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始の章―イマジネーション―  作者: 風純蓮
開始の話―異界冒険譚―
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手がかりによって

 翌日、やはり神楽は学校に来ていなかった。ということで躊躇することなく、俺は目撃証言に限らず、先日の神楽に関する行動などについても時間の許す限り訪ね回った。そうして集まった証言を、いくつか纏めて軽く整理してみる。

 ――第一の証言。

「昨日の放課後、校門で何人かと話してるの見たよ」

 ――第二の証言。

「部活どうしたのって聞いたら、家の用事があるからって言ってすぐ帰っちゃったよ」

 ――第三の証言。

「あいつ? 別にいつも通りだったぞ。今日こそ話しかけてやろうと思ったけど、結局軽くあしらわれたよ」

 ここまでで分かること。神楽は特に不審な行動を取っていたわけでもなく、吉良の目撃談も合っていて、俺との約束をすっぽかしたわけでもないと思われる。

 ――第四の証言。

「放課後、制服姿で本屋さんの前を歩いているのを見かけました。でも、本屋さんに寄っていったわけではなかったです」

 ――第五の証言。

「学校帰りに、いつも通る通学路で見たよ。毎朝同じ道を通るし、帰りもたまに見るから、彼女も同じ通学路じゃないかな。方角はダムがあるほうだよ。つまり北で、道が入り組んでて有名な住宅街さ」

 ――第六の証言。

「あの子、自分の家に入って行ったわよ?」

 ここまでで分かること。つまり神楽は寄り道もせず、真っ直ぐ帰ったと思われる。

 ――非常に貴重な、第七の証言。

「偶然にも神楽ン家の近くで友達と待ち合わせしてて、そっから3時間ぐらい待たされてたけど、あいつなら目撃してないぞ。家に居たか、どっか出かけてたんじゃね? あーでも、途中でスーツの男が家を訪ねてたみたいだけど、誰も出てこなかったな……やっぱどっか出かけてたんだ」

 ――最後に、電話越しに聞かされた吉良の報告。

「みんなして沙耶と下校したみたいだよ。不審なところは何もなかったって。自称調査系女子とか名乗ってた子が、そのあと沙耶の家の周りをぐるぐる回ってたみたいだけど、家からは出て来なかったってさ」


 まとめると、神楽は家に直帰してから一歩も外に出ていないことになる。だが、冬木が事前に神楽の家を訪ねている。このとき家は蛻の殻だったとのことで、これでは辻褄が合わない。神楽に限って寝ていたなんて事は無いだろうし、ましてや目撃談の合間を縫って何処かへ出かけたなんてことも無いだろう。

「……」

 試しに神楽家の前まで来て、インターホンを押してみた。

 ――誰も出ない。続けて2回3回と鳴らし続けるが、明かりの消えた家は一行に玄関が開かない。

 ここで予てより予想していた、ある意味最悪とも幸運とも取れる結果が脳裏を過ぎる。俺は吉良と冬木に電話して、ノエルたちを連れて神楽家の前に集まるように連絡を入れた。



「何事ですか?」

 数十分後、つい先日世話になったマイクロバスで冬木と吉良がやってくる。ノエルたちも不思議な面持ちでバスを降りてきた。

「俺の憶測が現実味を帯びた。多分神楽は……家の中で異世界に飛ばされている」

「え? どういうこと?」

 吉良が一歩近寄ってきた。

「まず神楽は、家に直帰してから一歩も外へ出ていないらしい。これは吉良の話と他の目撃証言もあるから、ほぼ確定といえるだろうな」

「……で?」

「問題はここからなんだ。実は、俺と神楽が異世界に飛ばされたとき、2人して家の中に居たんだよ。で、飛ばされたプロセスはというと……俺の部屋の扉を開けたときだ」

「へ?」

「扉を開けたら、そこはもう自室じゃなくて異世界だった。誰も使ってないらしい洋館のエントランスに出たんだが、本当に突拍子も無い出来事だったな。でもって部屋の扉を閉めようとしたときに、既に扉は玄関のような形に変わっていた。しかも振り返れば大雪の降る山ン中ときた」

「――それって、こう言いたいの? 沙耶が自室に入ったと思ったら、実は異世界でした……みたいな」

「そういうことだ」

「でもそれだったらさ、ふつう君の家で起きない?」

「それを確かめるために集まってもらったんだよ。幸いというべきか知らんけど、今この家には誰も居ないらしい。さっき確かめたからな。で、俺の手元には神楽の家の合鍵がある」

「なんであるの……」

「突っ込むな」

 秘話ながら、言えないわな。俺とデートしてる最中に神楽が「お互いの合鍵を作ろう」なんて唐突に言い出したから作ったんだ――なんて。

「とにかく、入ってみるぞ。これで上手いこと異世界に行ければ、ノエルたちはそのまま戻れば良いし。俺らは俺らで元に戻る方法を探せば良い」

「ですが、少々リスクが重くありませんか?」

 唐突に冬木が、アゴに手を添えた仕草で話し始める。

「貴方の話によると、異世界へ行く方法というのは確立された現象ではなさそうです。全く同じ条件ではない上に、異世界という概念は考え出したら限がありません。言ってしまえば無限です。それでも突入するのですか?」

「そうじゃなくてもさ、神楽の奴が家から出てきてないのは事実なんだ。アイツの身を確認するためにも、とりあえず入ろうぜ」

「仕方ありませんね。では行きましょう」


 そうして俺達は、半分不法侵入である罪悪感を棄てて神楽の家へとお邪魔した。

 中は静寂だけが支配していて、やけにモノが片付いていて気味が悪い。

「ここか」

 玄関から近い場所に、神楽の部屋を発見する。茶色の新鮮な扉に、"SHAYA"と綴られた木札が紐で吊るされている。

「開けるぞ……」

 皆が息を潜める中、俺だけ小声で「お邪魔しまーす」と言いながら――開けた次の瞬間。


「え……」


 一瞬、全てがスローモーションに見えたとき。誰もが、そう漏らした。

 気持ちは分かる。思わず「え」と言いたくなるの、すごく分かるぞ。というか、分からない人間が果たして存在するだろうか。

 果たして、扉を開けた先は異世界か否か――と聞かれれば間違いなく異世界だろう。何故なら目の前が、幻想的な天空であるからだ。ただ、俺達は――


「うおおおおおおおああああああぁぁぁぁああッ!?」


 ――いつの間にか足元が空中にあり、そのまま全員が自由落下を開始した。

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