人は、愛もなく妻を持つように、幸福もなく財産を持つ。
「あなたですか?私について聞いて回っているという不審人物は!」
謎の女子高生が、いや、この言葉から察するに彼女が賭井千賢ということなのだろう。というか今になって気づいたが俺は彼女の顔を知らずに探していたのだ・・・・・・。ともかく、向こうから声をかけてくれて好都合だ。
「そうだ。俺が君を探していた貝塚貴俊だ。えっと、賭井さん、君は・・・・・・」
おっと、迂闊だった。ここで下手に「君も1億円をもらった人間なのか?」などと聞いてしまってもしも違っていたら、まだまったく手をつけていない俺の1億円が没収されてしまう。ここは慎重に行くべきか・・・・・・。
「君が米国に1千万円を寄付したという話を聞いて・・・・・・」
「やっぱりあなたもあのニュースを見て私に興味を持ったんですね!私はただ・・・・・・被災地の人の笑顔を取り戻せたらと思って・・・・・・正しいと思うことをしただけなのに・・・・・・。」
・・・・・・なんだ?彼女は自分のしたことを間違ってると思っているのか?しかしこの絵面はまずい。俺が彼女を泣かせているみたいじゃないか。とにかく、弁明しなければ・・・・・・。
「ち、違うんだ!確かに俺は君を知ったのはあのニュースだ!だけどそれだけじゃないんだ!俺は俺の『夢そ』に近づく手伝いを君にしてほしいと思った!そして君にも『夢』があるなら、その手伝いができたらとも思った!それだけじゃない!俺を探していたのは君のお姉さんについてのこともあるんだ!」
「ゆ、夢?夢は・・・・・・と、とにかく初対面のあなたに夢についても姉についてもしゃべるようなことはありません!失礼します!」
行ってしまった・・・・・・。しかしまだチャンスはあるだろう。彼女は『お姉さん』という言葉に動揺しているように見えた。これは関係があると見て間違いないだろう。それにしても、彼女のあの態度はなんだったんだろうか。『私はただ・・・・・・被災地の人の笑顔を取り戻せたらと思って・・・・・・正しいと思うことをしただけなのに・・・・・・。』彼女の言葉が脳裏に浮かぶ。もう少し彼女について調べてみる必要があるな・・・・・・。 その帰りの電車、何でも知っているGoogle先輩は少し聞いただけで彼女のあの発言の原因になっていると思われる事態を教えてくれた。
『女子高生が1千万寄付とか金持ちのボンボンの自己満だろ』『寄付したアピールとか論外』『なんの売名?』彼女の寄付についての否定的なコメントが3chまとめサイトに載っていた。なるほど・・・・・・これか。彼女の行為に対する否定的な意見はほんの一部だ。しかし「こういうやつらはなんでもかんでも叩くんだから気にするな。」などといっても、彼女との協力関係を築くことはできないだろう。傷心の少女を慰め、自信を取り戻してもらわなければ・・・・・・。
翌日午後4時、俺は再び行動を開始する。
俺はまた彼女と話す機会をどうしても作らなければならない。
そうさえすれば、彼女の心の扉を開けるはず・・・・・・そう考えた俺は昨日と同じように春日部に着いた。また学校のそばでうろつくのはそろそろ通報されると思い、ハンバーガー屋で時間をつぶし、彼女が帰りそうな時間になったら接触を試みることにした。確か彼女は駅を利用するはず・・・・・・。
2時間半後、コーヒー1杯でしのいだ俺は駅前に向かう。そして駅前のコンビニで週刊誌を立ち読みしながら駅前を見張る。しかし、週刊誌を読み始めてしまったのは失敗だったかもしれない。
おっ、こうきたかそんで今週はここで終わりか~最近展開熱いな~・・・・・・などと俺が思う間に時は過ぎる。気がつけば腕時計のG-SHOCKは7時5分前を指していた。やばい、完全に漫画に意識をとられてた。もう帰ってしまったか・・・・・・?いやしかしまだ帰っていないかもしれない。この時間ならそこまで人もいないだろうし、とにかく学校に向かってみよう。
次からはコンビニにある超常現象とかの分厚い漫画を読みながら待とう・・・・・・そんなことを思いながら俺は昨日彼女を待っていたポイントに向かっていると、その時だった
「ちょ、ちょっとやめてください!あなたたちに話すことはありません!」
昨日聞いた、女の子の嫌がる声だった。