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幻想科学のプロローグ  作者: 西木ひろ
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【第002話】僅かな綻び


 ヒトサンマルマル。

 要するに午後一時。

 この1日が24時間という時間の流れは、人が生活圏を宇宙に変えても変わらないものの一つだ。



 ジェイクとアーウィン、リッケル、ミュラーの四人は、第二演習場へと集まっていた。



 この艦には2つの演習場がある。


 一つは障害物のない空間。第一演習場だ。主に基礎教練や格闘訓練に使われることを想定している。


 そしてもう一つは、起伏にとんだフィールドと植物に覆われた、ジャングルの奥地のような第二演習場である。地形は設定を変えることで大きく変化させることが可能で、慣れない地形での戦闘訓練が主な目的だ。


 今回、アーウィンたちはこちらを選んだ。

 真正面からだと勝ち目が無いので、地形効果を利用して何とか勝利を掴み取りたいのだ。



「・・・・・・・・奇襲は、通じないんだがな」



 ジェイクもアーウィンたちも兵士だ。

 そして、この時代の兵士は皆、いわゆる〈改造人間〉だ。

 しかし、根本的に異なる事がある。


 技術を提供されて改造されたものと、独自に技術を開発して日々進化しているものと、だ。


 その差は、当然のことながら圧倒的。



 例えばジェイクは気配が読める。たとえ目をつぶっていても周囲の状況を捉えることができる。

 これは、古典娯楽作品で登場するような第六感的なものではなく、周囲に自分とリンクした情報収集型のナノマシンを散布し、相互に情報を共有することで周囲約1km程度なら瞬時に高精度で状況を判断できる、というものだ。戦闘という超高速で情報処理しなければならない状態で、自分の脳に周辺情報をインプットして使える状態にするというのは、シナプス直結型であるジェイクのオンリーワンの技術である。制度を落としていけば、最大で半径約10kmまで把握可能だ。

 当然、技術提供もしていない。技術提供してもいいのだが、結局は自分しか扱えないのがわかっているので、あえてしていないという面もある。




『さあ、始めるとしようか』


『よろしくお願いしますッ!』



 反対側に移動したところで、アーウィンたちに通信を送る。思考制御型の通信だ。

 無音で、かつ高速に通信できるこの機能だが、それなりに訓練しないと

 〈よくない思考まで全部筒抜け〉

 というとんでもないデメリットを抱えた通信技術である。



 ・・・早速ナノマシンの散布を始める。

 アーウィンが正面、その右にリッケル、やや後方にミュラーか。

 特に奇襲や待ち伏せをかけるでもなく、罠を張ることもなく、シンプルにまっすぐ近づいてくる。



「・・・・策があるんじゃなかったのか?」



 ジェイクはひとまず後方の木の陰に隠れ、様子を伺った。アーウィンたちはそのまままっすぐこちらに来るようだ。あと、距離にして30m。



『極微細な振動を検知しました。 やや後方、下です』


「なるほど」



 バックステップで距離をとる。



『遠隔操作型の小型兵器、数は6』


「搭載されている武装は?」


『スプレッドタイプのレーザー、散弾、マイクロミサイルです』


「わかった・・・」



 どうやら、地面を通して後方に広範囲型の自立兵器を展開させ、挟み撃ちにする計画だったようだ。それも、搭載されている武器の全てが広範囲型。超回避をするジェイクを、弾幕で無理やり黙らせようというのだ。



「なるほど、今回やりたかったのはコレか。なかなかエゲツないサポートマシンを作ってきたみたいだな。ステルス性能もあるし、地中を移動する割りに振動や音も極小。入り組んだ地形での対人戦闘ではかなり効果的だろう。・・・・・俺以外が相手なら」



 ジェイクは少し苦笑いのような表情で、次の命令を出す。



「ナノマシンよりポート開け。 アクセスしてシステムを乗っ取る」


『了解。 アクセス開始、進捗率16、31、62、89、100・・・システムを掌握』


「アーウィンたちは・・・・・まもなく予定ポイントに到達だな。 攻撃を開始せよ」



 アーウィンたち三人は予定ポイントに到達。身を潜めながら現場を観察する。しかし少佐の姿はどこにも見えない。



「アーウィン! 少佐がいないぞ!」


「まずい、一旦下が・・・・・・グァッ!?」



 チュイーーーーン!!!

 六機の小型兵器がスプレッドレーザーを放った。


 ドッパン・・・・・ドドドドドドドド

 続けて散弾とマイクロミサイルが同時に放たれる。



「なんで地下のステルス機がバレて・・・・・ぐぁッ!」



 ミュラーが散弾を喰らい、仰け反る。回避不能な攻撃、と想定したため、威力は控えめだが避けきる事ができない。



「しかも、システム乗っ取られてるじゃねーか!」


「ミュラー! プロテクトちゃんとかけてたのかよ!」


「ちゃんとやったよ! レベル5の軍用のだぞ!」


「・・・・・バカ! 軍用は大体少佐が開発に噛んでるだろうが!」


「オリジナルか民間の最新技術を転用しなきゃ瞬殺食らうぞ!」



 ごちゃごちゃ叫びながらも3人は回避を続ける。さすがに全弾回避は無理だが、致命傷は一人もいない。このあたりはさすがにシュトライゼルの軍人だ。



「・・・さて、そろそろこちらも動きますか」



 ジェイクはゆっくりと動き出した。


 否。


 ジェイクの思考ではゆっくりだが、オーバークロックによって脳の処理を加速させているため、体感時間は周囲と比較して約 1/10 の早さになっている。

 次の瞬間、強化筋肉がしなり、爆発的な力を発揮する。

 アーウィンはかろうじてミサイルを避けたが、自分の背後に回り込んでいく少佐の姿が見えた。そして、背後からの強烈な痛みを最後に、意識は純粋に真っ白な空間に落ちていった。




 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




「今回もだめだったかー!」



目を覚まし、悔しがるアーウィン。

リッケル、ミュラーと共に反省会を開いていた。



「だから、あの程度では無理だって言ったでしょう?」



リッケルは悔しいというより、無理に付き合わされて面倒そうだ、という顔をしていた。



「でもさ、結構いい線いってたんじゃね?」


「・・・・・どこが。」


「あー! リッケルひでぇ。っていうか、ミュラーのプロテクトがちゃんとしてればさぁ!」


「いや、少佐が突破できないプロテクト組めてるなら、こんなところで下士官やってないでしょ」


「・・・・ですよねー」


「しかし、まじめな話、少佐ってなんでこんなに戦闘力が高いのに、研究職に就いてるんだろう?」


「ミュラーは知らないの?」


「何をです?」


「少佐が一度死にかけて、それで自分を強化しまくってるっていう話」


「にわかには信じられませんね。 あの少佐が死にかけた・・・?」


「3年前の惑星探査に、当時大尉だったジェイク少佐が赴任したときの話らしい」


「リッケルは知ってるのか?」


「・・・噂程度だよ。もともとジェイク少佐は研究職志望だったんだ。でも、希望通りにはいかないもんでさ」


「まぁ、俺たちも実際そうだしな」



 アーウィンたち三人は、どちらかといえば前線希望だったのだ。

 若い三人は早くに武功を立てて昇進したいという野望があった。それが、配属先は研究職で後方勤務。何を基準に配属先を決めているのか、判定するAIを作った人間はよほどの偏屈者だったに違いない、と多くの兵士が思っていた。



「それで、惑星の資源探査で地表に降りたところで、ガルス軍にばったり、さ」


「それは悲惨だな」


「索敵は何やってたんだ・・・」



ガルス軍とは、現在ジェイクらの所属するシュトライゼル軍と明確に敵対している勢力だ。

そのほとんどが機械兵で、AIで制御されている殺戮兵器だ。



「ま、大群じゃなくて向こうも少数の調査隊だったようだがな」


「それでもガルス相手に地上の肉弾戦はやばいだろ」


「ああ。 こちらが優位な点が何一つ無い」



 相手は機械だ。多少の破損程度では止まらない。人と違って、致命的なダメージを与えない限り攻撃をやめないのだ。


 過去にはシュトライゼル軍もAI兵器で対抗しようとしたこともあったが、精度が違いすぎて勝負にならなかった。

 結局、CPUの補助を得た人間が戦場で最も戦功を上げられたため、シュトライゼル軍は人員を導入せざるを得なかったのだ。ここまで性能差のあるAIがどのような仕組みで制御されているのか、それは現在でも研究されているが、量子通信を介して遠隔操作されているというところまでしか解明されていない。



「で、少佐の部隊は壊滅。少佐は四肢の欠損も酷かったが、何とか一命をとりとめ、それがきっかけでインプラントCPUの専門家になったわけさ。もう二度と、こんな思いはしたくないってね」


「それであのCPUの性能なのか・・・」


「しかし、なんで普及型とあそこまで性能差があるかなぁ・・・」


「あれはさ、少佐が自分用にカスタムした特別製で、脳に直結していて相互干渉が可能なタイプだ」


「つまり、どういうことだ?」


「思考制御でCPUを補助的に使うんじゃなくて、CPUに脳の機能を貸して、代わりに超高速処理をさせているんだってさ」


「リッケル、それって俺たちには無理なのか?」


「できないことは無いんじゃないか? ただ、失敗すれば脳がブッ壊れて廃人だ。自分で自分の脳にアクセスし、自分が壊れないギリギリの範囲で共有化すればいい。もちろん、ちょっとミスっただけで廃人決定。」


「・・・やってみたいとは思えないな。大体、CPUに譲渡する脳の領域なんてどうやって調べるんだよ」


「だろ? だから完全なオンリーワンなんだよ」





 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼





 演習が終わった後、ジェイクは自分用にカスタマイズしたメディカルカプセルで横になっていた。別に治療が必要だったわけでも、疲労があったわけでもない。ぱっと見ただけでは、誰もが眠っていると判断するであろう。

 だがジェイクはメディカルカプセルの中で仕事をしていた。自分の脳と中央ネットワークを接続しているので、基本的にどこでも仕事ができる。最大限に仕事を発揮するには、脳の大部分の機能をCPUに譲渡する必要がある。

 ただし、それを行ってしまえば当然のごとく身体管理を手放すことになる。全てのリソースを並列思考に集中させるためだ。

 そこで、その機能をメディカルカプセルに代替させているのだ。人間では考えられない速度で思考が整理され、脳の機能を効率化して利用しながら処理していく。

 

 そのとき、一通のメールがジェイクに届いた。

 通常の着信ではない。

 あらかじめ設定してある通り、仕事中のプロセスに割り込んで届くメールなどほとんど無いのだ。


 

 本国からの超高速通信。

 それは、僅か2.7光年の距離で、ガルスの偵察艦を撃沈したという報告だった。


 

『ジェイク少佐、こちらオルドウィン』



 副艦長のオルドウィン=シュテッツァー大尉から思考通信が入ったのはその僅か2秒後であった。



『ガルスの艦が何故こんなところに?』


『わからん・・・ が、目的が不明な以上は警戒すべきだろう』



 シュトライゼル共和国は、ガルス軍と呼ばれる敵国の軍と小競り合いが続いている。かれこれ数百年の小競り合いだ。数十年に一度、大規模な戦闘が行われているようだが、この20年ほどは本当に小競り合いのみが続いていたのだ。

 しかし、ここは完全にシュトライゼルの勢力圏内。戦闘が行われているのもはるか17万光年離れた宙域だ。何故警戒網に引っかからなかったのか、様々な疑問を全て調査せねばならない。



『余計な仕事が増えたな。しかも時間がかかる類の仕事が』


『しかし、少佐。若い連中は研究職に向いてない者も多く、宙域警戒や偵察任務はよいストレス発散になるかと』


『そうだな。まずは艦内に影響が無いか、システムをオールチェック。その後は近隣の宙域を偵察』


『偵察の範囲はいかが致しましょう?』


『10光年の球状範囲に索敵用無人機を出せ。それと、5小隊ほどを近隣の偵察に出せ。チェックすべき宙域はあらかじめリストアップしてある』


『了解しました。 直ちに手配します』




 新たな問題が発生したことで、一部の処理を中断、リソースを割いて対策を検討する。ここで、全てのリソースを今回の事件に割いていれば、何か未来が変わったのかもしれない。

 しかし、数奇な運命の女神は、ジェイクをゆっくりとその手に包み込んでいった。


まだテスト段階で定期更新ではありません。

ご注意ください。

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