敵意
やがて一晩が経ち、俺と里美は陣地に立って絶句していた。
目の前では、戦争が起きている。映像を遥かに上回る圧倒的な威圧感を以って、敵味方ともに確かな殺戮行為を取っている。一般人ならば恐れて足が竦むところだが、戦場に立つ兵士たちの士気は空気を奮わせるほどに勇ましい。しかし命は、敵味方関係なく――ひとつ、またひとつと落ちていく。
どうやら俺は、その光景を恐れる人物に当たるらしい。どうにも足が動かない。里美も俺の袖を小さくつまみ、怯えながらその光景を眺めている。
「……」
目の前で命が失われているのに、どうにもできないこの虚無感が遣る瀬無い。しかし俺ならば――せめて味方くらいは、無事で居させることができる。
「芳隆君、やるの?」
「出来れば争いたくないもんだ。でも、やらなないとやられちまう」
双方とも、敵意と目的を持って戦っているのだ。どちらかが力尽きない限り、永遠と続くに違いない。
この戦だけでも、一瞬で終わらせる。
「――敵意ある者、安らかに眠れ」
なんとなくカッコいい言葉を付け加えながら、敵兵全員が昏倒する光景をイメージする。
「……」
次に目を開けたときには、既に戦が終わりを告げていた。
「……これでよかったの?」
「分からない」
戦に明け暮れる兵士達は、自分たちの目的のために手段を選ばない。
ただ俺たちは、ミカエルに忠誠を誓っているわけではない。よって、ミカエル軍にとっての敵軍に敵意がない。つまり非常に戦いづらいのである。
今回は一思いに一掃出来たから良いものの、里美は尚更だろうな。
「……さて、帰るか」
「うん……」
敵兵全員が一気に倒れたのを緊急事態と見たか、傍らを伝令兵らしき天使が超高速で低空飛行していく様子を見守って、陣地の奥へと歩いていく。
その後、デブリーフィングにおいて俺たちが真っ先に質問攻めにされたのは言うまでもないだろう。




