エターナルマザー
――エターナルマザーエクセ。真っ白な空間の中で、最初にその単語が脳裏を過ぎった。
ここはどこだ。俺は誰だ。さっきまで何をしていた。
記憶が酷く混乱し、断片的な情報がミキサーの如くかき混ぜられている。
「アンセム!」
――聞き覚えのある、溌剌とした声が名前を呼ぶ。今の俺はアンセムか。
「どうしたの? こんなとこまで。ここはアンセムが来ちゃいけない場所なんだよ?」
「来てはいけない場所――?」
「そうだよ。あたしが――私が――あたしが――貴方を――君を――」
「……?」
人間らしい肉声が、徐々に電子合成音声となる。そしてノイズの如く――現れたと思ったルフィーナは姿を消してしまった。
ちくしょう、何がどうなってやがる。ここにある自我は一体何だというのだ。アンセムか、月宮芳幸か。
「いいや、芳隆だね」
「……?」
俺と全く同じ声がする。
「いつしか俺は、お前の偽者となって活動を始めた。何故か? あらゆる可能性が生まれるであろう時期に、エターナルマザーが俺というプロトタイプを"セーブ"したからだよ」
「――何を言ってるんだお前は……」
「まぁまぁ、聞けよ。同じ俺の分身なんだ、ゲームには詳しいよな?」
「多分、お前と同じくらいには」
「やっぱりな。じゃあゲームに例えて話してやる。お前はいわゆる、セーブデータっていう存在なんだよ。ROMとしてメモリーカードに収まっている情報だ。でもって俺はRAMで動く、お前ソックリのセーブデータをロードした情報なんだよ」
「お前と俺は同じ存在?」
「ビンゴだ」
「ならどうして名前が違う?」
――というか、どうして俺はコイツの意味不明な会話についていけているんだ? 謎が残るが、今は話を続ける必要があるな。
「そいつは簡単な理屈だ。とあるゲームじゃ――そうだな、携帯ゲームやなんかは、全く同じ名前じゃ保存が出来ないのがあるだろ? 偶然にもエターナルマザーはそういう存在で、"観測"の為に名前を変えざるを得なかった」
「観測だと?」
「そうだ。エターナルマザーが見出すバグのうち、あいつはお前に興味を抱いた。どうすれば最愛の神楽を手元に置いとけるか、その可能性を観測している」
「神楽……?」
「あぁ。あらゆる世界においてお前という情報があれば、必ずお前の傍らに立つことになる少女の情報だな。今回は俺、ちとしくじっちまったらしくてよ。どうやら神楽に殺されたみたいでさぁ」
「なんだ、死に戻りでもしてろと言いたいのか?」
「死に戻りとは、ちと違うがな。いくつも存在する残機で、当たって砕けてる状態と言えるだろう」
「よく分からん……」
「まあいいから、とにかくだ! お前こと芳隆が目指すべきハッピーエンド――転じてエターナルマザーが望む結末は、神楽沙耶という情報を持つ少女と結ばれることだ。芳幸である俺は既に死に、この情報の中からデリートされようとしている。あとは任せたぜ」
「お、おい」
そう言って呼び止める間もなく、俺の分身らしい人物は消えてしまった。まるでアナログテレビの電源を消すかのように、その場でプツンと。
「……」
俺が――月宮芳隆がやるべきこと。
プロトタイプの月宮に変わり、神楽と――結ばれること。
残された残機は幾つだろうか。なるべく無駄にしないようにせねば。
俺は深呼吸をして、ゆっくり瞳を閉じた。
――エターナルマザーから、ロードされるために。




