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始の章―イマジネーション―  作者: 風純蓮
過程の話―虚ろなる現世―
35/60

再び

 さて、色々ゴタゴタもあった所為か、出雲神州に来てからというものすっかり忘れていた俺が居たりする。

 何を忘れていたか。それは、たった今俺が直面した出来事に他ならない。

「……」

 唐突過ぎて、毎度毎度驚く。しかし毎度毎度経験してきただけあって、状況把握は幾らか素早く終わらせることが出来た。


 扉を開ければ異世界に飛ぶ――そんな現象である。


「またかよ……」

 飛んだ先は元の世界にある俺の部屋であり、扉を開けた瞬間には俺の容姿も嘗てのものへと変化していた。

「……」

 さて、いよいよワケが分からなくなってきたが、異世界へ飛んだらまずやるべきことがある。現在地と、その日の日付が何時かを確認しなくてはならない。

 机の上には俺のスマホがある。スリープモードから復帰させて日付を見ると――

「?」

 なんとびっくり、夏休みに突入していなかった。ということは、今の俺は芳幸になるのか。いや、思いなおす。それは周囲の話であって、この自我はあくまでも芳隆だ。だったら俺は、芳隆だ。


「……」


 夏休み突入前ということは、俺はまだ神楽と付き合ってないことになる。そして合宿に行って、あの実験室をも見ていないことになる。世界を行き来するたびに一々時間が狂うとか、まったくどうしようもないなこりゃ。

 とはいえ、俺のやることは変わらない。神楽とハッピーエンドに辿り着くんだ――と思ったところで、しかしと脳内が呟きかける。

「…………?」

 長考。そして結論、忘れてしまった。それか思い出せない状況にある。

 あの白い世界で芳幸が言っていた、俺が辿り着くべきハッピーエンドとは一体何だ? エターナルマザーが望む終点だったはずだ。それだけは覚えているのだが、どうやら俺は具体的な目標を見失ってしまったらしい。

「――ちくしょう」

 なんだかエターナルマザーに弄ばれている気がしてならない。だが、ここでどれだけ騒いだって何したって、アイツに勝てるわけがないので大人しく静かになる。あれは――まさに神なのだから。想像を現実にしてしまうイマジネーションすら支配下に置く、俺の完全な上位互換。

 だったら本能のまま、好き勝手に動くまでだ。目標が無い以上、今からを全力で生きる。それさえもエターナルマザーは楽しんで見ているはずだ。

「……」

 さて、時間が夏休み突入前なら特に確認することも無いな。シャワーだけ浴びて、久し振りの我が家で昼寝をすることに――した矢先に携帯が鳴ったので、誰だと半ギレ状態になりながら電話に出る。

「もしもし?」

「おう、酒井だ」

 そういえば久し振りに声聞いたな、酒井。不思議探求部の部長だ。

「どうした?」

「合宿について、ちと連絡だ。どうやら当日、大型の台風が来るらしいぜ? 故に、とりあえず見送りにしておく」

「――台風?」

「なんだ、テレビみてねぇの? 超が付くほどの大型台風3号が日本に上陸するんだぜ? そりゃもう巨大で、本州なんか殆ど覆われるレベルだぞ」

 ――どういうことだ。合宿に行くという未来はどこへ行った?

 しかし酒井が事情を知っているわけでも無いので、ましてや俺が異世界を冒険してきたとも知らないだろうから、とりあえず頷いておく。

「分かった。じゃあ、もし晴れたら決行ってことだな?」

「おう、じゃ、確かに伝えたぜ」

 ――通話終了。同時に俺はテレビをつけて、天気予報を確認した。

 天気の確認でいつも見ているチャンネルに合わせ、データ取得ボタンを押す。

「マジか……」

 予報は、確かに台風接近の旨を報せている。沖縄には既に暴風警報が出ていて、この辺りが覆われるのも時間の問題だ。しかも酒井の言った通り非常に巨大だ。雲の範囲は中国にまで及ぶ広さを誇り、台風の目といえば東京の一角程度ならスッポリと収まりそうなレベルである。こんなものが上陸するだと、寝言は寝て言えってんだよ。

 しかし、窓の外は既に曇り空だ。風もかなり出ているようだし、台風接近間近といった雰囲気が全開である。

「――チッ」

 舌打ちして、ベッドに寝転がる。未だに異世界の問題もあるというのに、その横へ台風が来て、猶のこと面倒なのが――俺の知っている未来を歩まない現在だ。あのときは清々しいほどの快晴で、海面の煌きに比例して女性陣の水着姿も眩しかった。それが、台風というイレギュラーである。

 この台風、なんかあるんじゃねぇのか? そう思えてならない。

 とにかく明日は学校がある。さっきまで剣の道がどうのと青松と話をしていたばかりだが、既に気持ちの切り替えには慣れた。学校へ行く準備だけして、再びベッドに寝転がる。

 ――なんとか日常を取り戻したいと思いながら。

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