謎
「……」
気を失う前まで俺は何をしていた?
先ず最初に、そんな疑問が強烈に胸を渦巻いた。
気付けば俺は、自分の部屋で眠りこけていたらしい。それもかなり長い間だったのか、鉛が詰まったかのように頭が重い。身体も、動かすだけで骨の彼方此方がパキパキと音を立てて鳴るのである。
「……」
今日は一体何日だ。全く検討が付かないため、日付の確認を最優先に行動を開始する。
そうやって渋々開いたスマホの画面は7月18日を表しており、夏休み突入の一歩手前辺りだった。
あぁ、そういえば……吉良たちと合宿に行くんだっけ。
――いや、違う。
何故断言できた?
断言なんかじゃない。何の確証も無いのだから。
「……?」
記憶にかかった靄を取り払おうと必死になっていると、一件のメールが入る。差出人は……佐倉蓮
中学時代の後輩である。金の双眸と、薄紫だか銀だか曖昧な色の短髪、ボーイッシュでも女の子らしさを残した可憐な顔立ちが印象的な奴だ。
件名:
本文:もう夏っすね~
――返信。
件名:Re:
本文:そうだな
――受信。
件名:Re:
本文:今度、不思議探求部のみんなとどっか行きません? 昨年は例の大型台風で流れてしまったとのことで、今年こそ遊ぶべきですよ先輩
あぁ、そうか。今は高校生活2年目の夏なんだ。合宿に行くって話があったのは昨年か。
――返信。
件名:Re:
本文:どこ行くんだ?
こんな調子でメールのやり取りを続けた結果、俺たちは海へ行くことになった。今ひとつ乗り気ではないが、これも友達付き合いの一環だろう。
さて、宿題を終わらせないとな。そう思いながら広げた山のような宿題たちは、どういうわけか非常に冴えている知能のおかげで一晩で全て終わらせることに成功。
「……」
翌日の夕方4時。リビングでは妹の真希がテレビを見ていた。
「あ……」
暑そうに扇風機とお友達になっている真希は半裸状態だが――その恰好以前にテレビ画面に大問題が発生している。純粋ではないものの穢れきっているわけでもない、そんな妹には不健全といえるDVDの映像だ。
「……」
「……勝手に見ちゃってごめんなさい」
なるほど、真希が半裸状態なのも何となく察したぞ。
――何を察してるんだ俺は。
「いや……それ、俺のじゃないぞ」
「え?」
「俺はこんな不健全なDVDを持っていない」
とりあえず、テレビ画面を消す。でもってDVDを取り出し、パッケージに収め、それを前に俺と真希とで会議を開始する。
「てっきりお兄ちゃんのかと思ってた」
「まあ、その考えが妥当だわな。でも俺じゃないぞ」
「じゃあ誰なの?」
「……兄貴?」
「まさか……」
未だ5000円を返してもらっていない兄貴かとも思ったが、妹の反応どおりでそれは考え難い。
何故なら、兄貴は既に入籍している。つまり婚約相手が居るからだ。近々マンションに引っ越すとか何とか言ってたな。
いくら男とはいえ、新婚ホヤホヤの時期にこんなDVDを見ようとは思わないだろう。
「……念のため聞くけど、お前じゃないよな? さっきしれっと股間に手突っ込んでたみたいだけど」
「ち、違うよ! その……魅力的だなとは思ったけど、私の持ち物じゃないから!」
「ふうん、堂々とリビングでやってたくせにねぇ……っつーかお前、彼氏はどうしたんだ?」
「フラれた」
「早ッ!」
付き合ってまだ1年じゃなかったか。
「私があんまりにもスケベだから、なんていう理由でさ。嫌いって言われちゃった」
「……」
――うーん。色々突っ込みたいところだが、今はコレの持ち主が誰かを推理しないとな。
「まあいい。そんなことより、ホント誰だよ?」
「お兄ちゃんの知り合いとか?」
「まさか。見るにしてもリビングはないだろ」
「――なんか私、凄く恥ずかしいことしてたような……」
「事実だよ! じゃなくて……誰なんだホント」
謎である。そもそもDVDの趣向からして俺にそぐわない内容だ、こんなものを買う理由が無い。
「深夜テンションで思わずポチッとかじゃないの?」
「お前は俺に深夜テンションという概念が無いのをよく知ってるだろうがっ」
そもそも俺は、深夜テンションになる前に寝る。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「最近さ、気持ち悪いくらいお父さんとお母さん仲悪くない?」
「そういえばそうだな」
40代にもなってつい最近までイチャついてたのが、マンネリ化でもしたか。
「前は見てるこっちが恥ずかしいくらい仲良かったのに」
「……ん? もしかしてお父さんって言いたいのか?」
「そうじゃない? だってお母さん、包容力あるでしょ? それ踏まえてこのDVDみてごらんよ」
「……あぁ」
――結論。そっとしておこう。




