その後
「んぁ?」
次に目が覚めると屋内だった。
「お目覚めですか?」
上半身だけ裸になっており、包帯が巻きつけられている。
手当てしてくれたのは――救急箱を手に持つ、意外な人物だった。
「冬木か?」
「えぇ、お久し振りです。直接話すのは何年振りでしょうか……少なくとも、もう10年は前ですね」
――あぁ、そうか。この時の俺はまだ冬木を覚えていなかったんだな。
「久し振りだな」
とりあえず、冬木に関する記憶はあるので久し振りと返事しておく。
「さて、ここはどこだ……痛ッ」
身体を起こそうとすると、思った以上に傷が痛んだ。しかも傷は一箇所ではなく、身体の各所に負っているらしい。
「まだ動いてはいけませんよ。手当てが終了していません。破傷風で死にたくなければ、大人しくしててください」
「……なら、質問に答えてくれるか?」
「いいですよ。あくまで私に答えられる範囲に限りますが、何なりと」
「ここはどこだ?」
「吉良家の一角にある、保健室のような場所です」
――アイツの家か。冬木がいるから、何となくそんな気はしてたが。
「じゃあ吉良は――里美はどうした?」
「傷だらけで倒れている貴方を発見なさったそうです」
「は?」
「まさか病院より先に私に連絡を入れて来られるとは予想外でしたが、助かったようで何よりでした。御礼なら彼女に言うと良いでしょう」
「――冗談じゃねぇ」
「はい?」
ふと、無意識のうちに怒りの言葉が飛んだ。
「どうやらお前は知らないみたいだから言っておくが、俺は里美に暴力を振るわれたんだぞ。そんな奴に何だって礼を言わなきゃいけないってんだよ」
「……詳しくお聞かせ願います」
さすがは冷静沈着な冬木である。もしかしなくても、仕えているお嬢様を変に言われて頭に来ているだろうが、今だけは勘弁してもらおう。
「俺が眠れなくて外を歩いていたときだ。突然里美に出くわして、会うなりアイツ、俺を揮発性の睡眠薬で眠らせようとしてきたんだ。それに気付いて制すると、今度は隙を突かれてナイフでズバッとやられた。胸の辺りに大きな切り傷があったはずだが、見たか?」
「――えぇ、手当ての際に。一段と重症な傷でしたよ」
「それが里美がやった傷だ。あとに付いた傷は分からん。何せ眠らされたからな。で、気付いたらここだ」
「……」
聞きながら手当てを終えたらしい冬木は、救急箱を片付けながら。
「私は里美様の最も近くにいる人間です」
「だったら!」
「ですが、失礼に及ぶためプライベートにまで踏み込むことはありません。なので、私は里美様が取られた行動に疑問を持ちます」
「――だから?」
「私は一度だけ、貴方に味方をしましょう。ここ数日から数日まで、里美様が取られた行動について探ります」
「――いいのか? っていうか大丈夫なのか?」
「これでも里美様の執事となる前はスパイをやっていました、情報収集なら得意と自負しています」
「日本にスパイがいたのかっ」
「"いた"ではなく、"いる"んですよ。たとえ幾億もの法律があろうと、"完全"な統治を可能とする国は存在しません。ましてや世界情勢は、良くも悪くも刻一刻と変化する――政治というのは永遠に解けないパズルであり、必ず何かしらの穴が出来ます。そういう穴に、私のような不届き者が巣食うのです」
――自分で自分を不届き者と言うか。
「ともあれ、私にお任せ下さい。ですが、私の出来ることはそれだけです。貴方の身の保証は致しかねますのでご了承下さい」
「上等だ」
吉良の目的は謎のままだが、とりあえず冬木が動いてくれるとはありがたいことだ。経過報告を待つとしよう。
日常編はかなり先で書く予定ですm( _ _ )m




