女の子名乗りの守護霊
それからだった。一緒に暮らそうなどと戯言を抜かしおった神楽が、俺の手を引いて社の奥――現時点における彼女の実家らしき場所に案内し、家族全員を前にして大人しく正座している結果に落ち着いてしまったのは。
神楽の家族を見たこと無い俺だが、みんな穏やかな表情で俺を迎えてくれた。しかも神楽――ここでは沙耶と呼ぶほうが都合が良いか――が半泣きになりながら事情を説明してくれたお陰で、所謂VIP待遇のようなものさえ受けられた。
――というより、嘗ての性格の神楽は何処へ行ったのやら。容姿も性格も違うと鳴れば普通は別人だろうが、俺はエターナルマザーから与えられた情報により、その少女が神楽沙耶の情報を持っていることには違いないので何か違和感がある。
「本当にいいのか?」
「いいんです。私をここまで思ってく下さる方は、今まで他に居ませんでしたから」
「ほ、ほう……」
そんな理由かよっ。
――と、このような出来事があったその日の晩。何気なく神社の裏手――湖と森が広がる場所を散歩していると、大胆というか派手というか奇抜というかよく分からない恰好の女の子が姿を現した。
「むっ? アンタさん、誰です?」
「はぁ……」
不審者見たりと睨む少女。面倒そうなのでスルーしようとする。しかし、戦慄さえ感じさせる眼光が殊更厄介そうなので、渋々事情を説明してから。
「お前こそ誰だよ」
――と聞き返すと。
「アタシはこの神社の――言うなれば"守護霊"です」
「は? しゅ、守護霊?」
碌でもない言葉が帰ってきた。
「霊とは言うですけど、ユーレイじゃねぇです」
変な敬語使って喋るなこの子。
「妖怪と言ったほうが正しいです。でもアタシは妖怪である以前に女の子です、化け物なんて呼んだらぶっ殺すです」
「お、おう……」
妖怪か。先ほどの眼光の意味が何となく理解できた気がする。
「守護霊って言ったな。ということは、何か強力な力を持ってたりするのか?」
「当然です。何ならこの月光町程度、数分で焼け野原にも出来るです」
「とんでもねぇ」
なるほど、この町は月光町というのか。どっかで聞いたことある気がするが、気にしたら負けかな。
「しかし、珍しいですねアンタさん」
「何がだ?」
「普通の人間には、アタシの姿が見えないです。この神社の巫女であるパイパイ――じゃなかった」
なんだパイパイて。
「神楽沙耶さえ、厳しい修行の末にようやくアタシを見て触れることが出来るようになったのに。アンタさん、何モンです?」
「何でもねぇ、只の一般人のはずだ。不思議な力が使えること以外はな」
「ふうん……ま、不思議な力が何だかアタシには分からんですが、ともあれ気をつけるです」
「何に?」
「近頃、獣やら山賊やらが理性を失って人間を襲うらしいです。精々死なないよーに足掻くがいいです」
「じゃあ早速足掻いてやるよ」
背後から感じた凶悪な気配を、振り返り様の居合い切りで制す。改めて何奴と思えば、斧を持った髭面の男が腕を切断されて呻いていた。
「ゴミが相手なのに、なかなかやるですね」
「俺はどんだけ格下に見られてるんだッ」
「そりゃアタシからすれば、積もっても山になれない塵のようなものです。屑です」
「お前と同次元で語られてもねぇ……」
「パイパイ――じゃなくて、沙耶のほうが圧倒的に上です。アタシと同次元です」
「アイツそんなに強いのか!? ってか、いい加減気になるんだが、なんだパイパイって」
「沙耶のことです。おっぱいボインだから、羨ましくてそう呼んでるです」
神楽はそんなにダイナマイトボディではない気がするが。確かに出てるところは出てるが、それは華奢な身体に見合って、という意味だ。そこら辺を谷間露出して歩く胸デカお化けよりは絶対小さいぞ――なんて口が裂けても言えないがな。
「ふぅ……で? どうするよコイツ。思わず腕切断しちまったけど」
「……このゴミは、最早人間じゃねぇ」
「……」
唖然としてしまった。人が変わったぞコイツ。
「コイツこそ化けモンだ。このまま苦しんで死ねばいい」
「――この神聖な場所が化け物の血で穢れて、よっぽどご立腹ってか?」
「……当然です」
やがて、なんとかオーバーヒートした熱情が収まってきたようだ。
「ここを穢す奴は、誰であっても許さないです。曲がりなりにもアタシはここの守護霊……パイパイに、ちゃんと恩返しするんだ……」
「?」
なにやら、過去に何かあった様子。奇抜な恰好の女の子は、しばらく男の死に様を見下ろしてから。
「アンタさん、名前なんです?」
「――月宮芳隆だ」
「芳隆ね、覚えたです。アタシは青松……暇ならまた来るといいです。いつでも相手するです」
「そりゃ光栄だ」
青松と名乗ったソイツは魔法を使い、死体を一瞬で燃やして灰に返してから、植わっている植物達の肥料とするのだった。




