思い出せず
夜更けは外を歩いていた。夕立の後の気候は夏らしい暑さがなく、秋口を思わせる涼風が俺の肌を撫でていく。濡れた地面は、きっと蒸し暑い明日を作る原因となるだろうさ。
「……」
昼間から、おかしいとしか思えなくて仕方が無い。
何が? 全てだ。俺を中心に取り巻く現実と過去の体験が、噛み合わない歯車となって回らなくなっている。
何が違う。どこがおかしい。しかし辿るべき記憶には靄がかかっていて思い出せず、軽い記憶喪失に陥っているのかと思えてならない。
「……あ? んだ?」
考え事をしながら歩いていた所為か、俺の後ろをつけて歩く少女に気付かなかった。
「……」
黙ってこちらを見ている少女に、俺は見覚えが――うっすらとある。
純粋な長い白髪。白を基調に虹色に染まる瞳。ぶっちゃけ俺の知る女の誰よりも可愛らしい、美しい人形のような顔立ちの――年下らしき少女。
――この子は、誰だ。確か俺が名前をつけてあげた気がするぞ。
「……やっぱり、幻像の中では記憶を失うのね」
「何言ってんだお前?」
いきなり電波な言葉が飛んでくる。
「その言葉、もう聞き飽きたわ」
「聞き飽きた……って言われても、こっちは初めて言ったんだがな? お前に対しては」
「えぇ、この幻像の中では初めてね。でも幻像の内容が変わるたび、貴方は私にそう聞いてきた。まるでRAMね。電源を切れば記憶を失うCPUのようだわ」
「……あぁ、そうっすか」
生憎アナログとかデジタルとかパソコンについては詳しくない。ここは早々にお引取り願おう。
「んじゃー俺はこれで」
「まだ終わっていないわ。"立ち止まって、私の話を聞いて"」
「……?」
言霊とでも言おうか。不思議なことに、俺の身体は意思に反して少女の言葉通り、"立ち止まって彼女の話を聞く姿勢になった"。
「私と貴方は、この幻像においてやることがある。記憶にリセットが掛かった貴方は混乱することが多いでしょうけど、とにかく"私の言うことに従って"」
「――それは?」
「佐倉蓮、彼女と"上手くやりなさい"。それだけよ」
「あ、おい」
それだけ言うと、謎の少女は踵を返して去っていった。
よっぽど追いかけようかと思ったが、自分から進んで関わる必要は無いだろうと判断して追わず仕舞いとなり、代わりに少女の言葉を脳裏で反芻する。曰く、佐倉蓮と上手くやれ、との言葉だった。
果たして何を上手くやれと――所詮考えたところで結論は出ないが、佐倉と距離を取る理由は何も無い。とりあえず関係が悪くならない程度には親身に接してやろう。ゲームで話が通じるため、話題には困らないだろうし。




