表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
始の章―イマジネーション―  作者: 風純蓮
序の話―取り巻く現実―
5/60

名目上合宿

 突然だが、うちの学校には"不思議探求部"という胡散臭さ全開の部活がある。今年つくられたばかりの出来たてホヤホヤな部活で、俺と神楽はそこの部員だ。

 不思議探求部とは、単純に思わず「すげぇ」とか「そうなんだー」とかってなるような、何でもいいので不思議だったり神秘だったりを探求する部活である。しかしそれは名目上であり、入ってみれば実際は殆ど雑談部だった。

 入部動機を一応確認しておくと、俺は単純に面白そう且つ楽そうだから。故に俺は部活らしいことをしていなくても、普通に雑談やら何やらで騒ぐ現状でも文句は言っていない。他の部員もそんな感じらしい。

 一方で神楽だけは、不思議というのを目で見て知りたいから、とのことだ。よって彼女は部活の現状を見るなり、つまらなさそうな顔をして以降滅多に顔を出していない。5月の上旬に「転部したらどうだ」とみんなで進言してみたが、部活に所属しながら自由な時間が確保できるとの理由で結局転部せず、しかし幽霊部員となった挙句に世間では様々な噂が広がりつつあるが尚も気にせず、またノーコメントである模様。まあ神楽の場合、空いた時間というのは殆ど自分磨きに費やしているのだろうが。


 で、だ。俺は今、合宿に行くぞと部長に誘われるがまま海まで来ている。

 周りには部員全員と、ちゃっかり神楽もいる。

「合宿って、遊ぶのが目的じゃないよな?」

 何となく合宿の意味が気になって、別荘を貸してくれるという副部長の吉良里美きらさとみに聞いてみると。

「まあまあ、固いことは言いっこ無しだよ。名目上ではちゃんとした部活だし、おまけにあきら君もウソが上手いでしょ? だから生徒会からの予算も下りてるんだ。使えるものは使い込まないとね」

 ――とのことだ。因みに晃とは酒井晃さかいあきらのことであり、うちの部長である。

 まあ、最初から明らかに遊びムードが全開だったし、持ち物に水着とか書いてあった時点で察してたがな。

 ――だったら何故神楽が来ているのか疑問だな、俺は神楽の近くへ寄っていく。

「よかったのか?」

「何が?」

「合宿って言っても、遊ぶだけみたいだぞ」

「いい。たまには息抜きしたいから」

「ほう……」

 ズバリ、意外である。

「まさかお前から息抜きって単語が出てくるとはな」

「失礼な」

 少しむくれる神楽である。

「私だって人間なんだから、ずっと張り詰めてばかりだと流石に疲れるよ」

「そうかそうか、じゃあ思い切り遊ぶと良い」

「全く……」


 さて、眩しい女性陣の水着姿を見つつ海で思い切り楽しんだ後のこと。思わず水着姿を凝視してしまったお陰で神楽に叩かれて痛む頬をさすりつつ、俺は改めて、吉良が合宿先として提供してくれた別荘を見回っている。

 吉良家はある種の財閥であり、大富豪と言っても過言では無いほど裕福な家系に生まれたらしい里美。貸してくれた別荘は、なんと彼女の家計ではなく彼女自身の持ち物であり、もう別荘というよりは本家ではないかと疑うほど色んな設備が万全だ。つまりは学生の分際で家を持っているのである。ちゃっかり火災保険とかにも入ってるらしいし。計7泊もするのに持ち物は少なくていいと吉良が言ってた理由が分かる。なんせ洗濯機が2台もあるし、なんと日用品までも完備されているからだ。

 ここまでくると宿泊費を取られる気がするものだがこれもまたプライスレス。更にそこへ侍女や執事をつけようかとも言ってきた吉良なので、さすがにそれはどうなんだとのことで部長に止められていた。やっぱ自炊とかも面白いと思うからな。

「ん?」

 そうして広すぎるこの別荘を見回っていると、やけに大仰な緑色の扉を見つけた。

 何となくこういうパターンだと、開けたが最後ロクなことが無い。そうやって、開けてはならないと本能が告げているが――基本的に入ってはいけない場所はないと吉良が言ってたのを良いことに、やはり好奇心半分恐怖心半分で俺は怪しげな扉の取っ手に手を掛ける。すると。

「ダメだよ」

「っ!」

 足音が無かったのと、声のトーンが異様に低いのとでビックリした。いつの間にか背後に吉良が立っている。

「そこだけは、開けないでくれるかな」

 抹茶色のショートカットと瞳。飄々としていて掴みどころの無い性格。細く悪戯っぽい目つきに整った顔立ちと体型。そんな穏やかな面影は何処へやら、夏場だというのに寒気を覚えるほど吉良が放つオーラはドス黒い。一歩間違えば殺されそうな、消えかけていない殺気を感じる。

「わ、わかった」

 大人しく手を離す。殺されては堪らんからな。

「よかった、君が聞き分けの良い人で。お願いだからその扉だけは開けないでね。願わくは忘れてほしいかな」

 こんなインパクトと違和感の満載な扉、忘れるなというほうが厳しいだろうが。でも素直に従わないと、毒を塗った刃あたりで首を切られそうで怖いのでそのまま頷く。

「――ははっ、ごめんね」

 そして、いつもの調子に戻る。

「代わりと言ってはなんだけど、沙耶ちゃんとの距離、もっと縮めてあげよっか。さっき派手にビンタされてたでしょ?」

「いやいいよ。ってか俺と神楽の問題なのにどうしてお前ができるんだっ」

「そりゃ私、"一般人じゃない"し」

「……」

 産まれて初めて、ガチな硬直というものを体験した気がする。

 試しに用語でも出してみるか。関連した言葉が出てくれば"ビンゴ"だ。

「――ウィルスと?」

「バグ。それは私達でもある」

「……マジかよ」

 確信した。コイツ、超能力者だ。

「ビックリした?」

「するわ!」

「ははっ、そっか。私は最初から分かってたけどね。君と沙耶が超能力者だってこと」

「参考程度に、お前は何が出来るんだ?」

「私が出来る事は、増殖って言えば分かり易いかな。基本的に物体――食べ物なんかを、言い方はよくないけど、私というバグを通してウィルスという形で完全に同じものを作り上げるんだ。あ、食べても勿論身体に支障は無いから安心してね。で、増殖っていうのは非物質の増殖も出来るの。言いたいこと分かる?」

「――神楽の中にある、ほんのわずかな俺への好意を何倍にも膨らませると?」

「ビンゴ」

 結論、吉良里美"も"化け物である。神楽は普通に化け物だし、俺の能力も完全体になれば化け物になるだろうが、やはり超能力とは基本的にチートが多いようだ。

 猶のこと今の説明だと、吉良が近くに居るだけで飢饉が起こらないってことになる。俺みたいなイレギュラーは別として、きっとこんな便利な能力は他に無い。

 ――だが。

「ありがたい申し出だけど、断らせてもらうぞ」

「ん? どうして?」

「やっぱ、好意だけじゃなくて信頼とかもそうだけどよ。そういう人の気持ちに当たるものってのは、自分で勝ち得てナンボだと思うんだ。他力本願じゃ、神楽じゃねぇけどダメ人間になっちまうような気がする」

「……ははっ、カッコいいこと言うじゃん。君のくせに生意気だぞ、ちょっと惚れちゃいそうだよ」

「冗談顔だけな」

 そうだ。物理的にどうしようもない限り、能力のみならず他人やモノに頼っててはダメだ。相談程度ならまだしも、まんま力を借りるのはおかしい。それが俺の持論である。

 だから、たとえ俺は神楽が相手でも自力で全て勝ち取ってやる。

 改めてそう思いなおした頃には、既に日が沈みかけていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ