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始の章―イマジネーション―  作者: 風純蓮
序の話―取り巻く現実―
6/60

疲労

 神楽と酒井お手製の夕食を鱈腹平らげ、風呂――なんと男女で分かれている大浴場――を終えて、キッチンでフルーツオレを飲んでいるとき。

「私にも分けて頂けませんか」

「おう。ほれ」

「ありがとうございます」

「――ん? あれ、アンタ誰?」

「え?」

 俺――若干長い茶髪とボンヤリしているらしい緑の瞳。

 酒井――燃えるように赤いラフな髪と熱気に満ちた瞳。

 神楽――蒼穹を思わす流麗な長髪と若干ツリ気味でも穏やかさを併せ持つ瞳。

 吉良――くすんだ抹茶色をした不揃いな短髪と細く悪戯っぽい目つきの瞳。

 未だ未紹介で残る2人のうち、須藤和人すどうかずと――鎖骨まで伸びている黄緑の髪と若干猫っぽい金の瞳。

 最後の1人、零次香苗れいじかなえ――普通に銀の短髪と水色の瞳だが何処か癒し系の雰囲気。

 ――以上が、不思議探求部に所属する部員の容姿。だが今俺の隣に居る男は、以上の誰にも当てはまらない容姿をしている。黒髪黒目で穏やかな、細身で俺らより少し年上っぽい青年である。

「私のこと、忘れましたか?」

「すまん、覚えてないぞ。不躾ながら聞くけど、アンタって不思議探求部の部員だったか?」

「いえ、私は探求部の部員ではありません。このお屋敷――吉良里美様の別荘にて管理を努めている、冬木浩太ふゆきこうたと申します。他2名――桐嶋蓮きりしまれんとその妹の悠里ゆうりと、10年前に会っている筈なのですが。覚えておりませんか?」

「――すまん、わかんねぇ。執事的な何かってことは分かった」

 そもそも俺には10年前の記憶なんぞ殆ど無い。ましてや記憶力の悪い俺だし、それに10年前といったら俺は6歳だ。当時どこの誰と何処で出会ったかなんて覚えていられるはずがない。

「はは、まあ無理もありませんね。あんなことがあったばかりですし」

「?」

「いえ、こちらの話です。兎に角、私と貴方は顔見知り――即ち今言うべき言葉は、本来は"久し振り"なのですが……これでは"初めまして"になりそうですね」

 苦笑する穏やかな青年――冬木とやらが、本当に俺の記憶に無い。

 っつーか、お手伝いさんじゃないだろうな。お手伝いさんだったら最初から無しっていう話だが。

 とはいえ本人は、屋敷の管理を努めていると言った。多分、直接俺らの世話に関わるわけではないのだろう。

「おー、冬木じゃん」

 唐突に吉良がやってくる。もう就寝するばかりか、無防備に寝巻き姿だ。

「何、どしたの? 表出てきちゃってさ」

「いえ、やはりお嬢様方が心配でして。何かあったら、御主人様に合わせる顔がありません」

「そんな大袈裟な。私たち今何歳だと思ってるの?」

 ――さて、もう用事は済んだ。俺に関係ない会話が始まったところで立ち去るとしようか。

「行かせないよ?」

 しかし、吉良の横を通り過ぎた辺りで彼女にむんずと腕を摑まれる。

「何用だと?」

「君にはちょっと、来てほしいところがあるからね。じゃあ冬木、私達はこれで」

「えぇ、ごゆっくりお休み下さいませ」


 ――ごゆっくりお休み下さいませ。冬木が言ったその台詞は、その後の事情があって現実として現れることはなかった。

 ゆっくり休めるようになったのは、今から2時間後――深夜の12時を過ぎてからである。その間に俺の身に何があったか、回想と共に語ってみるとしようか。


 …………


 お互いに寝巻き姿の俺と吉良。靴を履いて外に出るや、ジメジメした磯の空気を肌に浴びつつ只管に歩く。

 やがて辿り着いたのは、森林道の途中にある開けたところ。月が一望できる上に星が綺麗で、尚且つホタルもいるようで何とも幻想的な場所である。

「綺麗なトコだな」

「でしょ?」

「でも何でこんなとこまで?」

「よく見てごらん。湖の上」

「?」

 目の前には湖が広がっていて、美しき夜空が水鏡している。

 そんな水面の上に一体何が――と思ってよく見ると、ウィルスたちが蔓延っていた。

 いつか見たウィルスのように黒い靄に赤い点ではなく、目は青だったり白だったりと、しかも微動だにしないので星と間違えていたではないか。

「マジかよ、こんなとこにまで……」

「ウィルスについて、沙耶から聞いてる?」

「あぁ。自分なりの戦い方も心得ている」

「なら安心。じゃあここにいるウィルス、全滅させちゃって」

「お前は戦わないのかよっ」

「君単体のほうが早いと思うけど」

「ンなわけあるか!」

「ほらほら、油断しない。襲ってくるよ」

「オイ」

 この野郎いつか仕返ししてやると思いながらも、頭の中にウィルスたちが消え行くイメージを思い描く。

 パッと思いつくだけの簡単な仕事なのだが、その後が中々どうして疲れる。神楽と戦っていたときなど、いつか意識落ちるんじゃないかと不安になったほど。

 だが俺の思いつく想像とは、自分の精神力にとってはあまりよろしくない。何故なら毎度派手なので、消耗する精神力も半端モノじゃないのだ。

 ならば今回ばかりは楽をしようか――というわけで俺が想像したことは、中心に居るウィルスに"超"強力な電流が流れ、それが凄まじい電圧と共に周囲のウィルスたちへ感電していく光景。

「おっと」

 ふと危険を予知した俺は、自分と吉良の前に強力なバリアを貼る。これも俺のイメージだ。

 自体は次の瞬間から変化していた。雨雲も無いのに何故か湖へ落雷が発生し、水の通電効果により瞬く間に電流が拡散して水面に触れいているウィルスが潰え、その後に俺が想像した現象が具現化されて空中のウィルスたちが次々と感電して消えていく。

 正直言って大群だったのが、ものの1秒足らずで全滅するのだった。

「……ふぅ」

 思わず溜息が出る。

「おつかれ、月宮君」

「あぁ」

「でもあんまり良い結果じゃないかなぁ」

「何でだよ?」

「ほら、静電気が私の髪の毛ボッサボサにしてるし。その湖には他にも生き物が居るんだよ?」

「――すまぬ、魚に微生物にその他何か」

 とんだダメ出しを食らいつつも、とりあえず任務は達成できたということで。

「――で? お前はここにウィルスが大量発生してるのを知ってて倒しに来たと」

「そうだよ」

「じゃあどうして俺に戦わせた?」

「え、そんなの決まってんじゃん。らくしたかっただけ」

「……俺は"今すぐ"お前を八つ裂きに出来るんだぜ?」

「わーっ、ごめんごめん、怒らないでってば! これも超能力者の仕事みたいな、それの一環でしょ?」

「全く……」


 …………


 とまあ、こんな感じ。

 結論、単にウィルス消去のために行って帰ってきた。たったそれだけなのだが、まあ移動距離の長いこと長いこと。

 しっかり時間に比例した疲れがやってきて、ようやく眠りについた俺は妙な夢を見るのだった。

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