない。」

「そうです。」

 だが、二人の言葉を山崎は取り合わなかった。妹に至っては、覚悟したと思っていたのに、佳菜子と搭乗することを拒んだ。

「なんでこんな年増と。」

「こんなガキのお守りなんて嫌です。」

 だが、無理矢理乗ってもらった。

「どうも始まったみたいよ。」

 船首に乗り、粒子砲を撃っているパイナップルがモニターされる。粒子砲は単独では連発できるものではない。パイナップルだけでは、エネルギーの充填に時間がかかるし、銃身の冷却にはもっと時間がかかる。それを短時間で連発することを可能にしたのが、サザンカとのリンゲージである。エネルギーはサザンカのものを流用し、銃身の冷却は、銃身の過熱部分を取り替えることによって短時間の粒子砲連発を可能にする。銃身は特製の冷却機によって冷やされ、何度もサイクルを行う。もともとパイナップルはそういう使い方を想定されていたようだった。

 まだ島からは遠い。銃弾などはどうやっても船には届きようもない。浮上してくる潜水艦や戦艦はモグラたたきのようにリンゴが倒していった。だが、粒子砲はサザンカまで到達する。

 今、粒子砲が横切り、カメラがホワイトアウトする。直撃は免れず、ハッチにも振動が届く。粒子砲は遠距離攻撃が可能だが、精度は高くない。それでも、直撃すれは、当たった一帯はドロドロに溶け落ちる。だが、サザンカは無傷であった。

「聞こえてるぜ、ワニ。お前のレゲエ。」

 サザンカが無事なのはワニの展開した粒子壁のおかげであった。粒子砲であれば、防ぐことができる。パイナップルはこの粒子壁の使用を主に考案された魔装外骨格であるらしかった。粒子砲はそれほど撃てはしないが、一撃で致命的な打撃を与えられる。

「おいおい。俺も忘れてもらっちゃ、困るぜ。」

 リンゴも大量に迫りくる小型の蝙蝠ドローンを正確にミサイルで攻撃する。ミサイルは阿頼耶識で正確に狙いが定まるようになっている。パイロットが念じると、ミサイルの小型推進器が反応して、軌道を変えることができる。さながら、ファンネルミサイルである。リンゴはミサイルが尽きると、魔装をひと段階剝ぐ。すると、間髪入れず、新たな魔装がリンゴに装着される。その魔装には大量のミサイルが搭載されている。こちらもロスタイム削減のために努力している。

 オールバックはワニのレゲエに合わせて二人陽気に歌う。その陽気に合わせて、爆発はより早く、激しくなる。

「そろそろみたいよ。」

 妹が回線を開いて知らせる。

「もうか?」

 キズが聞く。

「思った以上に攻撃が激しいみたいね。リンゴのミサイル魔装がもう半分になったみたいよ。」

 佳菜子が言った。妹は割り込んでくるなという顔をしていた。

「歌えないくせに、私の邪魔をしないでね。」

「それはこっちのセリフよ。」

 俺たちとは違って、佳菜子と妹は別の世界の同一人物同士、仲が悪いらしい。

「スタンバイ、オッケイ。ゲキガンガー、ゴウ。」

 俺が先行して前に出る。後ろにオレンジとヘカトンケイレスがついてきているが、遅い。俺は散弾粒子砲で前方の敵を蹴散らす。が、いかんせん、射撃は苦手だ。辺りはするものの、なんだかむしゃくしゃする。俺は、背面の収納に銃をしまう。

「お前ら、前に進め。俺が後ろから来るのをぶちのめす。」

「そんな無茶な。」

 言ったのはヘカトンケイレスのようだった。ヘカトンケイレスからは七色の光が出ていない。無理矢理主導で動かしているようだった。

「分かった。」

 まるで回らない竹とんぼのように六本の腕を伸ばして浮遊しているヘカトンケイレスでは前方を切り開けない。推進系の制御でいっぱいいっぱいなのだろう。ここは近距離型ではあるが、オレンジに任せるほかない。オレンジは輝く爪で、前方を切り開く。

「俺も負けてはいられない。」

 俺の攻撃の軌道上にはサザンカがある。遠距離攻撃はサザンカを傷付ける恐れがあった。かと言って、拳で殴るには、ドローンは小さい。爆薬を積み、自爆してくる小型無人機に対し、近距離での戦闘は無謀である。

「こういうときのとっておき。」

 俺は拳にエネルギーを集め、そして放つ。エネルギーは七色の霧状の衝撃となった後、ドローンにぶつかり、爆裂する。

「これぞ、散弾論法。」

 近くの敵はこれで大方片付く。後は、永遠に伸び続ける拳で、サザンカの周りの敵も蹴散らしておいた。

「お前はさっさと行け。俺の出番がなくなるだろう。」

 オールバックが嘆くので、俺はサザンカに背を向け、ヘカトンケイレスを抱えて、島に上陸する。

「魔王はこの先の火山口。船が落ちる前に大将を討ち取る。」

「おうよ。」

 地上に降りたオレンジは野を蹂躙する百獣の王であった。俺も負けてられない。地上を滑りながら、敵を駆逐していく。俺はキズの獣のような音楽に合わせ歌う。ここに二人の百獣の王が君臨する。一方、ヘカトンケイレスは迫りくる敵を腕で薙ぎ払うくらいしかできていなかった。

「ふう。やっぱり歌えないのね。仕方がないわ。」

 その歌声は、天使のようだった。ヘカトンケイレスは宙へと浮上する。二本の腕を胸の前で組み、残りの四本の腕は、天使の羽のように、大空へと勢いよく伸びる。曲調が一変、荒々しい神話の戦いを描く。それが妹の歌った歌だとは誰も信じることはできなかった。七色の光を纏い、伸縮自在な腕を駆使して、阿修羅の如く、敵を翻弄していく。まるで後ろにも目がついているかのごとく、あらゆる方向の的にも対応する。これがヘカトンケイルシステムかと俺は恐れ入った。そして、一歩一歩、着実に火口へと近づいていく。


「これで最後のミサイル魔装だ。この後の行動は分かっているな。」

「ああ。分かってる。」

 オールバックのリンゴに無口な整備員が回線をつなげて言った。オールバックはミサイル魔装を装着し、新たな敵、人型強化外骨格にミサイルを打ち込む。ドローンは品切れになったようだ。オールバックは打ち尽くしたミサイル魔装を切り離す。

「極地用魔装だ。行って来い。」

 ハッチから放たれた魔装を装着し、リンゴは俺たちの元へやってきた。

「船が心配か。」

「十分蹴散らしてやったから、大丈夫。」

 言っているオールバックは大丈夫には見えなかったが、目の前の敵に集中しなければならない。オールバックはアサルト粒子銃をリンゴに持たせて、連発する。極地戦闘用魔装は、バランスのいい魔装となっている。空戦も陸戦もこなせ、背面にはアサルト粒子銃二丁、そして、アサルトにパーツを装着する形で、ライフルタイプにも変形する。また、余計なパーツを切り離すことによって、かつて佳菜子の乗っていた剣士魔装に変化することもできる。

 俺たちはヘカトンケイレスの歌に沿って、劇を演じているように苛烈な戦いを繰り広げる。

「そろそろ、幕引きにしようプラトニックラヴ。」

 それは合体をするということだった。どうしても勝てない相手に出くわした時、もしくは物資的に持久戦が困難になった場合に行う切り札だった。きっと、後者となったのだろう。

「嘘でしょう?まだ、やれるわ。」

 妹は反論したが、ワニが飛行装備でやってきてしまった。

「つべこべ言わずにやるぞ。」

「嫌よ。そんな四つもだなんて、私がもたないわ。」

「何言ってるんだか。」

 そして、俺たちは合体した。生まれたのは新たな巨人――

「って、何事もなく合体したじゃない。」

「考えすぎだっての。」

「新たな巨人。その名も、フルーツバスケット――」

 オールバックによって命名されたフルーツバスケットのパイロット、俺、オールバック、キズ、ワニ、妹は音楽を奏でる。全てを覆うほどの素晴らしき旋律――

 だが、突如として歌は途絶える。黒い闇が俺を包む。闇は俺に訴えかけた。俺の罪を。多くの人を殺したことを責めた。

「これこそ、暗黒神。さあ、世界を壊してしまえ。」

「よくぞやった。ジーン・ジーニアス。」

「流石は我が子よ。」

 山崎の声に続いて、聞き覚えのある声が続く。三好拓真と三好翔だろう。俺たちは騙されたのだ。闇はだんだんと濃くなり、俺の意識を乗っ取る。このままでは世界を壊しかねない。

「私は先にリタイアするわよ。」

 妹の声だった。

「あと、千石佳菜子。いいえ、真咲冥。あなた一人でも、ヘカトンケイレスは動かせるわ。それどころか、世界だって救える。」

 闇は消えた。妹の姿も消えた。妹が座っていたコクピットにあったのは一つの手鏡のみ。途端、合体は解かれる。

「ふう、どうする。」

「どうするかねえ。」

「まあ、答えは見えてるにゃ。」

「そうワニ。」

 俺たちは禁断の男子機合体を行う。

「ふう。やっぱり絵面的に禁止だな、これは。」

 現れたのは新たな巨人。その名もチアフルーツ。

「もうきっと佳菜子は歌えるさ。だから、俺たちもこれで終わりにしよう。」

 俺たちは佳菜子に向けて歌った。自分を信じることの大切さを。仲間の尊さを。そして、世界平和の望みを。

 チアフルーツの光の剣はセナンクルアイランドを真っ二つにし、そのまま地球を割った。

 佳菜子の歌が聞こえた。世界の人々の闇を晴らす、光の歌。ヘカトンケイレスが宙に浮く。機体が全面七色に輝く。

「サイリウムチェンジ、か。」

 チアフルーツは佳菜子の歌に呼応するように、永遠に伸びる拳で割れる地球を縫いとめる。

「最悪の終わり方だな。」

 俺たちは手鏡を使って、この世界から脱出した。きっと、佳菜子の歌は世界にかかった呪いを払拭してくれるだろう。天へと届く塔を作り、神の怒りを買った人々は万人に通じる言葉を封じられた。この世界に甦った神の怒りはさらに、人と人を争わせる結果となった。だが、俺たちには歌がある。歌によって心を通わせることができる。こうして世界は平和になった――って終わり方じゃあ、ダメかな。


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