感じたことで
洋館へ戻るところを中断し、俺らはノエルに招かれてグレイブス家まで案内された。
いかにも西洋の貴族が住んでいそうな高級感漂う屋敷であり、足を踏み入れることすら抵抗のある敷地には立派な庭があるグレイブス家。最早触れることすら許されなさそうだが、本当に俺らが入っても良いものか。
そう考えている間にも、ノエルは俺と神楽の手を引っ張ってズカズカと屋敷内を歩いており、時々出会頭に丁寧なお辞儀をしてくる使用人と思わしき人に会釈を返す余裕も無い。
気付けば既に、グレイブス家の大黒柱が目の前である。
「グランツだ……お前たちが私に手を貸す者か?」
――うん、貴族である。
「はい」
答えたのは神楽で、俺は今のところ黙って成り行きに身を任せている。
「――魔力の奔流が感じられん。一般人が何をすると?」
「お父様」
するとノエルが割って入ってきた。
「どうした?」
――声色が豹変したぞ。傲慢且つ威厳のある話し方はどこへやら、ノエルが話しかけた途端に普通の父親である。貴族というのは、こうして社会を遣り通すのだろうか。
「さっき、私の腕輪が燃えちゃったって言ってたよね?」
「そうだね。それで、元に戻ったんだろう?」
「うん。でも元に戻してくれたの、実はこのお兄さんなのよ?」
「――む?」
グランツさんの目が俺に向く。どういうことだ――という訴えの目線が投げかけられた気がして、渋々説明することに。
「ある程度、思ったことなら現実に出来るんですよ、俺」
「何をそのような戯言……不可能を可能にすること、思っていることを現実にすることは、魔法のように単純というわけにはいかぬ。だからこそ達成できたならば、それは人類が喜ぶべきものであって尚且つ目標。それを貴様は捻じ曲げるというのか?」
「流石に時空は越えられませんがね。娘さんの話を信じられませんか?」
「無論、信じるに吝かではない。現にノエルの腕輪は元通りになっているからな。だが、力を借りる立場で偉そうなことを言って申し訳ないが、私はこれから王国の目を欺こうとしているのだ。即ち、五感で体感したことが全てとならねば、私の立場も危うい」
「なるほど――なら、実際に体感して頂くのが良いでしょう」
神楽に目配せし、彼女が頷いたところで再びグランツさんを見る。
「今回の主力となるのはこの人、沙耶です。沙耶は他人の精神に干渉することが出来、それに伴って干渉した相手を操ることが出来るのです」
「――本当か?」
目線が神楽のほうへ切り替わる。
その瞬間、神楽がグランツさんの目を真っ直ぐに覗き込んだのを見逃さなかった。
「えぇ、勿論です。では試しにお訊ねしますが、貴方は今、右手を上げることはできますか?」
「む……」
そんなこと当然だといわんばかりに、右手を上げ――ようとしたらしいグランツさん。だが右手は上がらない。既にマインドコントロールの支配下に置かれたようだ。
「これは……お前がやっているのか?」
「はい。一度でも目を合わせれば、貴方は私の指示なしでは動くことが出来ない。本当なら"思い込み"も経験してもらいたいところですが、被験者の精神に大きな異常を来たす恐れがあるため今回は行いません」
「――ふむ。中々興味深い力だな。もういい、解除してくれたまえ」
解除は瞬き一つの時間があれば可能だ。解除してくれたまえとグランツが言い終えるころには、既に束縛から逃れられていた。
「ほへ~……」
ノエルが不思議そうな目で神楽を見ている。
「あのお父様が人の言うことに従ったなんて……さや、すごいわね!」
「人聞きの悪いことを言うのはやめなさい」
すぐさま父の言葉が入る。
「なるほど、それならば安心できるな。報酬なら用意してやる、早速打ち合わせといこうではないか」




