話の進展
翌日の昼過ぎ。
自分から吉良の家を訪ねるのは初めてだなと思いつつ、俺は彼女の家のインターホンを鳴らす。
というのもアイツはさっきから連絡に応じないので、直接訊ねることにしたのである。
「どちら様……って、月宮じゃん。どしたの?」
すると意外なことに吉良本人の登場である。
「テメェさっきから電話もメールも応答しないくせに起きてたのかよ。てっきり寝てるかと思ったぞ」
「あー……あはは、ごめん。何、急用?」
「じゃなきゃ態々出向かないっつーの!」
「な、何よそんなに怒って……私何かした?」
この戸惑い様、完全に無自覚だな。
本来ならここで吉良をぶん殴ってるかもしれないが、今はそれどころじゃない。
「――まあいい。そんなことより、さっき酒井から連絡があった。どうやら青松と神楽が揃って行方不明になったそうだ。探すのを手伝ってくれないか」
というのも、今朝一番に酒井から慌てた様子で電話がかかってきたのである。
5時少し回った時間に電話とは一体何事だと思えば――いわく神楽が行方不明になったという情報が入ったとのことで。そこで折りよく気付いたのが、隣で寝ていたはずの青松も行方不明であることで。今俺は有りっ丈の人脈を駆使して件の2人を捜索しているというわけだ。
「何でまた……異世界へ飛ばされちゃったとでも?」
さすがの吉良も困り顔である。
「いや、それなんだけどよ。さっきから心当たりのある扉を開けまくってんだけど、一向に異世界へ飛ぶ気配が無い」
「気配?」
「なんつーか……説明が難しい。空気を目で見ろってのと同じだ、感覚的に異世界へ飛ぶか飛ばないかが分かるようになってきたんだよ。飛ぶなと思って開ければ確かに扉の先の風景はガラリと変わってて、それからはなるべく、飛ぶ気配のする扉は開けないか、しばらく時間を置いて開けるようにしてきた」
「――ふうん? じゃあ、異世界へ飛ばされた可能性は0に近いってこと?」
「あぁ」
「分かったよ。私も手伝ってあげる」
「助かる」
いつか刃を向けてきた女に協力を仰ぐ俺も俺で滑稽だろうが、今は本当にそれどころではない。猫の手も借りたい気分だ。
ましてやこれが吉良の人造人間の仕業だとしたら猶のこと吉良の協力がいるし、得体の知れない相手に戦いを挑むより先に情報を入手しておいた方が割かし楽に事が進むだろう。
「あ、ちょっと待って」
「ん?」
踵を返した俺を吉良が呼び止める。
「なんか、冬木が君のこと探してたよ。連れてくるから待っててくれないかな」
「わ、分かった」
ここで冬木の登場か。さて、どうなるやら。
「すみませんね、態々出向いてもらって」
「いや偶然だからな? で、何だ」
冬木を連れて来てから、吉良は家を飛び出している。よって今は冬木と2人だ。気が楽で、尚且つサシで話せるメリットはデカい。
場所は彼の部屋まで移動している。玄関先で話すのもナンだとのことで。
「実は、例の話に進展がありまして」
例の話――というのは十中八九、人造人間の話。転じて吉良里美の行動についてだろう。
「通信や文通では差支えがありますので、直接話すことにしました」
「つまり極秘事項か」
「えぇ。ここであれば、誰にも聞かれずに済みますからね」
秘密裏に口頭でしか話せない極秘事項に遭遇する日が来るとはな。やっぱ人生何があるか分からん。ましてやエターナルマザーの介入があれば。
「実は、里美様なのですが……どうやらマインドコントロールを受けているようなのです」
「マインドコントロール……」
すぐさま神楽が思い浮かぶ。
「貴方は"普通ではない"話に詳しいとのことで、マインドコントロールについてはお分かりでしょう」
「他人の精神を乗っ取って操る――だろ?」
「えぇ。そのマインドコントロールなのですが、どうやら私どもの御館様――里美様の父親が、娘にかけていたそうです」
「――マジで言ってんの?」
「流石に今の状況で嘘や冗談は言えませんよ」
「だよな……で? 何で分かったんだ?」
「里美様がお持ちの別荘――そこの地下に、膨大な広さを誇る研究室があることが判明したのです。全く、情けない話です。私が里美様の別荘を管理していると言うのに、今まで気付かなかったのですから」
「センチメンタルな気分になるのは後だ。続きを話してくれ」
「えぇ。その研究施設なのですが、最奥では超能力に関する研究が行われていたそうです。机の上に山と詰まれた数多の書類からは、あらゆる場面において幾つも御館様の名前が出てきました。娘の持ち物である別荘の地下で研究を行い、娘にマインドコントロールをかけて研究を行わせれば――どうです?」
「殆ど足が消えるってことか」
「えぇ」
いつか見た気がする景色と、冬木による話の内容は殆ど合致する。あの施設はいつからあったのだろうか。
「でもそいつは表面上なんだろ?」
「その通りです。研究以外の場面においても娘を出せば、父親の名前は完全に消え去り、どう転んでも法を犯しているのは里美様になります。ですが、そのためには里美様を常にマインドコントロールにかけなくてはなりません。これは相当な負荷であると、貴方ならお分かりでしょう?」
「おう」
そうだ。超能力というのは、使えば使うほど強くなる代わりに精神的なダメージが大きい。いわゆるMPを消費するようなものだ。そしてMPを回復する薬なんて便利なものは存在しないはず。例の研究とやらで作り出されたなら、主に里美の父親にとっくの昔に使われているだろうし、強いて挙げるとしても栄養ドリンクや覚せい剤など、一気に現実味を失う代物ばかりだろう。
「――そして、神楽さんと青松ちゃんが行方不明になっているそうですね」
「あぁ。そのために今日来たんだよ」
「その話なのですが、恐らく御館様が一枚噛んでいる可能性があります」
「何ィ?」
まあ、今までの話からしてありえなく無いがな。里美が俺を襲ったときや、意味深長な言葉を呟いたときだって、どこか様子がおかしかった。対してさっきの里美はどうだと言えば、いつも通りの彼女だったし。
「娘に神楽さんと青松ちゃんを攫わせた――なんていうことも推測できます。ただそれが本当となれば、御館様は神楽さんの上位互換の能力を持つ方となり、非常に危険な相手であることも必然的に推測されますが」
「だよなぁ」
じゃなきゃ、とっくに神楽が抵抗しているはずだし。しかも妖怪である青松をも配下に置いたのだ、只者ではない。
「さて、お話は以上です」
「……戦うべき相手がいきなり強敵とはな」
「――ご心配には及びません」
「何でやっ」
「自覚していないようですが、貴方も貴方で化け物並みに強い方です。それに……」
「……それに?」
「何より私は、里美様の執事です」
――それきり冬木は俺を家から追い出すと、やることがあると言って再び引っ込んでしまった。
さて、まずは何をしよう。吉良と合流するか。




