【第004話】目覚め
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第一章
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ゴボッ・・・・・・・・・
ゴボゴボ・・・・・・・・・・・・・・
(暗い・・・・・・・・・・)
(それに・・・・・・・ここは・・・・・・・・)
(水の・・・・・・・中・・・・・・・?)
『生体活動再開を確認。スキャン開始────プロセス終了、身体機能に一部異常あり。全細胞の7%に損傷が確認されました。修復を試みます。脳細胞の一部に深刻なダメージを発見。修復を試みます。記憶領域に深刻な損傷を確認。修復できません。修復不可能な細胞は破棄。DNA情報に記憶を補完可能な代替情報を発見。代替情報をリロードします。情報を精査しての齟齬の修復には時間を要します。所要時間は2時間です』
AIは機能し、意識に情報を送信する。
「□□ □□□□□ □ □□□□□!!」
(まだ動けそうもない・・・・・・・・・)
「□□□ □□□□□ □□ □□□□!!」
(何か・・・・聞こえるよう・・・・な・・・・・気もするが・・・・・・・・・・)
(あれ・・・・・俺は・・・・・・・?)
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【???視点】
う・・・・・
うう・・・・・・・・・・・
何だか長い間寝ていたらしい。
やっと目が覚めてきた。
俺はアキラ。
ワカツキ・アキラ。 漢字で書けば若槻晃だ。
そこそこの高校、そこそこの大学を卒業するも、就職氷河期で希望の就職先に就職はできず。仕方なしに親の勧めで調理の専門学校に行き、調理師となってブラックな店を転々とし、溜めた金で起業。
その後はフードビジネスとコンサルを中心に割と手広く商売を広げ、それなりに裕福に暮らしていたんじゃないかと思う。ブラックな飲食店で働いている間に結婚はしたが、ケンカばかりで2年と持たずに離婚。会社が軌道に乗って、それなりに金を持つようになると寄ってくる女はいたが、どれもこれも金目当てに見えて結婚までは至らず、一人で暮らしていた。
実はあまり他人には話せない趣味がある。
それはいわゆるラノベだ。
異世界転生に憧れ、強力な魔法をぶっ放す、そういう世界にあこがれた。
いやというほど現実を見てきたので、現実逃避したいという脳の欲求があったのかもしれん。
で、そんな暮らしをしていた中、働きすぎもあったのかもしれない。ある日会社の階段でふらついて倒れ、頭を強打して病院へ搬送されたんだ。
そういえば意識が飛ぶ前、『死にたくないが、どうせ死ぬなら異世界転生したい!!!!!』そう強烈に思っていたのは覚えている。
いやー、良かった。何とか生きていたみたいだ。
なんか若干記憶が飛んでるっぽいのが気になるが・・・
うん、両親の事とか全く覚えてないぞ。10歳以前の記憶も断片的だ。
頭を打ったからかな。家に帰ったら卒業アルバムとか見て思い出さないとな。
ま、なにより、何とか死なずに済んだみたいだな!
さて・・・・・・・
知らない天井だ、と言ってみたかったのだがそうもいかない。
目の前がガラスの蓋?的な。 蓋?
ああ、どうやらこれはコールドスリープマシンだな。
そうか、強制転移を防げず、AIが体を制御してコールドスリープに移行し、保護してくれたのか。
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・は?
俺は何を言っているんだ?
病院のベッドでコールドスリープとか、どんなSFだよ!
でも、俺の脳がそう判断してるんだよな。
知ってるんだよ。これがコールドスリープマシンって事を。
ところでさ、
さっきはアキラだと思ったんだが、もしかしたらジェイクかもしれない。
・・・かもしれないってなんだ?
正直に思った事を言うぜ?
俺は誰なんだ?
『あなたはジェイクです』
おわっ! ビビった。
なんで脳の中で別の何かと会話ができてるわけ!?
『それは意識に介入する権限が与えられているからです』
いやそれは知ってるけどさ。
知ってる?
なんで?
何を?
ジェイク、ジェイク・・・・・・・
ああ、そうか、俺はアキラでジェイクなのか。
自分でも訳が分からない事を言っていると思うが、アキラでジェイクなんだ。
『意識に若干の混濁が見られますが、物理的な障害は見られません。DNA詳細スキャン開始。同時に脳神経細胞をスキャン。シナプスパターン解析。メモリをファイルとしてリード。記憶の齟齬を再チェックします』
なんか便利だな、このAI。
知らないようで知っている。ってか俺が作ったのか。アキラじゃなくてジェイクが。
『解析完了。想定外。どうやらDNAにアキラの記憶の一部が保存されていた模様。それを元に脳細胞を再構築した結果、ジェイクの記憶にアキラの記憶が上書きされた模様。ジェイクの記憶領域をチェック。破損確認。バックアップからリロード、記憶を再構築、齟齬が無いよう補完します。』
おお、頭がすっきりした。
確かに俺はアキラだがジェイクだ。
記憶もはっきりした。
・・・・・・そうか、俺──つまりアキラは死んだのか。しかもすっげぇ昔に。それこそ千年単位で。地球文明なんて太古の古代文明だわ。
『DNAに記録された情報を解析した結果を伝えます。アキラは常々、自分の記憶を別のタイミングで覚醒させることを強く望んでいたため、DNAが深部記憶の領域解放を行って記憶の保持を実行。その記憶を保持したDNAが他人の身体に入り、それが継承されて数十世代経った今、DNAの介入により覚醒したようです。アキラ本人は子をなしていませんが、DNA解析による推測だと、脳死状態に陥り臓器移植という手術が行われ、その移植先の身体を通じて受け継がれたものと考えられます。なお、ジェイクの時代であれば脳死などは治療可能であるし、臓器は他人のを移植せずとも培養して新しいものと取り換えることが可能です』
なるほど、そういう経緯で。・・・って不思議すぎるわ。
『修復完了。外部環境をスキャン────完了。問題なし。ハッチをオープンします』
プシュゥゥゥゥゥ・・・・・・・・
おい! おいおいおいおい!!!!
このタイミングでこの蓋開けちゃうかよ!?
さっきから気付いてたけど、近くに誰かいるじゃん!
向こうもビビって動けてないけど、こっちも動けてねぇ。
いや、でも動かないのはマズい。
「う、う、あ、あ」
よし、発声はできるな。足・・・・・指・・・・・・体も動く。
「□□!?」
「□□ □□□□ □□□ □□!!」
うん・・・
人・・・・らしき4人組がいる。
・・・・・・ちょっと状況整理だ。思考加速して考えてみよう。
まず、ここがどこなのか。
『ここは開発途中だった惑星、アナザーアースのセカンド大陸の地中です』
さすがAI。俺の意識が無くても情報は集めていてくれたらしい。
だが・・・・なぜこんなところにいる?
『強制転移に関してはジェイクの記憶にある通りです。強制転移は極めて広範囲にわたり、星系ごと転移しました。転移した距離、方角共に不明。現在地も特定につながる情報が不足しているため判断不可能。ステーションは侵入したウィルスにより兵器類を奪取され大ダメージを受けたため破棄。 その後ウィルスは駆逐しましたが、生命維持に支障が出ることが予想されたため、脱出ユニットにてアナザーアースの地上に降下』
星系が丸ごと転移・・・?
ありえない。
どうやったらそんな規模のエネルギーを生み出せるんだ?
『僅かに解析しただけですが、全く未知のエネルギー源という事しか分かっていません』
そうか。エネルギー量もわからなければ、どこからどこまで転移したのかすらわからないな・・・
そういえば・・・何年だ。 何年経った?
『標準時間で、およそ6472年経過しています』
・
・・
・・・・
・・・・・・・・・え?
ええ~~~~~~~~~~~~!?
そ、そんなに寝てたの?
『肯定します』
こ、これは久しぶりに驚いた。
そりゃそうか、少なくとも6472年ぶりだもんな!
・・・ってわけのわからない事を考えている場合じゃないな。
ってかアキラの記憶からしてみればどちらにせよさっぱりわからない感覚だ。
しかし、このタイミングで目覚めたのは何故だ?
『脱出ポッドは転移中に降下したため、完全には制御することができず、墜落。その衝撃と転移時に発生した大規模地殻変動で、地中深くに埋まってしまっていました。その後、脱出の可能性を模索しましたが可能性を見出せず、ユニットのほぼすべての機能を停止し、コールドスリープの生命維持活動のみに切り替え、エネルギーを温存しました。しかし、外部から侵入してきた者たちがいたため、脱出の好機と考え、さらにはエネルギー残量も僅かだった事を考慮し、解凍シークエンスを開始しました。』
なるほど。外部から侵入してきたという事は、地上との経路がある、という事だな。
しかし、彼らは一体何者なんだ? 3人はどうやら人間だ。だが、一人、少女の耳が・・・これは獣? ネコ科の動物の耳に見える。
そういえば、ビーストという種族がいたはずだ。それと人間に近い種族が交配して・・・・
いやいや、それではどちらか一方の姿になるはずだ。こんな交じり合って身体的特徴が一部だけ発現するなんてケース、確認されていなかった。
夢のケモミミ娘はできなかったはずだ。しかし現に目の前にいる・・・!!
ってそんな思索にふけっている場合じゃない。
人がいて、自分が発見された。この場合の行動を決めよう。
まずはコミュニケーションを図ることが第一だ。
場合によっては排除せねばならない。友好的とは限らないからな。
しかし、当然のことながら一切の言葉はわからないぞ・・・
AIによる通訳が可能だと良いんだが。確か、研究中に知的生命体から発生した言語は大体インストールしてあったはずだ。
『先ほど聞いた言語に該当するものはありません。しかし、ファースト大陸で発生した言語にいくつか類似が見られます。推測しつつ補正、簡単な片言の会話程度なら可能と思われます』
そうか、データは6000年前のデータだもんな。色々と変わっていても当然か。
各地に散布したナノマシンと情報共有できないのか?
『おそらく中枢がダメージを負い、管理されていなかったため、ほぼすべて消失したと考えられます。また、事実として通信可能範囲に応答がありません』
そうか・・・
地道に会話して情報を集めるしかないか。とりあえずカプセルから出なければ。
「□□□ □□□□!!」
カプセルから体を出したところで、赤毛の女性が叫び、4人が武器をこちらに向けて構えている。
今の言葉を翻訳できるか?
『推察なら可能です。複数の候補の中から、最も可能性の高いものとして「動いた、気を付けて」という推察を提案します』
おそらくそういう事だろうな。当然の反応だ。おそらく未知の物体から、見慣れない服を着た男が出てくるのだ。警戒しない方がおかしいというもの。ここは両手を上げ、武器を持っていないというアピールをしつつ、友好的に声をかけてみるか。推測で構わん、ポート開放するから言語データを整理して譲渡してくれ。
『了解。 …ブリンゲン語をベースに言語データ構築中。・・・完了。知識として譲渡します』
これで良し。 ・・・さて、通じるかな? まずは両手をあげて、丁寧に、だ。
「・・・あー、こんにちは。私、名前、アキラ。君たちに危険、ない。言葉、通じていますか?」