次なる旅立ち
やがて迎えた海水浴当日、俺は億劫な心持ちで参加していた。記憶にかかった靄や、あの少女が残した謎の言葉などが、どこか俺を上の空にするのだ。
肝心の佐倉といえばビーチバレーに熱中しており、他の面子もそれぞれ海を楽しんでいる様子。俺はパラソルの下で、そんなみんなを傍観している。送り迎え役を買って出た冬木も彼らの中に混じって遊んでいて、本当なら俺と冬木の立場、逆な気もするがなと思う今日この頃である。
――いつも通りのみんな――のはずだ。
酒井、須藤、零次、吉良、冬木、神楽――いつも通りの2年生。1年生は佐倉以外に、宇治、大和、美濃、駿河――これも見慣れた1年生。
酒井や須藤とは馬鹿やりあって、幾度となく女性陣を呆れさせるような行動を取ってきた仲にある。
零次、吉良、神楽の3人とは――特別何も無い、ただの友人関係か。
1年生はみんな素直で可愛らしく、純粋に俺ら2年生の後輩だ。中でも佐倉は異様にくっ付いてくるが嫌な気はしない。
――本当にそうだったか?
何かあった気がしてならない。特に吉良と神楽、この2人とは1人ずつ何かしらのエピソードがあったはずだ。他に酒井たちとも、少なからず何かがあったに違いない。
そもそも俺の記憶がおかしい――これは幾度となく思ってきたことだが、思えば思うほどその実感が湧いてくる。それこそ謎の少女が言っていた、電源を落とすと記憶を失うコンピュータのようで気味が悪い。佐倉とメールをした日まで実は電源が落ちていて、入れた瞬間にセーブデータをロードされて無理矢理記憶を入れ込まれたような、言葉にするのは単純でも実際は碌でもない感覚に陥っている最近の俺である。
『はい、そこまでよ』
「あ?」
聞き覚えのある声が脳内に響き、突然目の前が真っ白な光に包まれる。
しかし、眩しさで視界を遮られること僅か数秒後。俺は海パンから私服に姿を改め、花畑の中心に立っていた。
「今度は何だ……って」
非常に見覚えのある――というか、本来俺が居るべき場所だ。
地球の存在をはじめ、森羅万象を幻像とした外側にある場所――創造するべき世界の一片とでもいえばいいか。そんな空間だ。
でもって俺がここにいるということは、呼び出したのは脳裏に響いた声の持ち主――他でもないイヴだろう。
「悪いわね、呼び戻して」
「何用だと?」
案の定である。そしてようやく、現像の中で抱いていた違和感の正体を知って納得した。あれは大凡俺の推論通り、そして現像の中で謎としていた少女であるイヴの言った言葉通りだ。
「……用事なんて無いわ。ただ呼び戻しただけ」
「ん? 世界の創造に必要な実験結果を集めるんじゃなかったのか? 幻像の中に居た俺は自覚がなかったとしても」
幻像は所謂シュミレータ。"こうしたときどうなるか"を仮想空間で実験するのであり、実験結果は直接この世界の創造に使われる。これがイヴの考え出した方法だ。
「そんなのいつでもできるわ」
「じゃあ何なんだよ?」
「……用事が無かったら、一緒に居たらダメなの?」
「……」
そういうことか。
「素直に一緒に居たいって言えよ、回りくどい……」
「……次の幻像には私も同行するわ」
「やめとけ。創りかけの世界に監視役は欠かせないだろ?」
「分かってる、冗談」
コイツの言う冗談は冗談に聞こえないんだがな。
「――次の幻像は、少し特殊よ」
「何すんだ?」
「ファンタジーな幻像で暴れてもらうわ。貴方は月宮芳隆ではなく、ユーリという名前の青年――滅亡に瀕した世界における救い手になっている」
「何故か兄妹になってる堕天使と天使は出てくるかね?」
「えぇ。貴方がここへ初めて来た切欠も存在するわ。もっとも――当時さえ初めてではないし、切欠とはいえあの堕天使は端末のようなものだったけれど」
「そうかい」
――本格的な、世界の創造が始まる。




