異界である証拠
誰の持ち物とも分からない洋館。結局ワープしたのか何だか謎のままだが、少なくとも自分の家ではないこの場所で、俺達は翌日を迎えてしまうのだった。
生活する分には全く困らない――寧ろ何時ぞや訪れた吉良の別荘より色々充実している気がするが、一晩経っても家主が現れない辺り普段は無人なのかもしれない。
とはいえ、服や食材など他人の持ち物を許可なく利用するのには気が引けたが、背に腹は変えられないと言い訳して利用させてもらった次第である。
さて。俺と神楽は現在、洋館の外に出ている。昨日ちらっと見たが外は相変わらず吹雪で、しかもどういうわけか夜のままで、昨日まで間違いなく夏の気候だったのに今や外は極寒だ。それに酸素が薄いのと斜面に立っているのと木々が鬱蒼としているのとで、どうやら洋館はかなり標高の高い山に建っているらしい。
というわけで、厳重な装備を整えた上で持ち物にも気を使い、防寒具を来て外に出た。
「雪、凄いね」
確かに、1メートル先の視界が阻まれる上に足元も危険な世界だ。神楽とは手を繋いでいないと、彼女が何処にいるのかが全く把握できなくなってしまうほど吹雪が激しい。
「絶対に手ェ離すなよ? あと念のため、何かしら喋っててくれ」
「怖いの?」
「怖いとか以前に、はぐれたら積むだろっ」
逆にお前は危機感ってのがないのか――そうツッコミを入れてから、探索を始める。
すると案外早く目ぼしいものが見つかり、この吹雪でも洋館の灯りが見える距離に川が流れていた。
とはいえ水面が凍っているので流れているようには見えないが――これは大きな発見である。
「川があるね」
「コイツに沿って下ってみよう。町があるかもしれない」
「ここが標高何メートルかも分からないのにそんな無謀なこと……」
「高山病になるほど酸素薄いわけでも無いだろ? だったら少なくとも2000メートルもないはずだ」
それくらいの山ならば、俺達の装備が充実しているお陰で容易く上り下りできるだろう。神楽も俺も体力には自信があるし、何とかなる。
――というわけで下っていくと。
「お、灯りだ」
案の定、町が見えてきて、何とか人里に合流することに成功した。気付けば吹雪も収まっており、しんしんと雪が降るばかりである。
だが――やってきたこの町は、何ともファンタジーな世界観を物語っている。
「――ここ、地球?」
神楽の疑問にも頷けた。
何故なら、まず行き交う人々の服装が違う。民族的な衣装――とも言い難い何かであり、少なくとも日本人がコスプレ以外で着るような服ではない。服装だけで見てみれば、俺と神楽だけ場違いだ。
あと目の前に武器を売る店があったり、他にも建物の外観やら何やら――言語は日本なのに、意味が分からない。
――ということは。
「結論、異世界だ」
「そんなことあるわけ無いでしょっ」
すかさず神楽の辛辣な発言が飛んでくる。
「おいおい、昨日の今日だぞ? でもってこの町の見た目だぞ? なんかの拍子に飛んだってことも在り得る!」
「何でそんなに嬉しそうなの……そんなことより、これからどうするの?」
「決まっている、魔法使いになるんだ」
「ダメ」
「いやだ! 如何なる理由と経緯と形であれ、折角異世界に飛ばされたんだ――俺は魔法学を究めるんだ!」
エキサイトしながら、俺は地面の雪を手で掴む。
「理論上、魔法とは大体なんでも出来るはずだ。ならばこの雪を! 一瞬で炎に変えてやるうううぅぅぅ!」
「町中なんだから叫ばないで――って……」
「……」
俺と神楽が硬直する。
手に持った雪が――本当に炎に変わっていた。
「ま、マジかよ……」
それは手元の雪を燃料としていたのか、暫く燃えると消えてしまったが――確かに、俺の掌には炎が宿っていた。
「忘れてた……俺、イマジネーションの使い手だったわ」
「仮にここが異世界だとして、それでも超能力は健在なんだね。よかったじゃん、魔法使いの夢が叶って」
「何か違う気がするけど――まあ、いいか」
「いいんだ……」
とまあ、それは置いといて――さて、これから本当にどうしようか。
町まで来たはいいが、やることがない。
聞き込みをするにしても、何を聞けば良いのやら。元の世界へ帰る方法を教えてください――なんて、聞いたが最後変な人と思われるに違いない。この世界にはこの世界の常識ってのがあるだろうし、そもそも神楽の言うとおり異世界と決まったわけでもない。
なら最初は、ここが地球なのか異世界なのかを確かめる必要があるな。
「よし、どっか喫茶店らしきところに入ろう」
「いいけど、入ってどうするの? 当然コーヒー飲むだけじゃないんでしょ?」
「あぁ。ここが異世界かどうかを確かめる」
「またそんな幻想――って言いたいところだけど、私も疑ってるから賛成」
そんなこんなで入店した、喫茶店らしき店。メニューには見たことの無い料理がズラリと並んでいた。
これと、店員さんの話す言葉とネームプレートに書かれた名前とで俺は確信する。やはりここは異世界だ――と。
因みに金なら、洋館から拝借してきたので問題ない。いや、半分窃盗だから問題あるかもしれないけど、ない。ないったらない。
通貨は――"ゴルド"なるものだそうな。円でもなけりゃウォンでもドルでもユーロでもない、全く新しい通貨である。
そしてとうとう神楽も納得したようで、渋々現実を受け入れている。さすが、現実逃避しない奴は違うね。
「あ、意外と美味しい」
「なんやこれ、クリツモキットラ……? 知らんな、どこの民族料理だろう。とりあえず美味いからいいけど」
適当に注文した軽食は、かなりの美味だった。俺の知っている調味料を如何組み合わせればこの味が出るのかさえ全く分からない辺り、やっぱり異世界独特の調味料を使っていたりするのだろうか。
「この飲み物は……アルマルデル? 知らん名前ばっかり、ほんと異世界ぶり満載だな」
「何これ――苦いの? 甘いの? 酸っぱいの? どれつかずな味……でも美味しい」
「地球のどっかの国じゃ、ワインの味を表す言葉が10種類以上もあるそうだ。多分、新しい味覚と言葉を覚えなくちゃいけないかもな」
「そうだね。さっきのクリツモなんとかも、よく分かんない味してたし」
とはいえ金銭感覚は、どうやらそのままで良いらしい。頼んで運ばれてきた料理、これらは俺と神楽あわせて丁度800ゴルド。日本でも同じくらいの相場だろう。
「おいしかった」
「あぁ――思った以上に口に合う」
「でも洋館の中は――地球と変わらない味の食材ばかりだったよね。服もこれだし」
「あれはきっと半分だけ地球と繋がってるパターンだ。そうに違いない」
さて、これでここが異世界である確証がつかめた。
あとはどうしようか――




