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始の章―イマジネーション―  作者: 風純蓮
序の話―取り巻く現実―
9/60

実験

 さて、地下施設という言葉が最もよく似合う場所まで辿り着いたのは良いが。青白い蛍光灯の明かりだけでは完全な明るさを出せておらず、どこか不気味が悪いうえに薄暗く、しかも一本道ではなく幾つかの分かれ道と扉が存在している。

 俺が今立っている場所はT字路であり、目の前の突き当りには無機質に冷たい扉がある。

 一体何処へ行けば良い。しかし急がば回れ――などと考えている間にも、俺の手元に残った手がかりからして事態は深刻化している。考えても分からないし時間が惜しい、こうなったら虱潰しに探すしかない。

 改めて意を決し、全力で走り出す。ゲームのダンジョンでもそうするように、まず真っ直ぐに突き進んだ。とりあえず道なりに真っ直ぐで、道中に出てきたY字路では気の向いたほうへ曲がり、俺はこの謎のダンジョンを最速で攻略しようとしている。下手なダンジョンより長ったらしい――というか広いが、行動しないよりは良いだろう。

 やがて突き当たり、その先にある扉を開けようと手を伸ばした頃。

「……」

 扉の向こうから、異質な駆動音が聞こえてくる。鉄の扉越しでも聞こえる、相当大きな音の駆動音だ。

 思えばこの扉だけ、今までの扉と形が違う。ここがボス部屋か――というわけで勢いよく扉を開けた。すると。

「なんだこれは……」

 思わず独り言を発してしまうほど、扉の先はSFじみた世界観の部屋である。

 部屋というよりは工場、ないしは研究室か。手前側にはいくつもの机があって、その上には例外なく数多の書類が山積みになっている。肝心な奥のほうでは――見てはいけないものが存在している。

「……」

 横へズラッと並べられているのはカプセル状の水槽で、中にはピンクやら緑やら青やら不気味な色の液体が満たされている。更に人間が一人、何かマスクのようなものを着けられて沈められている。

 宛ら人体実験だ。水槽1つ1つに幾つものコードやらホースやらが伸びていて、その横にあるディスプレイでは不可解な数字が絶えず変化しながら表示されている。

「――っ!?」

 観察しながら歩く道すがら、とある水槽の中に――神楽を発見した。

「これは……」

 しかも神楽だけじゃない。そこから先には、吉良と酒井までもが沈められている。

 他の連中は――みかけなかった。

「……」

 少し戻り、机の上に詰まれている書類を手に取った。

 中には英語やらその他外国語の書類もあるため、日本語の書類だけ黙読を始める。

 最初に読んだものは、報告書のようなものだった。

『――結論から述べるならば、超能力とは存在してはならないバグだ。我らがエターナルマザーエクセに収納されている膨大な情報量の中、この事象にだけイレギュラーが大量に発生している。その都度オリジナルの善性ウィルスによるデバッグを施しているが、近頃バグの出現率が上昇してきている』

 次の書類は、この続きだろうか。

『一部の研究者や学者達は、これも経過として観察するのもひとつの手ではないかと言うが、超能力というバグは無限の可能性を生み出す故にマザーに負担が掛かる。オーバーヒート状態となりシャットダウンしてしまっては、地球の貴重な"エンド"の数々が失われ、我々の悲願が潰えてしまう。よってこれを防止するため、その足がかりとなるようこの実験を開始する』

 ――さらに続きか。しかし、日付が書かれていないのは不自然だ。

『実験の概要は、超能力者より検出した超能力というバグを完全に削除した上で通常の人間に戻す、というもの。実験体として一人の男子高生を捕らえて実験した結果、7日で完全な摘出に成功。経過は以下の通り』

 ――続き。これで4枚目だ。

『開始から2日の間に、対象となる能力を検知。続いてマザーのデータを基にデバッグデータを作成し、3日目にそのデータをインストール。インストールには因果律関係やマザーのデータ量などに起因し4日ほどかかるが、最終日にはそのプログラムが実行され、消去される。尚、今のところデバッグデータの作成とインストールには、次の条件に拘束される』

 ――続き。

『第一に、対象となる人間は一切の行動が不可能であり、尚且つ意識が無い状態、つまり仮死状態でなくてはならないこと。そのため我々は生命維持カプセルを開発し、その中に人間を入れることで対象の生命力を保っている。第二に、デバッグデータは人の手により作成しなくてはならないこと。既に削除したことのある能力については作成済みのデータをインストールするのみとなるが、新たな能力を消去する場合は、その都度新たなデータを作成しなければならない』

 ――終了。


 さて、大まかに粗筋がつかめてきた。

 まずあのカプセルに収まっている人々は、全員が一切の例外なく超能力者である。そうでなくともあれは立派な人権侵害だ、ならば何とか助けてやりたいところだが、困ったことに俺はこの手に関して専門外である。

 一時は装置をぶっ壊して助ける術が思いついたものの、今の書類に書かれていることが本当だとすれば、カプセルの中に入っている人々は全員が仮死状態。ゆえに下手に装置を壊しては、仮死状態のまま戻らない可能性だって否めない。

 ――よって、結論。手詰まりである。これは専門の知識がなければどうしようもないことなのだ。


 一般人は、な。


「想像しろ、想像するんだ、俺。ここで本気を出さないで一体いつ出すってんだ!」

 俺の能力――イマジネーションならば、何とかなるかもしれない。皮肉にも神楽の言っていたことが事実になったが、今はそんなことに精神を費やしている場合ではない。

 強く、確実に念じるのだ。カプセルに収まっている人々全員が、健康的且つ能力の失われていない状態で出てくるように。

「っ……」

 突然頭痛、吐き気、目眩、眠気、脱力感など――様々な病気の症状が襲ってきた。だが構わず続ける。終いには立てなくなってしまったが、尚も俺は座りながらイメージする。

 何とか、現実にならないか。

 今にも朝食を吐き出しそうで、頭痛と目眩と脱力感が俺の集中を妨害してくる。ただ、この症状が起きているということは、だ。これは今までの経験からして、徐々に想像が現実になりかけている証拠でもある。

 やがて意識が途切れそうになったところで――――

「うっ……」

 一瞬吐きかけて何とか現実に出来たのは、吉良と神楽だけだった。よほど何かしらの影響力が強いのか、今の俺ではこれが精一杯である。

「……?」

「ここは……」

 横たわった状態で出てきた2人が起き上がる。

「沙耶、大丈夫?」

「う、うん――」

「何か解放されたみたいだけど、超能力、使え――るね」

「うん。手応えがある」

「一体誰が……あ、芳幸君!」

 やっと俺の存在に気付いたかこの愚か者め。

「君がやったの?」

「あぁ。イマジネーションで、何とかお前らだけは救出できたようだ。他の人たちは――見ての通り。この想像に関する影響力が強すぎて、今の俺じゃ"書き換え"に限界があった」

「それでも上等だよ。ありがとね、助けてくれて」

「――ありがと」

「どういたしまして。それよりも――」

 立ち上がろうとすると。

「ダメだよ」

 神楽に制される。

「君、今すごく消耗してるでしょ。下手に動く前に、まずは私達が現状を何とかしてみせる。説明も後でしてあげるから、今は大人しくしてること」

「へいへい」

 というわけでお言葉に甘えて、俺は少し休むことにした。

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