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始の章―イマジネーション―  作者: 風純蓮
過程の話―虚ろなる現世―
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納涼祭り

 宿題も終わって暇な昨今。あれから1ヶ月が過ぎ、8月も後半となった。

 問題視していた台風なのだが、あれは10日ほど上陸して日本を大混乱に陥れた後、何事も無かったかのように熱帯低気圧に変わり、やがて長らく日を遮っていた分厚い雲は真夏の風に煽られて消えていった。久し振りの快晴だがジメジメとしており、未だ洗濯物を干すには好ましくない気候といえよう。

 合宿は結局、中止のままだ。俺を除く各々方が忙しい理由もあって、結局あの実験室には足を踏み入れていない。念のために吉良と連絡を取ったが、彼女はピンピンしていた。冬木も元気そうで何ら問題はない。合宿に行かなかった、という未来が現在進行している。

 代わりと言っては何だが――俺たちは納涼祭りに行くことになり、集合場所まで向かっている。さて、神楽との関係はどうなるか。俺が芳幸だった時分は無言の納涼祭りを神楽と過ごした――ような気がするだけで実際は忘れているが、隣にいる青松というイレギュラーは多分でかいと見た。青松の同伴は皆了承済みである。因みに青松は浴衣を着ていない。レンタルできる場所で着せてみたところ、こんな暑くて動き難いものを着る意味があるとは思えないとか言って結局私服である。

「電車とは便利な乗り物です。でも少し狭かったです……」

「まあ、今日は特に混んでただろうな。さて、あいつらは……」

「お、来た来た!」

 駅を出てすぐ近く、みんなが手を振っている。

「その子が青松ちゃん?」

 さすが酒井、真っ先に反応したな。

「気をつけろよ。コイツ、誰に対しても毒舌に見合っただけの態度を取るからな」

「そういうツンツンした子、俺は嫌いじゃないぜ! さあ青松ちゃん、一緒に祭りを楽しもう!」

 祭りというのは出雲神州でもあったようで、雰囲気も日本のそれと同じようなものだそうな。なので祭りがどのようなものか、彼女はよく知っている。

「触るな」

「痛ッ!」

「あーあ……」

 酒井が青松の手を握った瞬間、奴に強烈な肩パンが炸裂した。その思わぬ威力は妖怪由来のものであり、酒井は呻いて片膝をつく。

「初対面なのに身体触るとか、アンタ何考えてやがるですか」

「いってぇ……なかなか痺れたぜ」

「青松は男が嫌いだからな。勘弁してやれ」

「じゃあ何でお前にはベッタリなの!?」

「いや、ベッタリじゃねぇだろ……慣れてるだけに違いない」

 俺と酒井が言い合っている光景を須藤が笑いながら眺めている間、青松は女性陣へと近付く。

「久し振りだね、青松ちゃん」

「おひさしぶりです」

 零次と穏やかに挨拶した後。

「うーんと……沙耶?」

「え……? どうして私の名前を?」

「やっぱり覚えてないですか……ちょっと寂しいです」

「ごめんなさい、覚えてないわ」

 ――早速俺と同じような状況に陥ってるぞ。神楽の浴衣姿を含め、激しくデジャヴである。

「……えっと、一緒に回る?」

「……」

 落ち込んだ青松が神楽を見上げる。

「その……忘れてしまったお詫びと言ってはなんだけど、屋台とか一緒に回る?」

「――うん!」

 この変わり様もまた珍しい。今になって思うのが、あの神楽なら青松の全ての表情を知っていそうだということなんだがな。

「あぁ、待て神楽」

「何?」

「コイツを渡しておく」

 言って、俺は神楽に500円玉4枚を握らせる。

「青松の小遣いだ。余った分は好きにしろ」

「――貴方、青松ちゃんとどういう関係なの?」

「言っただろ? ただの従妹だ」

「……」

 さすがに異世界絡みの事情は見抜けなかったのか、俺の目を暫く覗き込んでから。

「分かった。じゃあ行こうか、青松ちゃん」

「うん」

 背を向け、意外なほど素直に付いていく青松の手を握って祭りの会場へ向かった。

「さあ、僕達も行こう」

 そう率先したのは須藤和人で、何故かというと酒井が未だに呻いているからである。

「何でそんなに痛いんだ……」

 まあ、妖怪の一撃とあらば俺もアヤカシの巣で食らったことあるし、分からんでもないがな。あの一撃は痛かった。いや、痛いなんてレベル通り越してたな。気付けば家にいた辺り気を失ってたみたいだし。

「いやぁ、物理的なダメージも然ることながら、やっぱ精神的なショックが大きいね」

「そりゃ初対面で調子乗ればな。大人しい子に見えたか?」

「あぁ、すごく従順な子かと思ったよ」

「だから言っただろうが、毒舌に見合った分だけの行動をするって」

 酒井を立たせながら、俺も祭りの会場へ向かう。

 やがて俺の隣には――吉良が同伴するようになった。



「あの子、青松ちゃんだっけ。可愛い子だよね」

「そうかぁ? 俺からしたら只の生意気なガキだぞ」

 ――本人の前では口が裂けてもいえないことだがな。

「生意気なところがまた可愛いんじゃん、子供っぽくてさ。君も分かってないなぁ」

「あぁ分かんねぇよ。酒井じゃねぇけど、大人しい子のほうがマシだ」

 いや、青松は別に騒がしくはないな。だから大人しい子というよりは、従順な子というべきだろう。それこそ酒井ではないが。

「……」



 この時俺は、もう異世界とかについては考えないようにしようと思った。飛んだら飛んだで、その時に応じて暮らす。願わくは、こんな生活が続くようにと思いながら。

 ――あらゆる記憶と感覚が薄れるのを感じながら。



「りんご飴って何でこんなに美味しいんだろうね」

「さあねぇ? 小さい頃から食ってんなら、味覚が勝手に気に入ったんじゃね」

「あー、一理あるね。私もそんな感じなのかなー」

 りんご飴片手に、ここぞとばかりに食い尽くした祭り定番の粉モノで膨れた腹をさすりながら、花火の会場へ足を向ける。

「そういえば夏休みどうだった? もう後半だけど」

「台風が来てる間は宿題ばっかやってたな。そっからは暇つぶしの為に生きてたぞ」

「ふうん……」

「……何だその、暇を寄越せみたいな顔。暇って暇なんだぞ?」

「そりゃ暇なんだから暇でしょ。それに、別に忙しいわけでもないから何とも無いよ」

「ちくしょうこの人生エンジョイ勢め、いつか俺みたいな奈落を味わわせてやる」

「じゃあ私が引っ張り上げるよ。沙耶ちゃんの言う、パートナーの務めなんでしょ?」

「……」

 戦慄が走った。

 何故俺と神楽の会話内容を覚えている……?

「沙耶ちゃんじゃないけど、君のことは全部お見通しだよ。あの青松って子も、従妹じゃなくて居候なんでしょ?」

「……ソースは?」

「ふふっ、秘密。キスしてくれたら教えてあげよう」

「……」

 まて、俺。キスするべき相手は吉良じゃなかったはずだ。

 どういうことだ――最近の記憶が酷く混乱してやがる。

「ま、冗談だから。ほら、花火見にいこ?」

 そう言って手を引かれるも――花火は単に光る何かにしか見えなかった。

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