プロセス
「……思ったんだけどさ、お前が何でも出来るってんなら、どうして一々面倒臭い手順を踏んで理想世界を作りたがる?」
幻像から、幻像の外に"触れる"機会は幾つかあった。そこで噂されるエターナルマザーといえば――神という呼び名すら生々しいほど真に全知全能の存在であり、俺のイマジネーションをも遥かに上回る次元で何でもやってのける――凡そこのような噂だ。
だったら理想的な世界の1つや2つ、紙に文字を書くように創り出せるのではないのか。
「……貴方の幻像に出てきた、地球で例えて話をするわ」
「おう」
「地球上に在ったものならば、どのような技術を使っても良い。この条件で、イエス・キリストを物理的に再臨させることは可能かしら?」
「出来ないな。あの世界には元々、死んだ生物を生き返らせる術が存在しなかった。パソコンでポチッとやるわけにはいかねぇよな」
「――それと同じよ」
「分からないぞ」
幾らイヴと同等だって言われても、俺の中には未だ幻像における常識が張り付いている。比喩だけ出されて、理解出来るはずがない。
「……折り紙で紙飛行機を作るには、紙を折るという過程が必要でしょう?」
「うん、折り紙なのに紙を折らずに紙飛行機を作るなんて"普通じゃ"考えないね」
「――同じことよ。世界を創るにしても、必ず約束事が存在するの。それは成長途中に過ぎない私では覆せない根幹で、私と貴方が完全に全ての根幹となれば……折り紙を折らずに紙飛行機を作ることも出来るでしょうね」
とんでもない話だ。もう全知全能という言葉の定義が分からなくなってきた。過程もプロセスも無しに結果だけを引き起こす――その極みとはイヴが触れようとしていることであって、常識に捕らわれている時点で分かっていないのではないか。
「――っつーか、成長途中なのかお前」
「私も貴方も、今は生命という根幹を持っている。ならば成長という概念も存在する」
「100年経ったら寿命とか勘弁してくれよ? 折角一から世界を創ってるんだから」
「安心しなさい。私達は、いわゆる不老不死。本来の生命が不老不死を持てば肉体が持たないけれど、生命の根幹を超越した私達が持つ肉体と生命なら問題ないわ」
「そうかそうか」
地球で聞いたことがある。老いる、死ぬ――この2つのプロセスは人間のみならず生命には必要不可欠であり、どちらか一方でも欠ければ生命としてのバランスを存続できないという話だ。
「――で? 俺は何をすればいいんだ?」
「……私と貴方は、理想世界の根源。まず、幻像からの摘出が出来なかった以上、理想世界に生きる生命を創り出す必要がある」
「どうすんだよ? 流石の俺も純粋な人間は創れないぞ?」
「……簡単に言うわ。私達の血を引けば、不純な生命は決して産まれない」
「は? それって……」
もしかしなくても、やることは1つに限られる。
「――幻像の中でも貴方に試して、可能であれば摘出しようとしたけれど……やはり幻像の中は不純物が多かったわ」
「待て待て、マジで言ってんの?」
「感情の昂りも必要ね。私も生命という根幹を持つ以上、感情の昂りも無い子作りには抵抗があるわ」
「話を聞けぃ!」
いそいそと服を脱ぎ始めるイヴを制する。
「俺には幻像の中の常識が残っている。それでもいいのかよ?」
「問題ないわ。そもそも貴方は、現像の中で純粋を保つ存在だった」
「……ふうん」
もう何も言うまい、めんどくせぇ。
「手間取らせないわ。全て私に任せて」
「おいおい、リードすんのは何時だって男の役目だぜ? お前は働きすぎだ、ちったぁ休め」
「……なら、任せるわ」
こうして俺たちの、理想世界の開闢が始まった。




