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始の章―イマジネーション―  作者: 風純蓮
開始の話―異界冒険譚―
34/60

アヤカシ

「……タマゴだ」

「……タマゴだな」

「……タマゴです」

 ある日、青松を連れた沙耶と話をしながら山の中を歩いていたとき。ふと白くて楕円形な――これでもかと巨大な何かのタマゴを見つけた。

「なんだこれ……ダチョウ?」

「明らかにダチョウより大きいだろう……」

 って、この世界ダチョウいるのかよっ。あの臆病者めっ。

「ダチョウのタマゴは精々、人間の顔と同じ大きさだ。だがこれは……」

「――あぁ。一抱えの大きさがあるな」

 試しに土を払って抱きかかえてみると、かなり重くて大きなタマゴである。赤ちゃんを抱っこしているかのようだ。

「うーん……」

「ん? 分かるのか?」

 ふと青松が、俺が抱えているタマゴをまじまじと見つめていた。

「――多分これは、アヤカシのタマゴと思われるです」

「アヤカシ?」

「……アンタさんは知らないです?」

「あぁ」

 どうにもこの世界の知識がなくて困る。一般教養が無いのは流石にまずい、今度塾にでも通ってみるか。

「アヤカシというのは、出雲神州でのみ生息するとされる伝説上の生き物だ」

 沙耶が説明してくれる。

「伝説上?」

「あぁ。というのも、目撃数が非常に少ない。だから都市伝説にもなっているのだが……アヤカシというのは、いわゆる妖怪の一種だ」

 危うくタマゴを落としそうになる。

「あぁ、妖怪と言っても悪い妖怪ではない。寧ろ人間に対して好意的で、森や何かで道に迷った旅人を外まで案内したりするそうだ」

「――その赤ちゃんが、このでっけェタマゴに入ってると? 大人のアヤカシどんだけでけェんだ……」

「いや、彼らは身体が成長しないらしい。故に大人でもそのままの大きさだ」

「ほう……?」

 改めて、伝説上"とされている"アヤカシのタマゴを見る。ときどきタマゴが揺れる辺り、中で運動でもしてるのだろうか。

「それにしても、何故アヤカシのタマゴがこんなところに……」

「パイパイは気にしなくて良いんですよっ」

「いいや、たとえ伝説でも人間対して好意的なのは確かだ。この子をなんとかしてやらないと……」

「俺も沙耶に賛成だ」

 伝説というからには、きっとアヤカシの巣のようなものがあるに違いない。それに抱きかかえたタマゴは確かに生きてるのだから、ここで孵化して俺らをパパだのママだの勘違いされてはそれはそれで困る。だったら巣に返したほうがいい。

「――はぁ、仕方ねぇですね2人とも。それじゃあアヤカシの住処へ案内しますから、着いてきやがれです」

「おう」

 ――そうやってアヤカシの住処に辿り着くまで、悪路や獣道の多さからタマゴを落とさないように必死になった。



「ここか」

 洞窟を進んだ先、なにやら提灯の明かりが見えてきた。

「えぇ、ここがアヤカシの巣です。くれぐれも言外無用ですよ? ここに巣があると知るや、腐ったゴミクズ共に来られては堪りませんから」

「あぁ」

「それじゃあ引き続き着いて来やがれです。アタシの顔があれば融通は利くでしょう」

 ――更に奥へいくと。

「おー……」

 アヤカシとは、何とも可愛らしい生き物だった。

 まるで御伽噺の妖精である。背中に半透明の翼を生やしていて、みんなせかせかと忙しなく巣の中を飛び回っている。

 すると近くのアヤカシが俺らに気付いたようで、警戒心を露にしながら近付いてきたと思えば、青松の顔を見るや急に大人しくなってニコニコとした笑顔で飛んできた。

「ひさしぶりー」

 そう言う一匹のアヤカシは、青松に明るく挨拶する。

「ひさしぶりです」

「ところでそこの2人、誰?」

「アタシがよく知る人間です。アヤカシのタマゴを見つけたので、運んできたです。感謝するがいいです」

 運んだの俺だし、見つけたの沙耶だし、届けようって言ったの俺と沙耶なんだけどな。

「おー、ありがとう! お兄さんたち、お名前は?」

「あ、あぁ。俺は月宮芳隆」

「私は神楽沙耶だ」

「どーもー、アヤカシのフウタです! お兄さん、ちょっとこっちまで運んでくれますか?」

「分かった」

 言われたとおり、運んでいく。青松と沙耶は入り口付近で待っているよう指示された。

「……それにしてもでっけぇタマゴだな。どうやって産んでんだ?」

 道すがら、なんとなく訪ねてみる。

「産むのではなく、作るのですよ」

「作る?」

 すかさず細胞学の実験に没頭するマッドサイエンティストを想像する。

「僕達はみんな、生まれてから身体の大きさが変わらない――それにアヤカシはみんな女の子ですから、そもそも産むという概念がありません」

「ならどうやって増えてるんだ……?」

「ふふふっ、それは内緒ですよ。運がよければ、愛し合ってるアヤカシを目撃できるかも知れませんよ」

 愛し合ってると言われてもな――って、俺今断然聞き捨てなら無いことを聞いた気がする。

「――みんな、女の子?」

「えぇ。僕達はみんなメスです。アヤカシ族は穢れ無き存在として誕生した――という伝説があって、多分オトコという概念が切り捨てられたのでしょう」

 つまり、男は穢れている――か。否定する人は当然いるだろうが、こんなにも愛らしいアヤカシ族だから強ち間違っていない気がしてなんとも言えん。タマゴの大きさが物語るとおり、某御伽噺で出てきそうな小人ほど小さくは無い。みんな人間の赤ちゃんほどの大きさで、しかしそのまま大人びてちょこちょこしてるものからとても可愛らしい。

「ふぇえっ」

「ご、ごめーん……」

 目の前で、アヤカシ同士が頭をごっつんこさせて落下した。

「こ、こほん。えっとですね、僕のように見た目や声、性格などに差はありますが、みんな性別的には女の子です。男の子特有のアレはついてませんからね」

「だからみんな同じような服装なのか……」

 きっとこの子のように、男の子のような見た目というのは中性的な顔立ちをした女の子、ということになるに違いない。

 ――って、そうじゃねぇ。

「女の子同士で愛し合うのかよ?」

「えぇ。人間界では同性愛として蔑まれるでしょうけど……僕達はそういう生き物なんです」

「…………じゃねぇか」

「ふぇ?」

「そんなの、何が蔑みの対象だ! 最高じゃねぇか!」

 目的地まで辿り着いて、タマゴを置いてからエキサイトする俺。

「え……え?」

「いいぞお前ら、もっとやれ! 俺に至福のご褒美イベントをぶふぉあぁあ!?」

 エキサイトしていると、誰かに張っ倒された。

「全く、変な叫び声が聞こえたと思ったら……やっぱりアンタさんでしたか、この変態め」

「……」

 仰向けになって倒れた今、ぼやける視界にうっすらと青松の姿が映る。こやつめ、どうやって瞬間移動してきやがった――と考えかけたところで、思い出した。そういえばコイツ、妖怪だったんだ。

「このゴミクズの言うことは気にしなくていいです。それでは失礼しますよ」

「は、はい……あの、またいらしてくださいね!」

 ――結局、どうやってタマゴがつくられるのかという純粋な疑問は謎のまま、俺たちは帰宅した。

 またいらしてくださいと言ってくれたのは――俺たちを善人と見ての事だろうか。フハハフハッ、次こそは。

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