ミカエルとルシファー
結局はミカエル殿の案で、俺たちの身柄は彼女に保護されることとなった。
そうやってワープのようなもので連れて来られたのは、まるで絵に描いたように幻想的な天空都市の一角。ここはミカエルを筆頭とする天使たちが治める町であり、しかし住人も大半が天使であり、極一部には俺たちのように外部からやってきた他種族の人間も居るという。捕らわれた悪魔、天使と結婚した人間や獣人など、ファンタジー全開な雰囲気だ。
「脅すつもりは無いのだが、ここで大人しくしていろ」
そう言うミカエルの幹部らしき男の天使は、俺たちを牢屋のような場所へ連れてきた。これではまるで、保護というより軟禁である。
「すまないな、このような場所で」
「いやいいさ。保護してもらえるだけありがたい」
「フッ、人間らしい心の持ち主だな」
すると曰く、男はこの場所の監視役を命ぜられている看守らしいので、暫くは俺の話し相手となってくれた。
「ミカエル様はルシファーの妹なのだが、ルシファーは堕落した天使であるため、ミカエル様は彼を討つべく日々精進しておられる」
「どうして堕ちたんだ? その、ルシファーって奴は」
「大罪を犯したのだ。我ら天使族には、絶対に犯してはならない罪が幾つか存在する。それらはゼウス様からの啓示でもあり、犯してしまった天使は種族由来の宿命により堕落する。そして一度堕落してしまえば、二度と光を纏う事も無い」
「なるほど、それで妹が尻拭いってわけか。さぞ辛いだろうに」
っつーかゴチャゴチャしてんなこの世界。一番偉い神様は誰だと疑問に思ったりする俺がここに居る。
というのも、この男の話によれば、オーディンからゼウスからイザナミから色んな神が混在しているという。近々ラグナロクが起きるんじゃないの。
因みに男が親身に世間話をしてくれる理由としては、俺たちが記憶喪失という設定で通っているからである。そうでなければ"常識知らず"というレッテルを貼られたであろう。日本人でありながら米を知らないようなものだ。
「――ミカエル様は、この天上を治めていらっしゃる。普段は気丈に振舞って我らを指揮なさるが、ああ見えて実の兄を討つことに躊躇いを感じておられるかも知れん。お前たちも、ルシファーの名前を出す時は気をつけるようにな」
「あぁ」
俺がこんな会話についていけているのには、今まで非常識的なことに関わってきたからという理由がある。突拍子も現実味も無い出来事には慣れっこだ。
一方で里美は未だ戸惑っている辺り、こんな体験は初であるに違いない。そうでなければ隣で黙って小さくなることも無いだろうし、そもそも今は過去に遡って起きた出来事に当たる。故に里美が超能力者である事実こそ変わらないものの、彼女が異世界というのを知っているはずがない。エターナルマザーの無茶振りが色々と辻褄の合わない出来事をやってのけ――ているであろうせいで、俺も当初の目的を見失っているわけだし。
――果たして、この世界ではどう動けば良い。
目的がないなら好き好きに動いても構わないのだろうが、ここまでエターナルマザーが干渉してくるのにはきっと理由がある筈だ。エターナルマザーは何が見たいのだろうか。
「……ところで、お前たち」
「?」
ふと、看守の男が話しかけてくる。
「戦闘術の心得はあるか?」
「まあ、一応」
「私も一応」
「……察するに、先ほどの能力によるものか」
この世界でも超能力が発動するか否か。それを確認するために俺と里美は、虚空から出現させたフルーツタルトを3つに増殖させるという実験を看守の前で成功させている。因みにフルーツタルトは俺たちで美味しくいただきました。
「ならば近々、お前たちを戦場へ駆り出すこともあるかもしれない」
「え?」
俺と里美の声がハモる。
「無論、ミカエル様とお前たちの同意が必要だがな。ただ、自覚してもらわないと困るのだが、今のお前たちは"タダ飯食らい"だ。我らとて戦の真っ最中、故に行き倒れの面倒を見ている余裕は無い」
「……なるほど。世話になる分、働いて返せと」
「いや――言葉を変えよう。自立を目指せと言うべきだな」
「自立だぁ?」
「我らの理想としては、お前たちはミカエル様の下で動く兵士の一環となってもらいたいのだ。無論、働く分には相応の権限や給与を保障する」
「……」
里美と目を見合い、彼女の頷きを見届けてから一言。
「死なない程度に頑張らせてもらうぜ」
「心意気やよし。では、ミカエル様と連絡を取ってやろう」




