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1億円もらったら  作者: 尾石志士夫
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金がないから何もできないという人間は金があっても何もできない人間である。

―1億円。人は誰もみな、この響きにあこがれる。

約10センチも福沢諭吉を積み上げ、重さにすると約10キロほどもある。思い出はプライスレスだ、などと人は言うが1億円に匹敵するような思い出を持っているような人はこの世にどれだけいるのだろうか。

1億円に匹敵するものなどせいぜい、100万ドルくらいだろう。といっても別に為替レートの話がしたいわけではない。

人は欲望に従順な生き物、お金は魔物とよく言うが、今回は人とお金にまつわる話をお送りしたい。



1ケース目、貝塚貴俊《かいづかたかとし》の場合


俺は貝塚貴俊、ごく普通の男子高校生だ。といってもこの後すぐにその普通は俺の日常から姿を消すことになる・・・・・・。

その日、俺はいつもどおり、下校していた。いつものコンビニで週刊誌を立ち読みし、多少の罪悪感を覚えながら何も買わずに店を出る。コンビニを出てすぐの信号は、黄色く点滅している。走れば間に合いそうだったが、別に急いでもいない。歩行者用信号が赤に切り替わった信号で立ち止まる。

キキーッ!黒くて高そうな車が、急ブレーキをかけながら止まる。

あんな車に乗ってみてぇなぁ。

そんなことを考えながら横目で車を見ると、なんだか目が合ったような気がした。

おー、怖い怖い。そんなことを思いながら目線をそらす。しかし、中にいるお姉さんは俺の方向に若干の駆け足で迫り――――その後の記憶は抜けている。

そして、目が覚めるとなんだか高そうな部屋のソファで寝ていた。「あーよかった、体が縮んでなくて」先日見た探偵映画を思い出しながらそんなことをつぶやく。謎の余裕である。しかしその言葉をつぶやいた直後俺は事態はそんなのんきな事を言っている場合ではないことに気づく。まず、ここがどこだかわからない。なにか悪いことをしたか?親に借金があって一家離散で息子の俺だけ売られたとか・・・・・・?思考回路が完全に混線している。とそのとき、重そうな木製のドアが開き、見覚えのある1人の女性が中に入ってくる。車から出てきた、あの女の人だ。

「やぁ~驚かせちゃってごめんねぇ~。私の名前は賭井貞子《かけいさだこ》。急なことでびっくりしたと思うけど、悪く思わないでね~。

悪く思わないわけがないだろう。「いや、えっと、何もかもわからないんですけど、とりあえず説明してもらえますか。俺が誘拐されてきた理由を!」

「ん~私たちは誘拐なんてしてないんだけどね。強引に掻っ攫ってきた場合は、略取って言うんだけどね~。ってそんなことが聞きたいわけじゃないよね。んっと、じゃあ、単刀直入に聞くよ?君、1億円もらえるって言われたらどうする?」

「そりゃ、まぁ、貯金とかそういう感じですかね・・・・・・。好きなゲーム買って、ラーメンには躊躇なくチャーシューをトッピングして、とか。」

「あ~違う違う、そういう意味じゃなくてね?もっと簡単に言うとね、1億円ほしい?ほしくない?って聞いてるのよ。」

「そりゃ、まぁ、ほしいですけど・・・・・・」

「よかった~!そういってくれると思ったよ!それじゃあたぶん明後日くらいに振り込まれてると思うから!よろしくね~!ただし・・・・・・」

「ちょっ、ちょっと持って!え?振り込むって、1億円を?俺の口座に?」

「ほかにないでしょ?話の流れから言って。そんなことより、1億円を振り込むには3つ条件があるんだけどね?聞く?」

「聞きます。」前言撤回だ。悪く思わない。この答えはパニクッている頭から驚くほどすんなり出てきた。

「まず1つ目はこの事実を誰にも知られてはいけないということ。ただし日本にほかに6人いるあなたと同じ、1億円を受け取った人にのみ、知られてもよい。そして2つ目は、必ず月ごとの収支を私たちに報告すること。最後に3つ目は、必ずあなたの将来の夢をかなえるための最善の努力をすること。この3つを守ればあなたの好きに1億円を使っていいの!どう?簡単でしょ?」

なんだそれ、日本に7人って。どこのDRAG〇N BALLだよ。でも、日本全国に6人って探しでもしなきゃ会わないだろうし、気にすることはないか。

「わかりました。最善の努力、であって必ずしもかなえなければいけないわけじゃないんですよね?」

「そのとおり。だけど最善の努力をしてないとみなされた場合、全額没収になるから気をつけてね~!」

なるほど。わからないことだらけだが、俺の本能が1億円もらっちまえと囁いていることはわかる。

「とりあえず、その話が本当なのかもわかりませんが、本当だと仮定して。その1億円を受け取ることにします。ただ、二つだけ聞かせてください。こんな高校生に1億もの大金を平気で渡す目的は?そしてなぜ俺が選ばれたんですか?」

「まぁ本当かどうかは2週間後にわかるでしょう。その質問の答えだけど1つ目は『純粋』に夢を応援したいから。そして2つ目は、お金にまつわる漢字って貝がつくの、知ってる?それで名前に貝が2つも入っている君が選ばれたの。それともうひとつ・・・・・・。あなた春の進路調査で自分が将来の夢の欄になんて書いたか覚えてる?」

なるほど・・・・・・。『貝』と『貴』ね。俺はこの時ほどご先祖様に感謝したことはなかった。俺はそのうさんくさい理由とくだらない理由に拍子抜けしながら春の進路調査のときを思い出す。

あの時は、確か、ふざけて書いた・・・・

賭井さんはにやりと悪役のような笑みを浮かべながら、その答えを言う。

「大富豪、だったよね。この夢をかなえるための最善の努力、そんなのわくわくするに決まってるじゃない?」

俺はこの時ほど自分の悪ふざけを反省したことはなかった。

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